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第12話:お子様


ーー久世フェーズ


地下駐車場。


人は少なく、車の音が時折響くだけ。


ひとみの車に到着し、あえてモタモタとしていた。


そして、そいつは姿を現した。


軽い足取り。


ポケットへ手を突っ込んだまま、ひとみに話しかける。


「水谷ひとみ」


ひとみが眉を上げた。


「なんや?」


「子連れの女弁護士が、井口さんに何の用だ。昔の連れって嘘だろ」


「なんで嘘やと思うんや」


真壁はうすら笑みを浮かべる。


「十九年も寝ていた奴が、どうやって井口さんと知り合えるんだ?」


「へぇ。この短時間でよう調べたな。ただーー」


ひとみが俺の頭を指す。


「私やなくて、このクソガキがあんたと井口に用あるんやと」


真壁の冷めた目が俺へ向く。


相変わらず、目つきが悪い。


「真壁さん、相変わらずですね」


沈黙。


真壁の目が細くなる。


「……お前」


一歩、近づく。


「名乗った覚えはないが」


真壁がゆっくり、ポケットの中で手を動かす。


「はは、すぐ刃物を出そうとするのやめてくださいよ。怖いじゃないですか」


真壁の表情から笑みが消えた。


「お前、何者だ」


ひとみが割って入る。


「久世、その辺にしとけ」


「警戒させすぎたら、何も話してくれんようになるで」


(わかってはいるんですけどね)


確かに。


大人気なかったな。


「すみませんね。昔よく意地悪されたもので」


真壁が鼻で笑う。


「もう遅えよ」


足音。


一人。


二人。


三人。


四人。


柱の影や車の裏から、俺たちを囲むように男たちが現れる。


ひとみが俺を見る。


「なあ」


「はい」


「お前、三十五まで二回生きたんやろ?」


「はい」


「もうちょい上手く立ち回られへんのか?」


『それなー』


めぐみの顔が浮かぶ。


「似たようなこと、昔からずっと言われてます」


過去、ひとみにもめぐみにも、皮肉たっぷりに聞かされている。


これは経験談だが。


「でもね、ひとみさん。人間、複数回人生を送れたって、そうは変わらないものですよ」


真壁が肩をすくめる。


「ごちゃごちゃうるせえな。井口さんの名前まで知ってる。俺の癖まで知ってる」


警戒心MAXといったところか。


だが。


こいつには散々煮湯を飲まされてきた。


何回かは。


(殴らせてもらうぜ)


『子供みたい』


(ああ。坊やだからさ)


真壁がポケットから手を出す。


案の定、刃物だ。


「お前らが何者か分からねえ以上、帰すわけにはいかねえな」


ひとみがため息をつく。


「お前が煽るからや」


「まあまあ」


計五人。


俺だけなら問題ない。


ただ、ひとみもいる。


全員を殺さず制圧するなら、少しだけ面倒だ。


『恒一』


(分かってる。散々煽ったけど、油断はしない)


右手を開く。


「なんだ、それ」


真壁の目が初めて揺れた。


手のひらに浮く長方形。


「先手必勝」


回れ右。


一番近くにいた男へ、長方形の面を向ける。


射出。


「ぐっ!」


男の身体が宙へ浮き、そのまま数メートル先まで吹き飛んだ。


一人。


すぐに二人目が動く。


俺ではない。


ひとみへ向かった。


(そっちか)


距離は十分。


間に合う。


長方形を一度消し、ひとみとの間へ盾として出そうとする。


視線を向ける。


「……あれ?」


男がいない。


いや。


いた。


地面に。


「いっ……!」


男の腕がひねり上げられ、身体ごと床へ押さえ込まれている。


その上に。


ひとみ。


「助けなんかいらんで」


「......あぁ」


思い出した。


「そういえば、合気道五段って言ってましたね」


ひとみは男の腕を押さえたまま、こちらを見る。


「弁護士やからって、紙とペンしか持てへんと思うなよ。ボンクラどもが」


大変頼もしい。


真壁を見る。


さっきまでの薄い笑いは消えていた。


俺の長方形。


ひとみに押さえ込まれている男。


真壁の目が、順番にそれらを見る。


「……なるほどな」


刃物を握る手が変わった。


遊びではない。


明らかに。


構えが変わる。


「ガキ一人と、女弁護士」


低い声。


「そのつもりで来た俺が悪かった」


真壁が一歩前へ出る。


目が。


完全に笑っていない。


「おどしのつもりだったが、俺もやる」


さっきまでとは違う。


このプレッシャー。


かつて、徳島の山奥で追い込まれた時と似ている。


あの時は、数に押され敗れたが。


今回は、状況が違う。


「壁(トラウマ)は。越えないとな」


手のひらをかかげる。


手のひらをかざした瞬間、天井すれすれまで届く巨大な長方形が、視界を埋め尽くすように具現化した。

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