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第34話:令和最新版犯罪


ーーひとみフェーズ


私の事務所二つも、冴子の部屋も。


久世とめぐみがぶっ壊し、アジトが消え去った。


それに見かねた山本が、所有するビルの一室を貸してくれた。


「で、山本はんは太っ腹でありがたいんやけどな」


私は腕を組んだ。


「なんで全員が部屋に密集すんねん。暑苦しいし狭いわ」


久世。


めぐみ。


冴子。


真壁。


山本。


森田。


かな。


そして私。


部屋が狭い。


事務所というより、もはや避難所である。


「パーティだからじゃない?」


めぐみが言う。


今でこそ落ち着いたが、先ほど連れ帰った久世を見て取り乱していた。


この部屋すら、いやビルごと瓦礫に変えられるところだった。


直前で久世が目を覚まし、事なきを得た。


「いつからRPGになったんや」


久世はソファに寝かされている。


包帯だらけ。


左手は特に酷い。


魔法の影響か、拷問の跡より酷い。


かろうじて手の形は維持している。


(絶対治らんやろこれ)


爪は何枚かなくなり、足もまともに動かない。


しかし久世は目を覚ましてからつぶやく。


「飯あります? できれば卵が食いたい」


第一声がこれだった。


私はため息をつく。


「拷問されて、ビルから飛び降りて、血ぃ流しまくった割にはえらい元気やな」


「卵はね。江戸時代では、高級な栄養剤として扱われていたんですよ。中々食べられなかったらしくてね」


「誰も聞いてないねんそんなこと……卵クソガキが」


「そんな悪口聞いたことない……すげぇ」


めぐみが久世の横に座り、ポケットから取り出したゆで卵を剥き出した。


「いやいやいやいや、なんでゆで卵ポケットから出るんや」


森田は少し離れた場所から久世を見ていた。


「こいつが、さっきブエノサンに魔法ぶっ放してた久世……」


「そうや」


「ブエノサンたちに拷問されて、生きて帰って来れたのか?」


卵を頬張りながら、久世が答える。


「来れたのかって、目の前にいるじゃないですか」


「すごい……」


森田が真顔になった。


「俺より人生濃いな、子供なのに」


「そんなことないと思うで。お前も足吹き飛ばされてるし、闇バイト引っかかるお間抜けさんで、かつこれから拷問されんねんから、あいつに負けじと濃い人生送ってるやん」


「……え?」


久世が、二個目のゆで卵を食べながら話す。


「正直、拷問とかめんどくさいんですけどね。あなたからしょうもない情報でも、貰っておかないとね」


森田が間髪入れずに答える。


「よし、今から全部話す! 拷問を伴う情報なんて信じられないだろ? すでに左足飛ばされてるわけだから、これ以上俺に危害を加えて引き出した情報なんて信憑性薄くなるぜ? それに、もう部屋がないからここをそこのおっさんに借りたんだろ? また汚れて寝床がなくなっちまう。だから拷問せずに今から俺の話を聞けよ」


「えらい饒舌やな、どうする久世? それでええか?」


三つ目のゆで卵を食べさせてもらう久世を見る。


「それでいいですよ。けどなんで俺に聞くんです?」


「……まあ、それもそうやな。別にあんたのこと、リーダー格とか思てないんやけど。けどまあ、あんたが始めた物語やろ、これ」


「それ、言いたかっただけでしょ今のは。まあいいですよ、ただ話してもらう前に一つ」


久世はコーヒー牛乳を一気飲みして、めぐみと共にこちらを向いた。


「なんで俺があの路地にいると分かったんですか?」


めぐみも冷静な目でこちらを分析している。


(対応ミスったらめぐみに消されかねんからな。けど……)


「隠さず言うで。頭に、あの路地へ行けと言葉が浮かんだ。だからふらっと行ってみたら久世がおった。これだけや」


ほら。


めぐみの目が、私のことをかなり疑い出した。


「女神メルの可能性があるね」


めぐみが言葉を置く。


「けどそいつは、別世界の私が論破して消滅させたんやろ。ほんで、呪いの因子をばら撒いて死んだと」


「けど、可能性としては考えられる。メルは、恒一に執着してたからね。そのためにはなんだってした」


「せやな。私もそれで勝手に寿命四十年も奪われたらしいし……ってなると、私の十九年の昏睡もそれ絡みなんやろか」


かなは下を向き、めぐみは私を見据える。


その様子を見て。


私は一瞬だけ。


胸の奥に妙な感覚が走った。


懐かしい。


何が。


分からない。


(……またか)


最近。


こういうのが増えた。


知らない景色。


知らない会話。


なのに、前にも見たような感覚だけが残る。


私は首を振った。


今は違う。


問題は、目の前にいるボロ雑巾だ。


「で」


私は久世を見る。


「私の話は一旦ええやろ。森田の話の前にあんたから話しとくことあるんやろ」


久世の食事は終わったようだ。


ゆで卵三個に、コーヒー牛乳。


かなりの偏食だ。


「ブエノサンの正体が分かりました」


全員が黙った。


「上野浩平です」


「「知ってる」」


「……えっ」


森田以外の全員に、食い気味に回答される久世。


「あっ……そうですか。へぇ。あっそう……耐え抜いた拷問の時間は一体……」


森田が首を傾げる。


「誰?」


部屋が静まり返る。


「総理大臣や」


「え?」


「この前、お前国家公務員とか言うてたのにそれくらい分かるやろ」


「ああ……」


「ああ……やなくてやな」


久世が続ける。


「じゃあこれも知ってる感じですか。上野浩平は二階堂傑だった」


今度は私が分からない。


「誰やねん、そいつ」


めぐみの表情だけが変わった。


なるほど。


(また前世組だけが知ってる奴か)


