君の魅力にのぼせてる.1
‹今日からお世話になります!前島 陽菜と申します!精一杯頑張りますので…よろしくお願いします!›
嘘だろ…
10年以上も経ってるのに
まさか…"あの"ひなちゃんが…
僕達が働いてる店に就職してくるなんて…
〈あの子、ひなちゃん…よね?〉
《そうだな》
〈どうするの?あたし達とのこと話すの?〉
《いや…向こうも覚えてないみたいだし話す必要ないだろう》
〈そうだよね…じゃ、このままってことでー〉
彼女は山本 未来
喫茶 ひだまりで一緒に働いていた人だ
あの後…店を辞めた僕は
しばらくは幼馴染みと付き合ってたんだけど
結局1年で別れて…
こっちに越して来て
職場も人間関係もリセットしたんだ
ふらっと立ち寄ったこの店、
【Patisserie Mile】のケーキがうますぎて…オーナーに頼み込んで働き始めたのが2年前、店先で急に未来に声をかけられた
驚いた
まさかこっちで前の知り合いに会うなんて思ってなかったから
それから、なんやかんやいろいろあって付き合うようになってからもう10年か…
結婚はしていない お互いに結婚願望はないから
‹安藤さん、先ほど話していた資格のお話しなんですけど…›
《製菓衛生師のことだね どうかした?》
‹勤続年数は2年を超えていないとだめなんですよね?›
《そうだよ
2年以上実務経験を積んでから、試験を受けるんだ》
‹そうですよねぇ…なるべく早く…と思ったんですけど、地道に頑張ります!›
《どうして早くとりたいの?》
‹資格がある方が、シャンと出来る気がして…
あっ!なくても、もちろん頑張りますけど!›
《なんとなくわかるよ 僕も資格取ってから、
なんていうか…仕事に対して真摯に取り組めるようになったから》
‹安藤さんもですか!?先輩がいてくれて心強いです›
《…頑張ってね》
‹はい!頑張ります!›
ひなちゃんの教育係になってしまった…
僕の他にも何人も働いてるんだし
こういうのは女性同士の方がいいんじゃないのか?
そう、オーナーにも進言したんだけど…
「他に暇なやついないだろ」
と言われて決まった
別に僕は暇なわけじゃないぞ…
このオーナーっていうのは…
泉克幸 僕の2つ上のこの店のオーナー
親っさん…前のオーナーの克幸の父親が去年隠居して
代替わりしたんだ
克幸とは歳も近くて気が合ってすぐに仲良くなれた
今日から、ひなちゃん…前島さんにはケーキなどを
作る製菓を担当してもらうんだけど…
そうだな…仕込みからやってもらおうかな
仕込みとは、生地やクリーム、チョコレートなどを計量し、混ぜ合わせる作業のことだ
作るものの種類が多いから…一つずつ覚えるのは大変だろうが…
‹間違えないように気をつけます!›
ヤル気は十分そうだ
僕は計量してくれたものから順番に作っていく
店が開くのは10時
Openまでにすべての洋菓子を並べておかないといけない
ここからは時間との勝負だぞ…
前島さんはお菓子作りの経験があったみたいで
まるっきり未経験というわけではないから
ある程度指示すれば、なんなくこなせている
即戦力なのは助かる
今は繁盛期ではないにしても
やはりこの朝の忙しい時間にタイムロスが増えるのは困るからな…
《ふーっ とりあえず一段落だね お疲れ様》
‹結構…大変なんですね こんなにたくさんのケーキを作ったのは初めてで…›
《そりゃそうだろうね でも、こうして並んでるのを見ていると達成感があるでしょ》
‹はい!とても綺麗です…!›
前島さんがケーキのショーケースに魅入っている
…可愛い
透子さんに似ているからというだけではなくて
なんだろう
自分でもよくわからないけど そう思った
〈あっ、そっちも出来たの?おつかれー〉
《未来か、お疲れ そっちの子は…菅野さんだったね》
〔はいっ!菅野 菜々美です!お疲れさまです〕
‹山本さん!お疲れ様です!›
《2週間したら、山本のところで焼菓子を作ってもらうからね》
‹はい!わかりました!›
《菅野さんはホール担当だったよね?》
〔はい!そうです!〕
〈あ!そうだー前島さんって呼びづらいから、
ひなちゃんって呼んでいい?〉
‹えぇ!もちろんです!›
〈ひなちゃんは何仕上げたの?〉
‹レアチーズケーキとプリンと…この辺りの飾りつけを…›
〈へぇ!一騎が作ったものと見分けがつかないね
経験者?〉
‹えっと…バイト先で少し手伝っていたことが…›
〈どこで働いてたのー?〉
‹▲◯の喫茶 ひだまりっていうところです›
〈?あそこお菓子なんて置いてたっけ?〉
‹ご存知なんですか!?えっと…6年前だったと思うんですけど、お店を改装した時から始めたんです!›
〈そうなんだー!また行ってみようかなー
ね?一騎!〉
《…ほらほら、おしゃべりはそのくらいにして!
