第二十七話 異世界へ降下
拙作を読んで真似する方など居ないとは思いますが、今回ロープ作業の描写があるので特に念の為に書いておきますが、『俺』はナチュラルに色々とかなりアレな事をしています。
徒労なのはまだしも、危険なので、真似をなさらぬよう、一応書いておきます。
さて、降りる用意だ。
まず、挨拶はしたし、頭部防具を再装着。
そして背中のホルダを下して、10フィート棒は自転車の近くの窓に立てかけておく。
鮫剣は……ホルダで背負いなおす。
腰周りのベルト二本もそのままつけてゆく。
柱に昨日結わえたザイルはまだしっかりついてる。
細引きを結わえている別の柱に、クッションの襤褸切れを足して、定滑車をとりつける。
動滑車にザイルを通し、定滑車にも通し、長さが足りないから、二つ折りにしたトラロープと互いに結びつける。
これで長さは足りる。
以前作ったのに急遽手を入れて、防具ガッチガチの上からでもつけられるようにした手製ハーネスを装着する。
腹の前の環につけたカラビナで動滑車と連結。自宅での試験ではちゃんと吊り下がったが、ここ本番で落下したら大変だ。
トラロープをエイト環に通し、連結部を通過してザイルまで通して、ピンと張るまで通し終わると、更に右腰のカラビナをザイルにひっかける。
……さきにザイルだけエイト環に通しておいてから、ザイルとトラロープを連結した方が少し楽だったな。
まあ、いいや。
二本目の命綱が無いので、慎重に各部を確認。
んじゃ、行くか。
シールドをあげて、一声
「降りまーす!」
「どうぞ!」
全く同じ状況でのテストはできなかったけど、きっと大丈夫なはず。
一杯に向こう側へ押し遣ったガラス窓の窓枠に右の太腿がかかる。
待て、このままからだの前にあるからといって窓ガラスにつかまったら、拙いだろうな。
そう思って背後になってしまったザイル固定柱に、いや、それだと今度は身体が回ってしまって危ない、あちらの柱には手が届かないし、あちゃー
ザイルを固定した柱でなく、その両隣の柱の間で足場を設けておくべきだった!
そんなこと、今更言っても、もう遅い!
結構必死になって窓枠の下縁に腹這いになってつかまり、よっこらしょっと左足に窓枠を越えさせて、身体の左側にあるザイル固定柱にしがみつく。
そうしておいて両足で足場ロープにやっと立って、体重を支えることが出来て、一安心だ。
さて、窓枠にダクテで固定した襤褸切れの上でずっとガリガリ言ってたあれこれは、大丈夫かなあ?
壊れてないかな?
壊れてたら大変だ。
ちび鉛筆はバキバキに折れ、というより砕けてた。最早焚きつけにしかならないレベル。
ミニキンカン、これは、おk。
これも、おk、あれも、おk、あー、これは擦れて傷がついちゃってるけど、一応おk。
そんな感じであれこれチェックして、重要な物は全部問題なかったので、いよいよ降下開始。
エイト環を通して右腰に導いてあるザイルで降下速度を調整すべく、革グローブで腰のハーネスの上にザイルをぴたっと抑えて。
窓枠から左手を放して、両足で細引きを蹴って、降下!
1mくらい下がったところで一旦、通廊の外側の壁に両足をつけてぴたりと静止。
それから、足を曲げてできるだけ体を壁に近づけ、右手のザイルを緩めていき、両足と左手で壁をと、と、つ、つ、と身体の揺れを極力生じさせないように降りてゆく。
いよいよもう足を懸けられる壁面がない。
足つける壁ないなったー
からだぶらーん
そこで降下停止。
右手でザイルを抑えたまま、腰の後ろへ。
背中でザイルを左手で受取る。
左手で受取ったザイルを左足に巻きつけて、足の甲の上に来たのを右足で挟みこむ。
これでロープを固定できたので、革手袋をはずして、胸ポケットに深く突っ込む。
うっかり右腰の物容れに入れっぱなしだったダクテと緩衝材を取り出し、壁面の角にべたべたべたと貼りつけようとする。
しかし、表面がさらさらした感じですぐにテープが剥がれてしまう。
困ったので、しかたなく、ロープの方で擦れる可能性のあるところに少しだけ、ガムテを巻いた。
しかたない。
次来る時には、窓から何か垂らして固定する器具を作って持ってくるか。
ザイルが切れたら大変だからなあ。
テープを仕舞いこみ、革グローブを嵌める。
下降再開。
あとはするすると降りるだけ。
そう思っていた時期が私にもありました。
右腰とエイト環を経て上へ送り出してゆくロープが、途中でザイルからトラロープに変わったのです。
なんでそうなるのがあらかじめ判らなかったのでしょうか、俺のバカ、莫迦ッ!
右手に結び目が来た時に、えっ、と思った。
カラビナに軽く引っ掛かったが、すぐにカシュッと抜けてくれた。
だが、エイト環に引っ掛かった。
即座に降下停止!
どーすんだ、これ。
一度、逆に上昇してみる。
できるか?
