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第8話:増長


ーー久世フェーズ


このまま刃物で切り裂かれる。


前世では、何度も斬られた。


骨も折られたし、銃弾を浴びたこともある。


よくドラマや映画で、


「かすっただけだ」「へそが一つ増えただけさ」


などという余裕あるセリフを次々に語るキャラクターたちがいた。


無理だ。


少なくとも俺は冷や汗と発熱。


意識が朦朧とし、すぐにでも泣き出したかった。


そんな走馬灯が流れたと同時に鈍い音がした。


ゴッ。


(なんだ??)


俺を拘束していたデポルの頭が。


横へ揺れた。


「……?」


拘束していたデポルが振り返る。


もちろん俺も見る。


そこには。


身体は震わせた冴子さんが立っていた。


挿絵(By みてみん)


黒髪ストレートと白のワンピース。


そして、アクセサリーとしては少しド派手な。


太い木の枝を握っている。


顔色も悪い。


なのに。


戻ってきた。


「恒一くんから……!」


震える声。


「離れて!」


なるほど。


この人。


逃げたのではなく。


武器を探しに行ったのか。


ほんの一瞬。


三人目の意識が。


冴子さんへ向いた。


拘束が緩む。


それで。


十分。


長方形。


生成。


横へ滑らせる。


俺を押さえていたデポルの腕が落ちた。


悲鳴を上げ、のたうち回る。


身体が自由になる。


同時に。


刃物を握ったデポルが。


俺へ踏み込む。


残っている左腕。


その腕を切り落とす。


刃物ごと、地面へ落ちた。


声にならない声を上げ、泣き喚く。


これで二人とも。


まともには動けない。


冴子さんを見る。


まだ枝を握ったまま。


震えている。


「冴子さん」


「……はぁ、はぁ」


「ありがとうございます」


まず伝える。


助けてもらったから。


完全に。


『油断してたね』


(油断していた)


その通り。


俺には、前世ではなかった魔法があるから。


だから、大丈夫。


その慢心があった。


「冴子さん」


俺は続けた。


「ここから先は危ないです」


「でも恒一くんも……」


「でしたら」


逃げてくれとは言わない。


この人は。


俺を置いて逃げるつもりなど。


最初からなかったのだから。


「警察や大人を呼んできてください」


冴子さんが俺を見る。


「あとは任せてください」


少し迷った。


それでも頷く。


「すぐ戻るからね!」


声が震える。


冴子さんが。


再び走り出す。


今度は。


本当に。


姿が見えなくなるまで待った。


「さて」


振り返る。


残った二人。


地面に倒れている。


「端的にいきましょう」


(出血多量で死なれても困るからな、まだ)