前島さん、菅野さんも今日からお店に立ってもらうからね》
‹あっ、はい!わかりました!では、準備してきます!行こう、菜々美ちゃん›
〔うん!失礼します!〕
菅野さんともう仲良くなったのか…
さすがひなちゃんだなぁ
人懐っこいのは変わっていないようだ
前島さんには製菓を担当してもらうけど
ホールで接客することで
どのケーキが人気かを把握して
新メニューの作成にも携わってほしいんだよね
これは追々、だけど
それより…
《おい!何踏み込んでんだよ…》
〈こわーい!そんな顔しなくたっていいじゃん
懐かしくてつい、ね〉
《…まったく 僕達も次の準備急ぐぞ》
〈はいはーい〉
さて…未来はホールに
僕はこれからショーケースの不足分と注文分も作るから準備に取り掛かった
【未来point of view】
素直じゃないんだから…
どうせ、ひなちゃんの顔見て
透子さんに似てる…とか思ってるんでしょー?
一騎の"透子さん愛"はすごかったからね…
周りにいたあたしたちも引くほどに
それなのに、なんでだろうね
もうすぐ付き合えそう?ってところで、
幼馴染みとキスしちゃって、それ見られたんだっけ?
バカだよねーほんと
本人曰く《あの時はどうかしていた》らしいけど…
それはそれで その幼馴染みに対しても失礼よね
…あたしにも
あたしと付き合ってるっていうのに…
ひなちゃんを見ているのか
ひなちゃんの奥にいる透子さんを見ているのか…
わかりやすいところは
一騎のいいところでもあるけど
あたしは、この半日で
そろそろ潮時かなーなんて思っていた
〈ふー 休憩だね 2人ともお弁当持ってきた?〉
〔いえ!何か買いに行こうかと…〕
‹わたしもです!›
〈じゃあ、お昼行こ!ほら!一騎!お財布持って〉
《え!?》
4人で近くのファミレスまでやってきた
2人はお互いの午前中の反省点やら良かった点を話し合ってメモしたりしている
今の若い子達って真面目なのねー
〈それで?まだ半日だけどどうだった?〉
‹とにかくあっという間で…でも、ケーキづくりも
お店での接客も楽しいです!›
〔レジの操作が難しいですけど、なんとかミスなくできて良かったです!〕
〈えらいねぇーあたしたちなんて、すぐ疲れたーとかだるー!とか言ってたわよね!一騎〉
《…僕は言ってないぞ》
〔お二人とも、仲いいんですね!?もしかして…その…〕
〈え?付き合ってるとかないわよ〉
《!?》
〔そうなんですかぁ?じゃあ…フリーですか!?〕
〈そういうことー!〉
《…》
〔ひなちゃんは?彼氏とか!〕
‹え!?いないよー!菜々美ちゃんは?›
〔私はいる…!〕
‹わぁ!ゆっくり聞かせて!›
2人がキャッキャ盛り上がってる時
一騎がこっちを見てたけど
あたしは何の反応もしなかった
まぁ、そうなるだろうとは思ってたけど…仕事帰りに呼び止められた
《どういうこと》
〈ん?なにがー?〉
《付き合ってないとか…隠していたいのか?》
〈いやーもうそろそろいいかなって〉
《…は?》
〈…あたしがわからないとでも思った?
