第43話:ブレイク
ーーめぐみフェーズ
轟音。
巨大な長方形螺旋手裏剣が上野へ直撃する。
恒一が、命名した″センス″ある技名。
床が揺れ。
残っていた窓ガラスが吹き飛んだ。
それでも上野は立っている。
「だから無駄だって」
服には埃。
髪も乱れている。
でも、身体には傷一つない。
「そうかな」
私はすぐに次の長方形を作った。
恒一も撃つ。
上野の身体に当たり。
砕ける。
また作る。
撃つ。
砕ける。
止めない。
これが最初から決めていた作戦。
上野の耐性が、魔法そのものを完全に消しているのか。
それとも耐えているだけなのか。
私は後者だと思っている。
理由は単純。
魔法が当たるたび。
上野の動きが一瞬止まる。
巨大なものを当てれば、さらに長く止まる。
本当に何も効いていないなら、衝撃まで受ける必要はない。
なら、限界がある。
そう考えた。
「随分、無駄撃ちするな」
上野が笑う。
「検証中だから」
私は同じ場所を狙う。
背中の右側。
肺の辺り。
意味があるかは分からない。
どうせ撃つなら一点を削る。
それだけ。
恒一も攻撃を続けている。
ただ動きが遅い。
拷問の後遺症。
左手。
身体。
まだ治っていない箇所も、治らない箇所もある。
上野もそれに気づいている。
「まず、お前からだボンクラ!」
上野が恒一へ向かう。
速い。
恒一が長方形を出す。
直撃。
上野の身体は止まらない。
そのまま恒一に突っ込んだ。
「うわっ!」
恒一が殴られる。
壁へ飛ぶ。
私は右肺付近へ撃ち続ける。
上野が僅かによろめく。
また同じ場所。
もう一度。
もう一度。
もう一度。
そして、赤いものが見えた。
「……あ」
上野の破れた服から見えた。
右の肺付近。
小さく血が滲んでいる。
上野も気づいた。
「……ちっ。チクチクするな、とは思っていたが、やはり魔法無効というわけではなかったのか」
私は笑った。
「恒一!」
「見えてるさ!」
やっぱり効いている。
少しずつ削れている。
「だからって、こちらの有利は変わらない!」
上野が恒一の首を掴む。
そのまま壊れた壁際まで押し込んだ。
恒一の足が床から離れる。
身体の半分が外。
ここはホテルの高層階。
下まで何もない。
「恒一!」
「こ、高所、き、恐怖症だと、言うのににに……」
首を掴まれながら恒一が魔法を撃つ。
上野の顔。
胸。
腕。
全部砕ける。
「しつこいんだよ!」
上野が恒一の身体を壁に叩きつけだした。
そして、手を離されたら真っ逆さまだ。
私は最大まで長方形を広げる。
回転。
高音。
上野がこちらを見る。
「おいおい」
笑った。
「俺はともかく、久世は死ぬんじゃないか?」
「いいや死なない」
回転を上げる。
「何で言い切れる?」
「恒一は馬鹿だけど、やわじゃない」
最大火力を上野の背中へ。
直撃。
上野の身体が大きく揺れる。
「ようやくあなたが人だと思えたよ」
当て続けた箇所から、相応の血液が流れている。
そして初めて。
上野が片膝をついた。
「……クソが、サイコパス女が!」
同時に。
恒一がホテルの外へ弾き飛ばされた。
「うわあああああ!」
宙を舞う。
落ちる。
と思った瞬間。
足元に直方体。
一段消え、もう一段。
さらに一段。
恒一が自力で戻ってくる。
私は思わず笑った。
「ス◯ブラの上Bみたいだね」
「それ、伝わる奴いるのか?」
戻ってきた恒一は、もうボロボロだった。
私も無傷ではない。
でも、ここで手を緩められない。
上野の方も確実に削れている。
「なるほどな」
上野が立ち上がる。
「じゃあ、撃たせなきゃいい」
懐へ手を入れる。
二丁の拳銃。
上野は躊躇なく撃った。
私と恒一は長方形を盾にする。
銃弾が弾かれる。
「おいおい、矜持もクソもないな。殴り殺すんじゃなかったのか?」
「この手で殺すことに変わりはないさ」
銃声。
連続。
私たちは盾越しに様子を見る。
恒一が一瞬こちらを見る。
何も言わない。
でも分かる。
(片方が弾切れになったら、自分が突っ込む)
そして。
(上野の注意が俺に傾いた瞬間、めぐみが後ろから最大火力を放て)
とでも考えているのだろう。
手に取るように分かる。
恒一の状態は良くないが、それでもやるしかない。
私は次の長方形を準備する。
盾を消した瞬間、大玉を作るイメージ。
銃声。
また。
また。
恒一側へ向いていた拳銃。
音が止まった。
弾切れ。
恒一が走る。
「馬鹿が」
上野が笑った。
「ガキの狙いなんて、バレてんだよ」
空になった銃を捨てる。
袖から。
刃物。
恒一へ投げた。
恒一は反射的に盾を作る。
刃物が弾かれる。
「使い慣れた道具ってのは、つい使っちまうよな」
上野がもう一丁の銃を恒一ではない方向へ向けた。
発砲。
壁。
金属音。
弾丸が跳ねる。
方向を変え、恒一の右手へ。
「っ!」
血が飛ぶ。
激痛で。
長方形が消えた。
「恒一!」
だが、止まらない。
魔法がなくても、そのまま上野へ走る。
「久世恒一は、伊達じゃない!」
「何言ってんだ、お前ぇぇぇぇ!!」
上野が構え、発砲を続けた。
私は最大火力を作る。
恒一ごと上野へ叩きつけるために。
「恒一ならきっと盾を出せる!」
巨大な長方形。
上野へ直撃。
爆発による爆煙。
床。
壁。
何も見えない。
少しずつ煙が晴れる。
上野は立っている。
しかし、右半身。
火傷。
裂傷。
血。
今までとは明らかに違う。
(よし!)
削れている。
でも。
私はそのすぐ近くを見る。
恒一が倒れている。
動かない。
「……恒一?」
上野が笑った。
「おいおい。お前が無茶するから、久世はおっちんじまったんじゃねえか?」
「恒一!」
返事がない。
ピクリとも動かない。
上野は、新しいマガジンを取り出した。
装填。
銃口を恒一へ向ける。
「さて」
ゆっくり狙いを定める。
「時間があれば、このホテルからぶん投げてやるんだがな」
笑う。
「念には念を、だ」
引き金に指をかける。
「これは前の世界で、俺に足りなかったものだ」
「恒一!」
私は最大火力を作る。
長方形が形になる。
でも弾けた。
「……え?」
もう一度。
作る。
弾ける。
魔力切れではない。
私たちの魔法に回数制限はない。
でも、体力まで無限なわけじゃない。
腕が重い。
足に力が入らない。
呼吸が苦しい。
子供の身体には。
根性も、事情も、関係ない。
疲れれば立てなくなる。
集中できなければ、魔法だって形にならない。
膝が落ちた。
「くそ……」
もう一度。
長方形。
すぐに崩れる。
「恒一、起きて!」
上野が笑う。
「死ねよ、ばーか」
銃口が、恒一の頭へ。
「この世界では」
指が動く。
「俺が天下だ」
「恒一!」
乾いた銃声が、崩れたホテルの一室に響いた。




