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第49話:暴論


ーー高宮フェーズ


私はかつて、異世界で魔王を討伐した勇者タカミヤだ。


十五歳の誕生日。


何の前触れもなく、女神メルによって異世界へ送り込まれた。


勇者として世界を救え。


そう命じられ、剣を握らされた。


最初から強かったわけではない。


何度も死にかけ、何度も逃げたいと思った。


それでも仲間と出会い、戦い続けた。


十五年。


魔王を倒した時、私は三十歳になっていた。


だが、勝利の代償は大きかった。


バルドは魔王討伐の翌朝に死んだ。


エリオは左腕を失った。


そして、レナ。


魔王を倒したら一緒に暮らそうと約束した女性は、生死の境をさまよっていた。


彼女の元へ向かおうとした時、女神メルが現れた。


『お疲れさま』


たった一言。


十五年を費やし、数え切れないほどの命を失った戦いは、その一言で片付けられた。


そして、私の意思とは関係なく、元の世界へ帰されることになった。


レナの安否すら分からないまま。


帰還先は、私が異世界へ送られた直後の日本。


肉体は十五歳に戻り、記憶だけが残った。


クリア特典として、能力を一つ持たされた。


魔王覇気。


討伐した魔王も使用していた、魔物を従わせる力だ。


もっとも、現世での効果は少し違う。


相手が私を格上だと認識するほど、言葉を信じやすくなり、好意を持ち、従いたいと思うようになる。


完全な洗脳ではない。


相手の意思は残る。


だが、人を動かすには十分すぎる能力だった。


使用による代償もない。


私はこの力を利用し、人を集め、組織を動かす方法を学んだ。


そして、政治の世界へ進んだ。


目的は一つ。


私が掠奪種(デポル)と名付けた存在を、この世界から消し去ることだ。


デポルの正体は、異世界のゴブリンだった。


私が帰還した頃、魔族の森にいたはずのゴブリンたちが、突然この世界へ現れた。


しかも、その姿は人間へと変わっていた。


彼ら自身も、なぜそうなったのか分かっていなかった。


ただ、現れた時期が私の帰還と一致していた。


私の帰還が原因なのか。


女神メルが何かしたのか。


今も分からない。


だが、私は被害者だ。


勝手に異世界へ連れていかれ、勝手に帰された。


その結果、何が起きようと私の責任ではない。


そう考えている。


しかし、だからといって野放しにするつもりもなかった。


妹が襲われたからだ。


天真爛漫だった妹は、友人とともに男たちの集まる場所へ連れていかれた。


最悪の事態は免れた。


だが、目の前で友人が酷い目に遭い、自分も次は同じことをされると思わされた。


それだけで、妹は変わってしまった。


学校へ行けなくなり、部屋に閉じこもるようになった。


以前のように笑うことすら難しくなった。


私が異世界で何度も見てきた、恐怖に心を壊された人間の姿だった。


そして、その原因となった男が、異世界から来たゴブリンだと知った。


その時、私の進む道は決まった。


デポルを絶滅させる。


安直な結論かもしれない。


だが、ただ殺すだけでは私の怒りは収まらない。


使い潰してから殺す。


軍事利用を名目に、紛争地帯へ送り込む。


人間の代わりに戦わせ、人間の代わりに死なせる。


何かあるたびに役立たせ、最後には消し去る。


それが、私の考えたデポルの処分方法だった。


そのためには、政治家にならなければならなかった。


法律を変え、行政を動かし、国家の力を利用する。


そして何より、魔王覇気が必要だった。


私の言葉に耳を傾ける人間を増やし、協力者を得て、時には反対する者を従わせる。


無論、この能力だけで総理大臣になれたわけではない。


政策を考え、支持を集め、敵を作り、味方を増やした。


何十年もかけて、ようやくここまで来た。


久世恒一たちの協力もあり、ついに総理大臣となった。


デポルを国家の管理下に置き、使い潰す計画にも着手したところだ。


私にとって魔王覇気は、単なる便利な能力ではない。


十五年の戦いと、その後の人生を支えてきた力なのだ。


だからこそ。


私の物語は、ようやく始まったと言えるのだ。


それなのに。


「魔王覇気、返してもらっていい?」


それは、久世恒一が姿を消してから、しばらく経った頃のことだった。


目の前の女が。


水谷ひとみの皮を被った女神メルが。


何でもないことのように言った。

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