三十六 これもひとつの大団円?
ミリィとレオナイル様が手合わせをした後、あーしたちは呼び出されるものだとばかり思ってた。
だって、ミリィの正体がバレたことに対して、絶対にお咎めがあるはずだから。
でも、その日もその次の日も、何もなかった。
晩餐で顔を合わせても、いつも通り多少は不機嫌そうなだけだった。
かと言って、こっちからミリィの正体について話をするのも絶対にヤブヘビだし。
国王への謁見のために、王都に行くって話だけがちょっとずつ迫ってる。
それまでに、ミリィの礼儀作法も急いで習得させるとか、あーしのおさらいもしなきゃだとかで、貴族生活がまた進んで行く。
「結局さぁ、ミリィの勘違いだったんじゃない?」
談話室でお茶会の練習中に、ちょっとだけ二人になる時間が出来た時に速攻で聞いた。
「そんなはずはない。私に、先約があるかと聞いた時点で確定だ」
「その先約って何の話?」
「……お前の母親だ。森にお前を落として行った時に、私に無理矢理押し付けて行ったんだ。良いと言うまで、この子をお願いね。とな」
「はい?」
「いかに私とて……あの黒竜に睨まれたら……頷くしかない」
「なんか、ごめん」
「この話は終わりだ。だが、強い魔物同士では、こういう事はよくあるからな。だからあの男は、私にお前を押し付けようとして、先約があるのを悟ったのだろう。私がわざわざ、お前のような幼竜のお守りなどするわけがないからな」
さり気なく自分も上げるじゃん。
「って、先約ってただの押し付け合いの話だったん?」
「フッ。まぁそういう事だ」
「ヒドくない?」
やりたくないけど仕方ない、みたいな空気出さないでよね。
せっかく仲良くなれた? のに。
あと、ママ竜ってあーしを気にかけてるわりに、育児放棄してるよねぇ。
それか、ライオンが子どもを谷に落とす、みたいなやつ?
「ともかく、話の流れ的に、お前のことも確実にバレていると思う」
「……信じたくない。そう思ったらめちゃ気まずいし」
でも、じゃあいつから気付いてたんだろ。
少なくとも、森に行った後からとしても……なんで何も言って来ないんだろ?
**
それから一週間過ぎても、やっぱりレオナイル様は何も言ってこなかった。
でも、こっちはバレてるかもって思いながら、ヤキモキしてるわけじゃん?
態度にも出ちゃうよね。
こう、目を合わせづらい、みたいなさ。
そりゃあマリアンだけじゃなくて、ユリーシアにもおかしいと思われるわけで。
「エルフィオラちゃん。旦那様と何かあったの?」
「そうですわよエルフィオラ。それで隠しているつもりなの?」
談話室でのお茶会の練習が、もはや尋問みたいになってる。
「そう言われても……」
言えるわけないし、ね。
「んー。しょうがないわね。こうなったら、レオナイル様にきちんとお話していただきましょう」
「え、やだ。こわいじゃん」
「エルフィオラ、言葉」
「うっ……ごめんなさい」
マリアンはそんなこと言うけど、何話すってのさ。
ユリーシアにも相談できないし。
八方ふさがり過ぎる。
でもそんなことを悩む間もなく、マリアンに執務室まで連れてこられてしまった。
なんでかユリーシアも一緒だし、ミリィも呼ばれた。
え、なんで関係者揃えちゃったの?
ミリィ呼ぶとかおかしくない?
頭が混乱したまま部屋に入らされて、あれよあれよと作業机のイスに座らされて、マリアンは執務机に居るレオナイル様に、何か耳打ちしてた。
なんでか分かんないけど、レオナイル様とマリアン、あーしとミリィとユリーシアの構図になった。
「まさか、こんな事になるとはな。俺も予想外だった」
口火を切ったのはレオナイル様。
「だが、何から話すか……」
「旦那様、先にエルフィオラちゃんに教えてあげましょう。森から帰ってずっとそわそわして、可哀想でしたから」
「……そうだな。それが早いか」
え、なに?
あーしが白状するんじゃなくて、そっちから?
「エルフィオラよ。お前が黒竜の幼体であることは、最初から分かっていた」
「…………は?」
「なんだと?」
「えっ? エルフィオラが、何ですって?」
あーしを筆頭にミリィもユリーシアも、たまげるよねぇ。
「最初に出会った時から、人化した姿だと分かっていた。と言ったのだ」
「はいいぃぃぃぃ?」
あーしの絶叫が響き渡って、ミリィは耳を塞いでた。
ユリーシアは、ぽかーん、てしてる。
「あの時、お前の人を気遣う戦い方は不慣れなせいかと思ったが、どうやら手加減をしているらしいと踏んだ。そして人化で人に紛れようとする様を見て、これを育てたら、むやみに人を害する竜にはならんかもしれんと、そう考えたわけだ」
「私もこの話を聞いた時は、ほんとに驚いたのよ?」
マリアンも、ほとんど最初から知ってたんだ?
「え……じゃあ、わたしにドレスとかアクセとかくれたり、美味しいごはんを食べさせてくれたのは?」
「フフッ。旦那様って不愛想なうえに、不器用だから分かりにくかったわよねぇ」
「……一応、大切に育てているつもりだった」
不器用過ぎん?
