第十六話:加藤の小説
今回は男しかでてきません。あらかじめご了承下さい。
「決めたで、俺小説家になるわ」
「ふーん」
「何やその反応はっ!? 今のは絶好のツッコミポイントやないかい!! 」
「じゃあ、なんでやねん」
「もう遅いわっ!! しかも、何やねんそのやる気のないツッコミは!! 」
「ツッコまれるだけでも良しと思え」
「何でそんな上からやねん!! 」
昼休み教室の隅で二人、いや一人の男子生徒がワイワイ騒いでいる。
「て事で、今日はその小説を仁に読んでもらいたいと思うんや」
「拒否します」
「即答っ!? もうちょい、ちゃんと考えてーや」
「嫌です、俺は疲れているのです、俺の貴重な睡眠時間を奪わないでください」
「ちょっちょ、何でそんな嫌がるねんな? 」
「当たり前だろ」
「冒頭だけでもいいから~」
「やだ」
「昔、昔あるところに」
「勝手に始めるなっ。てか昔話かよっ!! 」
「桃太郎のオマージュ作品や」
「何をオマージュしてんの!? 」
「俺の物語のルーツは桃太郎やからなっ」
加藤は決まったとばかしに胸の前に握り拳を出してくる。いわゆる、ガッツポーズ。
「なっ、じゃあねえよ。それと、何だよそれ、全然決まってないからなっ!! 」
「じゃ、続きいくで」
「だから、勝手に行くなって!! 」
「昔、昔、あるところに、お婆さんとジョンさんがいました」
「ジョンさんって? 」
仁は阿呆らしいのでつっこまずに問いかける。
「ジョンさんはな、アメリカの小さい町で生まれたんや。
けどな、その家庭が何っていうんかな、あんまり裕福な家庭ではなかったんや。
それで幼い頃に父親の不倫が原因で両親は離婚してもうて、ジョンさんは母方に引き取られたんや。
それで母親はジョンさん養うために朝から晩まで働いて必死やったんや。
それはジョンさんも重々分かっとったんやけどな。
でも、ジョンさんは一人は寂しかったんやろな・・・」
「長いよっ!! どんだけジョンさんの設定に凝ってんだよっ」
仁は長々と離し続ける加藤の話を遮って叫ぶ。
「何だかんだで今に至るんや」
「途中で投げ出すなよっ!! お前が始めたんだから、お前でジョンさんの物語を完結させてやれよっ」
「ジョンさん、そんなに大きく関わってこんからなぁ」
「じゃあ、そんな設定最初から、作るなぁぁぁぁっ!! 」
「じゃあ、続けるで」
「はぁはぁ・・・もう、勝手にしろ」
「ある日、お婆さんが川で洗濯をしていると、川上からどんぶらこ、どんぶらこと大きな柿が流れてきました」
「ちょい待てっ、桃が柿に変わっただけじゃねえかっ」
加藤は仁の話に耳を傾けずに話を進める。
「お婆さんは取りあえず警察に連絡しました」
「拾えぇぇぇぇ。拾わなきゃ何も始まらないだろうがっ」
「いや、でも普通、そんな柿拾おうと思うかいな」
「何でそこは真面目なんだよ。拾わなきゃ物語が始まらないだろっ」
「じゃ、マスコミに連絡するか」
「そういう時代じゃねーんだよっ!! 」
「ん、よくわからんなぁ。ま、いいや。警察に連絡してからの話いくでぇ」
「・・・どうぞ」
「お婆さんに呼び出された警官は
『ちょっ、まじ勘弁してくれよ。何でこんな朝っぱらからババアに呼び出されなきゃならねえんだ。あぁん? 』
と、悪態を吐きながら渋々、重い足を動かして川まで辿りつきました」
「こんなやつ呼び出してもどうにもならねえぞ」
「警官はその大きな柿を見て、驚くと同時に、
『おいっ、これマスコミに紹介したら金ががっぽりと入ってくるんじゃねえか・・・ヒヒヒ』
という名案を思いつきました」
「ほら、碌なこと起きねえ。しかも、ここでもマスコミかよっ!? 」
「なぜなら実はこの警官、300億の借金をしていたからです」
「どうして、そうなった・・・」
仁は警官に怒りを通り越して呆れを覚えたのだった。
「警官はその計画を実行しようとしました。が、しかし」
「しかし、何なんだ? 」
「その柿は渋柿だったのです」
「それがどうしたんだっ!! 」
