第二話
さて、どうしたものか。
キチンと閉めたはずである。
この映画館の社員は、ねちっこくしつこい。
二度目のミスを見逃すほどではない。
念の為、謝罪の一文を入れたが、一向に反応がない。
これはしっかり叱られるな、とガッカリしたと同時に、通知が鳴った。
『落とし物を保管し、お客様にお返しした際には落とし物タグを外し、キチンと廃棄してください』
と、きた。
昨日の靴の忘れ物のことか?
考えうる対応としては、社員が館内にいるうちにお返しした、ということだが、社員同士のミスなら共有アプリに通知は来ない。
誰も反応をしない、ということは誰もそれについて知らないからであろう。
私も忘れ物として、記帳し、保管場所に入れたはずだ。これ以上は私の責任ではない、だろうと思い、有酸素運動としての日課のジョギングを軽く済ませ、出勤の時間までにトレーニングを終えた。
今日は、背中と上腕二頭筋。
背中は自重だけでは難しいが、それがまた楽しいのだ。
それが、変態と呼ばれる理由だとしても、だ。
出勤すると、案の定私は呼び出され、キチンと社員に詰められた。
自分はやるべきことはした、とちゃんと伝え、監視カメラで確認して欲しい。
と弁明をした。
社員から多少の信頼は得られているので、疑うのもこちらも気分がよくない、確認しよう。とすんなり監視カメラを確認してくれた。
最終上映後、私が客をキチンと退館させ、頭を下げ、ゴミを受け取って、dスタジオに入っていく様が録画されていた。
そうして、5分ほどしてスタジオから出てきた私に驚いた。手元にあったはずの靴とポップコーンのバケツがなく、私はジェスチャーをするかのように物を放り投げているかのような映像だった。
また、扉を閉めるところもキチンと確認されていた。
左肩でギュッと押し込んでいるのだ。
そうして私はダストボックスを転がし、バックヤードへと戻って行った。
そうして照明を消そうとしたその瞬間だった。
dスタジオの扉は人が一人通れるくらいに開き、照明が落ちたのだ。
これで私の落ち度ではないことが証明されたのだが、私も、それを見ていた社員も、血の気が引いたかのような顔をしていた。
「マジかよ…」
そう社員が言うと、また映像を巻き戻し、確認した。
確かに私は左肩で扉を押しつけているようにしか見えない。
開いたその扉は、開いたままだった。
照明が消えてしまったので、その後扉がどうなったのかは、我々では判断がつかなかった。
「扉の不具合があるのかもしれない、今日の晩に業者さんに頼んで確認してもらうよ、とりあえず連日謝らせてしまって申し訳ない。またこういうことがあるようだったら…ちょっと館長と相談するね」と話を終えようとしていた。
いや、まだだ、まだ一つ、気がかりがある。
「フロントの監視カメラは見れますか?」
「見れるけど、どうして?」
「僕は…dスタ出たあとに忘れ物の靴を落とし物ボックスに入れるためにフロントに降りてます。落とし物のタグも、もしかしたら僕の書いたものかもしれないんです」
「頼むよ、あんま怖いこと言わないでくれ」
「でも、もし仮に…これが…これが現実に起きてしまうような不可思議なものは明確にしておかないといけないではないですか」
「わかったよ…」
と、カチカチとマウスを操作し、フロントの映像が出た。案の定私は忘れ物タグと落とし物表に記載をしている。
だが、肝心の靴がない。
私がクリアケースを開き、何かを入れているかのような動作をしているが、どう見てもジェスチャーをしているようにしか見えない。
「本当に靴があったの?」
「はい、17.5cmの、歩くと光るタイプの靴で…」
「おいおい、マジかよ、忘れ物タグもそう書いてあったぞ」
ちょっと信じられないわ、と社員は席を外し、タバコを吸うために屋上へと向かった。
信じられないのはこっちだよ、仕事中に何タバコ吸いに出てんだ。
とにかく、私の無罪は証明されたのだ。
ドアの異常があるに違いない。
だが、靴とポップコーンは?
説明がつかない。
私の妄言だと思われてしまったであろう、対応だった。
これ以上変なハッシュタグが私につくのは私にとっては迷惑極まりない。
実際に、靴もポップコーンもあったのだ。
どうしたものかな。




