第二十五話 異世界に降りよう
収蔵していたロープを取り出す。
30mある。
切れそうになったりしてないか、確認。
登攀や懸垂下降のメインロープだが、綱ではないので、これだけ握って昇るのは難しい。
できなくはないが……
でも今回は自重だけでなく、荷物があるからなあ。
荷物というか、鎧が。
剣は細引き使って別口で上げ下げしてしまえば良い。
色々吊るしたベルトとかも。
鎧はあまり器用な動きを許してくれない。
綱があったとしても、両腕で綱につかまって脇を締めてぎゅっと引っぱる動作を幾度も繰り返すのが、なかなか厳しい。
だから縄梯子でもあると良い。
だが、買うのは論外として、作るのも是又、なかなかに……
或は、前に買わなかった滑車。
滑車を窓枠に固定して、ロープを車輪の両側に垂らし……
ロープの片方の端に、50kgくらいの対抗荷重を懸ければ、昇降しやすくなるだろう。
もう一方の端に、鎧つけた俺を繋いで。
50kgじゃ足りないな。
対重は70kgくらい欲しい。
そうなると、必要な滑車の価格が上る。
(´・ω・`)……
それよりも、以前発注しかけた滑車セットで良い。
あれでド定番の定滑車と動滑車の組み合わせをして、自分の腕力で昇降できる。
窓枠に結わえ付けるのに襤褸切れとナイロンコードを使うとして、コードもそろそろ足りなくなりそうだから、一巻き買い足しておこう。
あと欲しいのは、手にまぶす滑り止めのロジンくらいだ。
野球選手とかフリークライミングで使ったりしてるやつ。
いくらだろ……と、ロジンバッグてのが五百円前後か。
よし。
それ、ポチっとな。
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荷物が届くまでの間、とりあえず【幸せな窓】枠に襤褸切れとロープを持って行ってしっかりと結びつけた。
だらん、と地上まで垂らしてみる。
長さは充分、但し、動滑車を使わなければの話。
使わない場合の三倍必要になるんだった。
長さ、もしかして足りないかな……
予算ばかりに囚われて、なぜ対重使う方法を考えてたのか、理由を忘れてしまっていたよ。
長いロープを買うことを思うと口座残高がチラついて、溜め息が出る。
なんとかせにゃ。
ロープを引き揚げてみると、縛り付けた分があるから30m弱になってるロープを折り返しても、地上に届く。
地上というのは地面じゃなくて、草の穂の付け根あたりで。
草の丈は60cm程度。
草まで13m程度か。
三倍長さが必要な動滑車は無理だ。
でももう買っちゃったんだよね。
…………
仕方ない。
最低限必要な14mだけ、ロープを買いたそう……。
とりあえず安いトラロープ8mm30mでいいや。
一度しか使わないかもしれないし。
最悪、幸せな風景に見えても実は幻影で、降り立った途端に地獄に変貌して周囲を怪物悪鬼の類に囲まれるかも。
ともあれ、安いのを二つ折りにして使おう。
何ヶ月も使わなければ、多少の風雨ですぐに劣化しないだろう。
二本目のロープはないから、メインロープが見えない部分で劣化してて切れたりしたら、帰れなくなる惧れがある。
今ザイルを繋いだ柱に加えて隣の窓枠の柱も使い、間に細引きと枝切れで足掛け場を設営した。
これがないと、降りるときはともかく、昇ってきた時に、窓枠乗り越えるのに苦労するので。
細引きだけだと壁にぺったりくっついて足が懸けられないので、枝切れで壁から細引きを離しておくようにした。
その後、行き止まりやら地獄の暗渠やら、階段からのアンデッド荒野やら3D迷路やらをもう一度異状ないか確認。
また白髪が増えたろうなあ……と思いつつ、階段から自転車をスッ飛ばして、この日は帰宅。
それから急いで近所の六地蔵の隣にある子供の頃から行きつけの金物屋さんへトラロープを買いに行った。
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翌日、荷物が届いたので、早速現場へ。
初めて草原と青空が広がるのを見た窓は、その時の多幸感から、【幸せな窓】と呼んでる。
ついでに便宜の為、逆サイドのお城が眺められる方は【お城の窓】と呼んでる。
幸せな窓からは、今日も雲の晴れ間から青空が覗いている。
結構雲が多い。
まだ早朝のようだ。
下を覗くと、少し離れた所に数人の人影が見えた。
兵士だ。
お城から来たのであろう、お城に見合った中世風の革鎧と鉄兜と槍と短剣で武装している。
一人は弓を肩にかけている。
盾を肩に掛けているのも居る。
馬の轡をとっている者も居る。
剣を佩いてマントを羽織った者も居る。
これ以上無く、まともなファンタジー世界が窓の外にある。
みせかけでなければ、だ。
この空中通廊を眺め渡していたが、俺が窓ガラス越しに顔を出したのを見て、こちらを指さして内輪で喋りだしている。
ガラッ!
話はきかせてもらった! 世界は──
じゃなくって。
徐ろにヘルメットを脱いで左腕にかけ、ゴーグルとマスクをはずして。
ゆっくり、スーっと滑らかに窓ガラスを開けて、
「お早うございます」
笑顔で手を振る。
まずは挨拶だろ。
相手の中で、一人だけマントを羽織った男が一歩前に出た。
手を挙げ、男前な顔でぎこちなく微笑みながら、
「おお、良い朝ですな」
と返してきた。
やった、言葉が通じる!
ラノベなチートだぜ!
遂に! 遂に!
思わず両手で拳を握りしめ、窓枠の下まで身を屈めて
「よっしゃあ!」
と叫んでしまう。
すぐに姿勢を戻して、訊ねる。
「これから、そちらに行ってみたいのですが、よろしいでしょうか?」
男は
「どうぞお出でなさい!.」
と叫んだ。
そのまま、何かを期待するような目で皆がこちらを見ている。
拙作を御読みいただき、有難うございます。




