第28話:ピザ
ーー冴子フェーズ
また、私は囚われていた。
(はぁ……私は、桃の姫かよ。そろそろ嫌気がさしてきた)
自宅のリビング。
目出し帽の男が四人。
そのうち二人はバールを持っている。
いきなり部屋へ押し入られ、痛い目を見たくなければ大人しくしろと言われた。
両手を後ろで縛られ。
口には猿轡。
今のところ怪我はない。
前なら、それだけで頭が真っ白になっていたと思う。
でも、今回は少し違った。
(きっと久世さん絡みなんだろうな……)
妙に冷静だった。
久世さんに助けられたから、今の私がある。
めぐみさんにも出会えた。
拠り所がある人間は強い。
それが人であれ、宗教であれ。
女神であれ、だ。
何度もこんな目に遭えば、嫌でも多少は慣れるらしい。
あまり嬉しくない成長だったけど。
男たちは誰かを待っているようだった。
しばらくすると、そのうちの一人が腹が減ったと言い出した。
家に食べる物はないと伝えると、猿轡を外され、ピザでも頼めとスマートフォンを渡された。
その瞬間。
以前、久世さんが得意げに話していた雑学を思い出した。
加害者に悟られないよう、ピザの注文を装って警察へ助けを求めた女性の話。
あの時は話半分だった。
まさか、こんなピンポイントで役に立つとは思わなかった。
だから私は、ピザ屋ではなく久世さんへ電話した。
四人。
そのうち二人がバール持ち。
それだけ伝われば十分だった。
「Lサイズを四枚。うち二枚はソーセージのトッピングで」
私にできたのは、そこまでだった。
・
・
・
玄関の外から足音がした。
男たちが一斉に反応する。
バールを持った二人が立ち上がった。
「やっと来たな」
「増援遅えんだよ」
「これでようやくこの女を犯せるな」
(増援……)
久世さんを待っていたわけではない。
仲間を待っていた。
そう気づいた瞬間。
身体が震えだす。
「見張りが増えるから順番に可愛がってやるからな」
目出し帽越しにも分かる。
気色の悪いニヤけ顔。
(……私の人生は、これで、終わり)
諦めかけたその瞬間。
鍵が開いた。
次の瞬間、玄関の扉が勢い吹っ飛んだ。
サイズ感は子供。
でも、顔がまるで鬼神だった。
その後ろに、ひとみさん。
助けに来てくれた。
素直に嬉しい。
なのに、そんな私ですら久世さんを見て少し怖いと思った。
部屋へ入ってくる。
まず私を見る。
拘束された両手。
部屋。
四人の男。
そして、二本のバール。
何かを確認するように、小さく呟いた。
「四人……」
一人。
二人。
三人。
四人。
順番に視線を動かす。
「ソーセージのトッピングが二つ」
次にバールを持った二人の男を見る。
ぼそぼそと、独り言のように続ける。
「Lサイズ四枚。ソーセージ二つ」
男たちも、なぜか黙っていた。
怒鳴っているわけでも、威嚇しているわけでもない。
ただ淡々と数を確認しているだけ。
それが妙に怖かった。
一人がたまらず口を開いた。
「おい。この時間帯に、なんでお前がいる?」
久世さんの目が少し動いた。
「なるほど。案件屋だな」
男の空気が変わった。
「そこまで知ってたとはな。たまたまこの家に行き当たった。それで、女一人子供二人なら楽勝で襲える」
目出し帽の男が笑った。
久世さんは何も言わない。
男は気を良くしたのか、続ける。
「つーか、四人だと思ってんなら笑えるぜ。俺たちはグループで動いてんだよ。待機班も含めりゃ、いつだって数十人規模だ」
久世さんは黙って聞いている。
「もう信号は出してる。じきにここへ来る」
男が笑う。
「そしたらお前らは終わりだ。女は好きにされて死ぬ」
今度は久世さんを見る。
「お前みたいなガキは東南アジアでも売れるからな。子供だけ欲しがる金持ちなんざ、いくらでもいるんだとよ」
その瞬間。
ひとみさんが小さく笑った。
「何人おるんか知らんけどな」
男たちがひとみさんを見る。
「十五人くらいやったら、そこの生贄にされるはずのガキが、もうぶち殺したで」
「は?」
久世さんの気配が。
より重くなった気がする。
「そのガキからしたら、フルスモークの真っ黒なハイエースなんざ、中身見んでもぶっ壊せばええらしいで。そもそも、あんな仕様にする奴は基本犯罪者、とのことや」
「ふざけんな!」
一人が声を荒げた。
「当たってるのが、何とも言えへんよな!」
私は久世さんを見る。
「……本当に申し訳ない」
小さな声だった。
久世さんが私の前まで来る。
その顔を見れば分かる。
犯罪者への怒りもある。
でも、それだけじゃない。
守ると豪語しておきながら、また私をこんな状況に置いた。
自分自身にも怒っている。
久世さんは、そういう人だ。
そして。
私から四人へ視線を移した瞬間。
その目から、私に向けていた優しさも、自分への不甲斐なさも全部消えた。
そこに残ったのは。
多分。
人殺しの目だった。




