表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/30

17.欲しがられる俺

第52~54話

「アウラータさんが来るのですか?」


 カトリーナの顔に困惑の色が浮かぶ。


「昨日のパーティーで見たネコのことをいたく気に入ったそうなの。

 それで、また見たくなったのだとか」


 母は、カトリーナの態度をうかがいながら話す。


「そんなこと、唐突に言われても……」


 カトリーナは、うつむきながら考え込む。


「仕方がないのよ。

 外国のお姫様のたっての願いなので、断れないのよ」


 通常、身分の高い人同士が面会する場合は、数日前から約束を交わす。

 アウラータは、特別な立場なので、通常とは違うのだ。

 後に使用人が話しているのを漏れ聞いたところでは、王家からも、プルサティッラ家に対して、アウラータのことをよろしくとの要請があったらしい。


「わかりました。

 アウラータさんとは、昨日せっかく知り合えたことですし、もっと交友を深めようと思います。

 町を見物するのは、またの機会にします」


 カトリーナは、笑顔になる。

 ようやく目の前にある食事を食べ始めた。




 朝食後しばらくして、屋敷の正門が開かれる。

 アウラータ姫の乗る馬車の到着だ。

 馬車から降りたアウラータは、民族衣装を身にまとっていた。

 パーティーの時ほどではないが、華美な色彩が目を引く。

 数人の男たちが、アウラータの護衛として付き従う。

 男たちは、皆ターバンを頭に巻いている。


「ようこそおいでくださいました」


 プルサティッラ家の母と娘は、玄関でアウラータを出迎える。

 俺は、カトリーナに抱かれている。


「おお、ネコよ。

 今日も可愛いのう」


 型通りの挨拶もそこそこに、アウラータは、俺に顔を寄せてくる。

 カトリーナに抱かれた俺を撫で回し、頬摺りする。


 なでなで。

 すりすり。

 なでなで。

 すりすり。


「なんと繊細で優雅な肌触りであるぞよ」


 なでなで。

 すりすり。

 なでなで。

 すりすり。


 いつまでたっても終わりそうにない。

 さすがに辟易する。

 相当なまでに可愛い動物が好きなのは伝わってくるけれど。


「あの、ここでは何ですから、奥へ参りませんか」


 カトリーナは、アウラータを屋敷の中へ誘う。


「おお、これはすまなかったの。

 つい興奮してしまったぞよ」




 プルサティッラ母娘は、アウラータを中庭へと案内した。

 中庭は、池のある立派な庭園になっている。

 すでに使用人たちが、アウラータを迎えるために掃除を済ませていた。


「美しいお庭であるぞよ」


「どういたしまして」


 三人は、池のそばに建つ東屋に入る。

 簡素な丸テーブルを囲む四つの椅子があるので、腰を下ろす。

 プルサティッラ家の使用人とアウラータの護衛は、離れた場所にいる。


「この髭、この目、この耳、全てがバランスよく配置されておるの。

 まさに生きた芸術であるぞよ」


 俺を受け取ったアウラータは、俺の体を念入りに観察する。

 さらに俺の口に指を突っ込んでくる。


「口の中を見せてたもれ」


 ずいぶん強引な性格だ。

 サンディーを思い起こさせる。


「小さい歯が並んでおって可愛いのう。

 よく見ると、歯の並びもライオンに似ておるぞよ」


(同じネコ科だからな)


「噛まれたら痛いのではないのかの?」


(口に指を入れてから噛まれることを心配してどうするんだか)


「痛くはございませんよ。

 わたしの下の妹なんて、よく噛まれていますが、痛がっていませんから」


(甘噛みしてるからなんだよなあ)


