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6.変な夢

第17話

 俺は、夢を見ていた。

 夢の中だという意識も、わずかにある。

 猫は、眠りが浅いのだ。


 薄暗く殺風景な場所。

 まるで地下のダンジョンのようだ。

 周囲を見回しても、石の壁以外は何も見えない。


 自分の体に目をやると、いつもとどこか違う。

 猫であるのは、変わりがないようだ。

 だが、体つきが、変にたくましい気がする。

 体毛が剛毛で、和毛のもふもふ感が消えている。

 体格も大きくなっている気がする。

 比較の対象がないので、どの程度の大きさなのかわからない。

 虎かライオンぐらいだろうか。

 あるいは、それ以上だ。


(なぜ俺は、こんな姿に?

 それに、ここはどこだ?)


 鏡がないのでわからないが、顔が恐ろしくなっている感じがする。

 まるで、化け猫のように。


(確かに、俺は、化け猫に違いない。

 死んだ人間が、猫の姿になったんだから。

 それが、とうとう本当の化け猫になっちまったのか。

 これじゃ、もうプルサティッラ家には住めないよな。

 これからどうしよう?)


 迷っていると、周囲に光るものが見えた。

 赤い小さな光の点が、だんだん増えてゆく。

 大量の鼠だった。

 目が光っているのだ。

 鼠らは、俺を三百六十度取り囲んでいる。

 皆、凶暴そうな形相ぎょうそうだ。

 小動物らしい可愛さは、微塵もない。


(仲間を殺された復讐か?

 俺は、猫の本能通りのことをしただけだぞ)


 しゃべれない俺には、弁明ができない。

 鼠たちは、じりじりと迫る。


 じりじり。

 じりじり。


 そして、奇声を発しながら一斉に襲いかかる。


「ギエーーッッ」


 とても鼠とは思えない声だ。

 耳をつんざくような音が、空間に響き渡る。

 鼠の集団が、雪崩のように押し寄せる。


 ざざざざざっ。


 俺は、鼠たちを前足で払いのける。

 巨大で強力な猫パンチだ。


 ばしっ。


 一発で、何匹もの鼠が吹っ飛ぶ。

 多くの鼠が、あっさりと絶命する。

 よほど俺の力が強いのだろう。

 何度も猫パンチを繰り返し、鼠の死骸が山のようになる。


 ざざざっ。


 ばしっ。


 ざざざっ。


 ばしっ。


(俺って、結構強いじゃないか。

 化け猫の力なのか?

 でも、相手が多すぎて、きりがないぜ)


 しばらくすると、鼠の様子が変わってきた。

 心なしか、鼠が大きくなってきた。

 いつの間にか、死骸の山が消えている。

 あとから来た鼠たちが、死骸を吸収しているようなのだ。

 やがて、明らかに巨大化してきた。


(何なんだ、こいつらは?

 俺が化け猫なら、向こうも化け鼠かよ)


 俺の半分ぐらいの大きさの鼠が群れをなす。

 むやみに攻撃してこない。

 三十匹ほどが、襲う機会をうかがっている。


「ギギギ」


「ギャギャギャ」


 鳴き声が、低くて不気味だ。

 一匹の大鼠が、しびれを切らしたように飛びかかる。

 口を大きく開け、大きな前歯で噛みつこうとする。


 ズバアッ。


 俺は、咄嗟に前足の爪を立てて振り下ろした。

 鼠の体に、四本の平行な傷ができる。

 傷ついた鼠は、そのまま地面に転がり動かなくなる。


(あんな大きな歯で噛まれたら大変だった。

 だけど、俺の爪も凄いな)


 俺は、自分の持つ武器に少し興奮を覚える。

 興奮を味わっている暇はない。

 怒り狂った鼠たちが、立て続けに襲ってくる。

 俺は、四つの足の爪を駆使して、鼠を切り伏せる。

 深手を負っても、攻撃をやめない鼠もいる。

 その鼠には、牙を首に突き立て、とどめを刺す。


 相手も強い。

 一匹の鼠が、振り回す爪をかいくぐる。

 俺の腕に噛みついた。


 ガブッ。


 前歯が、かなり深く突き刺さった。

 不思議と、痛みは少なかった。

 興奮状態のせいかもしれない。

 俺は、その鼠を引き離し、爪を立てた足で踏み潰す。


 ぐしゃ。


 間を置かず、次の鼠の攻撃だ。

 今度は、背中を噛まれた。

 地面に転がりながら振りほどく。


(向こうが強くなってきてるのか?

 俺の方が疲れてきたのか?)


 次第に、俺が、劣勢になってくる。

 退きながら戦う。

 だが、逃げる場所などない。

 敵には、援軍が加わったらしい。

 数が減っていない。

 逆に、俺の傷は、増える一方だ。

 俺の命が危ない。


「うふふ」


 どこからともなく、奇妙な声が聞こえてくる。


「くすくす」


 女の笑い声だ。

 幻聴まで聞こえるようになったのか。


「きゃははは」


(何なんだ、この笑いは?)


 俺は、混乱しながらも、鼠の群れと戦い続ける。


「動物でも寝ぼけるのね。

 寝ながらこんなに手足を動かしたりして」


(あれ、この声は……)


「どのような夢を見ているのかしら。

 悪い夢でなければよいのですが」


(これは、ニーナの声だ)


「この動き、何かと戦ってるよ、絶対。

 あっ、耳が、ピクッてなった」


(今度は、サンディー。

 そういえば、俺は、夢を見ているんだった)


 目を開けると、そこに三姉妹の笑顔があった。

 しゃがんで俺を見つめている。

 俺は、絨毯じゅうたんの上に丸まって寝ていた。


「あら、目を覚ましてしまったわ」


「わたくしたち、うるさかったかしら」


 俺にとっては、起こしてくれて、むしろありがたいぐらいだった。

 あのまま夢の中で死闘を繰り広げていたら、どうなっただろうか。

 考えると、ぞっとする。


「ねえねえ、どんな夢だったの?」


 サンディーが、俺に尋ねる。


「聞いたって答えられないわよ」


 カトリーナとニーナが笑う。


「ぶう……」




 それにしても、どうして俺は、自分が怪物のようになる夢など見てしまったのか。

 自分の無力さをもどかしく思っていたからだろうか。

 それとも……。

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