第11話:一本釣り
ーー久世フェーズ
徳島県庁。
俺たちは。
あっさりと門前払いされた。
「井口知事への面会ですか?」
受付の女性が。
困った顔をしている。
ひとみが答える。
「はい。アポは取ってないんですけど、昔のよしみでね。なんか力なれへんかな思いまして」
隣では。
ひとみが弁護士として名刺まで出した。
それでも。
結果は変わらない。
「申し訳ありません。現在、知事は取材対応等もありまして……」
「まあ忙しいやろうし、しゃあないですね。ありがとうございました」
ひとみは素直に引き下がった。
「ほな行こ。帰りに名産品でも食うて帰ろか」
「うん!」
ひとみも早い。
俺たちはまるで親子だ。
県庁を出る。
「まあ、初回やしこんなもんやろ」
「ですね。しばらくこんな感じでアプローチ続けましょうか」
「珍しくまともやな。もっと暴れろとか言われるとおもてたで」
失礼な。
人を非常識人間のように言いやがって。
『非常識人間じゃん……』
思わず声が出た、という声量で脳内に響いた。
外へ出る。
俺は一度だけ。
県庁の入口を見る。
今の所誰もいない。
(井口が俺たちの訪問を知れば、異変と察知し何かしら手を打ってくると思うが)
・
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とはいえ。
せっかく徳島まで来た。
まずは。
フィッシュカツ。
フィッシュカツとは、白身魚のすり身にカレー粉や香辛料を混ぜ、パン粉をまぶして油で揚げた、地元で大人気のソウルフードだ。(引用:https://www.awanavi.jp/archives/spot/1500)
地域にもよるが、あえてこれを焼いて食べるのが通だ。
それに一味マヨネーズをつけて食べる。
当時の俺は、それで米二合を平らげていた。
「うまい!うまい!うまい!」
「普通に楽しんどるやん」
「これは徳島じゃないと食べられないですからね」
そしてすかさず、「ザ・すだち」で流し込む。
ふるさと柑橘飲料 「ザ・すだち」は、徳島産すだち果汁を原料に、すだちの独特のさわやかな酸味とすがすがしい香りをうまく引き出した、甘さを抑えた爽やかな柑橘飲料だ。(引用:https://tokushima-shop.jp/?pid=38846043)
「懐かしい味だ」
そして、阿波おどり会館へ向かう。
どでかい緑の頭。
見覚えのあるマスコットキャラ。
「ひとみさん!すだちくんです!」(引用:https://sudachikun.jp/introduction.html)
俺が指を差す。
「な、なんやあれ。顔、緑すぎやろ……」
「活発にイベントなどに参加しているイメージでしたが、生で見たのは初めてです」
「えらいテンション高いのは、初めてやからか」
すだちくんは、大きな頭のバランスを取りながら、俺たちの方に近づいてくる。
俺は七歳児だ。
身長も低い。
見上げたすだちくんは、思いのほか怖かった。
すだちくんに付き添いしている女性スタッフが、笑顔で話しかけてきた。
「こんにちわ。すだちくん好き?」
確かに俺は今子供だ。
人生の一度目と二度目。
合わせれば、七十年近く生きている。
言わばジジイのスタートラインだ。
そんな俺に、すだちくんが好きか。
考えたこともなかった。
「はい......多分好きだと思います」
ひとみが爆笑する。
「なんやねん、さっきまではしゃいでたんやから好きなんやろ。写真撮ったるわ」
「え。いいですよ別に」
俺たちが押し問答していると、女性スタッフが目線を合わせてにこやかに割ってはいる。
「じゃあ。お姉さんも一緒に入るから。ね?」
(違う、違う。そうじゃ、そうじゃない……)
すだちくんとのツーショット撮影だから、照れているのではない。
ひとみは涙を流し笑っている。
(くっ。こんなことなら最初に撮ると言っておけばよかった)
とんだ辱めだ。
『いいじゃん撮ってもらえば。今世は少しでも多く楽しめばいいよ!前世はクソだったんだから。私が隣にいてあげたのに』
めぐみは、隙あらばチクチクと口撃してくる。
俺は、渋々ピースサインを構える。
ひとみは、スマートフォンを構える。
「はい、チーズ」
「ぷぷ。はい、チーズってそれもう死語でしょ」
「うるさい。笑えや」
撮影。
確認する。
引き攣った笑顔に、ぎこちないピースサイン。
すだちくんは、相変わらずの笑顔だ。
女性スタッフも手慣れた笑顔に見える。
お礼を言い、館内を回っているとテレビの音が聞こえた。
休憩スペース。
ニュース番組。
画面には、見覚えのない男。
若々しく、明るい。
政治家らしい堅苦しさも薄い。
画面下には。
内閣総理大臣。
上野浩平。
『国家防衛というのは、何かが起きてから考えていたのでは遅いんです』
笑顔。
だが。
話している内容は堅い。
『災害も外交も同じです。最悪を想定して、その一歩前で動く。それが政府の役割だと思っています』
司会者が。
感心したように頷く。
災害発生時の自衛隊派遣。
周辺国との外交。
経済政策。
どれも。
対応が早いらしい。
「人気あるんですか?」
ひとみに聞く。
「めちゃくちゃあるみたいやで」
「へぇ」
「若いのにも年寄りにも受けええ。愛想ええし、動くの早いしな」
「最近目覚めた割には、えらく詳しいですね」
「今スマホで調べた」
画面の上野は笑っている。
『難しい話を難しく説明するのは簡単なんですよ』
少し笑いが起きる。
『政治家の仕事は、それを国民の皆さんに伝わる言葉に直すことが重要やと思ってます』
関西弁の総理大臣か。
それらしいことを並べた、良くできた人間に見える。
少なくとも。
テレビ越しでは。
番組が終わる。
俺は立ち上がった。
ひとみが、小声でつぶやく。
「釣れたわ」
「ですね」
振り返らない。
店のガラス。
そこへ映っている。
黒い衣服に身を包み。
見覚えのある少し長めの髪。
「ずっとおるな」
「え。いつからですか?」
「お前が、すだちくんと仲良くしてる時や」
「……なるほど」
『私も気づいてたよ』
(なら教えてくれよ)
ガラス越しに。
男を見る。
黒づくめ。
チャラチャラしているという印象。
なのに。
目だけは。
笑っていない。
俺は知っている。
その男を。
どこか、懐かしくも感じる。
「あれが、井口おさむの右腕。真壁です」
「ほう。高身長のイケメンやんけ」
「あんなギラギラしたのが好みなんですか」
ひとみは鼻で笑いながらも、雰囲気を崩さない。
「ほな。車取りに地下駐車場いこかー」
なんだかわざとらしいが。
初日から、真壁と接触できるとは思わなかった。
このまま上手く話し合いができればいいのだが。
一抹の不安を抱えながら、ひとみに手を握られ歩き出した。