「与え過ぎですけど……ありがとう、ございます」
「あれはほとんどマリアンのせいだろう。俺は美味いものを食わせてやれと言っただけだ」
「あら。その他は私に任せて、与えるなら良いものを与えろと、お命じになったじゃないですか」
「……二人ともやり過ぎなのは、わかったけど」
なんとなく今の話を受け入れかけてたところに、ミリィがレオナイル様をキッと睨んだ。
「私を殺しにきたのは何故だ。私は何に巻き込まれたのだ」
「お前が森に居ては、こいつを害する時が来るかもしれんと思ってな。すまなかったな」
え~!
軽っ!
「謝罪がただの、すまなかっただけか?」
「そうだな。猫風情が竜種にケンカを売るというのなら、もう一度買ってやっても良いが?」
うわー。めっさ脅した。
「くっ……。これだから竜は嫌いなんだ」
「お前も礼節を叩きこんでもらえよ? 美味いメシを与えているのは俺だぞ」
腕を組み直したレオナイル様は、アゴを上げるようにしてミリィを睨み返してる。
そしたらミリィ、悔しそうだけど諦めたみたい。
「……わかり……ました」
「それでいい。で、エルフィオラよ。他に何か聞きたいことはあるか」
「え……っと。混乱してて、もうわかんないんだけど……。って、そうだ! じゃあさ、ミリィを庇った時、あーしのバリアばきばきに壊して殺そうとしてなかった?」
あれはガチでヤリに来てたよね?
「あぁ。人の姿でどこまで戦えるのかを試したかったのだ。あと一息だと思ったのだがな、それにまさか、ネイルの補助魔法があれほどとは。お前が解除を思い付かなければ、俺の勝ちだった」
「やっば。この人あたまおかしい……。もうレオナイル様にはネイルしてあげないから」
「ハハハハ! いや、もしもの時はまた頼むぞ」
絶対イヤなんだけど。
「まぁ、そういう事だから正体については、もう気に病むな。それも含めて、お前を人に慣れさせていこうと考えている。こちらの言う事は聞いてもらうがな」
「……ママ竜のことも? 知ってたの?」
「いや……。あれには驚かされたぞ。人化してなお、あのプレッシャーを放つのだからな。何を考えているのか一番分からんのがあれだ。が、お前を気にかけているのは確かなようだ。つまり、お前が無事である以上はこの街も無事であるということ。勝手なことをしでかして、死んでくれるなよ? 人の姿は驚くほどに死にやすいぞ」
「え、なにそれ怖い」
でも、たしかに気をつけないとね。
どうしても最初に竜として過ごした感覚、抜けてないもんね。
あと、この人も十分ヤバいってこと。ママ竜の方がまだ分かりやすいと思うんだけど。
「あ……あの。発言よろしいでしょうか」
あ、ユリーシアがぽかーん、から帰ってきた。
「なんだ、言ってみろ」
「わ、わたくしは……エルフィオラとどのように接したらよろしいのでしょうか。まさか、黒竜だなんて知らなくて……」
「ああ、すまなかった。出来ればこのまま、こいつの家庭教師を続けてもらいたいのだが。ああ、この猫も一緒にな」
「猫……」
「この白い娘は、森の主だ。白の雷帝の人化した姿だが、ゆえあってエルフィオラの護衛を務める事となった。たった今正式にな。礼節を叩きこんでくれ」
「えぇー……?」
ユリーシアが、また思考停止しかけてる。
あーしとミリィを見比べながら、でもちょっと遠いとこを見てるような……。
「ユリーシア。今まで通り教えてよ。お願い。せっかく、友達が出来てわたしはほんとに嬉しかったんだから。
ね?」
「あ……。ふふ、ありがとうエルフィオラ。そうね。お友達でもありますものね」
よかった。なんとか落ち着いてくれたっぽい。
まだ胸を押さえてて、ドキドキしてるのかもしんないけど。
「さて。話は以上だな」
今はもう、何も思いつかないよ。
頭がパンパンになってる。
「エルフィオラちゃん。ミリィ。改めて、これからもよろしくね?」
「マリアン……。うん、マリアンにいっつも救われてる」
「私も……よろしく頼む」
さっきまでと違って、ミリィが大人しくなってる。
借りてきた猫状態じゃん。
「それからユリーシアも。大変かもしれないけど、何かあれば私にも相談してね」
「あっ。はい。ありがとうマリアン。よろしくお願いいたしますわ」
――あぁ、なんかちょっと、ホッとした。
竜に転生してどうなるのかなって思ってたけど、人の世界で生きていけるんだ。
こうして正体のことも気にせずに、ここで暮らしててもいいんだってさ。
レオナイル様って、一体何者? とは思うけど。
頼れるイケメンなのは間違いない。
え、ていうか。
レオナイル様も竜だって話は、ほとんどしてなくない?
マリアンはそれも知ってるのかな? 知ってる雰囲気だよね?
なんかうまいこと言いくるめられたけど。
まぁでも、あんまり気にしてもしょうがないかぁ。




