第42話:返済
ーー久世フェーズ
東京へ向かうヘリの中。
俺は山本の隣に座っていた。
目的は二つ。
大阪から東京への拠点移動。
そして。
真壁たちへの援軍。
だったのだが。
「遅かったか。これ……真壁絶対死んでる」
眼下。
廃工場。
いや、もう工場と呼べる状態ではない。
炎。
黒煙。
崩れ落ちる屋根。
建物の周囲からは、大勢の男たちが四方八方へ散っている。
『どうする? 追うか?』
山本が操縦席から俺に無線を飛ばす。
「やめときましょう。敵を絞れない」
それより、あのしぶとい真壁だ。
もしかしたら、がある。
「高度下げてください」
『構わないが、奴はもう死んでいるのではないか』
ヘリが高度を落とす。
足を外へ出す。
魔法で直方体を出し、階段にしていく。
一段ずつ廃工場の壊れた屋根に向けて降りていく。
直後。
下から爆音。
残っていた屋根が大きく沈んだ。
「……急ぐか」
足元の直方体を解除し、身体が落ちていく。
「あぁ……怖い。空中なのに膝が笑う」
同時に。
魔法を下へ撃ち出した。
屋根を貫き、天井を砕く。
俺自身もその穴へ落ちていく。
もう一度。
直方体。
衝撃を殺す。
無事着地できた。
まだ膝が笑っている。
周囲には死人しかいない。
瓦礫。
鉄骨。
潰れた身体。
炎。
誰が誰なのかすら分からない。
「真壁さーん」
呼ぶ。
返事なし。
奥へ進む。
崩れた柱。
その下に、一人。
身体を貫かれている。
死んでいた。
そのすぐ横。
黒い服。
長い髪。
「……おーい、クソロンゲ」
真壁。
頭から血を流している。
「呼吸は……ある!」
生きている。
柱の下敷きになった男を見る。
位置。
倒れ方。
真壁との距離。
最後までこいつを守ったんだろう。
「意外と慕われてたんだな」
空へ向けて魔法を撃ち、合図した。
少ししてヘリから一人降りてきた。
「彼を先に運んでください」
「君は?」
「僕は自分でどうにでもできますから」
真壁を引き渡す。
俺は、崩れた工場を見回した。
念のため、他に息がある者を探す。
別の世界線。
真壁には、命を懸けて守ってもらった。
あの時、こいつは最後まで、俺たちを逃がしてくれた。
そして井口。
あいつもムカつく。
今も。
昔も。
思想だって合わない。
それでも。
徳島県知事。
大阪市長。
衆議院議員。
特別行政省の大臣。
立場を変えながら。
少しずつ。
デポルを社会の中で管理する仕組みを作った。
俺は、それを見ていた。
気づけば参考にしていた。
前の世界線で俺が最後までやり切れたのは、井口が先に道を作っていたからでもある。
実質、先生みたいなものだったのかもしれない。
認めたくないが。
「前世の行いが良かったみたいですね。あんたら二人」
勝手に借りた。
だから、勝手に返す。
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ヘリからホテルへ向かい、壊れた部屋まで辿り着いた。
相変わらず高いところは苦手だ。
部屋の中央に、上野。
ドア側に、めぐみ。
上野を、俺とめぐみで挟む形になる。
「上野さーん」
俺は部屋へ入った。
「あなた方に剥がされた爪、まだ生えきってないんですよ」
右手を見せる。
上野の視線が動く。
「そんなこと根に持ってんのか?」
「普通、爪を剥がされたら根に持つでしょ!」
直方体を撃つ。
砕ける。
次に長方形。
上野の身体へ直撃。
それも砕け散った。
無傷の上野が笑う。
「根に持つなよ。前を向いていこうぜ」
俺は上野を見る。
(今のところは、効かないか)
真正面から魔法を当てるだけでは駄目。
めぐみと目が合う。
「恒一。手筈通りに」
「了解」
俺の手。
めぐみの手。
それぞれに。
長方形が現れる。
二つ。
上野の笑みが消えた。
「さて」
俺は周囲を見る。
ベッド。
机。
テレビ。
吹き飛んだ壁。
ごく普通のビジネスホテル。
「魔王の城がア◯ホテルというのも、なかなか乙じゃないですか」
「どこが乙なんだ? センスねえな!!」
上野がこちらを睨む。
「お前らはここで殺す。この手でな」
「怖い怖い」
めぐみが笑った。
「ラスボスが、脳筋っていうのも面白い」
俺も構える。
前の世界線からの因縁。
俺が初めて殺した人間。
当時の大阪市長、二階堂傑。
そして今は。
総理大臣、上野浩平。
姿も。
立場も。
力も変わった。
それでも。
今度こそ、ここで終わらせる。
そう思った時だった。
甲高い音が、前方から聞こえた。
「……え?」
俺と上野が同時にめぐみを見る。
手のひらの上。
巨大な長方形が、高速で回転している。
明らかに。
俺は聞いてない。
「そんな手筈だっけ」
「試合、開始だね!」
めぐみが腕を振る。
巨大な長方形が消えた。
いや。
速すぎて見えなくなった。
次の瞬間。
上野へ直撃。
轟音。
床が震え。
残っていた窓ガラスがまとめて吹き飛ぶ。
盾を出し、爆風を堪える。
俺は笑った。
今度こそ。
上野浩平を、ここから引きずり下ろす。