一騎、ずっとひなちゃんのこと見てるよ
ひなちゃんを見てるの?それとも…透子さん?〉
《なっ…そんなわけ、ないだろ…》
〈一騎のことは好きだけど あたしたちこのまま終わりにしよう〉
《…》
無言かぁー
それが、答えってことね
〈じゃねーまた明日ー〉
《あ…っ》
さてと…
今日も疲れたぁー
帰ってビール飲んで…
あっ、ケンアッキーのチキンでも買って帰ろ
…
ケンアッキーに着く頃には
目が真っ赤になっていた
あーあ 好きなのになぁ
【一騎point of view】
正直、未来から言い出してくれて
ホッとした部分もあった
この10年
未来のことが好きだったはずなのに
前島さんに会った途端に
自分の気持ちがわからなくなってしまった
クズじゃないか…
あの時透子さんを傷つけた時と同じだ
もう誰とも付き合わない方がいいんだろうな
‹…さーん?安藤さん?›
《わっ…何!?》
‹そろそろ時間になりますよ›
《!ごめんごめん…》
何やってるんだ、僕は…
タイマーが残り1分をきっている
危なかった…
今日は克幸が焼菓子の方を手伝ってるから
僕がしっかりしないといけないのに…
前島さんのおかげで無事に作り終わって
あと10分で開店の時間だ
‹大丈夫ですか?体調とか…›
《ごめんね もう大丈夫だから》
‹よかったです!何かあったら何でも言ってください!役に立てるかわかりませんけど…頑張りますから!›
《…ありがとう ひなちゃ…あ、ごめん!》
‹いいですよ!呼びやすいように呼んでいただいて›
《…うん》
やってしまった…まぁ、でも…
未来も呼んでるし…いいよな
〈一騎!お財布持ってきて!〉
《またかよ!》
未来は別れてもいつも通りに接してくれている
気まずくなくて助かっている
〔じゃあさじゃあさ!ひなちゃんの初恋ってどんな人だったの?〕
本当に女の子は恋バナが好きだよなー
3人で盛り上がっている
‹えっとね…保育園の時に好きだったお兄ちゃんがいてね…!›
ん?お兄、ちゃん…?
‹ママと3人でぷいきゅあを見に行ったりして!›
《…ごほっ、ごほっ…あ、失礼…》
〈へぇー?お兄ちゃんねぇ…?大丈夫ぅ?一騎ぃ〉
《だ、大丈夫だから…!僕のことは気にしないで》
〔えー今は?会ってないの?〕
‹それが…突然いなくなっちゃったの…ママに聞いても、もう会えないかもしれないって…›
《…》
〔寂しいねぇ もしかして今でも好きだったり?〕
!!!
‹えっと…あ"ピピピピ…ピピピピ…"
〈あぁ!いいところだったのに!
時間よ!みんな帰るよー〉
‹はーい!›/〔はいっ!〕
…いいところ、だったな…
いやいや!何を残念がってんだ!
忘れられてるに決まってんだろ!
何考えてんだ!きもいぞ…
‹お昼からはお店じゃなくてケーキ作りなんですね!›
《うん 今日は15時と16時に予約も入ってるから》
‹わかりました!›
順調に作り終えていくと、ひなちゃんが突然
‹そういえば…安藤さんって、かずきさんっていうんですよね›
《ん?そうだよ》
‹…›
なんだろう?黙ってしまった
‹…あの…›
《ん?どうかした?》
‹あ、いえ…あ!こっちは終わったので洗い物して来ます!›
《え?うん、お願い》
…ん?なんだ?
「おーい、一騎」
《克幸 どうしたんだ?》
「前島さん、それ終わったら店頼むわ」
《聞こえてた?ひなちゃん、代わるよ
準備しておいで》
‹はい!お願いします!›
ホールに出るには制服に着替えなきゃならないから
大変そうだ
「あの子可愛いなぁ つか、何でひなちゃん呼びしてんだよ」
《…未来が呼び始めて、流れ?だよ》
「俺も呼んじゃおうかな」
《…》
「怖っ」
【未来point of view】
‹山本さん!お待たせしました!›
〈ひなちゃん、きたきた!お願いね!〉
‹はい!›
本当によく働く子ね
透子さんを見てるみたい
あの初恋話 もうちょっと聞き出したいなー
間違いなく一騎のことよね
っていうか忙しすぎー!疲れたぁー!
