第27話:引っかかるもの
ーーめぐみフェーズ
東京で高宮の事務所を襲った連中は、思っていたよりずっと面倒な相手だった。
強い、という意味ではない。
むしろ逆だ。
戦闘そのものは、すぐに終わった。
私が魔法で瞬時に制圧した。
相手の中にはデポルもいたが、それ以外は普通の人間だった。
体格だけなら中高生くらいに見える者までいる。
目出し帽を剥がしてみれば、年齢も性別もばらばら。
共通していたのは、ほとんどの者が互いのことを知らなかったことだった。
「なんなん、こいつら」
ひとみが呆れたように呟く。
拘束された男の一人は、自分が誰に雇われたのかすら説明できなかった。
SNSで見つけた高額バイト。
簡単な仕事。
即日報酬。
指定された場所へ行き、指示された物を壊し奪う。
それだけ。
別の男は、最初に身分証の写真を送っていた。
住所。
銀行口座。
家族構成。
勤務先。
一度送ってしまえば、逃げられない。
辞めたいと言えば、すかさず恫喝が入る。
「ようできとるわ」
ひとみが吐き捨てる。
褒めているわけではない。
高宮が拘束された連中を見ながら言った。
「匿名・流動型犯罪グループ。いわゆるトクリュウだ」
聞いたことはある。
ニュースでも何度か見た。
住宅へ押し入り。
バールで窓を割り。
住人を殴り。
金品を奪う。
そんな事件が、この一年ほど急激に増えているらしい。
「実行役を捕まえても、大元にはたどり着かない」
高宮が説明する。
指示役。
募集役。
実行役。
役割ごとに切り分けられ、その場限りで人間が入れ替わる。
捕まるのは、いつも末端。
上にいる者は顔も名前も出さない。
さらに、犯罪に使えない人間が別の形で売られることさえある。
人身売買だ。
犯罪そのものが商品として流れている。
「案件屋と呼ばれる者もいる」
「案件屋?」
「下見役だ。家族構成、資産、車、外出時間、在宅する時間帯。家の防犯設備まで調べる」
それらを、金になる情報として売る。
「とち狂ってるね」
高宮が少し笑った。
「それが増えたことで、我々も動きにくくなった」
「どういう意味?」
「今までならデポルの犯罪として追えた事件が、一般犯罪に混ざるようになった」
人間。
デポル。
借金を抱えた者。
遊ぶ金欲しさの者。
脅迫されている者。
全部が一つの犯罪へ混ざっている。
「この国にも昔から悪人はいる」
高宮が言う。
「だが今は、悪意を持つ者が、悪意のない者まで犯罪へ引きずり込める仕組みが出来上がっている」
その言葉が妙に引っかかった。
引っかかった人間を、さらに別の犯罪へ使う。
そして、一度引っかかったら抜けられない。
まるで蜘蛛の巣のように。
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翌日。
大阪。
水谷法律事務所に、全員が揃った。
恒一。
私。
ひとみ。
山本。
真壁。
かなは少し離れたところで資料整理。
今日をもって、冴子邸の隣に本格的に引っ越すことになっている。
高宮は東京からオンラインで参加している。
井口も今回は情報だけ寄越してきた。
恒一が机の上に何枚もの資料を広げる。
「つまり、片っ端から潰しても終わらないと」
「そういうことや」
ひとみが椅子へ深く座る。
集められた資料には、特殊詐欺、闇バイト、強盗、名簿売買まで、別々に見える事件が並んでいる。
だが、どこかで繋がっていると予想する。
一度詐欺に遭った高齢者が、その後に強盗の標的になる。
家族構成を知られた人間が、次は別の詐欺へ狙われる。
個人情報そのものが、使い回されている。
「問題は……俺たちには、次に誰が狙われるか分からない」
恒一が資料から顔を上げる。
日本中の個人を守ることなんてできない。
恒一でも、私が加わっても。
無理なものは無理だ。
だから。
「向こうから来てもらおう」
私が言う。
全員がこちらを見る。
「どうやって?」
「目立てばいいじゃん。得意じゃん」
恒一が嫌そうな顔をした。
「嫌な言い方だぜ」
「いつも以上にデポルを狩り続ける」
真壁が笑った。
「お前も結構イカれてんな」
「ありがとう」
デポルの溜まり場。
廃屋。
空き家。
確証なんてなくてもいい。
「怪しかったら、とりあえず叩く」
山本が眉を寄せる。
「それはさすがに強引ではないか? こちらが犯罪者になってしまうぞ」
「間違ってたら、ごめんねでいいよ。そんなところにいる奴が悪い」
恒一が笑う。
「いつからそんな新撰組みたいになったんだ? 疑わしきは罰する。悪・即・斬か?」
ちょっと何言ってるかわからない。
「ちょっと何言ってるかわからない」
「心の声が漏れてるよ」
乱暴なのは分かっている。
しかし、他に手がない。
一件ずつ事件を追っても、向こうは簡単に人員を交換する。
こんなことにかまけていては、魔王討伐に着手できない。
なら、こちらから派手に潰して目障りな存在になる。
