第七話
翌日SNSのストーリーに円堂が足を折った、と載せられていた。
『急にバキッといったわマジイミフ』
昨晩のサクライユウタ、が悪い怪人を倒すんだ、と言っていたのはこのことだったのかもしれない。
サクライユウタの光線で、足を折った。
疲れで見た幻としては、現実に証拠がありすぎる。
サクライユウタ、ちっとも思い出せない。
同級生にそんな名前いたかな、と母親に連絡をとってみた。
「ユウタくんのこと忘れてたの?幼稚園で一緒だったじゃない」
幼稚園の頃の話か、それは覚えていないわけだ。
続けて、今は何をしているのかと聞くと、病に侵され、幼稚園の時に亡くなっている、と告げられた。
血の気が引いた。見事怪異として私の前に現れたわけだ。
「ウルトラマンの映画観ようねって約束してたもんね、もしかしたらあなたが今映画館で働いてることを知って、前に現れたのかもね」
「なんでそんなことがあったってわかるの?」
「なんかね、そんな夢を見たのよ。これが実現したなら、素敵な夢だなあって私は思ったわ」
「こっちとしてはホラー体験だよ、そんなこと、ありえるだなんて思えない」
「でも、会ったんでしょ?」
「そうだけどさ…」
と口をつぐみ、そのまま通話は終わった。
成仏できずに、まだこの辺りを彷徨っているのか、と思うとサクライユウタのことを不憫に思った。
彼は映画を、観たいのだ。
なら、映画館で働く身の人間としては、観せてあげたい、と思うのは自然なことであろう。
レイトショーの、いつも終わりかけの映画ではなく、彼の望んだ、ヒーローの勇姿を観せて成仏させてあげたい。
そう思った。
なら、コンサルとして働いていた海周さんに相談するのも悪くないだろう。
と、思い相談の連絡を入れた。
『この間の映画小僧が俺に接触してきた、なんとかして映画を観せて成仏させてやりたいんだけど、どうしたらいいかな?』
すると返事はすぐにきた。
『お前の働いてる映画館、スクリーン貸切ができるらしいぞ。働いてるのに知らなかったのか?』
知らなかった、そうだったのか。
調べてみると案外簡単に借りることができるようで、一ヶ月前に事前連絡があれば、映写室も貸出をしているようだった。
ブルーレイの再生、ゲームすらも繋げば遊べるということだった。
だが、貸し切るには10万円ほどかかるようだった。
私は一介のフリーターだ、月の給料も15万円行くか行かないかだ、一度に10万円はペイできない。
そのことも海周さんに相談した。
ビールの定期購入の引き換えに、5万円融資してくれるようだった。
それなら、と思い、条件を飲み融資してもらうことにした。
あとは簡単だ、彼が観たがっていたウルトラマンコスモスの映画を用意すればいい。
そう思い、大手の古本屋へ出向いた。
しかし、簡単には見つからなかった。
当然だ、20年も前の作品だ。
DVDやブルーレイになっていたとしても高額なままだろう。
と、私の足でのウルトラマン探訪は無念にも終わった。
やむなく、大手通販サイトに手を出した。
2000円前後で買えるのだ、ほっと胸を撫で下ろした。
夜中に社員からメッセージが来ていた。『一週間後、dスタジオ、貸し出しOK。清掃と締めを全部頼むけど、いいよな?』
スマホの光の中でその文を見たとき、正直、胸が少し熱くなった。
私は喜んでその話を受け入れ、なんとかしてユウタくんに伝えるべく、次の出勤の際に締め作業担当を代わるよ、と担当スタッフに伝えるとまたその人も喜んで代わってくれた。
仕事なんだから、与えられたものはこなせよ、と思ったが、私も私利私欲のために…他のスタッフに迷惑がかからないように映画館のスタジオを借りるのだ、大差ないか、と思った。
そしてその締め作業の日、私は例によってコンセッションカウンターに張り付けられたままだった。
爆発的ヒットが確定した映画の動員数は過去一番で、ポップコーン、ドリンク、グッズ、何もかもが飛んでいくように売れた。
軽い休憩すらもとれないような状態だった。
こんなところ、辞めてやる、と心に誓った瞬間でもあった。
だからこそ、就職活動がうまくいかないのだ、とまた自己嫌悪に襲われた。
そしてまたレジ締めをし、現金差異がないことを確認し、夜の映画館へと歩みを進めた。
ユウタくんはいるだろうか、次の木曜日、dスタジオでコスモスが観れるよ、と伝えて安心させてあげたかった。
暗い映画館の中で、ずっと一人でいたのだ、なんとかして、無念を残さず旅立って欲しい。
そう思いながら、黙々と閉館作業をし、屋上でモクモクとタバコを蒸した。
今日はその爆発的ヒット作の上映がaスタジオのレイトショーで行われ、その日最後の上映だった。
2階から3階の清掃と翌日への引き継ぎ作業を終え、aスタジオへと向かった。
終演2分前に、いつも通り扉を開け、スタジオに入り、照明がついたタイミングで扉を開放し、退館を促した。
ゾロゾロと300人ほどが退場し、念の為二つ用意しておいたダストボックスはどちらとも袋を閉じられないほどに膨れ上がっていた。
館内の空調はあまり快適ではなく、不快な汗が私の額を濡らしていた。
ようやくaスタジオから全員出た様子だったので、中に入り、簡単な清掃を済ませ、無理矢理ダストボックスのゴミをまとめ、集積所へ放り投げた。
ようやく、全ての作業を終えた。
最後に、おまけとして、3階へと向かうことにした。彼に会うために。




