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23.地底を抜けて

第79~81話

 俺の体内にヴィヴィペラがいるとは、なんとも変な気持ちだ。

 ワイバーンに似た怪物が小さな俺の中にいる感覚が、確かにある。


「お久しぶりです、ネコさん」


 背中に羽のある小さな人型の生物が現れた。

 妖精のシルヴァだ。

 俺の目の前を蝶のように飛ぶ。


「以前に比べて、力強くなった感じがします」


「自分では、特に変わったような気はしてないにゃ」


「私には、あなたの力がみなぎっているのを感じ取ることができます」


「そ、そうかにゃ」


「私からも、あなたに力を与えようと思います」


 シルヴァは、体から金色の光を発する。

 その光が、波となって俺の中に流れ込んでくる。

 ヴィヴィペラの時と違い、穏やかな感覚だ。

 俺は、ぼうっとした気分になる。


「これは、森の力です」


「森の力って何にゃ?」


「えーと、その力が発揮される状況によって異なります。

 その状況になれば、自ずとわかるでしょう」


「そんなこと言われてもにゃ。

 少しは説明して欲しいにゃ」


「はい、そんな暇はないの」


 サーナが、俺の話をさえぎる。


「このまま地底に突っ込むのよ」


 サーナは、俺を持ち上げ、宙に放り投げる。


 ぽいっ。


「にゃ!」


 ここは、地上数十メートルの空中だ。

 俺は、本能的に四本の足を大きく広げる。

 鼯鼠むささびのような恰好になって落下する。

 だが、鼯鼠と違い飛膜なんてない。

 重力に引っ張られるままに地面に一直線だ。


 もう駄目だと思ったその瞬間だった。

 不思議な感覚が俺を包んだ。

 周囲が真っ暗な中、高速で飛行している感覚だ。


 暗闇の中に赤い光が見え始める。

 赤い光は、次第に大きくなる。

 まるで熔岩に取り囲まれているかのようだ。


 やがて、俺は、熔岩でできた洞窟のような空間に出た。

 広いのか狭いのか、よくわからない。

 空間内は、熔岩ようがんの赤い光に照らされていて、まぶしいほどだ。

 俺の体は、宙に浮いている。

 熔岩の熱は、なぜかあまり感じない。




「どうやら、地底の空洞に到達したようじゃな」


 エスメラルダの声が、俺の脳内に届く。


「さっきのは、一体何だったにゃ?

 俺は、何でこんなところに来たにゃ?」


 俺は、テレパシーで応答する。

 携帯電話で話しているみたいだ。


「竜脈を通ったのじゃ」


「竜脈にゃ?

