第五話
二人は飲んだ。飲み続けた。
お互い呂律も回らなくなってきたところで、会はお開きとなった。
山形のビールは東京でも飲めるらしい。
販売しているところを聞き、お互いフラフラとしながらゲラゲラ笑い、お互いの帰路についた。
私はdスタジオのことを思い出し、仮に本当にその怪異、映画小僧がいるのなら、と考えると少し酔いが覚める感覚がした。
海周さんが言った通り、もしその映画小僧がいるのだとしたら、なんとかして早めに観せたい映画を観せてやらないといけない気がした。
本当にいるかもわからない怪異に、あの映画館は何かできるだろうか。
小さな映画館だ、なんとかならぬものだろうか。
翌週、私は遅番で、やはり締め担当だった。
週が変わり、新作の映画が出て、爆発的な客数を動員するような作品がaスタジオに入り、b、cとそれまでの人気作や、小規模なヒットを狙えそうな新作が入った。
当然、dスタジオはもう集客も見込めないような、暗い映画が入った。
扉の不具合はなく、あえなくdスタジオは通常営業になった。
ただ、やはり怪異を恐れてか、気持ち程度にスクリーンの真下に盛り塩がされていた。
今日私は清掃やフロアの仕事ではなく、カウンターでフードやドリンクを捌いていた。
aスタジオはほぼ満員で、やはり爆発的なヒットが見込まれるだろうと思わせられる客数だった。家族連れでも観れるような、大人気漫画原作の劇場版だ、無理もない。
昼から晩まで、とにかく捌いた。
ヘロヘロでもう帰りたかったが、締め作業が残っていた。
しかも、館全体の締めだけではなく、レジの締めもやらされた。
なんたる仕打ちだ、少しは仕事量を減らしてくれてもいいだろう。
そう思い、現金差異がないことを確認し、レジを締め、館全体の締めの作業へと移っていった。
この建物は5階建のこじんまりとした映画館である(その分客席は多いのだが)。
B1階にaスタジオ、1階にコンセッションカウンター、2階にbスタジオ、cスタジオ、3階にdスタジオがポツンとあり、4階は屋上、スタッフルームと社員の作業スペースがあった。
とりあえず、今日はbスタジオの上映があと30分で終わる。
それまでにスタッフルームと事務所のゴミを回収し、スタッフ専用のエレベーターに放り込み、bスタジオの出口にダストボックスを置き、それまでタバコを蒸した。
気づけば終演5分前だったため、あわててエレベーターに飛び乗り、2階まで降りた。
イーゼルも翌日のものに変えてあったため、あとは客を出し、スタジオ内をチェックして、電気を消し、扉をパタム、と閉じる。
予定時刻の2分前になったため、私はスタジオに入り、ぽつりぽつりと照明がついたのを確認し、扉を開け、退館を促した。
あとは流れ作業だった。
パタム、と締めた後、cスタジオの前までダストボックスを運び、また20分待つことになった。
締め作業でするべきことはもう全て終えていたため、私はまた屋上にあがり、タバコを蒸した。
まだ少し暑いが、夜風が心地よい。
そんな日だった。
極度の疲労感があったため、缶コーヒーを事務所で買い、あと一息だ、と自分のケツを叩いた。
カフェインについ頼ってしまう。私の悪い癖だ。
そしてdスタジオ、cスタジオと片付けを終えた。
dスタジオに今日はなにもなかった。
靴も、ポップコーンも。
そして2階、3階のゴミをまとめてエレベーターに乗せておき、aスタジオのゴミを回収し、そのままB1階のゴミ集積所までエレベーターを下ろし、aスタジオのゴミと一緒に全てのゴミを放り投げた。
あとは館内に人が残っていないか確認し、エスカレーターを止め、入口の鍵を閉め、ノーゲスです、と伝えれば良い。
3階から順々に降り、エスカレーターを止め、イーゼルを確認し、また下へ降りる。それをB1階まで繰り返し、最後はエレベーターで登り、退勤する。
それだけだった。
それだけの話だった。
B1階からエレベーターに乗り、4階のボタンを押し、ボーッとしていた。
すると、なぜか3階のボタンが押されたのか、ボタンが点滅した。
ゾッとした。
いそいで1階、2階とボタンを押したが、止まらない。
3階で、止まった。




