第三話
dスタジオの話は瞬く間に広まった。
誰もがdスタジオの清掃や入場案内をするのを嫌がった。
あまりにも不気味すぎる、それは多くの学生やフリーターにとっては、深夜にそんなことが起こるのであれば、たまったものではない。
ただ、当事者として経験した私は興味に満ち満ちていた。
これが心霊現象なのか、はたまた本当にドアの故障か、いずれにしても話の種になる。
ポップコーンも、靴も、確かに在った。
その日、閉館作業は円堂という学生が執り行うことになっていた。
閉館作業を行わない組は定時が過ぎ、帰宅の支度をしているなか、私と円堂は喫煙所でタバコを吸っていた。
「なあ、チン、ホントにdスタってそうなん?」
と彼は興味津々なのか、怯えているのか、わからないようなトーンで私に語りかけてきた。
なぜ、チンと呼ばれているかは、想像にお任せしよう。
「チンやめろって」
「いいじゃん、男はみんなそう呼んでるでしょ?」
「そうだけどさ」
「いいんだよそんなのは、dスタ!チンはなに?ドラッグでもやってぶりんぶりんだったんじゃないの?」
「お前じゃないんだからさ、やらないよ」
陽キャのフリをした陰キャな、この男の行いには辟易としていた。
「dスタは今日上映終わったらドアの点検するってよ、だから締め作業しなくていいんじゃないかな?」
「それならいいんだけどさ、俺怖いの苦手なんだよな、スプラッターとかはいけるけど心霊現象系はマジで無理」
「じゃあこの間のあのホラー観なかったん?相当話題になってたじゃん」
「みねえって!映画でもホラーは嫌だね」
「ぶりんぶりんになる方が怖いだろ」
「ありゃいいの、やってる最中はもうぶりんぶりんで気持ちいいんだから」
いつ通報してやろうか、この頭のキレる悪党を。どうすれば通報できるのだろうか、真剣に考えている。
「俺が昨日締めた時は、最後列の端にポップコーンと靴があったんだ、さっき入場者数と席の予約見たけど、その席には誰も予約してなかったよ」
「余計怖いじゃん、マジでやりたくねんだけど」
「和馬ならやれるよ、多分ぶりんぶりんで気づかないさ」
「あんまぶりんぶりんって言わないの!俺が怒られちゃうでしょ?」
私は呆れてタバコを蒸し、灰皿に捨て、帰路につこうとした。
「帰っちゃうのかよ、もうちょいいようぜ」
「嫌だね、俺明日は休みだしね」
「シフト調整して遅番にしてもらおうぜ」
「めんどくさいからいい、社員と話すのもめんどいし」
そう言い、私は円堂と別れた。
ヤク中に巻き込まれては私も面倒なことになる。そう思い帰宅した。
シャワーを浴び、スキンケアをし、飯を少し摂ろうとした23時ごろである。
円堂から電話がかかってきた。
まだ締め作業が終わるには早すぎる時間だった、と、いうか締め作業も大詰めと言ったところでの電話だった。
仕事中は携帯持ち歩くなよ、と思いながら電話に応じた。
円堂は興奮した声で言った。
「チン!ヤベェって、マジでさっき話してたとこにポップコーンと靴あるわ、しかも、チャイルドクッションまであるわ、なにこれ、ヤバくない?」
「入場者の中に子どもはいなかった?」
「いねえって、レイトショーで入れる訳ないだろ!」
「ドラッグは?」
「だからしてねえって!これ社員に言った方がいいのかな?」
「一応報告…というか見てもらおうぜ、呼んだ方がいい」
「そうだよな、ちょっと呼んでくるわ」
そういい、通話が終わった。
やはり心霊現象なのだろうか、興味はあったが、やはり恐怖心が勝った。
あの薄暗い映画館で、そんなものがあるとどうしても怖い、その感情は私にもあった。
寝る前だぞ、どうしてくれるんだ。




