三 森の主
森の主探して一日め~、はハズレ~。
ていうか、奥の奥行くのにバテるまで飛んでたんだ。
ゴハンは向かってきてくれた鹿みたいなやつ。逃げたら追わないつもりだけど、やっぱりごちそう君は激ウマ! いっつも思うけど、角がカッコイイから集めたいんだけど置き場所が無いんだよね。
森の主探し二日目! も、ハズレ~。
わりと森平線くらいまで来たくらい、飛んだんだけどなぁ。ウソだけど。
もしかして通り過ぎてもヤだから、ちょいちょい地面に降りてしばら~く歩いてんだよね。もうすぐ日が暮れそうだから、ゴハンも探さないとだし。
とか思ってたら、あちこちにスズメちゃんたちは居るもので。懐いて寄って来てくれるわけじゃないけど、鳴き声ってゆーか話し声にヒントがあった。
「ヌシさんきょうはキゲンわるかったね」
「わるかったー」
って言ってた。
この近くに居るっぽい。
チュンたちはそんなに遠くまでナワバリ広くないから。
だからなんとなくだけど、この辺に居る気がする。
で、ニオイとか聞き慣れない音とか、そーゆーのを気にしながら地面を歩いてたんだけど、明らか雰囲気違うなーって方向がある。
そっちに行くほど、木に爪でえぐったみたいな痕があちこちにあるし。こう、木に爪を引っかけてジャンプしたみたいな。
爪と爪の間がけっこう広いから、片足だけで……え、四十……五十センチくらいある?
いや~、そんなでっかい足の魔獣とか居るの?
あれだ、両足揃えて引っかけたんだ……って、思うことにしとこ。
でもどんなヤツだろ~?
木を登れるとかだったら、猫系とか。いやクマも登れるって聞いたことあったなー。あ、同じドラゴンかもしんない?
だとしたら、強い……よね。
まさか、上から降ってきたり――
って上を見た瞬間だった。
巨大な白い影が見えた気がして、体がゾクっとした。
なんかわかんないけどヤバい。
――と、足元にドン!
って衝撃があって地面が弾けた。
「お前、私の初撃を躱すとはなかなか勘が良い」
いつの間にか、目の前に真っ白な壁があった。
違う。
白い毛皮。巨大なもふもふ。でも、青白いイナズマみたいな模様が、そのふっっとい手足にある。たぶん、見えてない背中にも続いてる。その体に添わせるみたいに巻かれた、太くて長い尻尾にも。
あれだ。前足を揃えた、エジプト座りとかいう――。
それを見上げたら、シュッとした感じの美猫の顔があった。
パッと浮かんだのは、メインクーン。その何十倍も大っっきいけど。
オレの心臓が、バクバク音を立ててうるさい。
血の気が引いてるんだと思うくらいゾクゾク寒気がするのに、けたたましいくらいに心臓が鳴りやまない。
「竜種だったか。私の縄張りで勝手にメシュラシュを狩っただろう。まだ幼体だが、きついお仕置きが必要だな」
鋭い縦長の瞳孔。鮮やかな青の目。それが淡く光って見える。
めちゃくちゃ睨まれてる……。
「どうした。声も出ないか」
こいつと戦うとか、ムリそうなんだけど。
膝が笑ってるかも。ううん。動かない。
さすがは、森の主……って、そんなこと思ってる場合じゃない。
ああそうだ、その、メシュなんとかって、何?
「ぐあるるるる……」
「お前が食った牡鹿だ。三角形に枝分かれした角が特徴的だったろう。あれは私のものだった」
それは、ごめんなさい。でも、あんたを探してたんだよ。
「ぐあぉぅ。ぐぅるるるる」
あぁ、やっと慣れてきた。動けそうな気がする。
しびれたみたいになってた手足に、感覚が戻ってきた。
「私を? だが、その前に躾けてやらないとね」
あれ、この巨大猫、女の人の声だ。
そんな事にようやく気付いた時、目の前の前足が――彼女の右手が動いた気がした。
目の端には、それがしなるようにしてオレの顔目掛けて飛んできたような。
爪は出てなかったと思う。
自分では、どうやって動いたのか覚えてない。
でも、それには当たらずに済んだ。
いつの間にか、彼女の右側に移動してた。
「これも躱すか。お前、見えているのだな。小賢しい」
これって……攻撃されてるんだよね?
