第13話:初対面
ーー久世フェーズ
残るは真壁含めて三人。
一人が正面から殴りかかってくる。
子供相手に容赦がない。
長方形を面として構える。
警戒した男が止まった。
「ッ!」
そのまま射出。
男は五メートルほど後ろへ吹っ飛んだ。
二人目はすでに、ひとみに制圧されていた。
(合気道ってそんなに強いのか?)
確かに昔、ひとみとめぐみに床へ叩きつけられたことはあるが。
何はともあれ。
あっという間に本命と戦える。
真壁は冷静にこちらを分析していた。
簡単には近寄ってこない。
ひとみも俺を見ている。
「なんやその手品。私にも教えてくれや」
「ええ、もちろん。できるといいですね」
「ムカつくやっちゃなー、お前!」
鼻で笑う。
真壁だけは笑っていない。
刃物を握ったまま、俺を見る。
「明らかに普通じゃねえな。だが」
真壁は半身の体勢で、じわじわと距離を詰めてくる。
「その手品。一つ出して、それが消えるまでは再生成できないと見た」
「ふん」
(す、鋭い……)
なんだこいつ。
こいつも何かしら魔法を持っているのか。
「やはりガキだな。顔に図星って書いてあるぜ」
真壁とは、四メートル近く距離を取っていたつもりだった。
子供の俺は。
反応速度。
反射神経。
身体能力。
全てに劣る。
だから、距離を詰められる前に準備する。
間合いに入られる前に遠距離攻撃。
これが、今の俺には必須の戦い方だった。
だが。
真壁との距離は少しずつ縮まり、長身の体格にも気圧される。
「ガキが、死ね」
「お前がな」
右手で長方形を生成。
そのまま盾にする。
何とか斬撃を防いだ。
(こいつ、子供の俺の首に本気で切りつけにきやがった)
『また油断した? 結構危ないよ……』
確かに危ない。
だが、油断していたつもりはない。
「何にやけてやがる、クソガキ」
「いやいや。以前より荒くれてて面白いなと」
真壁は刃物を手のひらで回しながら、余裕を見せている。
「もう一つ分かったぜ」
「何がです?」
「いきなり出すことはできない。具現化してから、盾にするなり飛ばすなりしているな」
俺は長方形を消す。
「ああ……そうかもな」
こいつに半端な手加減は通じない。
殺す必要はない。
だが。
戦うなら本気で抑え込む。
そう決めた瞬間。
「おい、久世」
ひとみの声。
振り返る。
その瞬間。
腕を取られた。
「え?」
視界が反転する。
次に見えたのは。
薄暗い地下駐車場の天井だった。
「……」
投げられた。
「もうええやろ」
ひとみが見下ろしている。
「うちら何しに来てん」
真壁を見る。
つまらなさそうに、こちらを見ている。
「すだちくん見に来ただけちゃうやろ」
確かに。
『よし分かった』
めぐみの声。
『恒一には、やっぱり私がいないとダメだ』
何やら決心めいたことを口にしている。
俺はゆっくり起き上がる。
衣服の汚れを払いながら。
「大変失礼いたしました」
姿勢を正す。
「改めて、あなたと井口さんに話があります」
『偉いね』
(ふぅぅぅん)
『何それモノマネ?似てるの?』
その時。
真壁の後ろから靴音が聞こえた。
久方ぶりに見る男。
以前と変わらないように見える。
いや。
少しやつれているのか。
「こんにちは、水谷ひとみさん」
そして。
俺を見る。
「久世くん……だったかな」
スーツ。
落ち着いた表情。
全てを見通しているような目。
井口おさむ。
前の世界で敵対し。
最後には共に戦った男。
「井口……」
自然に名前が出た。
井口は少しだけ目を細める。
「初めまして」
そう言って、俺を見る。
「どうやら私たちについて、ずいぶん詳しいようだ」
相変わらず余裕がある。
その顔が腹立たしい。
そういえば。
前の世界でも、この男相手に主導権を握れた記憶があまりない。
思い出すとムカムカしてきた。
だが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「誰にも話を聞かれない場所を用意してください」
井口の口角が、わずかに上がった。
「いいだろう。すでに場所は用意してある」
俺を見る。
「面白い人たちだ」
井口は歩き出した。
さて。
どこまで話し。
どこまで協力を取り付けられるか。
前を歩く真壁が、時折こちらを見ている。
敵意というより。
見定めている。
よく考えれば。
こんな信頼も何もない連中を。
本当に魔王討伐の協力者にできるのか。
今さら本末転倒な不安を抱えながら。
俺たちも後を追った。




