成瀬司の寵愛
【5年前】
〔え…っ!閉店っすか!?〕
青天の霹靂とはこのことか…
あんなに繁盛してたのにもったいねー…
でも、店長たちもご高齢だからな…
〔おい…お前らこれからどーすんだよ〕
『うーん…どうしようかなぁ』
〚ねぇ!お店やらない?あたしたちで!〛
〔…は?〕
恭子のその一言で、俺の運命は変わった
店探しから仕入れ先探し、慣れない事務作業なんかも多くて1年近くかかったが…
明日から、【喫茶 ひだまり】OPENだ!
なんて意気込んだものの…
〔客こねーなー…〕
『最初はそんなもんだよ』
〚チラシでも作って配る?〛
〔チラシなー…〕
『コーヒーの仕入れに行ってくるよ』
〔おう 気をつけろよー〕
客も来ねーのに、仕入れなぁー…
なんて、思ってたら
耕平が一人の女性を連れて帰ってきた
〔お、おい…その子、どうしたんだよ〕
赤ちゃんを抱っこしたその子は、
顔がやつれていて 泣きそうな顔をして
今にも倒れそうな感じだった
『飯、食わしてあげたいんだ いいよな?』
〔そりゃもちろん…〕
〚どうぞ、こっちに座って〛
「ありがとう…ございます…」
小さい声でそういうと、その子はふらつきながら
椅子に座った
『さぁ、お兄さん特製ハンバーグセットだよ!
お客様第一号だからね サービスしとくよ!』
「すみません…ありがとうございます」
〚ねぇ?その子、抱っこさせて?〛
「…え?」
〚耕平の作った料理おいしいから、ゆっくり食べてほしくて…だめ?〛
「ありがとう、ございます…すみません…」
〔見てぇ!司!この子可愛いわぁー…あ!笑った!〕
〔!!!!!〕
ちょ、ちょっと待ってくれよ…
なんなんだ、この感じ…
どう考えたって、お前のほうがかわ…
〚司?〛
〔あ、え?あぁ!かわいいな!〕
〚…寝ちゃった〛
〔なに!?よ、よし こっちの部屋でゆっくり寝かしてやろうぜ 座布団、座布団…〕
〚うん!…はぁ…可愛いわ…!〛
…ど、どうなってんだよ…これ…
意識しちまってだめだ 耕平のとこ行こ
〔どうだ?あれ…〕
『しーっ お腹いっぱいになったら眠っちゃったんだ よほど疲れてたんだな…可哀想に…』
耕平の上着をかけられたその子は、
耕平の胸の中で眠っていた
〔ずいぶんやつれてんな…〕
『うん…なんか、旦那さんが帰ってこないらしくてな』
〔ひでーやつもいるもんだ あんな可愛い子もいるのに〕
『あのさ、ちょっと2日くらい抜けていいか?』
〔…助けてやんのか〕
『そうしてあげたいなって』
〔なんでそこまですんだ?〕
『…どうしてだろうな?』
ふって笑った耕平は、それ以上何も言わなかった
それからの耕平の動きは早かった
兄貴が弁護士をしていて、助けてもらいながら
その子の離婚と慰謝料や養育費などの手続き、
接見禁止などの措置やアパートを探したり引っ越しの手続き、役所の手続きまで手伝ってあげたらしい
それをすべて1ヶ月ちょっとで終わらせたんだ
ちょうど、店も暇だったから
タイミング良かったよなーでも、すげーな まじで
惚れてんだなー
それからすぐに、その子が働くことになったんだ
その頃から口コミでお客さんも増えてきて…
〔透子!こっちできたぞ!〕
「はい!お待たせしましたーオムライスです!」
『透子ちゃん、食後のコーヒー3つね 3番さん』
「わかりました!お待たせしましたーコーヒーお持ちしましたー」
よく働く子で、1年くらい保育園が決まらなかったんだけど、ベビーベット持ち込んだり
ひなちゃんのことおんぶして仕事すんだもん
すげーなーなんて思ったもんだよ
そのベビーベッドは今でもお客さまが使えるようにって置いてある
こんなに明るくて元気な子だったなんて、あの時にはわからなかったからな…
保育園が決まった後も、迎えに行ったひなちゃんを連れてきて、店で飯食ったりしてたなー
そのおかげで、ひなちゃんも俺たちに慣れてくれて
こうちゃん、きょうちゃんなんて呼んでる
俺のことは、つかさって呼ぶんだけど…
この間も、<つかさーきたよー>なんて言って入ってきて、透子にひな!つかささん、でしょ!
なんて怒られてたっけ
だから、ひなちゃんに
〔ひなちゃんはとくべつだぞー!あとはすきなおんなにしかゆるさねぇからなー〕
なんて言ったら
恭子に〚…子どもに何言ってんのよ、ばか〛なんて
怒られるわ、耕平がひなちゃんの耳塞いでるわで
俺の扱い、ひでぇんだよなー
でも、この親子が元気に暮らしてんなら
それでいい
そして現在…
透子の他にも一騎や未来が入ってきて、
この店もますます賑やかになった
この体制もやっと落ち着いてきたなー
俺は、あれからずっと恭子が好きだったんだけど
透子のこと見てたから怖くてさ
愛し合って結婚しても 別れるんだなーなんて
まぁ、別れずに添い遂げられるかもしれないが
もちろん女遊びなんかしないけど、別れる理由なんてひとつじゃないからな
離れたくねーもん それなら、片想いでもいい
なんて 結局今のまま来ちまった
ある時、
俺の透子、なんて冗談言ってたら
恭子がこれみよがしに
〚耕平、あーん〛
なんてやりだして
『…んっ、さすがだなーうめぇ…あ、』
「あ…」
〔へぇーいい度胸してんなー?〕
『さ、さてと 豆挽いてくるかー』
〔耕平!こらぁ!〕
なんて追いかけて行ったんだよな
まぁ、怒ってないし、気になってたこと聞きたかっただけなんだけど
『悪かったって!すまん!』
〔怒っちゃいねーよ〕
『じゃーどうしたんだよ』
〔…透子のこと、諦めんの?〕
『…さぁね』
〔俺、お前とくっついてほしかったんだけどな〕
『そういうのは透子ちゃんが決めることだよ』
〔そうか…〕
〚きゃぁっ!〛
なんだ!?何があった!?
