第40話:袋小路
ーー真壁フェーズ
東京。
郊外にある廃工場。
上野側の拠点として、以前から調査していた場所だ。
周囲にはデポルが多い。
見える範囲だけでも数十。
出入りする車両も多く、別の拠点とは明らかに雰囲気が違った。
こちらは三百。
残りは大阪と東京の別拠点へ回している。
イヤホンから井口さんの声。
『真壁、待て』
「なんです?」
『上手くいきすぎている』
俺も同じことを考えていた。
大阪。
東京。
調べていた場所を叩けば、人はいる。
多少の抵抗はある。
それでも、こちらが負けるほどではない。
ここ数日。
ほとんど予定通りだった。
『一度引け。調べ直す』
俺は工場を見る。
広い敷地。
古びた建物。
外周を巡回するデポル。
警備だけ見れば、これまでで一番厳重だ。
「ここは違うと思いますよ」
『根拠は?』
「守りが固すぎる」
本当に捨てる拠点なら、こんな数を配置する意味がない。
調査でも重要拠点として挙がっていた。
中の人数は分からない。
だが、外にいる数十程度なら。
「大丈夫ですよ、井口さん。俺たちでやれます」
『真壁』
返事をせず、通信を切った。
・
・
・
一人ずつ、静かに減らす。
騒ぎになる頃には、外周のかなりの人数が消えていた。
こちらの部隊も動く。
工場を囲む。
ここから一気に中へ。
そう思った時だった。
「真壁さん」
部下が後ろを指す。
暗闇。
人影。
一人。
二人。
その奥にも。
工場を囲んでいた俺たちを。
さらに外側から囲んでいる。
「……そういうことか」
数は。
こちらより多い。
すでに退路にも回られていた。
外から押されれば挟み撃ちになる。
なら。
「中へ入るぞ」
部下たちが一斉に動いた。
「工場の中を潰せるだけ潰す。大規模拠点だ、ここを潰すだけでも井口さんは楽になる」
銃声。
怒号。
次々に攻撃を受けながら、入口を破る。
三百人近いデポルが、雪崩れ込むように工場内へ入った。
広い。
異様に広い。
コンテナ。
古い機械。
錆びた鉄骨。
だが。
人がいない。
奥へ。
さらに奥へ。
敵を探す。
いない。
(……おかしい)
外にあれだけ配置していた。
追ってきていた連中も。
いつの間にか入ってこない。
俺は足を止めた。
「待て」
部下たちがこちらを見る。
静かだった。
さっきまでの銃声すらない。
その時。
遠くで。
轟音。
床が震えた。
一瞬で分かった。
「……やられた」
重要拠点だと思わせるための外周警備。
俺たちを包囲し、工場へ追い込む。
そして、中は空。
もう一度、轟音。
窓の外は炎しか見えない。
工場を囲むように、火が走っている。
「建物ごと俺たちを潰すつもりか」
天井から。
細かい埃が落ちてきた。
柱の一つが軋む。
「井口さん」
通信は繋がらない。
「……すみません。俺はここまでかもしれません」
次の瞬間。
爆発。
窓ガラスが一斉に砕けた。
柱が折れる。
天井が落ちる。
悲鳴。
三百近くいたはずの仲間が、視界から次々に消えていく。
瓦礫の下。
鉄骨。
炎。
一秒も経たないうちに、次々と死んでいく。
「真壁さん!」
誰かが俺を突き飛ばした。
直後。
そいつの上へ鉄骨が落ちる。
「おい!」
瓦礫を退ける。
無理だ。
下半身が完全に潰れている。
口から血を流しながら。
そいつは笑った。
「井口さんと……真壁さんについてこれて、後悔ないです」
「……」
「先……行ってください」
目が閉じる。
「……すまねえ」
まだ生きている奴がいる。
腕だけ見えている。
瓦礫を退ける。
引っ張り出す。
担ぐ。
出口。
どこだ。
炎で分からない。
「真壁さん、こっちです!」
生き残った連中が、俺の前に出る。
落ちてくる瓦礫を受ける。
鉄骨を押さえる。
俺を通すために。
一人。
また一人。
消えていく。
「やめろ!」
聞かない。
井口さんの部下。
俺の部下。
全員、俺を生かそうとしている。
一人担いだまま走る。
出口らしき光。
あと少し。
その瞬間、頭上で嫌な音がした。
巨大な鉄骨が、俺に向かって落ちてくる。
「井口さん……最後まで言うこと聞けなくて、すみません」
走馬灯のように、過去の出来事が一瞬で流れた。
衝撃と同時に、視界が真っ黒になった。