 サンディーの無茶が過ぎる場合、軽く噛みついて脅しているのだ。

 本気で噛むわけにはいかないので、全然教育的効果はない。

 逆にサンディーを喜ばせてしまうこともある。


 はむっ。


 俺は、アウラータの指にも甘噛みしてやった。

 どうせ、指を引っ込めたりはしないだろうが。


「おお、噛みつきかたまで可愛いぞよ。

 これが、そなたの愛情表現かの」


 案の定、余計に喜ばせてしまった。


「指を拭いた方がよろしいかと」


 カトリーナが、アウラータにハンカチをさしだす。


「これはすまぬの」


 アウラータの指は、俺の唾液で濡れていた。


 ふきふき。

 ふきふき。


 ハンカチで手を拭くので、ようやく俺は解放された。

 テーブルの上に避難する。




「ライオンでは、このように可愛がることができぬからのう。

 檻の外から眺めるだけで、さわれぬのぞよ」


「ラ、ライオンを飼っていらっしゃるのですか」


 カトリーナは、目を丸くする。


「我が国の宮殿の中に、わらわのために作られた動物園と呼ぶ施設があるのであるぞよ。

 ライオンの他には、ハイエナにリカオンにラーテルに犀に象に鰐に……いろいろいるぞよ」


「す、凄いのですね」


「しかし、どの動物も妾に懐いてくれぬのぞよ。

 どれも皆、獰猛での。

 もっと動物と戯れたいのにのう」


「はあ、そうなのですか」


 母娘は、互いの顔を見合わせる。


「よほど動物がお好きでいらっしゃるのね」


 今度は、母が話しかける。


「大好きぞよ。

 しかし、この国の妾の屋敷に動物園を作るわけにはいかぬのでの、毎日の生活が少々物足りぬのであるぞよ」


「はは……」


 母娘は、微苦笑する。


「それでの、犬でも飼おうかと考えたのであるが、妾が飼いたいと思う犬がなかなか見つからなくての。

 もっと小さくて、簡単に可愛がれるのが欲しくての」


 ちなみに、この世界には、愛玩用の小型犬が存在しない。

 狩猟用や牧羊犬など、大きいのばかりだ。

 小型犬だけでなく、猫ぐらいの大きさの愛玩動物が普及していない。

 兎は、狩猟の対象としか思われていない。

 いたちは、飼育が困難だ。

 猫の代わりとなる生き物がいないのだ。


「そこで、カトリーナ殿と辺境伯夫人殿にお願いがあるのであるぞよ。

 ネコを妾に譲ってはくれぬかの?」


「え?」


 母娘は、声を詰まらせる。


「もちろん、ただでとは言わぬ。

 対価は十分じゅうぶんに払うぞよ」


 アウラータは、あっけらかんとした笑顔を崩さない。

 大それた要求だとは、全く思っていないようだ。


「のう、どうであるかの?」


「……」


 カトリーナは、黙ってしまった。

 表情をこわばらせている。

 どう答えるつもりなのであろうか。



ᓚᘏᗢ



「決めかねておるのかの?

 それでは、これでどうかの?」


 アウラータは、庭の隅で待機している護衛に、何やら合図をする。

 護衛のうちの二人が、屋敷の外に向かう。

 すぐに、二人かがりで、煉瓦ほどの大きさの物体を運んできた。

 その物体は、紫の布に包まれている。

 二人の様子からして、かなり重そうだ。


「ご苦労であるぞよ。

 そこに置け」


「はい、姫様」


 どすん。


 テーブルがきしむ。

 布を開く。

 なんと、金の延べ棒だった。


「まあ……」


 カトリーナと母は、驚きの声を漏らす。


「この金塊とネコを交換してたもれ」


 アウラータの祖国、セルヴァル王国。

 聞くところによると、地下資源が豊富らしい。

 金銀や宝石が大量に産出する。

 世界の経済に影響するほどなのだそうだ。

 当然、その王家は、途轍もなく裕福なのだ。




 カトリーナは、金塊を目の前にして、あっけにとられていた。

 ややあって、ようやく意を決したようだ。

 口元に力が入る。


「そ、それは、できません!

 ネコを人に渡すなんて、できません!」


 決然と言い放つ。


(そう言ってくれると思ってたよ)


「延べ棒一つでは不足かの?

