八 服とアクセの新調
お店は、予想してたのと全然違った……。
「マリアン、ほんとにココで合ってる?」
ショーウィンドウに飾られてるドレスは、素人目に見ても超が付く高級品。
「そうよ~?」
そうよー、じゃないのよ……。
シルクに本物の金糸に銀糸、複雑な刺繍にレース……こんなの着てる人、街に居なかったけど?
「……うそでしょ」
マ? じゃなくて、素で普通に言っちゃうくらい引いてます。
「ほらほら、ボーっとしないで入りましょ」
え、なんかおかしくない?
あーしの服買うならお店が違――
なんて言う間もなく、手を引かれてしまった。
入るしかない。
公爵のお屋敷ほどじゃないけど、扉も豪華な彫り細工が施してある高級店に。
あー分かった。あーしと年の近い貴族の子に贈る用だ。代わりに着せてみて選ぶやつだ。そうに違いない。
なんだ~、最初からそう言ってくれたらいいのに。
――カランコロン
あー、ドアベルの低い音が心地いい。
「いらっしゃいませ」
おおー。揃った歓迎の声が、高い天井でもバラけてないじゃん。これまた落ち着いた物腰でレベル高い。
その中でも、店長さんはひと目で分かった。
店内に飾られたきらびやかなドレスよりも、他の若い店員さんたちよりも、お店の真ん中に立つその人に自然と目が行ったから。
ちょっと高齢だけど、凛としたマダム。
ダークレッドの落ち着いた印象のドレスに、腰ベルト。そのベルトに、ハサミやら針入れが掛かってる。
職人然とした佇まいがすごくカッコいい。
「ロシュフォール公爵家のマリアン様と……お嬢様。本日はいかがいたしましょう」
しゃがれた低めの声と、余裕のある雰囲気がまた良き。
てか、あーしのことお嬢様だって言った。
他にお客さんが居ないのも気になるし。予約制みたいな感じ?
装飾多いのに、エレガントに見えるドレスがいっぱい……。
「ごきげんよう、マダム。この子のドレスをいくつか作ってもらいたいの。普段着用が数点と、お茶会用なども数点」
「ふむ、公爵様にこんなに可愛い娘さんがいらっしゃったとはねぇ」
「しばらく預かることになったんです。公爵家の保護下にあると示すものをお願いね」
――え。預かるってことは、やっぱあーしの服作る感じ?
いやいや! 数点と数点て、こんな高級店でどんだけ作ってくれんのよ!
あとお茶会って何?
あーし、住み込みバイトの感覚で居たからそもそも場違いなんですケド……。
「ふ~む……艶のある黒髪に黒い瞳……。ひと際白い肌。何でも似合いそうだねぇ。よし、任せてもらえるかい?」
「ええ。とびきりの物をお願いね?」
「もちろんさ。どれ、採寸しちまおうねぇ」
こ、これは一回、ストップしてもらわないと!
「ね、ねぇマリアン、ちょっとちょっと!」
ナイショ話するからちょっと屈んで~って、口元に手を当てて手招きで通じる?
「あら、なぁに?」
通じた!
「(あのさ、あーしの服だったらもっと普通のでいいと思うんだけど! こんな高級店ダメだって!)」
「あーし?」
「(あ、ごめ。ねぇわたしの服なんて、こんなとこでダメだってば)」
「ダメじゃないわよ。ほら、採寸してもらいましょうね」
あぁもう、公爵家の基準が分かんないよ!
縫製前のどの生地見てもさ、絶対にシルクだよツヤツヤしてんだもん。刺繍もショーウィンドウのやつ見たでしょ? 滅茶苦茶複雑で綺麗だったよ?
これ後で法外な請求されたりしない?
絶対払えないんだけど!
「さ、お嬢様ちょいと失礼するよぉ」
あーし、前世でもブランド服とか買ったことないんだけど。てか貧乏女子コーセーはクマムラか、っぽい店くらいじゃん。それがこんな……金持ちしか行けないようなお店……。
「終わったよ。それじゃ出来次第、お届けにあがるね。まとめてより、仕上がった順に届けた方が良さそうだねぇ」
え、メジャーあてられた感も顔が近い感じもなかった。いつの間に採寸されたん……?
「助かります。お代は前金でこれだけ。残りは最後にお渡しでいいかしら」
「前金でそれだけあれば十分だよ」
だめだ、会話が雲の上過ぎて。
話が勝手に進んでっちゃう。
「じゃ、エルフィオラちゃん。隣のお店に行くわよ」
「はーい……。って、えぇ?」
な、何のお店?
「隣は今日、良い石が手に入ったって言ってたよ」
マダム店長さん、良い石ってなによ……ヤな予感しかしない。
そして、手を引かれて連れてかれたのは、まごう事なき宝飾店だった。
鉄の扉が物々しいから、まさかねーって思ったんだけど。
一見さんお断りのお店だよねこれ。
「いらっしゃいませ!」
ここの店長さんは声大きめの、黒スーツの髭オジサンだった。茶色い髪をオールバックにしてて、背が高くてムキムキしてる。
ちょっと香水きつめだなぁ。一人でやってるっぽい。
お店はこじんまりして圧迫感あるけど、カウンター兼ショーケースの中には見た事ないようなでっかい宝石が付いたネックレスとか、そういうのが並んでる……。
これ見ちゃうと、目が吸い寄せられて部屋の狭いのが気にならんくなる。正直、本能的に釘付けになっちゃうよね。
魔法で宝石を照らしてるみたいで、キラキラがさらに輝いて目に刺さるし。それを避けるとまた別のアクセを見ちゃう、みたいな。
ていうか、今からコレ系のアクセ買ってもらうの?
あーしに?