〔…やっと落ち着きましたね〕
〈疲れたね…あ、そうだ 菜々美ちゃん
こっちの片付けお願いしてもいい?〉
〔はい!任せてください!〕
‹お疲れ様です!わたしも片付けですか?›
〈ひなちゃんはこっちー!おいでおいで〉
‹はい!›
ひなちゃんを連れて倉庫へ向かう
明日の準備のために常温の材料を取りに行く
〈よーし!これでOK!ありがとうね!ひなちゃん〉
‹いえ!とんでもないです!あ、あの…›
〈ん?なぁに?〉
‹間違ってたらすみません…あの、わたし…山本さんに昔会ってませんか?›
〈あれ、思い出した?〉
‹やっぱり…!みーちゃん、ですよね?›
〈そ!久しぶりね!ひなちゃん!〉
‹ということは、その…›
〈"かーくん"のことも思い出したのね?〉
‹!やっぱり…そう、なんですね…›
〈どう?初恋の男に再会した気分は〉
‹夢みたいです…!お2人とも、あの頃と変わらずに
優しくしてくださって…でも、あの…›
〈聞きたくなった?突然消えた理由〉
‹はい…›
〈長くなるから…終わったらご飯行こうか!〉
‹え?はい…!›
〈じゃ、あとでね!〉
そっか…気づいたかー
ここはあたしが人肌脱いでやるか!
そうと決まれば…
【一騎point of view】
なんだよ、未来のやつ…
〈ごはんごちそうして!疲れすぎて倒れそう!〉
なんてRileしてきて…
待ってんのに、来ねぇじゃん…
‹え…あれ?安藤さん…どうして…?›
《え》
おい、まさか…
《もしかして…未来に呼ばれて来た?》
‹はい…›
《はぁ…アイツ…》
あ、Rile来てたのか
"ひなちゃん、一騎とあたしがひだまりで働いてたって気づいたよ
説明してあげてね かーくん!"
…あー
そっか…
《ひなちゃん》
‹は、はい…›
《気になってる話、しようか》
‹!!…はい›
《どーぞ 入ってー えーと、あったあった
今用意するからさ ご飯食べてってよ》
‹すみません…お邪魔します›
《てきとーに座って テレビでもつけてて》
‹あ…何かお手伝いできることは…›
《んー…じゃあ、味噌汁でも作ってもらおうかな》
‹はい!›
どうせ話は長くなるんだ
よその店でなんて話せないし、部屋まで連れてきた
いつも自炊をしていて
休みの日にはまとめて作って冷凍しておくようにしてるから、こういう時に便利だ
米が炊ける頃にはメインも味噌汁もサラダも出来ていた ちょうどよく作れたな
‹いただきます!›
《どうぞー召し上がれ》
今日はチキンソテー
下拵えして冷凍してあったから
やわらかく仕上がった
ひなちゃんが作ってくれた味噌汁は
豆腐にわかめに油揚げ 最高の組み合わせだ
‹おいしいです!›
《よかった 味噌汁もちょうどいいね うまいよ》
‹よかった…!›
《ひなちゃん、料理もしてたの?》
‹はい!妹たちのご飯を用意したりひだまりで手伝うくらいですけど…›
《妹…そっか、兄弟ができたんだね》
‹はい 妹と弟が…可愛いんですよ›
《耕平さんと透子さんも、元気…?》
‹はい!司さんと恭子さんも!›
《…!ひなちゃんが呼び捨てしてないなんて…》
‹もう…!あの頃は…子供だったから…!›
《はは…可愛かったよなーほんと》
‹…かーくん›
《…うん 気づいたんだってね》
‹どうして話してくれなかったんですか?›
《うーん…ひなちゃんが忘れてるだろうと思ったし
それに…あの頃の話しは…》
‹やっぱり…何かあったんですね…›
《僕が悪いんだ 透子さんを傷つけてしまって》
‹ママを…?›