 それなら、もう一つ持ってこさせるぞよ」


 アウラータには、カトリーナの強い語調が理解できていないらしい。

 相手を侮辱するような台詞だが、悪気は感じられない。


「だから、できないのです!」


 カトリーナは、さらに語気を荒げる。

 これほど怒ったカトリーナの姿を見たのは、初めてだ。


「え?」


 今度は、アウラータのほうが、驚いて目を丸くする。


「この子は、誰にも売り渡したりはしません!」


 カトリーナは、俺を抱き寄せる。


「なぜぞよ?」


「なぜも何もありません!」


「まあまあ、落ち着いて、カトリーナ」


 母が、カトリーナをなだめる。


「この通りで、私たちは、ネコを売る気はありませんの、アウラータさん」


 アウラータは、きょとんとした顔をしている。

 数秒後、表情が変化してきた。


「う、うぐ……」


 金色の瞳が、涙でにじむ。

 下唇が上がってくる。


「うわーーーーーーーーん!」


 爆発的な号泣を始めた。

 まるで大きな赤ん坊のようだ。


「欲しいぞよ、欲しいぞよ、欲しいぞよーーー!」


 ターバンを巻いた護衛の一人がアウラータに駆け寄る。

 何かをアウラータの耳にささやく。

 泣きわめくのをやめさせようとしているのだろう。

 しかし、効果はない。


「欲しいぞよ、欲しいぞよ、ぞよ、ぞよ、ぞよーーーー!」


 アウラータは、余計に大きく泣きわめく。

 護衛の男は、立ちすくんでしまう。

 どうしたらよいのか、わからないらしい。

 常にアウラータの身辺にいる護衛ですら、この調子だ。

 女の従者ならよかったのかもしれないが、屋敷の外で待機しているのだ。


(ここまで我がままな娘だとは思わなかった。

 俺は、とんでもないのに好かれてしまったぞ)




 カトリーナと母は、呆然ぼうぜんとしていた。

 ややあって、アウラータに話しかける。


「きつい言いかたをしてごめんなさい」


「そんなにお泣きにならないで」


「うわーーーーーーーーんぞよ!」


 一向に泣き止まない。

 すると、そこへ誰かが、すっと現れた。

 本当に、いつの間にかアウラータの横に、すっと立っていたのだ。

 まるで幽霊のようにである。


「アウラータ殿、そんなに泣いては恥ずかしゅうございますわ」


 ニッキ・ユキだ。

 前日のパーティーで会ったニッキ・ユキだった。

 アウラータの肩を片手で軽く撫でている。


「へ……?」


 アウラータの泣き声が、少し静まる。

 ユキの登場には、さすがに驚いたようだ。

 カトリーナも、もちろんびっくりしている。


「ユキさんではありませんか。

 どうしてここへ?」


「正門の守衛の方が通してくださったのでございます」


 ユキは、理由になっていない返答をする。


「そうですか」


 カトリーナは、あっさり納得してしまう。

 今は、アウラータのことで手一杯だ。

 ユキのことまで深く考えていられなかったのだろう。


「辺境伯夫人殿、お初にお目にかかり嬉しゅうございます」


 カトリーナの母に対して深々とお辞儀をする。

 ユキの服装は、淡い水色の着物だ。

 アウラータの派手な衣装との対称性が際立つ。


「こちらこそ、初めまして」


 母は、笑顔で応じる。


「ミョウゴ島の大臣、ニッキ・ナオノリの娘、ユキと申します。

 昨日の宴にては、カトリーナ殿と交驩こうかんの機会を得て、楽しいひとときを過ごすことができましたわ」


「ミョウゴ島というと、工芸品などで有名な」


「はい、さようでございます。

 私がこの国へ留学に参りましたのも、絵や陶磁器の商いを勉強するためでございます」


(そういえば、以前、風呂上がりに、カトリーナたちに団扇で扇いでもらったことがあったけど、あの団扇に浮世絵が描かれていたっけ。

 あの後、すぐに寝ちゃったんだよな。

 それで、今まですっかり忘れてた)


