六 生活の礎
これ、ほんとに鏡を見てんの?
案内されたお部屋の、ベッド近くの姿鏡。実は縦長のテレビとかじゃなくて?
小さい顔に大きな目。長くてふさふさなまつ毛。
付けマなしってマ?
小高い鼻もちっちゃい口も、人形みたい。
ずっと見てられるわ……これがあーし?
信じられん……。もしかして、竜の時も可愛かったのかな? いやカワイイ竜ってどんなよ。
それにしても。ほんとに十才くらいに見えるよ……。
いやそれよりこの肌、マリアンより白い? 透き通るみたいって、こういうの?
スマホがあったらなぁ。盛って撮るのに。
このおっきな目と長い髪は黒くて日本人みたいだけど……竜の時の体みたく、角度で銀色に見えるわ、さすが黒竜。
逆に変なとこ――角とか尻尾とか変化しきれてない場所――は無いね。良かったぁ。
でも、あ~あ。じょしこーせーだったのに。胸はペタンコじゃん。
んじゃあれか、竜の時もあれで十才くらいだったんだ?
「まあまあ、鏡に見惚れちゃって、かわいー」
とか言いながらの、髪の毛めっちゃ手早く梳いてくれてたんだけど。ササッとゆるいお下げにするのも一瞬だった……。
「あ、いや、ほんとに小さいなぁって」
ちなみにこの部屋。予想通りめちゃ豪華。
ベッドには天幕? が付いてるんだぜ……。そのすぐ隣には別の鏡台も。
絨毯はふっかふかで足が気持ちよくて、しかも高そうな模様が入ってるし。
壁に並んだアンティークな感じのチェストもカワイイ。テーブルは大理石かな……本物初めて見た。ソファは見るからにフカフカだろうし、どっちも触ってみたいなぁ。
クッションも足置きもあって、まじで至れり尽くせりなお部屋だわ。
「小さいって、そりゃあエルフィオラちゃんは子どもだもの。おかしなこと言うのね」
あ~! しまったまた変なこと言ってるよねぇ!
「えと、姿鏡とか久しぶりに見るっていうか」
ってもう傷の手当終了。首のケガ、全然痛くなかった。
「あぁ……そうよね。そうなのよね。遠い所から苦労してきたのよねぇ。よく無事で辿り着いたわ。エルフィオラちゃんエライ!」
「あ~、その、いや――」
このウソ、めちゃ悪い事してるみたいな気になるじゃんね……。
って、体の採寸もしてる……マリアンて何でも出来る系なのかな。
「――えっとさ。全然気にしないで! ほとんど覚えてないから、辛いとか思わなかったし! 楽しかった気がする! うん!」
「あぁ……なんて健気なの。そういえば、ご両親とか、他の大人の人は……?」
あー、そうなるよねぇ……。
「えーっと、覚えてなくて……ごめん」
「ああごめんなさい! 私の方こそ馬鹿なことを聞いて……。ここに一人で居る意味なんて、聞かなくても分かるようなものなのに。本当にごめんなさい」
ちょ、マリアンさん泣き出しちゃったじゃん!
うわーん泣かないでよぉ。
「いや! ほんとに大丈夫なんだよ? 忘れて忘れて! 気にしないで~」
困る~! これまじで何て言えば正解?
ウソも嫌だけどほんとのことなんて言えないよね?
転生して竜になって、そんでもって人化の術でこうなりました~!
って、そんなの頭おかしいわ。あーしがそう思うんだからさ。
「あぁ……ほんとにいい子。ここでは皆に、いーっぱい甘えていいんだからね? 明日、従者のみんなにも紹介するから。絶対に目一杯可愛がってくれるから」
「わ~……気持ちは嬉しいんだけど、甘やかさなくていいから。ね?」
元は高校生だったんだし、恥ずかしいが勝っちゃうし。
「いいからいいから。子どもは遠慮なんてしなくていいの。さ、出来ました。間に合わせのお仕着せでごめんね? 寝間着はシュミーズ、私のお下がりだけど持って来るから。あとは明日、レオナイル様にお洋服買っていただきましょう。それじゃゴハン運んでくるわね」
お話してる間に、服の寸法合わせまで終わっちゃった。
黒のメイド服って、実は着てみたかったんだよね。仕事着という名のドレスみたいでさ。
「ありがとう。なんか、お姫様みたい」
「ハッ……。そうね! そうしていただきましょう! 後見人とかになってもらえば、家族みたいなものだし!」
家族――?
あれ? その言葉を聞いただけで、めっさ鳥肌立ったんだけど。
家族は、嫌だ。無性にそう思う。
何この感じ。お風呂上りだからじゃなくて、背中にドバッて汗かいた。
体の底から、虫唾が走るみたいな感じがする。
「――嫌」
「え?」
うん。やっぱりイヤだ。
せっかく、あーしのために言ってくれてるんだろうけど……。
「ごめん。……ごめんなさい。でも家族は絶対に嫌。ムリ……」
ますます変な子どもだよね。
でも、自分でも分からないんだよ。
だけど絶対に無理。その言葉も聞きたくないくらい。
「そう、なのね。分かったわ。勝手な進言はしないようにする。今エルフィオラちゃんが嫌だって言ったことも、伝えておくね。旦那様は理解してくださると思うから。それに、エルフィオラちゃんにとって悪い様にはしない方だから、それだけは安心して?」
こんなワケ分からん子どもに、そこまで心を砕いてくれなくてもいいのに。
そんな風に、しゃがんで目線合わせてくれなくても……。
「ありがとう……。自分でも、よく分からないんだ。迷惑かけちゃうのもイヤだから、明日にはここを出るね」
「え! 何言ってるのエルフィオラちゃん! 迷惑とかそんなことないのよ? あなたをこのお屋敷に住まわせることなんて、公爵である旦那様にとったらアクビするのと変わらないくらい、大したことじゃないんだから。そんなこと言わないで? ずっとここに居ていいの」
それはさすがに申し訳なさ過ぎるでしょ――。
って、公爵ってめちゃエライ人じゃなかったっけ。違った?
あれだ、この世界は貴族とかが普通に居るんだ。
「じゃあ、あーしも働く。色んなバイトしてたし、ちょっとくらいなら役に立つはず」
「……バイト? よく分からないけど、あぁもう。よしよし……。うん、とにかく今は、ゴハン食べよう? 疲れたでしょう」
ハグされちゃった。
んでめっちゃ頭撫でるし。
髪の毛セットしてくれた直後ですケド。
「ふふっ。ウケる……。ごめ、なんか急に落ち込んだみたいなっちゃったね。あーし、基本ゲンキな方だから、もうだいじょぶ」
「そう……。うん。じゃあ、運んで来るからちょっと待っててね」
「ありがとう。でも、ここで食べていいの?」
こんな豪華な部屋で食事とか――。
「そうよ。今日からエルフィオラちゃんのお部屋だから」
――していいんだ?
ていうか。いつの間にそんなことになってたん?
住み込みって、寮みたいなとこで相部屋とかのイメージだったけど。まぁ……こっちの常識はおいおい覚えていこう……。