《うん だから、ここに逃げてきたんだよ
どんな顔をして会えばいいのかわからないくらいのことをしたんだ》
‹…あの…もしかして…›
《ん?》
‹ママのこと…好きでした?›
《…うん》
‹…›
《あっ、今はさすがに何も思っていないよ》
‹…›
《引いたよな ごめん…》
‹違うんです…違うの…かーくん…›
《?どうしたの?》
‹…›
《…落ち着いてからでいいよ ご飯冷めないうちに
食べちゃおうか》
‹はい…›
ご飯も食べ終わって、片付けも終わって
《ひなちゃん コーヒーは飲める?》
‹はい›
《うん 座ってて 今淹れるから》
‹ありがとうございます›
《どうぞ》
‹いただきます…›
ひなちゃんは、フーフーしながらコーヒーをひと口飲んで ぽつりぽつりと話しだした
‹…あの頃、とても楽しかった
お店のみんなが優しくしてくれて
遊んでくれて…›
《…うん》
‹ぷいきゅあを見に行って、かーくんと踊ったのも
楽しかったしご飯を食べたのも…手をつないで歩いたことも覚えてるんです›
《そっか》
‹かーくんは…わたしの初恋の人なんです›
《…》
‹だから…突然会えなくなってしまって…淋しかった…›
《…》
‹でもまたこうして会えてうれしいです
…
これからもよろしくお願いします!›
‹うん…こちらこそ…よろしくね›
自分の母親を好きだった男、だもんな…
だけど、嫌われてはいないようで
少し安心した
これから一緒に働くってのに
これ以上嫌な思いをさせるわけにはいかないから
《ひなちゃんおうち、どこらへん?電車とか使ってる?送るよ》
‹あ…近いんで大丈夫ですよ›
《そうなの?》
‹はい…前の通りをまっすぐいったところにバス停があるでしょう?その前のマンションなんです›
《あぁ!あの新し目のところだね 確かに近いな》
‹そうです!セキュリティがしっかりしてるらしくて…›
《そっかそっか その先にコンビニあったよね
ついでだから送っていくよ》
‹ありがとうございます…!›
ついで、なんてないけど
心配だから…
‹かーくん›
《ん?》
‹そういえば…ぷいきゅあの歌と踊り上手でしたね!›
《!いや、あれは…!!》
‹ふふ…!今も歌えたりします?›
《…歌えるかも あっ、みんなには内緒だぞ》
‹はい…!ふふっ›
よく覚えてるなぁ 本当に…
あの頃のひなちゃんも本当に可愛かったなぁ
透子さんに喜んで欲しくて
ひなちゃんに優しくしていたらうまくいくかもって…
まぁ、そんな気持ちじゃ…
元から受け入れてもらえるわけなかったんだよな
‹かーくん、ありがとうございました
ご飯もおいしかったです ごちそうさまです›
《どういたしまして じゃあまた明日ね
おやすみ ひなちゃん》
‹はい!おやすみなさい›
…
さて
明日からは気持ちを切り替えて しっかりしないと
同じ職場の人間として
‹おはようございます!安藤さん›
《…おはよう》
あれ…かーくん、じゃないのか
いやいや…何を残念がってるんだ
職場だぞ!…これでいいじゃないか
《さて、今日はー…「お二人さん、おはよう!」
‹オーナー!おはようございます!›
「名前で呼んでよーひなちゃん」
!?コイツ…!
‹あ…はい…!泉さん›
「そっちじゃないんだけどなぁ」
《何か用か?》
「お前じゃなくてひなちゃんに用があんの」
‹はい、何でしょうか?›
「ちょっとついてきてほしいところがあるんだけど、ランチタイムに付き合ってくれない?」
なっ…どこに連れてく気だ!?
