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第4話:ご訪問


ーー冴子フェーズ


眠れなかった。


当然だと思う。


昨日。


私は殺されかけた。


久世さんは、私を守ってくれて……死んだ。


そして今。


その久世さんの甥を名乗る七歳の子供が、隣の部屋で眠っている。


久世恒一。


叔父と同じ名前。


親とうまくいかず、昨日から叔父に引き取られる予定だったらしい。


随分と出来すぎた話だとは思う。


けれど。


疑う気力もなかった。


それ以上に。


あの子を一人で放り出す気にはなれなかった。


慶太さんが死んでから。


私は、ずっと死にたいと思っていた。


仕事をして。


帰って。


眠って。


また起きる。


何のために続けているのか分からなかった。


明日なんて来なくてもいい。


そう思っていた。


なのに。


昨日。


本当に殺されそうになった私は。


必死に抵抗していた。


助けてと叫んだ。


死にたかったはずなのに。


死ぬのは怖かった。


自分でも、よく分からない。


ただ。


一つだけ。


昨日までの部屋には、私しかいなかった。


今日からは。


少なくとも、もう一人いる。


私は本当に死にたかったのか。


それとも。


一人で生き続けることに疲れていただけなのか。


まだ分からない。


だから、ひとまずでいい。


あの子の行く場所が決まるまで。


一緒にいようと思った。


それくらいなら。


今の私にもできるから。




ーー久世フェーズ


大阪難波。


水谷法律事務所。


俺は、見覚えのある看板を見上げていた。


・

・

・


朝。


冴子さんにパソコンを借り、法曹協会の登録を調べた。


水谷ひとみ。


四十八歳。


弁護士。


所属は大阪。


そして、事務所は難波。


生きている。


同じ場所で。


冴子さんに頭を下げ、交通費を借りた。


七歳児が朝から弁護士を探し、難波へ行きたいと言い出したのだから、随分と怪しまれた。


しかし、ここで甥っ子の設定が活きる。


叔父の件の手続きは、そこの法律事務所でやってもらっていた。


そう説明した。


子供一人では危ない。


仕事が終わるまで待ってと言われたが、何とか説得した。


幸い冴子さんはリモートワークだ。


昨日のようなことは、ひとまず起こり得ないだろうと願う。


そこから約三十分。


難波まで来た。


そして分かったことがある。


デポルが多い。


多すぎる。


駅へ向かう途中。


最初に見つけたのは、通行人へ掴みかかっているデポルだった。


肌の一部が赤黒く変色している。


見間違えようがない。


昨日覚えた長方形を出す。


教科書に載っているような、薄黄色の図形。


それを射出。


首を切った。


二体目。


女性を壁際へ追い込んでいた。


今度は、長方形を頭上へ移動させた。


そこから一気に落とす。


鈍い音とともに。


頭が潰れた。


襲われていた二人組の女性からすると、目の前で人の首が飛び、別の人間の頭が真っ二つになるなんてトラウマでしかないだろう。


だが、襲われるよりはマシだと自分に言い聞かせた。


デポルを殺し、何事もなかったかのように通り過ぎる。


『おっかない七歳児だね』


脳内にめぐみから声が届く。


(仕方ないね。どこへ行っても、加害者が悪いからね)


俺は殺人鬼ではない。


ただ、殺さなければやられる時代に居たし、今もそうだ。


『ひとまず、ひとみに会ってどうなるかだね』


そうだ。


こんなガキの話をあの女が信じるのか。


どこまで話すべきか。


そして何より。


今も野望を抱いているのか。


めぐみの話によると、女神アステリアとは別に、メルという女神がいたらしい。


その女神が、俺の二度目の人生ではひとみと契約関係にあり、デポルの全滅を企てていた。


だが、契約は反故にされ、ひとみは四十三歳の若さで死亡。


そこからは、ひとみが残した様々な情報のおかげで、俺とめぐみはデポルの根絶を達成した。


二度目の人生では、俺に利用価値があった。


そして女神メルの進言もあり、俺に近づいた。


俺が知る限り。


相当に面倒な女だった。


口が悪く、手も早い。


俺への当たりも強い。


それでも。


何度も助けられた。


ただし。


決して聖人ではない。


俺と同じで、一つの目的のためには手段を選ばない。


俺に似た危険思想の持ち主だった。


『ちゃんと自分のことわかってたんだね』


(まあね。そうするしかないと思ってたから)


『じゃあ、そろそろ行きますか』


事務所の扉を見る。


この中に。


水谷ひとみがいる。


俺はゆっくりと、水谷法律事務所の扉を開けた。

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