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第38話:青物


ーー久世フェーズ


『徳島県知事、井口おさむ氏を含む地方政治家らが、本日一斉に刑事告訴へ踏み切りました』


テレビから流れるニュースを眺める。


画面の中では。


井口。


地方議員。


県議。


市議。


知らない顔まで並んでいた。


上野政権による政治工作。


ハニートラップ。


内部へのスパイ行為。


不正アクセス。


脅迫。


それぞれが掴んだ証拠を持って、一斉に声を上げている。


「派手に始めましたね」


俺は煎餅をかじる。


頭の下には。


めぐみの太もも。


膝枕。


素晴らしい。


左手を見る。


拷問先から逃げる際、魔法をぶっ放した後遺症。


傷まみれで、震えが残る。


力はあまり入らない。


神経ごとやってしまったのかもしれない。


爪もまだ生え揃っていない。


それでも、好きな人の太ももの上で煎餅をかじる。


これこそが、人間レベルの生物に与えられたちょうど良い幸せなのかもしれない。


その幸せと煎餅を噛みしめられるなら、この左手の代償もそう高くないと思える。


数日前に比べれば、歩くこともできるし、魔法も使える。


問題はそれほどない。


「恒一」


「はい」


「煎餅のカス落とさないで。破片が刺さって痒い」


テレビへ視線を戻す。


井口の記者会見。


質問が飛び交っている。


どうして今なのか。


総理を告訴するという意味を理解しているのか。


政権転覆を狙っているのではないか。


井口は、よく喋っていた。


「ほらね」


俺は煎餅をもう一口。


「彼らはじっとしてないって言ったでしょ」


通話中のスマートフォンに話しかける。


『ひとまずは、君たちの想定通りだな』


山本が答える。


「青いんですよねー。自分たちの力で、上野を倒せると思ってる」


井口。


真壁。


高宮もそうだ。


能力がある。


経験もある。


人を動かす力もある。


だから、自分で何とかできると思う。


「手段なんか置いておいて、目的を達成するために協力すればいいのに」


「おま言う」


「ネット用語で口撃すんなよ」


『ひとまず、報告を』


山本は一切俺の言うことには反応せず、業務報告を行う。


大阪。


真壁たちが調べていたデポルの拠点。


すでに複数が壊滅。


一部は放火。


一部は爆破。


人員も散らされている。


東京でも、高宮側が事前に調べていた拠点を真壁たちが叩き始めたらしい。


「無茶苦茶してますね」


「だね。上野に考えさせる時間を与えないつもりだね」


大阪と東京。


上野の裏側が、同時に削られている。


『そうだ。目的は上野を直接倒すことではなく、社会的に抹殺することに重きを置いている。久世君が対峙した際、魔法耐性があると分かったことで、君たちを見限り物理的に対応するのはやめたのだろう』


俺は身体を起こす。


「本当に魔法が効かないかはまだ分からない。彼らのやり方で倒しても、相手が物理的に来るならまた話は変わる」


『そのために拠点を叩き、上野の指示を聞く者たちを潰し回っている。理にかなっている』


井口たちからの刑事告訴。


記者会見。


マスコミ対応。


警察への圧力。


テレビ局への働きかけ。


本来なら上野は、そういうものを使って揉み消しに入る。


しかし同時に、大阪と東京の拠点が襲われる。


デポルが潰される。


犯罪網が切られる。


そちらにも対処しなければならない。


「表を消そうとすれば裏が燃える。裏を守れば表で井口たちが騒ぐ」


「人に任せられないからこうなるんだよね。権力に取り憑かれ、全てを自分で決めたがる。無能の極みだよ」


めぐみが、息を吐くようにボロクソに言う。


上野は強い。


正面からやれば、まだ向こうが上だ。


だから。


一気に倒そうとしない。


疲れさせる。


判断を増やす。


部下を動かす。


更なるボロを出させる。


そして一つでも。


告発以外の。


上野本人へ繋がる証拠が出れば、状況が変わる。


総理大臣だからこそ。


一度疑惑が表へ出れば、全部を隠すのは難しい。


「とりあえず私たちは様子見だね」


『そうだな。東京での準備も整えている。そこの拠点も引き払う手筈だ』


「いやいや、やることはありますよ。彼らはしくじります。その時に助けてあげないとね」


『ほう。それは何故?』


山本は興味深げに聞いてくる。


「高宮さんを総理に押し上げた後のことですよ。高宮陣営は優秀な人間は揃ってるらしいけど、数が多いわけじゃない。その時に表に出て振る舞える優秀な人間がいる」


『それが井口おさむ、そう言いたいのだな』


「そうです。彼は別世界では夢半ばで死んだ。俺は守りきれなかった。だから、と言うわけではないが、この世界線くらいは死ぬまで活躍してもらわないとね」


『ふ、ようやく子供らしくなったな』


めぐみが笑う。


「どこが?」


『あれだけデポルやら犯罪者やらを躊躇なく殺すが、別世界の人間を死なせたことを後悔している。君が人の子であることを、ようやく思い知ったよ。ではまた』


通話が切れた。


「あんなこと言われてるけど?」


「興味ないね」


「興味ないね」


「……」


井口たちが動くことは予想していた。


高宮にも伝えてあった。


井口も真壁も。


足並みを揃えたように見せて、絶対に揃えない。


自分の勝ち筋を作る。


高宮も同じ。


そして。


俺も、めぐみも。


似たようなものだ。


ただ、今回だけは一人でどうにかできるラインをとっくに超えている。


高宮の魔王覇気。


上野の魔法耐性。


俺とめぐみの魔法。


最低でも。


魔法に関わる人間が四人。


そのうえ。


デポルは増え続け。


政治。


犯罪。


AI。


全部が絡んでいる。


「誰か一人が主人公やれる規模じゃないんだよな」


井口が失敗すれば。


助ける。


高宮が行き過ぎれば。


止める。


真壁が暴れすぎれば。


まあ。


真壁はいいか。


子供の失敗を見守る親の気持ちでいよう。


テレビの中で。


井口が記者に囲まれている。


上野は今頃、どんな気持ちなのだろうか。


どれから処理するか。


選ばされているはずだ。


今頃、城の中では確実に火が回り始めているだろう。

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