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第16話:女神ポイント


ーーめぐみフェーズ


恒一が井口や真壁と小競り合いを繰り広げている頃。


私は天界にいた。


正確には。


アステリアの前にいた。


「私、人間になるね!」


私がそう言うと。


周囲が静まり返った。


一秒。


二秒。


そして。


『ええええええええええ!?』


うるさい。


近くにいた女神たちが、一斉に声を上げた。


『ちょっと待って!』


『本気!?』


『人間だよ!?』


「死ぬんだよ!?』


『お腹空くんだよ!?』


「それはちょっと楽しみだな」


『そういう問題じゃない!』


アステリアに目を向ける。


特に驚いた様子はなかった。


「アステリアは驚かないの?」


『女神ポイントの特典を知った時のお前の目。あの時に決めてたんだろ?』


「そう!」


天界には、女神ポイントなるものがある。


転生者を担当する。


できるだけ死なせない。


その世界で魔王を倒す。


被害をできるだけ減らす。


世界そのものを壊さない。


そうやって仕事を終えると、成果に応じてポイントが入る。


女神ポイント。


名前は軽い。


制度は意外と厳しい。


私は女神になったばかりの頃から、様々な世界を担当した。


一時期に比べれば、平和な世界は増えたらしい。


それでも、危険な世界はいくらでも残っていた。


他の女神が避けるような場所も。


魔王が強い世界も。


転生者がすぐ死にそうな世界も。


率先して対応した。


理由は簡単。


その方が燃えるから。


結果。


気づけば、かなりポイントが貯まっていた。


そして。


女神ポイントには、使い道がある。


担当できる世界を増やしたり。


便利な権限を買ったり。


休暇を増やしたり。


色々ある。


その中に。


ほとんど誰も使わないものが一つある。


人間受肉。


女神としての立場を降り。


一人の人間として、下界へ行く。


しかし誰も選択したことはない。


何故か。


女神から人間になるメリットがないから。


誰も選ばないだろうということで、必要ポイントが最も高い、半ばネタ扱いの特典として表示されていた。


『本当に使うの?』


女神の一人が聞く。


「うん」


『そこまで貯めたポイントを?』


「使うために貯めたんだから」


『いや、普通もっと別のことに使うでしょ!』


普通。


私はその言葉に少し考える。


「でも、恒一がいるからね」


周囲がまた静かになった。


アステリアだけが、少し笑った。


『お前にとっては、それだけの理由で事足りるな』


「そういうこと」


恒一のことは大事。


大好き。


それは変わらない。


だから、人間界に降りる。


私は女神でいたいわけじゃない。


恒一の隣にいたいのだ。


「今度は、守りきってみせる」


アステリアが私を見る。


『条件の指定はどうする?』


「もちろん、全部恒一と同じで!」


アステリアがため息をついた。


『そうか。七歳の幼女で不老ではあるが不死ではない。そしてーー』


「うん、あの魔法」


寿命はないが不死ではない。


病気になり、怪我もする。


殺されれば、当然死ぬ。


ほぼ人間。


ただ。


時間だけが身体を老いさせない。


『一度降りれば、もう女神には戻れないぞ』


アステリアが言う。


「分かってるよ。クソ長い規約は全部読んでる」


『そうか、じゃあここでお別れだな』


少しだけ。


言葉が止まった。


それは。


ちょっと寂しい。


周りの女神たちは、まだ納得できていない顔をしている。


『寂しくないの?』


一人が聞いた。


「寂しいよ」


でも。


それでも行くんだ。


恒一と一緒に魔法を扱い、大冒険がしたい。


今はもう、それしか考えられない。


他の女神たちが、暗い顔で話しかけてくる。


『……きっと後悔するよ』


「いや、しないね。私も、恒一も。自分で決めたことに、後悔したことはないから」


アステリアが笑った。


『お前たちはそうだったな』


処理が始まる。


身体が少しずつ光に包まれる。


女神として持っていたものが。


一つずつ消えていく。


世界を見る力。


神界との接続。


転生者を観測する権限。


そして。


女神としての身体。


代わりに。


別の何かが形を作る。


小さな手。


細い腕。


七歳の身体。


金髪。


ポニーテール。


恒一と同じ世界で生きるための身体。


周囲の女神たちが、まだ信じられない顔をしている。


挿絵(By みてみん)


『めぐみ。次に目を開けるときにはもう人間界だ。達者でな……お前たちは、最高に面白かった』


アステリアの少し寂しそうな顔が思い浮かぶ。


長い付き合いになった。


色々教えてもらった。


だから。


もっとちゃんとした別れを言った方がいいのかもしれない。


でも。


たぶん。


私たちには似合わない。


「またね、アステリア」


アステリアも手を上げた。


ような気がする。


光が強くなる。


視界が白く染まる。


そして。


私は女神を退職した。


・

・

・


ーーアステリアフェーズ


天界。


『めぐみ。本当に行っちゃったね』


『人間界ってそんなに良いのかな』


『人間界っていうより、男じゃない?』


女神たちが、思い思いに話している。


私は、久世が居て、めぐみが降りた人間界を見ていた。


(……めぐみのは、愛というより、執着の方が似合うな)


そう思うと腹落ちした。


めぐみの恒一への執着は異常だ。


『女神メルの呪いの因子……関係、ないよな』


呪いの因子。


女神メルが消滅した際に、散ったもの。


魔法を飛ばしただけだと思っていた。


だがそれは、前世の久世恒一へと引き継がれたはずだった。


『もしそれが久世だけじゃなく、他の者にも引き継がれていたのなら……』


それがめぐみだったとして。


では、めぐみ以外の者には?


この疑念が生まれてくる。


『メル……死してなお、私の邪魔をするのか』


もう久世にもめぐみにも、コンタクトは取れない。


あいつらが二人でなんとかするしかない。


再び人間界を見る。


めぐみが嬉しそうに、水谷法律事務所の階段を駆け上がっているところだった。


『ふっ。あいつならなんとかするか』


「わからないことは考えても仕方がない」


「困ったこと、嫌なことがあった時はね。感情と事実を分けて考えるんだよ」


(偉そうに、何度か説教されたな)


軽い足取りのめぐみを見る。


私の目には、涙が流れていた。


・

・

・

加藤ベアトリクスめぐみが、パーティに加わりました。

主人公の変更が可能になりました。



魔王討伐パーティ:

加藤ベアトリクスめぐみ

久世恒一

水谷ひとみ?

井口おさむ(業務委託)

真壁(業務委託)

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