……は? いきなり?
そういえば、最初の地面が弾けたのもそうだったんじゃん。
あー、なんかムカついてきた。
鹿はゴメンだけど、こっちもゴハン食べなきゃだし、縄張りとか知らないし! 向こうから襲ってきたのしか食べてないし!
「ぎゃるおおおおおおおおん!」
やってやろうじゃんか!
なんとなく見えてたし!
やれる……はず。
「私とやろうってのか」
こっちもいきなり行ってやる。でも、爪を出さないでくれたから、こっちも出さないであげる!
となると、グーぱん!
横っ腹に一発、お見舞いしてやる~!
「愚かな。力の差も分からない程度か」
そんな悠長なことを言ってるうちに、もう一発――って、あれ?
ぜんぜん届いてない。
巨大猫に、体が全く進めてなかった。
うそ。
尻尾だった。彼女の尻尾がオレのおなかを押してて、それだけで押し止められてる。
てことに気付いた瞬間だった。
体が空に向かって――飛んだわけじゃないのに――吹っ飛ばされた?
あぁ、やばいなこれ。横っ腹、めっっっっちゃ痛い。
普通に木の上よりさらに、ある程度森が見渡せるくらいまで、体が横に曲がった状態のままで飛ばれてしまった。
たぶん尻尾で思いっきり殴られたんだと思う。だってあいつ、また前足が揃ってたし。後ろ足なんて普通に座ってた。
……手も足も出なかった。
あんなのってあり?
大きさが違い過ぎるし、反則じゃん。
でも、このまま逃げる。
飛んで逃げれば追いかけて来れないよね。
痛い。
おなか痛いよぅ。
って、いま何か、頭を掠めてったけど?
えっ! 石じゃん!
オレの頭くらいあるめっさデカい石が、木の枝とかを吹き上げながら飛んできてる!
あんの根性ワル猫! オレのこと殺すつもりだよね?
全力で飛ばなきゃ!
……くそう!
いつか倒しに来てやるから!
「ぎゅあああああるるうぅ!」
まじで最悪。
黒竜のオレは最強のはずなのに!
あぁでも、とりまもっともっと離れなきゃ。
寝床まで帰る。
いや……もしも後を付けられてたら……チュンたちも危ない。
どう? 追って来てる?
ってマジで来てる!
デカい石がさっきと同じくらいの距離から飛んできてるじゃん!
さっきの場所からだいぶ離れたはずなのに。絶対しつこいヤツだあいつ~。
どうしよ?
一旦進路変えて、それから――
そうだ!
人間の街の近くまで逃げよう。
そしたら、きっと面倒事になるのを嫌がって帰るはず。
ほんと最悪――。
**
はぁ……。
途中から、石は飛んでこなくなったけど……一応、街の近くまで逃げたよ。
チュンたちを危険にさらすなんて、出来ないからね。
こっちはこっちで、人間に見つかりたくないけど。しばらくはこの辺で静かにしとこう。
街まで歩いて一日くらいの所まで来ちゃったから、ほんとは離れたいけど……もう夜だし。
あぁもう。オレってば図に乗ってた。調子に乗ってイキってました。
くそ~、恥っっずいなぁ。
今日はどうしよ。おなか減ったけど、ゴハン探しにウロウロして、人間に出くわすのも嫌だし。
まぁ、オレは夜でもわりと見えるんだけど。でもなんでか白黒に映るから、見にくいんだよね。
殴られた横っ腹も痛いし、大人しく明日の朝まで待とう……。
「こっちに魔力反応! なかなかの大物ですよ団長!」
「こんな街の近くにか。魔獣捜査に出て正解だったな」
――え?
この声って、もしかして……。うそでしょ?
今日は厄日じゃん。
なんでこんな……。
「居ました! 距離五十! ドラゴンの幼体です! こいつが森の異変の原因でしょうよ!」
うそ!
見つかった――?