こいつらを放置しておけば仕事にならない。
そう認識させる。
「敵として認知してもらうってことか」
恒一が言う。
「そうそう。特定は無理だから、向こうに来てもらうってことだね」
襲ってくるなら返り討ち。
その過程で、誰が指示しているかを探る。
恒一は少し考えたあと、頷いた。
「何もできないよりはいいかもね」
ひとみが机を指で叩く。
「ただし問題があるで」
「冴子とかなだね」
私が答える。
戦えない二人。
こちらが派手に動けば、当然狙われる可能性が上がる。
恒一の表情が変わった。
「もちろん、そこは絶対に外せない」
「せやな」
役割を決める。
恒一とひとみ。
この二人が大阪の拠点を中心に動く。
冴子。
かな。
二人を守りながら、法律面と事件の整理。
「私と真壁は外だね」
「おいおい、何勝手に決めてんだよ。というかお前誰だよ」
真壁が言う。
「あんた小賢しいな。井口に言いつけるよ?」
「ガキじゃねえんだよ。んなことでビビるかよ。先生に言いつけるみたいに。偉そうなこと言ってもやっぱりガキだな」
『真壁』
私は通話中のスマートフォンを向けた。
「げっ……井口さん。今日は何とかって会議じゃなかったですか?」
『真壁、何度も言わせるな。協力しろ』
それだけ言い放ち、通話は途切れた。
「借りてきた猫ならぬ、借りてきた真壁。どうするの」
「やるしかねえだろクソが」
これでしばらくは言うことを聞くだろう。
「デポルと怪しい連中を叩く。真壁なら土地勘もあるでしょ」
「まあ、ある程度はな」
山本は情報担当。
法曹関係。
警察関係。
そこから上がる情報を一つに集める。
どこでデポルらしい事件が起きた。
どこで不審者が目撃された。
どこで闇バイト絡みと思われる動きがある。
「こちらで可能な限り整理し、流す」
山本が言う。
「助かるよ」
高宮は画面の向こうで腕を組んでいた。
「私も東京側を調べる。政界へ入り込んだデポルについては、こちらで洗い続ける」
恒一が高宮を見る。
二人はまだ直接会っていない。
それでも、互いに相手がどういう人間なのかは伝わっている。
「高宮さん、今回は協力関係という認識でいいですか?」
高宮は少し考えた。
「利害が一致する間は、という条件つきだがね」
恒一が笑う。
「ならよかったです。俺はもう総理大臣なんてクソしんどい仕事したくないですからね。あなたと井口県知事に手柄を上げさせてあげますよ」
「面白いことを言う。せいぜい利用し合おう」
高宮はオンライン会議を閉じた。
「よし」
私は手を叩く。
「散!」
「そんな忍みたいに言われても、シュババっと姿消されへんわ」
ひとみの突っ込みを聞きながら立ち上がる。
山本がすでに一件、怪しい場所を見つけていた。
「場所は送る」
山本がスマートフォンを操作する。
「デポルらしき人間が複数出入りしている。トクリュウとの関係は不明だ」
「十分」
真壁が面倒そうに立ち上がった。
「行くぞ」
「偉そうに」
その時だった。
恒一のスマートフォンが鳴った。
全員の動きが止まる。
「冴子さん、どうしましたか?」
恒一は何も答えず、通話ボタンを押した。
耳を澄ます。
『ピザのLサイズを四枚ください。うち二枚はソーセージのトッピングを……』
真壁が笑っている。
「なんだ? 間違い電話か」
恒一の表情が怒りに満ち溢れている。
さっきまでの空気が、一瞬で消える。
通話が切れたと同時に、恒一が叫ぶ。
「ひとみさん! 車を!」
「待って恒一! 私も!」
「お前には、向かうところがある」
それだけ言い放ち、部屋を出て行った。
「なんだあれ?」
「多分、冴子が危ない」
真壁は顎に手を当てる。
「ああ。冴子って久世の女だったか?」
「はあ? 恒一の女は私だろ? ぶち殺すぞ」
「切れんなよ……」
「助けを呼べない状況で、ピザの注文を装って警察に通報する方法があるんだよ」
真壁の顔から笑いが消えた。
「今回もそれだって言うのか?」
「恐らくね……」
「でもまあ、アイツが行くなら大丈夫だろ。魔法もあるし、家近いんだろ」
私は真壁に向き直す。
「ヤバいのは恒一だよ。制御が効かない。ブレーキぶっ壊した暴走機関車だよ。最悪、敵ごとマンションもぶっ壊すかも……」
「……目立つからいいんじゃね?」
確かに。
と思ってしまった。
しかし、それ以外にも懸念はある。
恒一のアジトだと知って敵が来たのか。
たまたま事件に巻き込まれたのか。
私たちが活発に動いたことで、すぐに敵が動いたのか。
冴子は私にとっても大切な保護者だ。
感謝もしている。
それなのに。
安否よりも打算、計画、背景。
分析にばかり思考が走る自分に、少し嫌気がさした。
高宮誠司が、パーティに加わりました。
山本誠が、パーティに加わりました。
魔王討伐パーティ:
加藤ベアトリクスめぐみ
久世恒一
水谷ひとみ?
井口おさむ(業務委託)
真壁(業務委託)
高宮誠司
山本誠