‹はい…大丈夫、ですよね?›
ひなちゃんが不安そうに僕の顔を見ている
《…どこに連れてくんだよ》
「ん?秘密!後でのお楽しみーあ、1時間じゃ帰って来れないかもー 後、頼むなー!」
《…》
手を振りながら焼菓子の方に向かっていった
‹…かーくん…›
《…大丈夫だよ 聞き出しておくから
さて!準備しようか》
‹はい›
ったく!!不安そうな顔させんじゃねーよ…
今すぐ問い詰めたかったけど…
ケーキ作りは時間との勝負だ
今日もちゃんと並べ終わったぞ…ふー…
ひなちゃんは洗い物をしてくれている
あ、克幸が戻ってきたな
《おい ひなちゃんをどこに連れてくんだよ》
「飯連れてくだけだっての!」
《不安がってたんだぞ…!》
「んだよ…ちゃんと時間通りに帰ってくるに決まってんだろ!」
《…》
「怖い顔してー…お前、好きなんだろ 彼女のこと」
《…!》
「そりゃ未来に振られるわなー 10年も一緒にいるが、そんな顔初めて見たもんな」
《…うるさい》
「否定しないんだなー ま、手なんか出さねぇから
安心しろって」
《…ちゃんと時間通り帰ってこいよ 仕事なんだ》
「はいはい」
…
《ひなちゃん》
‹はい›
《克幸、ご飯食べに行きたいんだって
ちゃんと時間通りに帰るように言っておいたから》
‹ご飯、でしたか…よかった…!›
《帰ってきたら、またケーキ作りだからね》
‹はい!わかりました!›
…保険をかけた
ケーキ作りがあると言えば
この子は帰ると言うだろう…
あ…
僕は何がしたいんだ…
彼氏なわけでもないのに…
「お前、好きなんだろ 彼女のこと」
アイツ…にやにやしてたな…楽しそうに…
余計なことを考えないように
次の製菓の準備に集中した
そして休憩時間
「ひなちゃーん 行こうか♪」
‹あ、はい…!安藤さん、行ってきます!›
《いってらっしゃい》
「じゃあなー!一騎ぃ」
…
はーぁ…
早く帰ってこないかなー…
〈なーに、黄昏てんのよ〉
《未来か…あれ、菅野さんは?》
〈菜々美ちゃんならご飯行ったけど?
かっちゃんと〉
《…は?》
〈オーナーとして、新入社員連れて飯だ!って張り切ってたわよ〉
《…やられた》
〈なにが?〉
最悪だ…アイツ…
二人っきりで行くみたいな感じ出して
僕の反応を見て楽しんでたんだな…!?
〈よくわかんないけど、ご飯は食べたの?〉
《あぁ…おにぎり食べたとこ》
〈そう 寂しそうにしちゃってー〉
《うるさいぞ》
〈まったく…元カノの前でそんな顔するとかさー〉
《あのなぁ…》
…ん?足音?
帰ってきたのかな
〔あ…ただいま戻りました…〕
〈おかえり!〉
《おかえりー あれ、ひなちゃんは?》
〔えっと…走って行っちゃいました…〕
《え?》
〔あの…元カノって聞こえてきて…その…〕
〈あ…〉
《…行ってくる》
〈あっ、一騎…!?〉
【未来point of view】
〔…あの…お二人って…〕
〈うん…付き合ってたよ 10年〉
〔じゅ…っ!?えぇ!?なんで別れちゃっ…あ!すみません…〕
〈ううん いいのよ あたし、もう前に進んでるから だからね、一騎のこと応援したいのよ〉
〔そうなんですね…えっと、応援って…?〕
〈んー…一騎が本当に好きな人と一緒になれるように!ってこと!〉
前に進んでる…
嘘ではない
本当は一騎のことが好き 大好き
でも…
うん
好きな人が幸せならそれでいいや
10年前…
彼氏に3股かけられて、大喧嘩して別れて
勢いでひだまりも辞めちゃって…
そんな時においしいケーキ屋さんがあるって聞いて…爆食いしてやる!!ってこの街に来たの
そしたら、一騎がいた
急にいなくなった一騎との再会にもびっくりしたけど すごく痩せていて…
話しを聞いたら、いろいろあったらしくて
言ったの
〈あたしと付き合ってみない?〉って
そしたら
《冗談言うなよ》って笑ってたんだけど
でもね
会ってるうちに…
まぁ、簡単に言うとセフレみたいな関係になって
そこから半年くらいした頃かな
《ちゃんと付き合おう》って言ってくれた
《未来が好きだよ》って
あたしは一騎が好きだったけど
一騎は…
…誰か…あたしを見ているようで
他の人を見ている気がしてた
何年付き合っても
好きだと言ってくれても
愛してるとは言ってくれなかった
そういうこともあって
結婚したいって言えなかった
ふー…
好きだよ ううん…愛してる
愛してるけど
もう自分に素直になってほしいよ
【一騎point of view】
どこ行った…!?ひなちゃんのことだ
仕事があるのに遠くには行かないはずだ
どこだ…倉庫か…?