 浮世絵の団扇は、ミョウゴ島の輸出品に違いない。

 おそらく、ユキは、その貿易に関わりがある人なのだろう。


「アウラータ殿は、もう落ち着いたようでございますわ」


 ユキが、アウラータに目を向ける。

 アウラータは、ユキから目をそらす。

 照れくさそうな様子だ。

 さすがに、大泣きしたことが恥ずかしいらしい。

 少しは常識的な感性も持ち合わせているようだ。


「ユキさんとアウラータさんは、元々仲がよろしかったのですね」


 カトリーナが質問する。


「近くに暮らしていますもので。

 留学生という立場も同じということもございまして、気が合うのでございましょうか」


 ユキは、微笑ほほえみを浮かべる。


(ユキとアウラータって、全然性格が違うような気がするんだけどなあ)


「ところで、そのネコ様のことについてなのでございますが」


 ユキが、俺のことで話したいことがあるらしい。

 一体、何なのだろう。

 昨日の様子だと、俺を好いていなかったようなのだが。



ᓚᘏᗢ



「ネコ様を明日まで私とアウラータさんに貸していただきたいということなのでございます」


 ユキが、意外な要望を申し出た。

 プルサティッラ母娘は、またしても目を丸くする。

 アウラータのみならず、ユキまでが俺を要求してきたのだ。

 困惑するのも無理はない。


「あなた様方は、明日ご自宅へ帰られると伺っております。

 それまでには、私が必ず責任を持ってお返しいたしますので、アウラータさんのためにネコ様を貸していただきたいのでございます」


 ユキは、母娘に対して丁寧に頭を下げる。

 母娘は、二人とも困り顔だ。

 答えあぐねている。


「アウラータさんは、もうすぐ祖国へ帰らないとならないのでございます。

 アウラータさんのこの国での思い出のためと思し召して、一晩ネコ様と過ごさせて差し上げていただけると、私としても嬉しゅうございます」


 アウラータは、黙ってハンカチで涙を拭いている。

 ユキは、テーブルのそばにある四つ目の椅子に座る。

 そして、話を続ける。


「辺境伯夫人殿、こちらに座ってもよろしゅうございますか」


「え、ええ、どうぞ」


「もちろん、大事な家族に等しい愛玩動物を一日でも手放すのは、心苦しいこととは存じております。

 何かあったら大変とのお気持ちも、十分理解できます。

 しかし、アウラータさんは、もう二度とネコ様に会えないかもしれません。

 そこを察してくださるとありがたく存じ上げるのでございますが」


 丁寧な物言いだが、どこか強引さが感じられる。

 おとなしそうな見た目に反して、押しの強い女だ。

 相手を説得する話術に長けている。

 最初に俺が感じた冷たい印象は、今のユキにはない。

 パーティーの時は、俺が錯覚しただけだったのだろうか。


(商売の勉強に来たとの話だったけど、確かに売り込みは上手そうだな。

 だけど、なんでアウラータのためにこんなに熱心なんだろうか。

 単なる友情ならいいんだけど)


 カトリーナたちは、次第にユキに納得させられてゆく。




「私とアウラータさんがネコ様を持ち逃げするとお疑いかもしれません」


「別にそんな……、ねえ、カトリーナ」


「そうよね」


 母と娘は、焦った様子で顔を見合わす。


「留学生の私たちに、そんな大それたことは不可能でございます。

 国を背負った私たちが、国を貶める悪事を行えばどうなるかは、よく理解しておるつもりでございます」


 そうまで言われると、カトリーナの性格では断れない。


「わかりました。

 明日の朝までネコをお貸ししますわ」


「カトリーナが、よいと言うなら」


「本当でございますか。

 嬉しゅうございますわ。

 こちらの我が儘を受け入れてくださり、感謝に堪えません」


 また深く頭を下げる。


「わ、わらわも感謝するぞよ」


 アウラータの顔が、元のように明るくなっている。

 さっきまで大号泣していたとは思えないほどだ。


「というわけで、これからこの人たちのところへ行くことになったのだけど、よいかしら?」


 カトリーナが、俺に尋ねる。


(どうも面倒くさいことになりそうだな。

 でも、何が起こるか興味もある。

 というか、何かが起こりそうな気がするんだよな。

 それが、エスメラルダの話していたことなのかもしれないし)