 どこかで聞いたことあるような気がするにゃ」


「大地のエネルギーの通り道じゃ。

 ヴィヴィペラの力で、おぬしも通れるようになったのじゃ」


「そうなのか……にゃ」


 俺は、体をひねりながら、宙に浮いた自分の体を見回す。

 外見の変化は、特にないようだ。


「油断するでないぞ。

 そこに敵が現れるのじゃ」


「こんなところに……にゃ」




 ごごごごごごごご。


 突然、空洞全体に重低音が鳴り響く。

 音の振動が、俺の体を貫く。


「何か凄いのが近づいている感じにゃ。

 どうすればいいにゃ」


 エスメラルダからの答えがない。

 何らかの力が、通信を阻害しているようだ。

 これからは、俺一人で対処しないとならないらしい。


 ごごごごごごごご。


 振動が、さらに激しくなる。

 俺の髭が、強い魔力の接近を感じる。

 強敵が、すぐそこまで迫っているのだ。


 ごぼこぼごぼ。


 俺の近くにある熔岩の壁の一部が、徐々に膨らみだした。

 膨らみは、今にも破裂しそうなほど大きくなる。


 ごぼんっ。


 爆発し、熔岩が噴き出す。

 まるで火山の噴火だ。

 飛び散った熔岩の一部が、俺の横をかすめる。

 爆発したところに大きな穴ができる。

 その穴の奥から何かが出てくる。


「ぢゅぢゅ」


 巨大な赤い鼠だ。

 比較の対象がないので大きさがわかりにくいが、十メートルはある。

 メガマウスと同様に二足歩行だ。

 体型もずんぐりとしていて、メガマウスに似ている。

 メガマウスよりも凶悪そうな形相だ。

 これこそ、火光獣と呼ばれる火鼠の親玉に違いない。

 よく見ると、巨大鼠の足下に大量の小さな鼠が群れをなしている。

 子分の火鼠たちだ。


「凄いのが出てきたにゃ……」


 俺は、こんなのと戦わなければならないようだ。

 一体どうやって戦えばよいのか。

 迷っていると、俺の腹の底から何かが聞こえてきた。


「ぐぎゃ」


 ヴィヴィペラの鳴き声だ。

 何かを伝えようとしているようだ。

 俺は、冷静に心を澄ます。

 自分と融合したヴィヴィペラの気持ちを感じ取るのだ。

 そうしなければ、ヴィヴィペラと力を合わせることもできない。


「ぢゅぢゅ」


 火光獣が、早くも臨戦態勢に入る。

 口を大きく開けて威嚇いかくする。

 大きな前歯が目立つが、他の歯も皆鋭い。


「ヴィヴィペラ、答えてくれにゃ」


「ぐぎゃ」


 ヴィヴィペラと一体化しているはずなのに、意思の疎通そつうができない。

 これでは、戦うのは無理だ。


「ぢゅぢゅ」


 火光獣の口の中が光る。


 ぼわわわわわああっ。


 大きな火の玉が口から飛び出す。

 たちまち俺の体が火の玉に包まれる。


 俺は、もう駄目だと思った。

 だが、平気だった。

 少ししか火の熱さを感じないのだ。

 俺の体毛は、全く燃えていない。


 火の玉は、俺を通り過ぎていった。

 不思議に思っていると、脳内に声を感じた。


「ヴィヴィペラ、火に強い。

 だから、火、熱くない」


 ヴィヴィペラの言葉だ。


「お前、言葉が話せたのにゃ?」


「うん」


 驚くべきことに、あの怪獣と会話ができてしまった。

 俺は、ヴィヴィペラとの融合を実感する。

 しかし、どうやって敵と戦えばよいのかは、まだわからない。

 ヴィヴィペラと融合した俺にどんな力があるのだろうか。



ᓚᘏᗢ



「口、開ける」


 ヴィヴィペラの声だ。

 俺に口を開けるように言っている。

 要求に従い、口を開ける。


 あー。


 少し口を開けただけのつもりだった。

 だが、俺の意思とは違って、あくびの時のように最大限まで口が開く。


 ちなみに、猫のあくびは、意外なほど大きく口が開く。

 俺が猫になって初めてあくびをした時は、口の開き方に驚いたものだ。

 顔全体が口になったのかと思うほどだった。


 もちろん、今は、あくびが出るような気分ではない。

 不思議に思っていると、喉の奥に何かを感じる。


 ぼわわわっ。


 俺の口から炎が吹き出した。

 火光獣が吐いたのと同じような火の玉が、火光獣に向かって飛ぶ。

 小さな俺の体から出たとは信じられないような巨大な火の玉だ。

 いくら俺のあくびが大きいとはいえ、冗談のような巨大さだ。


 ぼわんっ。


 爆風で、火光獣が怯む。

 火光獣の足下に大量にいた火鼠の多くが、どこかに吹き飛ばされた。

