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第18話:縋り


ーー冴子フェーズ


朝。


目を覚ました私は、昨日のことを思い返す。


久世さんだけでも意味が分からなかった。


七歳の身体。


中身は三十五歳。


妙な魔法を使う。


そして今度は、その恋人を名乗る金髪の少女。


しかも元女神ときた。


情報が多すぎる。


以前なら、そんな話を聞けば頭がおかしいと思っただろう。


でも。


自分の目の前で、確かに長方形が現れた。


久世さんと同じもの。


それが私の包丁を弾いた。


そして何より。


めぐみという少女には、到底嘘をついているとは思えない何かがあった。


本当に後光が差しているような。


そんな気さえする。


慶太が死んでから。


私は、何を信じても意味がないと思っていた。


神も。


運も。


未来も。


祈ったところで、慶太は帰ってこない。


どれだけ願っても、失ったものは戻らない。


そう思っていた。


けれど。


本当に女神だったという少女が、今、自分の家にいる。


部屋の扉が開いた。


めぐみさんが出てくる。


神々しく祈っているわけでもない。


神託を告げるわけでもない。


眠そうな顔で私を見ると。


「お腹空いた」


そう言った。


思わず笑ってしまった。


そこで気づく。


私。


今、笑った。


慶太が死んでから。


こんなふうに自然に笑ったことがあっただろうか。


「朝ご飯、作るね」


私はキッチンへ向かった。


・

・

・


三人で食卓を囲む。


炊いたご飯。


味噌汁。


焼いた魚。


卵。


海苔。


特別なものは何もない。


めぐみさんにとっては、人間になって初めての普通の朝食らしい。


味噌汁を一口飲んで、目を輝かせる。


「美味しい!」


次にご飯。


さらに海苔。


「やっぱり日本人は米を食べないとね」


元女神が何を言っているんだろう。


「これも美味しい! この海苔なに?」


「大野海苔」


「また徳島のやつだ。味濃くて美味しい」


久世さんは、その横で慣れた様子でご飯を食べている。


見た目だけなら。


七歳の男の子と女の子。


ただ朝ご飯を食べているだけ。


それなのに。


二人を見ていると、不思議と胸の奥が軽くなった。


女神だから信じるんじゃない。


奇跡を見せてもらったからでもない。


この人なら。


この二人なら。


失ったものは戻せなくても。


これから先にある何かを変えてくれるかもしれない。


そう思えること自体が。


今の私には必要だった。


食事を終えた頃。


私は二人を見る。


「ねえ」


久世さんが顔を上げる。


「二人とも、ここに住めばいいよ」


久世さんが目を丸くした。


「いや、でも冴子さんにこれ以上迷惑をかけるわけには」


「住もう!家なし、無一文なんだから」


めぐみさんが即答した。


久世さんは黙った。


「ありがとう、助かるよ。そのうちお金入れるね」


めぐみさんは楽しそうに笑う。


久世さんはしばらく迷っていた。


それから私を見る。


深く頭を下げる。


「……ありがとうございます」


こうして。


私の家に、七歳の男女が二人住むことになった。


片方は三十五歳の記憶を持つ男。


もう片方は元女神。


冷静に考えると、とんでもない。


でも。


嫌ではなかった。


むしろ。


少し嬉しかった。


私は、めぐみさんを信じよう。


そう思った。


七歳の少女を相手に、自然と「さん」を付けている自分がおかしくて、少し笑う。


きっと。


カリスマというものなのだろう。


私はめぐみさんに、どこか憧れている。


これは信仰なのだろうか。


それとも。


宗教の言葉でいう、信心というものなのかもしれない。


でも。


それでいい。


人はきっと。


何か一つでも信じられるものがあれば、もう少しだけ前へ進める。


慶太のいない人生は。


もう始まってしまっている。


なら。


私も歩かなければならない。


久世さんと。


めぐみさんと。


今日から。


ようやく私の第二の人生が始まった。


・

・

・


スマートフォンへ、短い報告が入る。


「久世恒一。大阪へ帰還。

同行者、一名増加。金髪の少女。名前は不明」


画面を見ていた誰かの指が、ゆっくりと止まった。


・

・

・


めぐみと恒一は、家と世話係を手に入れました。


魔王討伐パーティ:

加藤ベアトリクスめぐみ

久世恒一

水谷ひとみ?

井口おさむ(業務委託)

真壁(業務委託)

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