「警官は『なーんだ、渋柿ならいらねーわ。うわーまじ無駄足だったわ』そう思いながら帰って行きました」
「何でなんだよっ!? 終始意味分かんねーよこいつ」
「一人、ポツンと取り残されたお婆さんはどうしようかなと思い、最終的に取りあえずジョンさんに連絡することで落ち着きました」
「お、ジョンさん登場か」
「お婆さんは急いで家に戻ると、ジョンさんに『Come On!! 』と、叫びました」
「まぁ、ジョンさんは外国人だしそうなるよな」
「ジョンさんは『どうしたんだい、お婆さん、そんなにか細い足で必死に駆け抜けてくるなんて。お婆さんは体が弱いんだから、寝てなきゃ駄目じゃないか』と、流暢な日本語で言いました」
「ジョンさん、日本語ペラペラじゃねーか、じゃあ、何でお婆さん、英語使ったんだっ!? 」
「お婆さんは、『I don't know Japanese!! English Please』と、素晴らしい発音でそう返しました」
「あんたが、日本語しゃべれないだけかいっ!! ってか、お婆さん外国人だったのかよっ!? 」
「いや、生粋の日本人や。ジョンさんはちなみに日本語しかしゃべれん」
「何でだよっ!? 」
「そりゃ、色々事情ってもんがあるやろが。そんなことを聞くなんてもんは野暮ってもんや」
「てめーが作ってんだろうが」
「まぁ、それは置いといて、柿太郎登場シーンまで飛ぶでぇ」
そう言って加藤は再び物語を読み始める。
「柿から生まれた子供にお婆さんとジョンさんは柿太郎と名付けました。柿太郎はお婆さんとジョンさんに育てられすくすく育っていきました。だが、いつからか柿太郎はネットというものに心を奪われたのです」
「柿太郎やばいんじゃねえか」
「柿太郎は来る日も来る日もネットをしては寝、ネットをしては寝、という生活を繰り返していました」
「あぁ、柿太郎・・・」
「そうして気がつくころには柿太郎は四十を超え、独身のままでした。
しかし、その生活はあいも変わらずでした。
そう柿太郎はまだ自分自身をこんな風にしてしまったネットから抜け出せずにいたのです。
でも、そんなある日のことでした。大手企業の社長をしているジョンさんがここ十年間、入ることのなかった柿太郎の部屋に入ってきたのです」
「ジョンさん、めっちゃ出世してるしっ!! 」
「柿太郎は碌に彼の顔を見ず、 パソコンのディスプレイを見ながら一言、『なんだよ』と呟きました。
ジョンさんはその声を聞くと、彼の後ろに立って言いました。
『いつまで、そうして逃げてるんだ』と。
柿太郎は『何のことだよ』と、苛立ちを隠せずそう言いました。
ジョンさんは『そうやって逃げてばっかりで満足か』と、言いました。
柿太郎はその言葉についに怒りを露にして、ジョンさんの胸倉を掴みました。
だが、ジョンさんは表情一つ変えません。そして、こう言い放ったのです。
『俺を殴ってそれで満足ならそれでいい。でも、違うだろっ!! お前はそんなんじゃないだろうっ!! お前にはもっとやるべきことがあるだろうっ!! そのためにお前はわざわざ柿から生まれて来たんじゃないのかっ!! 』
その今まで見たこともないようなジョンの剣幕に柿太郎はうろたえました。
そして、今まで生きてきた人生を振り返りました。
そこで初めて思ったのです『俺は・・・何をしていたんだ』と。
柿太郎の膝は崩れ、涙は溢れ、叫び狂いました。
ジョンさんはそんな彼の背中をゆっくりと摩ってやるとこう呟いたのです。
『今からやりなおせばいい。きっと、今からでも遅くないんだ』
柿太郎はその言葉にまた涙が溢れ出てきました。
『うぁうぅああうあぅ、俺は、俺はぁぁぁぁぁ』その夜、二人でずっと朝まで泣き続けました。
でも、この時、柿太郎は確かに使命を果たすことができたのです。
そう、自分自身をこんな風にしたネットという鬼を退治したのですから。
めでたし、めでたし」
「めでたし・・・じゃねえええええよっ!! 」
そんなこんなで、仁の喉がガラガラになって終わる。
「てか、ジョンさん、もろに関わってるじゃん」
「ほんまやな~」




