三十三 ナイショにする話
今いる森の中から街まで、残り五日分くらい残ってる。
だからてっきり、レオナイル様を待って合流してから戻るのかと思ってたら、そうではないみたい。
街に戻り始めて三日目のこちらと、さらに二日分ほど奥地に向かったレオナイル様たちでは随分と離れているから、ということらしい。
別に待てばいーじゃん、て思ってたら、どうやらレオナイル様の命令で、あーしを少しでも早く屋敷に帰してやれ、ってことなんだって。不便を強いているからって。
あーしには、「お前も来るんだ」しか言わなかったのに。
そんなことを道々、ピエラから聞いて切なくなった。
実はずっとピクニック気分で森キャンプすごいな~、くらいの気持ちだったあーしを、レオナイル様は出発前から気遣ってくれてたんだ。
街を守るために命をかけてクソデカ猫を倒そうとして、それだけでも、自分のことでいっぱいになってもおかしくないだろうにさ。
レオナイル様は、あーしが不便で大変だろうって、護衛もたくさん付けてくれて。
……これが出来る大人ってやつ?
ちょっと、憧れちゃうかもしんない。
「なんだ、神妙な顔をして。腹でも痛いのか」
すぐ後ろに居るミリィが、横から身を乗り出すみたいにあーしを見てた。
「顔を覗き込んで、なに言うのかと思ったら。ミリィには憧れない」
「はぁ?」
馬は人数分しか居ないから、あーしの馬にミリィも乗ってる。
ていうか、ミリィが手綱を持って、あーしはミリィの前に座らせられてる。要は子ども扱い。
「レオナイル様を待ってたかったな、って思ってた」
「あの男が心配か? するだけ無駄だ。私に傷を付けた奴だぞ」
その声は優しくなだめるみたいな感じなのに、表情は怖かった。
眉を八の字にして眉間にシワを寄せて、ヤカラみたいに首を傾げてるんだもん。
思い出したら気に入らないんだろうけど。
「シーッ! 隣のピエラに聞こえたらどうすんの」
街に近付くにつれて木がまばらになってきて、隊列はほとんど二列で進めるようになってるから、当然ピエラは隣に付いてる。
「分かっている。もうこの話はしない」
「まぁ、なぐさめてくれたんなら、ありがと」
レオナイル様たちとは、四日分くらいの距離がある。
もしも待つとしたら、その間を待機し続けるための水も食料も足りないと言われた。
それもレオナイル様の手配だろうな。
あーしが待ちたいってダダこねたら、食料に余裕があったら待ちかねない。
危険な森の中に居させないように、最初から計算されてたんだ。
「それよりエルフィオラ。お前にいいことを聞かせてやろう。そっちのピエラ、お前にも良い話だ」
うん?
ピエラにもいい話って何だろう?
「なんでしょう?」
馬同士を近付け過ぎるとあーしは怖いんだけど、ミリィもピエラも上手に操る。
まるで普通に歩いてて、体を寄せてナイショ話をするみたいに馬ごと寄せ合ってる。
「ピエラよ。今回こいつを攫われただろう? この話、主君には内緒にしておけ。それが可能なのは分かっているだろう?」
「そ、それは……。でも、ありのまま報告しなければ」
ピエラは一瞬目を見開いて、それからすぐに目を伏せた。ちょっと迷ってるっぽい。
「無事に戻ったのだ。この隊の誰も話さなければ、何も無かったのと同じ事だろう。私の事も、偶然出会ったという事実は変わらない」
「しかし……そのような裏切りに等しい行為はできません」
「だが、叱責はお前達騎士だけに留まらないだろう。厳しい主君らしいじゃないか。エルフィオラも、随分と怒られるだろうなぁ」
「それは……そうなる可能性も、ありますね」
「別にわたしが怒られるのはいいけど。でも、みんなが怒られるのは嫌。みんなは悪くないのに」
あーしが脱走したことでみんなが自分を責めてる。それだけでも胸が痛いのに、さらにレオナイル様に怒られたりしたら……。
「お優しいエルフィオラ様に、甘えるわけにはいきません。が……エルフィオラ様までお叱りを受けるのは、間違っています」
「そうだろうそうだろう。互いに想い合う気持ちがあるなら、それで良しとすればいい。バカ正直なだけが忠誠ではなかろう」
こいつ……どこでそんな高度なことを。
「ミリィって、めちゃくちゃ人間に詳しいんだね」
「……エルフィオラ様。それだとミリィ殿は人間ではないみたいですよ? フフフフおかしい」
「……エルフィオラ。私は人間ではないと?」
――あっ!
真後ろにいるミリィが、冷たい微笑みなのがわかる。
だって、あごをあーしの頭にグリグリしてきてるから。
「あぁいや、その! 人間離れした可愛さを久々に見たから、それでつい!」
「なるほど確かに。ミリィ殿は妖精か女神かというほどの美しさですよね、分かります」
「……分からなくていい。それに、褒め過ぎだ……」
ご、ごまかせたぁぁぁ!
ていうかミリィ、もしかして照れてる?
そう思って振り返ったら、そっぽ向いて真っ白な髪を耳にかき上げてた。
「コホン。ともかく、無駄に叱られる必要もないだろう。私も気まずい空間で一緒に居るのは嫌だからな」
「確かに、ミリィ殿を紹介する前にお叱りを受けたら、ものすごく気まずいでしょうね」
「そういう事だ」
「では、皆に徹底しておきますね。お心遣い感謝いたします」
「気にするな」
この話が終わると、ピエラとの馬の距離はイイ感じに開いた。
「ミリィって、どこでそういう人間関係覚えてきたの?」
「……ふん。私にも幼い思い出というものがある」
「人と暮らしてたんだ?」
「仔猫のうちはな。ただ、私は魔物だったというだけの話だ」
「飼えなくなっちゃったんだ」
「大きくなり過ぎたからな。別に恨んじゃいない」
「へぇぇ……。話してくれて、ありがと」
「いや、お前が馬鹿過ぎて、うっかり魔物だとバラされたら面倒だからだ。人と過ごしていたと聞けば、そっちに流されてくれるだろう、お前ならば」
「……え、最後もバカにされた?」
「他にどう聞こえるんだ?」
……こいつ、美人だけど性格悪くない?