「にゃー」


「了解してくれるのね。

 ネコも、自分が貸し出されるのを認めてくれましたわ」


「おお、人の言葉にしっかりと答えてくれるのかの。

 なんとも賢い動物ぞよ」


 アウラータは、目を輝かす。


「時々、こうして返事をしてくれるのです」


「妾にも声を聞かせてくれぬかの?」


「にゃー」


「おおー、実に可愛い鳴き声ぞよ」


 また元のようにはしゃぎ出す。


「もう一度鳴いて欲しいぞよ」


「……」


「駄目かの?」


 アウラータが、悲しげな顔をする。


(しょうがないなあ)


「にゃあ」


「きゃうー、鳴いたぞよ、鳴いたぞよ!」


 またまた大はしゃぎだ。

 良くも悪くも無邪気な少女だ。


 ユキのほうは、おとなしい顔のままだ。

 しかし、俺は、再び恐怖を覚えた。

 パーティーの時にユキから感じたのと同じ恐怖をだ。

 今俺に向けられているユキの目は、恐ろしい。

 決して、切れ長の目が恐ろしく見えるのではない。

 俺の動物的勘が、敵意を察知しているのだ。

 カトリーナたち人間は、気づいていないに違いない。




 俺は、その後すぐにアウラータの屋敷に運ばれることになった。

 アウラータに抱かれたまま馬車に乗るのだ。

 カトリーナが、本来の俺に籠は不要だからと、抱いたままを許可したのだ。


 俺たちは、プルサティッラ邸の正門前に出る。

 アウラータが乗る豪華な馬車が、扉を開けて待機している。

 従者用の格式の劣る馬車と護衛が乗る馬も並ぶ。


「それでは、奥方殿にカトリーナ殿、これから一日ネコと過ごさせてもらうぞよ。

 明日の朝、必ず返しに来るから心配はいらぬぞよ」


「心配はしていません。

 あなたなら、ネコを大事にしていただけると信じていますから」


 カトリーナが、笑顔で答える。


「私も失礼つかまつります」


 ユキが、母と娘にお辞儀をする。


「ところで、ユキさんは、どうやってここにいらっしゃったのかしら」


 カトリーナの母が質問する。


「あれでございます」


「まあ、あれですか!」


 ユキが、正門から少し離れた道路上に置かれた物体を指さす。

 人が一人入るほどの大きさの箱だ。

 日本風の駕籠である。

 和服に菅笠すげがさの男が二人、駕籠のそばに蹲踞そんきょの姿勢で控えている。

 駕籠舁かごかきなのだろう。


駕籠パランキーンで移動なさるとは、珍しいことですわね」


「祖国では、いつもそうでございましたもので」


(だからって、担ぐ人とセットでこの国まで持ってくるのかよ)


 俺は、内心でツッコミを入れる。




 やがて、アウラータの馬車とユキの駕籠は、同時に出発した。

 俺は、アウラータの腕から離れ、馬車の後ろにある小窓から外を見る。

 カトリーナたちが、正門から出て、俺たちを見送っている。

 しばしの別れを惜しむ。

 俺は、プルサティッラ家以外の人と一日を過ごすことになるのだ。

 初めての経験が、俺を待っている。


「動物なのに、まことに家族思いよのう。

 まるで人間のようであるぞよ」


 アウラータは、いたく感心している。


(中身が人間だからな。

 うっかり人間的すぎる行動をしないよう、気をつけなくちゃな)


 アウラータの屋敷は、同じ王都の離れた場所にあるそうだ。

 馬車は、市内の大通りを進む。

 まだしっかりと町を見ていなかった俺には、最初の王都見物だ。

 車窓の風景を楽しむ。


「もうじき、妾の屋敷ぞよ」


 アウラータの屋敷では、何が起こるのであろうか。

 ただアウラータの遊び相手になるだけではない予感がしてならない。

 俺は、心の準備をする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