 ヴィヴィペラの力が、火光獣たちより強かったのだ。


「凄いにゃ……」


 火光獣は、すぐに戦闘的な体勢に戻る。

 傷を負っている様子はない。

 火の怪物が火の攻撃を受けたのだ。

 大したダメージがないのも当然だろう。


「おいおい、どうするにゃ。

 全然効いてないみたいにゃ」


 俺は、独り言のようにヴィヴィペラに話しかける。


「翼で風、起こす」


「俺には、翼なんてないにゃ」


 翼を羽ばたかせたいヴィヴィペラの意思が、俺の脳に伝わってくる。

 俺は、とりあえず両前脚を軽く翼のように動かしてみる。


 ぶわっ。


 前脚から強風が発生する。

 猫の姿のままでヴィヴィペラの能力が使えるのだとわかった。

 火光獣に体を向け、さらに強く前脚を羽ばたかせる。

 強風が発生する。

 洞窟内が、竜巻の中のようになる。


「ぢゅぢゅーっ」


 火光獣が、吹き飛ばされる。

 まるで木の葉のようだ。

 洞窟のあちこちに体を打ち付けられる。


「ぢゅ」


 風がやむと、火光獣は、地面にたたき落とされる。

 うつ伏せに倒れていて、呼吸が荒い。

 体中に傷ができている。

 小さな火鼠たちは、もう全ていなくなった。


 俺は、圧倒的な自分の力が恐ろしくなる。

 ただの猫に過ぎない俺に、こんな力を持つことが許されるのだろうか。


「ぢゅぢゅ」


 火光獣が、よろよろと立ち上がる。

 血まみれの顔が、熔岩の光のせいで一層赤い。

 まさに地獄の魔物の形相だ。

 眼光鋭く俺を睨む。

 まだ俺を倒すつもりでいるのだろうか。


 俺は、火光獣の出方をうかがう。

 すぐにでも強風を起こせるように、前脚を動かせる体勢を取る。


「ぢゅ……」


 火光獣は、くるりと向きを変えた。

 出てきた穴の方へ早足で歩き出す。


 どたどた。

 どたどた。


「あいつ、逃げるにゃ……」


 火光獣は、穴の中に姿を消す。

 俺は、追いかけようかと思ったが、やめた。

 穴の奥がどうなっているかわからない。

 深追いは禁物だとは、よく言われる。

 敵を撃退しただけでも、俺の勝ちなのだ。


 苦戦することもなく火光獣に勝ってしまった。

 恐ろしいほどあっけない。

 少々拍子抜けした気分だ。




「おい、聞こえるか?」


 エスメラルダの声が、俺の頭に届く。

 テレパシーを妨害していた魔力が弱まったようだ。

 俺は、今までのことをエスメラルダに伝えた。


「なかなかの活躍であったの。

 融合がうまく行かなかったらと心配であったのじゃが、よかった」


 あっけらかんと恐ろしいことを言ってのける。


「確証もなくやったのか……にゃ」


 魔女の非常識さは、今に始まったことではないが、やはり呆れる。

 ヴィヴィペラとの融合が失敗したら、どうなっていたのだろう。


「油断は禁物じゃ。

 うまく行き過ぎなのが不安じゃ。

 鼠の化け物の親玉が、そんなに簡単に逃げ出すとは考えにくい」


「また襲ってくるにゃ?」


「そりゃそうよ」


 今度は、サーナの声だ。


「高等な怪物ってのは、執念深いし、意外と頭もよかったりするのよ」


「じゃあ、あいつは、今頃作戦を練ってるってことにゃ」


 火光獣が思いつきそうな作戦など、俺には想像できない。

 俺は、相手が行動を起こすのを待つしかないのだろうか。

 そう考えていた時だった。

 宙に浮いた俺の体が、ふわふわと動き出す。

 吸い込まれるように、火光獣が逃げた穴に向かっている。

 どうやら、ヴィヴィペラの意思のようだ。


「おい、ヴィヴィペラ。

 何のつもりにゃ?」


「行く」


 ヴィヴィペラが、俺の中でつぶやく。

 戦うつもりらしい。


「ヴィヴィペラは、鼠の化け物と決着をつけたいらしいわ」


 サーナは、ヴィヴィペラの気持ちも感じ取っているようだ。


「こうなったら、さっさと怪物をやっつけるべきじゃ。

 ヴィヴィペラの気が変わらぬうちにな」


 エスメラルダは、追撃を主張する。


「でも、この先がどうなってるかわからないにゃ。

 深追いするとよくないってのは、戦う時のお約束みたいなものにゃ」


「相手に体勢を立て直す時間を与えるのもまずい。

 攻められる時に攻めた方がよいこともあるのじゃ」


「そういうものかにゃ……」


 結局、火光獣との戦闘を続けることになってしまった。

 火光獣が開けた穴は、熔鉱炉の中のようだ。

