第四話
しばらくして、また円堂から連絡があった。
「チン?やっぱ社員も確認してたわ、子どもはこの時間入れてないし、ポップコーンも靴も写真におさめて、明日また確認しようってさ」
社員も確認したのだ、いよいよ変な展開になりそうだな、と私は寒気がした。
真夏なのに寒気がした。
労働者として、ホラー体験をするのは望んでいることではない。
契約書にそんなことは書いてなかったぞ。
そう思い、相槌をし、通話を切った。
翌朝、共有アプリでやはりdスタについての共有があった。
施設点検としてdスタジオを閉鎖し、来週から営業時間を前倒しにして、a〜cまでのスタジオで詰め詰めのスケジュールで上映プログラムを組み直す、と。
確かに、点検、お祓い、いずれかは必要だろう。
これは心霊現象だ、と映画館側もそう汲み取ったようだ。
しかし、始業時間を早める、というのは働く側としては非常に迷惑極まりない。
さらについていないことに、夏休みがある。
この学生たちの夏休みという期間は、大ヒットを狙った各配給会社が必死に作り上げた映画をぶつけてくる。
連日の混雑は、平時よりも遥かに多く、ただでさえ映画が乱立しているのだ。
来場者数も夏休み前や後とは比ではないくらい混雑する。
さて困ったな、作業が増える…と寝起きで朧げな頭は考えるのをやめた。
平常心に戻すべく、私は早々にキャップを被り、日課のウォーキングへと支度を進めた。
今日一日が休みでよかった。
しかしやることとしては就活の書類作成と提出、それが課題として溜まっていた。
そんなものから目を背けるべく、私は職場に向かい、映画を一本観た。
スタッフ同士が「これはいい作品だ」と言っていた映画を観たが、なんのこっちゃ、サッパリわからない映画だった。
職場には"本物"の映画通ばかりだったから、娯楽として、気になった作品ばかりを観ていた私にとっては少し難解だったのかもしれない。私はこの職場では軽度な映画オタクなのかもしれない。
観る人が観ればおもしろいんだろうな、と思い退館し、蒸し暑い屋外へ足を運んでいた、するとすれ違いで、5〜6歳くらいの男の子が一人で映画館へと入って行った。
保護者が中で待っているのだろうか、そう思い、陽の上がっているうちに酒でも飲もう、と思い帰宅した。
帰宅し、シャワーを浴び、空調の効いた部屋でぼんやりしていると飲みの誘いがあった。
以前働いていた職場での先輩からだった。
四木海周といい、長身で、容姿端麗、大手広告代理店の内定を蹴り、マカオに渡りコンサルをし、つい先日帰国したばかりの人だった。
今は山形でクラフトビールを作っているらしい。
久しぶりに会えるのか、嬉しいな、と思い即OKを出し、海周さんに会うべく、身支度を整えた。
精悍とした顔つきや、体格、日によく焼けた肌で、目立つため、すんなりと私と合流し、飲屋街へ向かった。
結局いつものビールが一杯390円の店で腰を下ろした。
二人とは思えないほど盛大に乾杯し、体育会的なノリでガハハ、と笑いながらビールを平らげた。
「ここのビールよりはウチが作ってるやつの方がうまいな」
「そりゃ390円のビールなんてそんなもんでしょ」
「まあでも、暑い日はやっぱビールに限るな、気分がいい」
「最高に気持ちいいよな、やめらんねえ」
そういうと二人ともすぐに二杯目のビールをオーダーし、また乾杯して笑い合った。
そう話していると、自然と今の仕事についての話になった。
「結局、映画館で働いてんの?あの古本屋辞めて?」
「うん、俺にはむいてなかったわ、あんな体育会系のバイトってなかなかないぜ」
「そこが楽しいんじゃない、まだ唱和言えるでしょ?」
「そりゃあれだけ毎日言わされてたら覚えるよ」
今日も一日…と二人で唱和を唱え、またゲラゲラと笑いながら乾杯した。
「映画館はどうなん、時給いいの?」
「全然?最低賃金。締め作業の時だけ何%かは上がるけど」
「全然古本屋いた方が良かったじゃん、何やってんの」
「でも映画のタダ券とかもらえるんだぜ、それプラス給料だと思ってるから」
「オタクくんだねえ」
「映画オタクは俺よりもっとやばいよ」
「じゃあ君は軽度なオタクくんってことだ」
「まあそんなところかな」
「どんな職場なん?」
「社員やスタッフが作業中にタバコを吸いに行ったり…片付け忘れとかあったりね、散々、知らないでしょ、夜の映画館」
「そもそも映画館を知らねえ、観ねえもん」
「映画館離れだ、ここで体験するとは思わなかったなー」
と、二人はただ酒に飲まれていった。
そこでふと、dスタジオの話になった。
「そういや最近怖えことがあってさ…」
と、扉、ポップコーン、靴、しまいにはチャイルドクッション、不思議な現象が起きていることを告げると怖さを誤魔化すように海周さんは笑いながらまたビールをグイと飲みきり、言った。
「その映画小僧は誰かと映画観たいんじゃねえの?ずっと深夜に一人でいるってことは寂しいんだよきっと」
と、適当に切り上げようとしていた。
「俺にそんな霊感があるわけでもねえし、別に除霊師の知り合いがいるわけでもないからなんもできねえけど、その子は今も深夜で、一人で、誰か待ってるんじゃねえ?知らんけど、わからんけど」
相変わらずのらりくらりと人を動かすかのような口ぶりで淡々と告げた。
そしてまた話題を変え、私の就職活動について話をした。
それはあまり盛り上がらなかった。