長方形を浮かべる。


一人へ。


長方形の面を押し当て、地面へ押し付けていく。


「ヤ、ヤメロ!」


「命が惜しければ、余計な問答はやめましょうね」


しゃがむ。


「さっきの話を説明してください」


震えている。


「誰が黙ってないって?」


「ブ、ブエノサンダ!」


やはり。


そう聞こえる。


「ブエノ?」


「オレタチハ、ソウキイテル!」


「何者です?」


「シラナイ!」


「人間?」


「ワカラナイ!」


役に立たない。


いや。


まだ。


「誰から聞いたんです?」


「ボスダ!」


「あなたたちの?」


「ソウダ!」


なるほど。


ブエノサンとやらは。


こいつらのボスよりさらに上と。


「そのボスはどこにいる」


「オオサカノ、サカイダ! ソレシカシラナインダ!」


堺。


長方形を。


更に押し込む。


「ホントウダ! コウジョウダ! サカイノコウジョウニイル!」


工場。


候補が多い。


だが。


十分だ。


何もなかったところに。


ようやく。


一本。


道ができた。


「ナア」


もう一人が言う。


「モウイイダロ?」


肌は。


赤黒い。


こいつらは。


今日だけ。


たまたま。


人間を襲おうとしたわけではない。


何度も。


繰り返している。


そして。


今日も。


冴子さんを見つけ。


迷うことなく狙った。


「オレタチハ」


続ける。


「ブエノサンノシジヲ、ボスカラキイタダケダ! スキホウダイ、シテイイッテ!」


「いつから?」


「ココ、サイキンダ!」


「分かりました」


長方形を消す。


少し。


距離を取る。


「カエッテイイノカ?」


「どうぞ」


一瞬。


顔に安堵が浮かぶ。


そして。


次の瞬間。


殺意へ変わる。


残った左腕で。


刃物を拾い。


俺へ向かおうとする。


「バカガ!」


「オマエラニンゲンハ!」


「キキイシキガ、ナサスギルンダヨ!」


「お前もな」


長方形の生成と同時に。


一閃。


デポルの身体の中から。


長方形が突き出る。


血液が四散する。


(どこぞの滝の名所見たいだな)


もう一人。


地面へ押し付けられていたデポルが。


悲鳴を上げた。


「ウワァァァ!」


俺を見る。


「オレハ!」


必死。


「オレハ、ナニモシテナイ!」


肌を見る。


「その肌の色」


前の世界で。


嫌というほど見た。


こいつらは。


控え目にいってもゴミクズだ。


デポルには。


大きく分けて。


二種類いる。


自分の欲望のために。


人を奪い。


犯し。


殺す者。


そして。


自分の中の衝動に抗い。


犯罪を犯さず。


人間社会で生きようとする者。


同じデポルでも。


同じではない。


前世の俺は、前者をデポルと再定義した。


そして、俺の生前。


三万体近くのデポルを処刑した。


「俺は何もしていない、という奴ほど、犯罪を繰り返してたような気がしますよ。あなたのようにね」


長方形を向ける。


「ヤ、ヤメ」


長方形が。


頭を跳ね飛ばす。


そして。


ようやく静かになった。


『相変わらず容赦ないね』


「悪意ある加害者に、更生なんて求めてもね」


『うん、同意』


めぐみも止めない。


当然だ。


俺とめぐみが中心となり。


前世でデポルを狩り尽くした。


冷酷と見られるだろうが。


人間の味を覚えたクマ。


それが街中に出たら駆除する。


それと同じだ。


さて。


遠くから。


人の声が聞こえ始めた。


冴子さんが。


誰か連れて戻ってくる。


そして。


汚い亡骸が三つ。


ゴキブリなら。


人間を見るなり、積極的に襲ってきたりはしない。


食欲や性欲のために。


弱い人間を探し回ることもない。


そう考えれば。


こいつらは。


ゴキブリ以下だ。


「掃除するか」


長方形を。


もう一度出す。


今度は。


刃ではない。


面。


広い側を。


死体へ向ける。


「さよならー」


射出。


一体目。


長方形に押され。


死体が遠くへ吹き飛ぶ。


『なんだか昔よりやってることが酷いような』


「時間がないからね」


二体目。


三体目。


同じように吹き飛ばす。


文字通り。


掃除だ。


殺傷力より。


押し出す力。


使い方としては悪くない。


戦闘以外でも。


応用できそうだ。


その頃には。


足音が近づいていた。


「恒一くん!」


冴子さん。


その後ろに。


近所らしい大人が二人。


さらに。


少し離れた場所から。


サイレンも聞こえる。


「大丈夫!?」


冴子さんが駆け寄ってくる。


「はい」


何事もなかったように。


答える。


「さっきの三人は……!?」


周囲を見る。


誰もいない。


大量の血痕だけを残して。


「サイレンが聞こえてきて、逃げました」


『バレバレー』


(今を収めるのが先だから)


冴子さんは。


しばらく周囲を見る。


それから。


力が抜けたように。


俺の肩へ手を置いた。


「よかった……」


その顔を見ると。


少し。


胸が痛む。


でも。


今はこれでいい。


「帰りましょう」


「……うん」


冴子さんが。


俺の手を握る。


さっきと同じ。


俺の左手。


冴子さんの右手。


ただ。


少しだけ。


意味が変わった気がした。


守るだけではない。


俺も。


この人に助けられた。


ひとみに話したように。


ある程度話すつもりだが。


どこまで信じてもらえて。


俺の処遇はどうなるのか。


一抹の不安がよぎる。


そして。


めぐみの刺すような視線。


それによる頭痛に頭を抱えながら。


俺たちは、帰路に就いた。

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