いないか…
一応、調理場を見てくるか
《あ…いた…!》
‹安藤さん、お疲れさまです!›
あれ…そこには笑顔のひなちゃんがいて
午後からの準備に取りかかっていた
《…あ、いや…ごめん、遅れちゃったか…》
‹?まだ5分前ですよーもう始めますか?›
《うん…あ!今日の予約はバースデーケーキなんだ
あとで作るから、その時は見てて》
‹はい!›
…普通だ…いつも通りの、ひなちゃんだな
ショーケースの不足分を作ったり
他の予約のケーキを作ったりして
時間になったから
バースデーケーキに取り掛かった
《…よし!できたぞ…》
‹すごい綺麗…!›
バースデーケーキ
特別注文だったんだ 2段重ねのチョコレートケーキ
《ひなちゃん、これ 書いてみる?》
‹い、いいんですか…?›
《うんうん えーっとね
Happy Birthday さゆり&しおり
で頼むね》
‹はい!やってみます!›
双子のお嬢さんたちのケーキだ
チョコレートプレートに2人の名前を書いてもらった
…上手いもんだ
元々お菓子やケーキ作りは好きだと言っていたから
こういうのも得意なんだろうか
《上出来だよ!ひなちゃん お疲れ様》
‹よかったです!ふふ…!›
ふーっ…
今日は忙しかったな…
…あれは…勘違いだったのかな
ずっといつも通りだったけど…
‹安藤さん?›
《え?》
‹もう、終わりましたけど…帰らないんですか?›
《え!?あ…!帰るよ ありがとう》
‹やっぱり…どこか…体調とか…?›
《いやいや 大丈夫 明日は休みだし!》
‹よかったで…"ぐきゅるるる"…すっ!?›
《はは…ご飯でもどう?》
‹…はい…恥ずかしい…›
ひなちゃんを連れて部屋に帰ってきた
さーて、今日は何を作ろうか
…魚にするか
‹安藤さん、お手伝いします!›
《うん、ありがとう じゃあまた味噌汁でも頼もうかな 冷蔵庫から何でも使っていいよ》
‹はいっ!›
楽しい
2人で料理作って…新婚みた…
あ、いやいや!!
何考えてるんだ
はぁ…
‹かーくん?›
《へ?な、何かな…》
‹ため息ついてたから…›
《あ、違う違う 今日は疲れたなーってさ》
‹そうでしたか、よかった…›
《ねぇ、ひなちゃん》
‹はい?›
《昼間…その、聞いちゃった、んだよね?》
‹…すみません 聞こえてしまって…›
《別れたんだ》
‹…はい›
《…》
これを言って何になるんだ…
それでも
言わずにはいられなかった
《今日はサーモンフライだよ
タルタルソースも作ってあるから、どうぞー》
‹わぁ…!おいしそうです!!このタルタルソースはピクルスですか?›
《これはらっきょうを使ってるんだ 苦手だったりする?》
‹いえ!食べたことないんで…食べてみます!›
《口に合うといいけど…》
‹あ…っ おいしいです…!
あとでレシピ教えてもらえませんか?›
《もちろん 今日も味噌汁おいしくできたね
ほうれん草のソテーも作ってくれたんだ
ありがとう うまいよ!》
‹勝手にすみません…!›
《いいんだよ 助かる あ、それとここにいる時は敬語じゃなくていいよ》
‹でも…›
《楽にしてよ ね?》
‹うん…!あっ、かーくん›
《ん?》
‹明日はその…何か用事とか、ある?›
《いや?ないよ どうかした?》
‹じゃあ、一緒におでかけしませんか?›
《いいよ》
‹よかった!楽しみにしてるね!›
《僕も…》
…デート、だよな これ…
いやいやいや!変な意識すんな!
相手はひなちゃんだぞ…!
手を出していい子じゃないんだから…!
その後は
片付けして、また部屋まで送って
明日の約束をして帰ってきた
Rileの交換をしただけで
…こんなにワクワクするのは初めてかもしれない
明日は10時に迎えに行くことにした
遅れないようにしないと
…
風呂入って寝るか…
こちらの記事はnote様で同一名義にて投稿しております。
再編集して投稿しております。