 先がどうなっているのか、まぶしくて判然としない。

 洞窟のようになっていることだけは、かろうじてわかる。

 俺は、ヴィヴィペラの感情に従って進む。

 穴は、巨大な火光獣が通ったので広いが、曲がりくねっている。

 熔岩が熔けて、まっすぐだった道がゆがんだらしい。


「だんだん私たちの声が届かなくなるわ」


「遠くなると、魔力での意思疎通がしづらくなるのじゃ。

 私たちも、どうにかして協力するが、しばらく一人で頑張ってくれ。

 いや、ヴィヴィペラと二人で一人じゃな」


 魔女たちの声が、小さく感じられるようになる。

 もうすぐ完全に聞こえなくなりそうだ。


「仕方ないにゃ。

 なんとか頑張るにゃ。

 頑張るってのが具体的にどうすることなのかは、わからないけどにゃ」


 俺は、不安を抱えながらも、とりあえず前進する。

 そもそもヴィヴィペラの力を借りないと、地上に帰ることもできない。

 ヴィヴィペラが戦うつもりなら、俺も戦うしかないのだ。


 やがて、俺の髭が、魔力が強まるのを感じ取る。

 近くで火光獣が待ち構えているに違いない。



ᓚᘏᗢ



 火光獣の通った穴が、上向きになる。

 地上に出たのだろうか。

 俺は、穴に従って上昇する。

 しかし、行き止まりに突き当たってしまう。

 岩盤が崩れ、穴を塞いでいるのだ。


「おい、どうするにゃ?

 進めないにゃ」


 ヴィヴィペラに話しかける。

 すると、俺の上昇する速度が速まる。

 そのまま岩の中に入り込んでしまった。

 先ほど俺が地底に飛び込んだ時と同じだ。

 物体をすり抜けられる便利な能力だ。


 俺の体は、すぐに地上に飛び出した。

 荒涼とした岩だらけの斜面だ。

 どこかの山の中腹らしい。

 火光獣の姿は見当たらないが、魔力は感じる。

 地上のどこかに潜んでいるはずだ。

 俺は、あたりの様子をうかがう。


「あっち」


 ヴィヴィペラの声だ。


「あっちって、どっちにゃ?」


 ヴィヴィペラの答えを待っていると、自然と俺の目が山の麓に向く。

 火光獣が山麓に逃げたことが、ヴィヴィペラには感知できるらしい。

 俺は、スキーのジャンプのように滑空しながら、山を下る。


 前方に、人家の集まる村が見えてきた。

 火光獣がその村を襲いでもしたら大変だ。


「ヴィヴィペラ、急げにゃ」


 飛行速度を上げる。

 すぐに村の上空に到達する。

 火光獣を探す。

 存在する気配はあるが、見当たらない。

 どこかに隠れているのだろうか。

 火光獣は、十メートルはあろうかという巨体だ。

 身を隠せるとも思えないのだが。


「ヴィヴィペラ、あいつがどこにいるか、わかるにゃ?」


「降りて探す」


 俺の体が、ヴィヴィペラの意思で、ゆっくりと降下していく。

 村の中心を通る道らしき場所に着地する。




 村には、人のいる様子がない。

 廃村なのだろうか。

 日差しは明るいのに、さみしげで薄気味悪い。

 木でできた粗末な家が、まばらに何軒か建っている。

 どれも、今にも崩れそうだ。

 藁葺きの屋根から雑草が生えていて、風に揺れている。


「あまりにも怪しい所にゃ。

 罠かもしれないにゃ」


 俺は、神経を尖らせながら、村の中を歩く。

 火光獣の放つ魔力は、依然として感じられる。

 しかし、魔力の発生源が特定できない。


(あいつには、透明になる能力でもあるのか。

 いや、そんな能力があれば、最初から使ってるはずだし)


 俺は、どうして火光獣が見えないのか、いろいろな場合を考える。

 だが、常識外れの敵のことなど、想像もつかない。

 火光獣の方から出てくるの待つのが関の山だ。


 がたん。


 村のどこかから音が聞こえた。

 古くなった木の扉が開く音のようだ。

 俺は、音のした方を目指して歩く。

 他の家よりやや大きい建物があった。

 西洋風とも東洋風とも取れる奇妙な建築だ。

 その建物の前に人がいる。

 無人の村ではなかったらしい。


「あらまあ、可愛いお客さんだことねえ」


 若い女だった。

 燃えるような赤毛が目を引く。

 黒いゴシック風のドレスを身にまとっている。

 右手の指輪には、ルビーとおぼしき宝石が光る。

 古びた寒村には似合わない美人だ。

 本当にこの村の住人なのだろうか。

 かなり怪しい。


(まさか、あの火光獣が、この女に変身したんじゃないだろうな)