〔恭子!?どうした!?…あ?なんだよ そのツラは〕
〚司ぁ…〛
〔え!?どうした?ちょっとこっちこい〕
恭子を連れて事務スペースに来た
〔どうしたんだよ〕
〚ヤキモチ妬いただけ〛
〔…は?〕
〚いつまで耕平と2人でいちゃついてんのよ…〛
〔おい!お前変な妄想してんじゃねーぞ
やめろよな!〕
〚…だって〛
〔あ?〕
〚…あたしじゃ…だめなんでしょ〛
〔は?〕
〚全然…あたしのこと見てくれないも…〛
〔…っ〕
気づいたら抱きしめてた 見てねぇわけねーだろ
〚つ、司!?〛
〔恭子、お前さ 俺がお前のことずっと好きなの
知らなかったのか?〕
〚…知ってたわよ でも、手、出してこないじゃん〛
〔…出していいのかよ〕
〚当たり前でしょ あたしだって、ずっと司が…〛
〔なに!?〕
〚気づいてなかったの!?〛
〔…わからんかった…すまん〕
〚司、好きよ〛
〔恭子…俺も好きだ 離さねぇからな…覚悟しろ〕
〚うん 何年待ったと思ってるの 望むところよ〛
ご機嫌な俺は昼からもバリバリはたらいて
いつの間にか店が閉まる時間になっていた
『おつかれー』
〔おう、おつかれー〕
〚おつかれさま じゃあ、あたし帰るから〛
〔は?おい、離さないって言っただろーが〕
『待て!!そういうのは俺が帰ってからにしてくれ もう帰るから!』
〚あ、耕平!?
ちょっと司、なに?どういうこと?〛
〔俺んちに帰るに決まってんだろ?一緒に〕
〚え?〛
〔もう、離さないって決めたから 帰るぞ〕
〚…強引〛
〔離れたくねーんだよ いいだろ?〕
〚はぁ…しょうがないわね…ちょっと、あたしのうち寄ってよね…〛
恭子を連れて帰って、寝る準備して
あーなんかすげー幸せなんだけど
好きな女が俺の部屋で目の前にいるんだもんな…
〚…ねぇ、なに?さっきから!見過ぎ!!〛
〔お前さ…〕
〚なによ〛
〔すっぴんのが可愛いのな〕
〚ちょっと、やめてよ いい歳した女捕まえて…
恥ずかしいじゃない〛
〔好きだ〕
〚っ!〛
〔ずっと…こうしたかった〕
〚司…〛
〔大事にする〕
〚…ん〛
〔なぁ、結婚してくれ〕
〚…うん〛
〔…ずっと…俺の側にいてくれよ〕
〚ん、…そばにいる 司…〛
ーーーーー
はぁー…
『なんだ?ため息なんかついて』
〔恭子が可愛くてしかたねぇ〕
『…俺、焙煎行くわ』
〔おい!〕
『冗談だよ』
あれから、一騎が辞めて
1週間くらい店休んでる間に
シェフを探そうと思ったんだけど
やめた
このメンバーでいこうってことになったんだ
新しい人1人増やしたところで、今の規模以上の
お客さんをおもてなしできないしな
ゆったりやろうぜって決めた
久々の長い休みだった
恭子と旅行してさ
新婚旅行のつもりで行った
あいつ楽しそうだったなー
でも
〚あたしはやっぱり、あの店で司と仕事してたい〛
なんていうから
可愛いだろ?俺の妻はさ
耕平もずっと好きだった子と付き合うことになった
そのうち結婚するんじゃないかなー
いろいろあったが、丸く収まって良かったな…本当に
「おはようございます!」
〔おう、透子!おはよ〕
『透子、もう少し遅くてもよかったのに』
「早く耕平さんに、会いたくて…」
〔おいおい…一緒に住んでんだろ?〕
『可愛いだろう?』
「えへへ」
〔恭子も可愛いけどな〕
〚何張り合ってんのよ…〛
「恭子さん!」
〔あれ?どうしたんだ?〕
〚…司のそばにいたくて〛
〔恭子ぉ…〕
『透子、見ちゃだめだ』
「わっ?」
〔おい、なんでだよ!!〕
〚さ!ほら、遊んでないでやるわよ!下拵え!〛
「はーい!」
恭子も、朝から出てくれることになって
店でも家でもずっとそばにいられる
にやついちまうけど
でもよー可愛すぎて、愛おしくて…困る
俺…どうなっちゃってんだ
よし 時間だ…今日もやるかー
〔よし!店開けるぞ!〕
「はーい!」
〔ようこそ!喫茶 ひだまりへ!〕
タイトル〘成瀬司の寵愛〙
君の色気にあてられて.司視点 Fin…
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