いや出来なかったら困るぞ、何の為に動滑車使ったと思ってる。
エイト環の上でロープを握り、引く。
ちょっときつい。
思い切って右手を離し、両手で握って引く。
上昇した。
できる。
昨日、庭でやった感じより装備品の分だけ重いが、昇れる。
エイト環とカラビナは、あくまでも緩降下を容易に実現する為の道具立てだから、別に無くったって昇降はできるので。
まあ、いいや。
エイト環にひっかかるのを、両手で引っ張って弛ませておき、左手一本で荷重を支えつつ、その間に右手で処理。
更に下降していくと、先ほどガムテを巻いたところが動滑車に来て剥がれかけたり、トラロープが何だか少し滑りやすいけど革グローブのお蔭でどうにかなったり、予想してなかった事が幾つかあったが、どうにか無事に降り立った。
(↑ 東側の草原から空中通廊を眺めた光景の大雑把なイメージ)
さて……。
お……よかった、あちらさんは、迂闊に近づかずに、見守ってくれている。
ならば落ち着いて準備できるというもの。
先ずはハーネスとロープは其の儘に、剣を振りやすいように少し弛ませておき、背中のホルダーから鮫剣を抜く。
ちょっと抜きにくかったが、両手でよじよじ少しずつ抜き出して、どうにか全部引っこ抜いた。
それを右肩に担いでから、徐ろに、
「ところで、先ず絶対に確かめておきたいので、無礼を承知でお訊ね致しますが、まさか貴方がたは、魔物が化けているのでは、ありませんね?」
困惑の表情の後、
「何と仰るっ! 我々のどこが魔物だとっ!?」
興奮しだす相手に慌てて、
「失礼しました! ここともう一つ別の窓があったのですが、そちらには怪奇な魔物が無慙にも様々な犠牲者の命を貪っていましたので! それと、私の辿って参りました路には、他にも異界への出口がございましたが、そちらも既に屍人と成り果てた筈の者が腐れた身体や肉のこそげ落ちた骸骨の姿で彷徨う荒野だったりしたものですから」
聞くうちにマントの男は目を丸くして、
「何と面妖な! 一体どのような地獄を経廻って来られたか?」
「私の家の押入れに或る日、突然穴ができまして、不思議に思って探りまわっていたら、ここに出ました」
「先ほど聞いた恐ろしい話につけても、よくぞ生きて辿りつかれたことよ! ここでは安心して休んで行かれると良いですぞ! ここは我々レイシアの民の統べる国です!」
「御厚情、痛み入ります。この数ヶ月、おかしな穴を探検すること十度や二十度に留まるものではなく、しかしついぞこのように人間の居た例がなく、疑ってしまいました。何卒ご容赦下さいますようお願い申し上げます」
「了承した。ところで、話は変わるが、貴殿が現れたあの空に浮ぶ通廊は一体……」
男は鷹揚に頷くと、空中通廊を指さして訊ねてくる。
「あれは、穴の中を通っている間は大概どこも真っ暗で難儀したのですが、あそこと、あともう一箇所だけは窓になっていまして、この窓から外を見ると青空と草原が広がっていて驚いたものです。もう幾日も前のことになります、恐らく十日ほど」
「十日!?」
「恐らくは、それ以前からずっと……」
「我らは、あれを一昨日初めて見つけたのだ! ずっとここに在ったわけがない!」
ほお……一昨日?
「一昨日、と仰いますと……たしか、私は、窓外の光景がまやかしではないかと疑い、怖れつつも窓を開けてみた日です。この爽やかな風がそのまま入ってきて、通路に清風が吹き込んだのを覚えております」
「窓を開けた、それで……そなたの世界と我らの世界が、結びついたのか!」
そうかも。
「そうかもしれません。時間の過ぎ方が同じならば……それに、他に大きな変化を与えたものも無いと思います」
「もしかすると、あの縄を取り去り、窓を総て閉じれば、あれは消えるのではないか……そうだっ、一昨日はほんの短い間だけ現れて、すぐに幻だったかのように消え去ったという!」
「たしかに、風が思いのほか寒く感じられたので、すぐに閉めました。成程、そういうことですか!」
合点が行った。
同時に、何かあって自分以外の手で窓を閉ざされてしまうと危険だというのも判った。
拙作を御読みいただき、有難うございます。
以下余談。
光と影のBGMをヘビロテしてたら、いきなりスピーカーからズビビビビビ……と、フリーズしてしまった吾がパソコン。
やむなく非常ボタンを押して強制リブートしたのですが、それによって初めて「原稿のデータがふっとぶ」という経験をしてしまいました。
あれは都市伝説かと思っていました。
原稿書き進めてるメモ帳で少し変化ある度にセーブしてたのに、ファイル見たら三日前……七話分も吹っ飛んでいて、驚いたのですが、なるべく『なろう』鯖側に予約掲載しておいたので、被害は他キャラ視点の閑話一個分ふっとぶだけでごく小規模に抑えられました。危うい危うい……
今回の挿絵はとても雑で、降りようとした『俺』が苦労した窓ガラスとの位置関係とかも分らないし、お城が崖の突端にあることも見て取れません。
どうか大目に見てください。
もう直すのはヤダ……
本文で何度もやらかして焦って改稿を繰り返してるのに、絵まで手が回らないよ……