 俺は、警戒を緩めず、赤毛の女を凝視ぎょうしする。


「ふふふ」


 女は、微笑ほほえみながら俺に近寄る。


「これが、鼠を減らすためにこの世に送り込まれた生物なのねえ。

 もっと獰猛どうもうそうな顔を想像していたのにねえ」


 俺のことを知っているのだ。

 普通の人間ではない。

 エスメラルダたちと同類の魔女なのだろうか。

 やや雰囲気が違うような気がする。


「あたしにとっては、鼠の方が可愛いのよねえ。

 あたしがこの世を支配するのには、鼠が必要なのよねえ」


 いかにも邪悪そうな笑顔で、俺を見下ろす。

 やはり俺の敵だったようだ。

 何者なのだろう。

 敵を知らなければ、戦いようがない。

 俺は、テレパシーでの対話を試みる。


「お前は、一体何者にゃ?

 何をする気なのにゃ?」


「あんた、テレパシーを使うのねえ。

 あたしは、夜叉女やしゃにょのナティーねえ」


 夜叉女というと、言葉からして東洋的だ。

 俺の前世の世界では、インドあたりの伝説的な魔物だったはずだ。

 それにしては、服装が西洋風なのと釣り合っていない。

 このナティーが何者なのか、余計わからなくなった。


「あたしは、鼠を使ってこの世界を手中に収めようと思っているのよねえ」


「世界征服って言いたいのかにゃ。

 わかりやすい悪役にゃ」


「ふふふ、そうなのよねえ。

 あたしって、悪役なのよねえ」


 ナティーは、妖しく微笑む。


「自分で悪役とか言うのにゃ……」


 この夜叉女は、俺が今まで出会った敵とは異質の存在だ。

 世界を手中に収めるなどと大それた宣言している。

 きっと恐ろしく強力な魔法で攻撃してくるのだろう。

 本来は鼠退治が仕事の俺に対応できる相手とは思えない。

 今更逃げるのも無理だ。

 俺の中にいるヴィヴィペラの力を借りて戦うしかないらしい。


「で、どうするにゃ?

 俺を倒すにゃ?」


「あんたって、見かけより強いわよねえ。

 わかるのよねえ。

 あたしは、そんなに強くないから、戦いたくないのよねえ」


 意外な答えだ。

 今にも攻撃してくるかと思っていた。

 強い魔力と敵意を持っているのは確かだ。

 何を仕掛けてくるつもりなのだろうか。


 ナティーは、俺のそばに来てしゃがむ。

 ルビーの指輪をはめた右手を伸ばし、俺の頭を撫でる。


 なでなで。

 なでなで。


 あまり優しさの感じられない撫で方だ。

 俺は、あえて頭を引っ込めずに撫でさせる。

 逃げれば、相手を攻撃的にさせるかもしれないからだ。


「この世界には、世界の不完全さから生じた負の力に満ちているのよねえ。

 それは、あたしにとって、美味しいご馳走みたいなものなのよねえ。

 あんたは、世界の歪みを治す。

 あたしは、世界の歪みを利用する。

 折り合いがつかないのよねえ」


「お前の言ってることが、どうにもよくわからないにゃ。

 今のままの方が、お前には得だってことにゃ?」


「ま、そういうことねえ。

 だから、あたしは、あんたを排除しないとならないのよねえ。

 たとえ、女神が送り込んだ鼠用プレデターだとしてもねえ」


 俺は、数歩、後ずさりする。

 ナティーは、立ち上がって、背後の建物に目をやる。


「あたしは、戦わないのよねえ。

 この世の悪意や敵意を利用するのよねえ。

 あんたが来るのに備えて用意しておいたのよねえ」


 建物内から二つの人影が現れる。

 二人とも若い女だ。

 服装も上品で、貴族の令嬢らしく見える。

 魔物らしくはない。

 夜叉女のナティーと雰囲気が違う。

 何者なのだろうか。

 どこかで見たことがあるような気もするのだが。

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