第31話:知能の話
ーーめぐみフェーズ
山本が用意した場所。
使われていない事務所。
防音。
人通りも少ない。
何を想定してこんな場所をすぐ用意できるのか。
今度聞いてみたい。
部屋の中央。
椅子に男が座っている。
正確には。
縛りつけられている。
さっき私が瓦礫ごと吹き飛ばした。
左足は応急処置済み。
思ったより私は取り乱しているみたいだ。
感情が抑えられない。
子供だから?
「痛え……」
「まあまあ、生きてるから大丈夫だよ」
「足なくなってんだぞ!」
「まだ片方あるじゃん」
「そういう数え方すんな!」
意外と元気だ。
真壁は壁にもたれている。
冴子も残った。
というより、帰る場所がない。
それに、スーツの男の顔を一番長く見ていたのは冴子だった。
「名前は?」
私が聞く。
「森田……森田亮」
ひとみが椅子を引いて座る。
「ほな森田。ブエノサンについて知っとること全部吐き」
「だから何も知らねえって!」
森田は必死だった。
嘘をついているようには見えない。
「俺らは案件回されるだけなんだよ。場所と時間と人数。あとは仕事内容」
「誰から?」
「その時々でリーダーが変わるんだ。多分、そのリーダーはさっき死んでる」
私は森田のスマートフォンを見る。
ロックは解除させた。
メッセージ。
位置情報。
集合時間。
対象の写真。
報酬。
必要な情報だけ。
それ以外はほとんどない。
「これ、誰でも参加できるの?」
「ああ。短期高額バイトとか、そういうメッセージが来て応募すればな」
「それ、信じちゃうの?」
「そうだよ。俺も、応募する奴もみんなバカだからな。文章もろくに読まず、大手会社の名前が入ってるだけで大丈夫だと思うんだよ……」
「すごい……世の中にはこんなにバカな人がいるんだ」
部屋が静かになった。
真壁が口を開く。
「ブエノサンから直接指示されたことは?」
「ねえよ」
「じゃあ、何で名前を知ってるんだ?」
森田が少し考えた。
「上の奴らが言ってるから」
「どんなふうに?」
「ブエノサンから案件来た、とか。ブエノサンが急いでる、とか」
「顔は?」
「知らねえ」
森田が叫ぶ。
「何も知らねぇよ! 俺、末端なんだよ!」
「威張ることかよ」
「分かってるよ!」
ひとみがため息をつく。
「はあ。全く、ネズミ講みたいな組織やな」
山本から共有された情報も似たようなものだった。
案件屋。
勧誘役。
実行役。
運転役。
見張り役。
指示役。
役割ごとに分かれている。
捕まえても。
隣の役割しか知らない。
「やっぱり人間には、スマートフォンも、ましてやAIも早すぎたね。知能が足りなすぎる」
私がスマートフォンを置く。
「本人確認は何回もさせられるのに、他人の住所と家族構成は売買できる」
ひとみが鼻で笑った。
「役所の手続きより強盗の募集の方が早いやん」
真壁が言う。
「犯罪DXだな」
部屋のテレビがついていた。
誰も見ていなかった。
音だけ流れている。
『上野総理は本日、記者団の取材に対し――』
いつものニュース。
政治。
物価。
治安。
どこか遠い世界の話みたいに流れている。
冴子がテレビを見る。
少しだけ首を傾げた。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「この人……」
画面には総理大臣。
上野浩平。
冴子が近づく。
「何となくなんですけど」
「何?」
「さっきの人に似てるような……」
空気が変わった。
私はテレビを見る。
眼鏡はかけていない。
髪型は短髪。
服装も相応。
私は直接確認していないから、分からない。
ニュース映像が切り替わった。
上野が廊下を歩いている。
その後ろから誰かが声をかける。
『上野さん、こちらです』
私は止まった。
ひとみも。
冴子も。
真壁だけが分かっていない。
「……今なんて?」
冴子がテレビを見る。
「上野さんって」
私は口の中で繰り返す。
「上野さん」
少し崩す。
「うえのさん」
もう一度。
「ブエノサン」
沈黙。
ひとみの顔が引きつった。
「……は?」
森田がこちらを見る。
「何?」
「ブエノサン」
「うん」
「上野さん」
「うん?」
「ブエノサン」
森田が首を傾げる。
「ああ、確かに似てんな」
ひとみが机を叩いた。
「ただの聞き間違いやないかい! ……って、そんなわけないよな?」
森田がびくっとする。
「俺に怒んなよ!」
「今までコードネームみたいに扱っとった時間返せや!」
真壁が笑う。
しかし、笑っていられたのはそこまでだった。
私はもう一度テレビを見る。
上野浩平。
現職の総理大臣。
冴子が見た男と似ている。
恒一の名前も、女神の存在も、魔法も知っていた。
「仮に同一人物やとしたら」
「うん」
「私ら、総理大臣に襲われて、久世は攫われたことになる」
真壁が答える。
「そして、デポルに犯罪をさせまくってるのもな」
「事実なら笑われへんけど、もし本当にそうなら……」
私はテレビの中の上野を見る。
現世の魔王。
その候補は、上野浩平に限りなく近づいた。
森田が青ざめている。
「ちょ、ちょっ待てよ」
「何?」
「俺、総理大臣の下で働いてたの?」
「まだ決まってないけど」
「俺、国家公務員みたいなものってことか?」
「……」
「履歴書に書いていいのか?」
「そりゃこんな知能の持ち主なら、闇バイト引っ掛かるんもしゃあないかもな……」
森田が肩を落とした。
色々と目指す先も見えてきた。
次は恒一だ。
森田を見る。
「立てる?」
「無理に決まってるだろ!」
「めぐみ、今のは鬼やろ……」
「どこに連れてく気だ?」
「恒一を探しに行く」
森田の顔が固まる。
「恒一って流れ的に、さっきのガキだよな?」
「もちろん」
「嫌だよ! 殺されるだろ、俺は捕虜じゃねぇのかよ!」
ひとみが笑う。
「良かったな森田」
「何が!」
「魔王討伐パーティに加入や」
「嫌だああああ!」
騒ぐ森田を真壁が引きずり、車に乗り込む。
総理大臣が直々に動いているなら、長く恒一と一緒にいられる時間はないはずだ。
(すぐに行くからね、恒一)
・
・
・
この時。
その頃、恒一もまた。
因縁の相手から、同じ答えを聞かされようとしていた。
森田亮が、パーティに加わりました。
魔王討伐パーティ:
加藤ベアトリクスめぐみ
久世恒一
水谷ひとみ?
井口おさむ(業務委託)
真壁(業務委託)
高宮誠司
山本誠
森田亮