「前の世界線で、大阪市長だった男です」


久世が説明する。


二階堂。


大阪市長。


久世は二階堂を支援するふりをして、めぐみを対抗馬として出馬させた。


結果。


めぐみの圧勝。


その夜。


二階堂は、今の世界にもいる播磨弁護士とデポルを引き連れ、久世の事務所へ襲撃。


最後は。


「ビルごと爆破して、殺しました。そこまでしなければならないほど、危険で厄介でした」


私は数秒黙った。


「……お前、ほんま昔からやること極端やな」


「そこまでしなければ、守ることができないと判断しました」


真壁が頷く。


「ま、いいんじゃねえの。昔話はその辺でよ」


久世が真壁を見る。


「ええ、確かに。二階堂が上野になってる。この世界には元々二階堂はいない。生まれ変わりなのか、なんなのかは分からないが、魔法が全く効かなかった」


めぐみが説明する。


「魔法耐性だね。普通ならダメージは入るらしい。だから完全に無傷なのはおかしい」


「なるほどね。魔法耐性そのものが異常に高いのか、それとも耐久値がおかしいのか。俺とめぐみが魔法を使い続けた先に、致命的なダメージをいつか与えられるのかどうか。体内には効くのかどうか」


久世の殺しの発想には、いつも驚かされる。


瞬時に内面から壊そうとなるものなのか。


久世が水を飲む。


「上野は俺たちがパーティを組んでいることは知っていました。そして、ひとみさん、山本さん、真壁さん、井口さん、高宮さんのことも知っています。前世で対峙してますし、政治家の面々は、まあ知られてますよね」


気持ち悪い。


それが素直な感想。


私は別の世界線を知らない。


知らないところで、前はこうだった人間だと決めつけられるのは、本当に気持ち悪い。


「女神やら総理大臣やら。人気者やな、私」


山本が机の上にスマートフォンを置いた。


「こちらも少し進展がある」


森田のスマホ。


画面は割れている。


「あっ。俺のやつ」


森田が言う。


「返して!」


「なんでこのタイミングで返してもらえると思うんや。しかもお前拘束されてんのに、どやってスマホいじるんや。スマホ中毒者が」


「でも……課金データ入ってる」


「闇バイトで得た金を、スマホゲームの課金に使うとか、きしょすぎやろこいつ」


山本が画面を出す。


募集文。


短期。


高収入。


即日。


未経験歓迎。


誰でもできる簡単なお仕事。


私は眉をひそめた。


「誰でもできる仕事で日給十万? ほんまやったらええなぁ」


「応募しました」


森田が言う。


「未経験歓迎って書いてた」


「まあ、闇バイトなんて大体が未経験やしな」


「あと、若手活躍中」


「犯罪者募集に若手活躍中とか書くな、不謹慎やけどおもろいわ」


めぐみが画面を見る。


「でもちゃんとした求人っぽいね」


「そうだ」


山本が次の画面を出す。


企業ロゴ。


採用ページ。


代表挨拶。


会社概要。


社員インタビュー。


「めっちゃちゃんとしてるやん」


「全部架空だがな」


「怖っ」


森田が固まった。


「え?」


「このようにリテラシーが低い人間だけでなく、ある程度知識があり、調べようと思った先にそれらしい情報を置く。生成AIを使えば、このようなサイトは簡単に作れる」


「そんなサイトがあったのも知らなかった……」


森田が画面を見る。


「AIって何でもできるのか」


「なんでもやない。犯罪者側が一番使いこなしとるだけや」


行政手続きは。


いまだに。


本人確認。


本人確認。


本人確認。


本人確認。


だが。


犯罪者は。


住所。


家族。


電話番号。


勤務先。


全部知ってる。


「本人確認だけ進化して、本人情報は全部漏れとるやん」


山本が苦笑する。


「高宮さんに、国民の意見を伝えておこう」


森田が手を挙げる。


「俺も本人確認されたぞ」


「犯罪組織に?」


「免許証送った」


山本が続けた。


「このようなレベルの人間たちが個人情報を自ら渡し、囲い込まれる。裏切れば家族を殺す。交友関係も洗い、具体的な名称を使うことで、もう後に引けなくなる」


久世が言う。


「人がやっていた犯罪組織の面倒な部分を、AIが埋めている」


「せやな。そして引っかかった連中を脅し、管理し、捕まるまで犯罪をさせ続ける。AI管理のローリスク犯罪集団の完成っちゅうわけや」


「そして、それを上から指揮しているのが」


「総理大臣っちゅうわけやな」


ただ。


そこまで分かっていても。


証拠がない。


上野が直接指示している形跡も、このスマホには残っていない。


「ほな、そこ繋げよか」


私は森田を見る。


「情報は話す。けど何もしないぞ!足だってほら!ないんだから」


「もう一回、仕事に応募してもらう」


「嫌だ!」


「まあまて。今回は一人ちゃう」


私は真壁を見る。


「なんだよ」


「そろそろ働いてもらおか、闇バイト得意そうやん自分」


「ほんとにろくな奴いねえな」


山本がスマホを手に取る。


「よし、では真壁君とそこの彼を入口にして、上へ辿りつめよう。私は情報整理しながらバックアップする」


「ほな決まりやな」


私は立ち上がった。


「パーティ編成や」


森田が頭を抱える。


まずは、私、真壁、森田、山本。


この四人で情報と証拠集めだ。


上野浩平であり、二階堂傑。


恐らく現代の魔王。


そいつがAIと匿名犯罪を使って城を築いたのなら。


こっちも、一人で挑む必要はない。


まずは森田を餌に、魔王城への入口を探す。

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