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第四十五話 期限切れ!

ハートゥーンの立派な白亜の、低く広い基壇上に高く聳える、とても石造とは思えぬほど高度な建築の神殿から出て来た。


「さあ、ヤスコの快気祝いに行こう!」

「おう、昼間っから呑める最高の大義名分だ! これで呑まんで何とする!」

分かりにくいかもしれないが、梢による月影の物真似だ。

本物の月影は

「まあ、いいだろう。俺も付き合うぞ」

「あー、盛り上げてくれる所、悪いんだけど……あたしお財布なくしちゃったみたいで」

「あ、そうそう、幾つかあった中から、良さそうなのを選んでおいたから、ちょっと見てみて?」

「え……あ、この皮質、この色、多分これあたしの……そうそう、中にPP裏打ちしてたんだ、これだあ」

なんと、失くしたと思った巾着が、手の中に戻って来た。

「おっ、良かったじゃないか、見つかって」

「新しい中のどれかと思ったぼくの考えが中りましたね」

「有難う、本当にもう、何から何まで……」

「いえいえ、お気になさらず。旅は道連れ世は情け、です。ハートゥーンが丁度ぼくたちにとっては帰路の途中だったのも幸運でした」

「もしもぼくたちが果てているところを見つけたら、その時は回り道してでも、どうぞよろしく!」

「死ぬ前からそんなこと気にするのはやめろー」

「あー? 死んでからじゃ気にしようったって遅いだろぉ?」

「お金、稼がないとね」


うーん、これは、かなり働かないとなあ。

銀貨一万枚、金貨なら100枚相当らしいからな、蘇生費って。


「あ、そうだ、あたし依頼を請けていたんだ……っ」

「あー……」

「多分……間に合わないだろう」

「あぁ~、やっぱりかぁ~」

「最初の依頼を、失敗……まあ、でも、この世界、そういう事もありますよ、まだまだチャンスはありますから」


そうして、クイルランが知ってる店に行ってみたら、既に潰れていたりして、どんどん変わって行く世の中になんとなく遣る瀬無さを覚えたりしたが、とにかく快気祝いを打ち上げて、祝い金に銀貨10枚も貰ってしまった。


「そんなァ、蘇生してもらった上に、もう貰えないよォ」

遠慮したが、浪人の月影は、

「良いから、良いから。こんな事もあるさ。気にするな」

と手に握らせてきて、魔道の学生ジョンも、

「あ、ぼくは靖子さんの言う「魔法の無い」世界というものに、非っ常~~~っに興味がありますから、もし何かくれるというのなら、是非とも一度行ってみたいですねええっ」

「あ、こらこら」

「うん、そのくらいならお安い御用だよ」

「ええっ!?」

「本当!?」

「それでお礼になるなら喜んで」

「無理だろうと思ったのに、言ってみて良かったあ! やったぜええっ!」

「本当に良いのか?」

「うん。この前、お城の騎士さんたちも一度案内したよ。家から外には出さなかったけどね、さすがに」

「お! ジョン……寄越せ」

「あー、ハイハイ……」

何か、少額だけど、ジョンから月影へ、二人の間でお金が移動したな。

「まあ、ロンドヒルスにまた来ることがあったら、何日か滞在してみてよ。あたしは大体三日に一度はこっちに来て、大体毎回お城に立ち寄っていたから」

「ほほお」

「それは今から楽しみです!」

「もしかしたら騎士や兵士の方々と御同道する場面もあるかもしれないけど、いいよね?」

「ええ、問題ありませんよ」

「幸い、俺達はお尋ね者じゃないからな」

「あ、お姉さーん、つまみセットもう二皿」

「はーい!」



その後、恒例行事の如く潰れた梢をジョンが介抱して、まだ昼下がりだがお開きに。


「じゃあ、今度王都行くからねー!」

「おーう! 待ってるぞー!」



宿屋に向かう彼らを見送り、こちらは自転車を転がして町の端へ。

場末まで来ると自転車を停めて、鮫剣を少し振り回してみる。

やはりちょっと(なま)ってるが、心配したほどじゃなかった。

まあ、行けるだろ。


自転車を整備する道具がなくなってるのに気づいたが、祈るような気持ちで点検すると、特に深刻な異常は生じていなかったので安堵する。

曲がったスポークが一本あったり、籠が歪んでいたりする程度。


ただ、少しだけ空気圧が下がってる。

空気入れも無くなっていたので、そこだけが少し心配。

慎重に、ゆっくりとペダルを漕ぎ始め、街道を西南西へ走り出す。


ヘルメットのシールドは、今度は油断せずに、ちゃんと下ろしていく。

やっぱり一人旅だけに、油断しちゃいけなかったな……。

そうは言っても、即死したのはよっぽど運が悪かったのも確かだ。

月影もそう言っていた。

クリティカルヒットってやつ。


本当は風を受けて走りたいし、ノーヘルの方が臭いだとか音だとか周辺視野だとか、色々と情報が入って来るんだけど、しかたない。

鮫剣を腰のベルトに挿し、尖端をハンドルに載せる。

気合を入れて、次の集落へ向けて、緑の街道を駆けはじめた。


--


神殿都市ハートゥーンから港町ルートゲルトまでは、徒歩だと四週間ほどもかかる道のりらしいが、チャリを転がして一週間で走破した。


ルートゲルトからロンドヒルスまでは四日で戻ってきた。



そうして、見覚えのある屋根を掛けた十字架のある広い辻まで来て、黄色い看板を掲げたマーティム兄弟の酒場の前で自転車を停める。

久しぶりに俺の姿を見た少年たちが、声をあげて走り寄って来るので、また一人を選んで、お駄賃をあげる約束をして見張ってもらった。


相変わらずの閑散とした暗い酒場に、ヘルメットとゴーグルをとって恐る恐る入っていって、やっと配達完了報告をしたが、「報告が遅すぎる」と怒られて、報酬は貰えなかった。

「配達の仕事自体はきちんとやってのけたようだから、訴えはしないが、次こんなだったらもう仕事回さないからな」

「どうも面目次第もございません」

深々と謝り。

「それで? 今日は何か仕事は請けていくのかい? それとも飲むか?」

「また今度」

「なんだ、残念。今度はせめて飲んでってくれよな」

「考えとく」


とりあえず、城に挨拶して、家に帰るぞ。


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