うそだよね。うん、これはさすがにウソだと思う。
「可愛いお嬢さんですね。公爵様の隠し子ですか?」
「ラーキンス。滅多なことを言うものではないわ」
「ハハ、これは失礼。で、どういったものをお探しでしょう」
「この子に合うネックレスと腕輪を数点ずつ、それとティアラも見せていただける?」
「もちろんです。あと、まだ加工前の……最上級のルビーが入ったのですが……」
「それも」
「承りました。少々お待ちください」
また! 話が勝手に進んでっちゃう!
あーわかった。これ夢だ。
まだあのフッカフカのベッドで寝てるんだわ。
お嬢様みた~い! とか思って寝たから、こんな……。
あーしにも、夢見る少女的な願望とかあったんだぁ。
わりとまじでウケる。
「エルフィオラちゃん? お買い物終わったわよ。帰りましょうか」
「あ、はーい」
夢、ゆめ、これはユメ。
「商品は出来次第お届けに上がります! ありがとうございました!」
オールバック髭店長、元気良すぎ。
馬車が出るまで見送ってくれるつもりか……。お店の前でムキムキの長身がめっさ笑顔でこっち見てて、ちょっと気まずいんだけど。
乗り込む足が、緊張してぎこちなくなるじゃん。
てか、これはいくら使ったか、せっかく夢なんだし後で聞いてみよ。
「エルフィオラちゃん。ドレスが出来たら、街のカフェとかも行ってみましょうね」
「え、いいの? すっごいアガる! 楽しみ~!」
カフェはさすがに、普通のお店だよね?
盛りラテとかは無いだろうけど、異世界カフェはめちゃ興味ある! マストで行きたい場所だわ~。
「あ、それでさマリアン。さっきのドレスと宝石、いくら使っちゃったの?」
横並びに座ったマリアンを、こうして見上げるの好きだなぁ。美人て見てるだけで幸せな気分になるよね。
それが隣に座ってるんだもん。最高かよ。
「そうねぇ……ざっと金貨百枚くらいかしら。一応、控えめにしたわよ?」
――ん?
「へぇ~……。ちなみに、金貨一枚って、どのくらい?」
金貨かぁ……元の世界だと、記念金貨で十万円とかだっけ。
――え、ヤバくない? 百枚で、せん……まん?
「金貨一枚あれば、平民だと数カ月は暮らせるかしら。あでも、そんなの気にしないでいいからね。公爵家が沢山使うことで、街の経済が回るんだから」
「へ、へぇ~……。数カ月が、百回……。へぇ~……?」
待って待って。それ、あーしのために使ってくれたってこと?
いやまぁ、夢だからいーんだけどさ。
でもやっぱ、ついてけないっていうか……使い過ぎでは?
「百世帯って考えると、大したことないでしょう? この街には一万世帯以上が生活してるんだから」
一万世帯って、結局何人家族が一万なのカナ……?
「……多すぎてちょっと、わかんない……」
とにかく、なんか話を逸らされた気がする。
ヤバい買い物したのは事実だし、もうこの夢は起きたら忘れててほしいなぁ……。
「そうね。家庭教師も明日から来てくれるはずだから、数のお勉強もしましょうね」
「う、うん」
あーし、仕事のお手伝いするって言った気がするんだけど、どっちがメインなんだろ。
バイトの感じで勉強メイン? なワケないか。お仕事メインで、字は教えてもらわないとだから余った時間で勉強だよね。
「マリアン。お屋敷に戻ったら、お仕事手伝える? 邪魔になんないようにするから」
「まぁ……そんなこといいのに。それよりお風呂の時間もあるし、先ずは夕食を頂きましょうね。今日はレオナイル様も同席されるはずだから、食堂に案内するわね」
「あ、そなんだ。それじゃ、明日こそ早起きするから手伝わせてね?」
「フフ。それはまだ分からないけど……旦那様に確認してみるわね」
なんだなんだ? 夢だからって、話がよく分からん流れになってるんだけど。
てかこの夢、長いな……。
「ね、マリアン。ちょっとわたしのほっぺ、つねってみてくれない?」
そろそろ起きて、お手伝いしないとだしね。
「え、玉のようなお肌にそんなこと出来ないわよ」
「そこを何とか! ちょっとこう、寝た子を起こす感じでギューっと」
「えぇ? よく分からないけど、眠いの? すぐに着くから、寝ちゃっても困るわねぇ」
そう言って、隣からそーっと伸びてきた手が、ほっぺをギュっと――。
いや痛くないんだが?
「もっと強くお願い」
「変なエルフィオラちゃん。でも、このモチモチ感、クセになりそう」
おお、きたきた、痛くなってきた――!
あれ? 起きないねぇ。
イタタタタ、なんで目が覚めないの?
「ねぇ、さすがに痛いんじゃない? これ以上はもうダメよ」
「起きない……なんで?」
「何言ってるの?」
「え、これ、夢じゃない感じ?」
「お買い物、ちょっと疲れちゃった? 今日は早く寝ましょうね」
うそ……。
いやいやいや。
まじ?
「えっと。金貨百枚って、どのくらい働いたら返せるかな」
「何言ってるのエルフィオラちゃん。旦那様のご意向なんだし、そんなの考えなくていいの。見返りに何かしろなんて言われないから、大丈夫よ?」
夢じゃないんかーい!
ヤバいよヤバい!
「そうだとしても、そういうわけには……」
いかないじゃん!
「フフ。小さいのにエライのね。その気持ちだけで十分よ? その分、旦那様にドレス姿を見せてあげてね?」
「そ、そんなの当然だけどさぁ。あぁ、もう、どうしたら……」
「フフフフ。可愛いわねぇ」
ダメだ、この人話が通じないよ――。
くそう。
こうなったら……意地でも返せるように、色々がんばるしかない……。




