三十二 苦しい言い訳
「エルフィオラ様! よくぞご無事で!」
ミリィの考えた計画通り、あーしは無事に保護された。男の騎士さんに。
全裸ガマンという、痛恨のミスはやっぱり挽回できなかったよね……。すぐにマントを貸してくれたけども。
最初にピエラが見つけてくれたら嬉しかったんだけど。
でもまぁ、そこはもう織り込み済みということで、見つけてくれた男の騎士さんに手を振って、拾ってもらいました。
それよりも、そんな贅沢なんて言ってられないくらいに、あーしを捜索してくれてた。
そのために、急きょ野営して数人を残して全力で探してくれたんだって。
それを、居残り組に配置されたピエラから聞いた。
どれだけ心配したか、どんなに苦しい時間だったか。どうにも出来なかった自責の念で、誰もが狂いそうなほどだった、って。
「ほんとに、心配かけてごめんなさい」
あーしのために設営してくれたテントの前で、あーしはピエラに謝った。用意された椅子に座らせてもらって、白湯まで飲ませてくれて、何度もなだめてくれるのがたまらないくらい心苦しかった。
それなのに――。
「エルフィオラ様のせいじゃありません。我々の責任なのです」
そう言われると、本当に、心が引き裂かれそうなくらいに痛む。
「ごめんピエラ。ほんとに責任を感じたりしないで。絶対にみんなは悪くないから」
「あぁ、なんてお優しい……。一番恐ろしかったのはエルフィオラ様なのにっ!」
だめだ。
言えば言うほど、ピエラは自分たちを責める。
ほんとのことを話せないせいで、自分のこと嫌いになりそう。
**
その一時間後くらいに、捜索に向かってもらった騎士さんに、ミリィも連れてきてもらえた。
森の奥の方にもう一人居るんですと、嘘じゃないけど、助けてほしいという嘘をついて。
その騎士さんの後ろに、横向きで座っている女の人。
馬の背中に横座りとか、めっちゃ器用な乗り方なんだけど。
どんなバランスしてるんだろ? 自転車じゃないんだぞ……。
それだけでも異質だったけど、もちろんひと目で、その人がミリィだってわかった。借りたマントを羽織ってるしね。
ミリィの人姿はとんでもない色白美人で、腰まである長い髪はさらに真っ白。猫顔のおめめぱっちり二重で、見た感じ十九歳くらい。スレンダーで、正直言って顔からスタイルまで最高に整ってる。
それに足も長い……だと?
ていうか、灰色の毛皮を胸と腰に巻いてる。あんなの持ってたんだ?
騎士さんから借りたマントが、羽織ってるだけだから中のそれがチラチラ見えて、色気がダダ洩れしてる。
まぁとにかく、後は設定をちゃんと説明できたら完璧。
ただ、ミリィはめちゃくちゃ不機嫌な顔で連れられてたから、何かあったのかも。
乗せてくれてた男の騎士さんに、馬から降りた後にすんごい睨んでた。その後すぐにあーしとピエラのところに来てくれたものの、怒った顔で見下ろされてコワイんだけど。
「エルフィオラ。探したわよ」
って、ミリィさん?
ものすごい棒読みですけど。
「えっと、やっと会えて嬉しいわ、ミリィ。わたしのこと、探してくれてたんだ?」
「ええ、そうよ。ずっと探してた」
声まで高くてカワイイかよ。クソデカ猫の時は、もっと貫禄があったのに。
それよりなんで怒ってるのさ。
〈さっきの騎士、ずっと私の胸や腰をジロジロ見てたんだ。殺していいか〉
〈んダメ~! 不愉快だろうけど殺さないで。ってか、毛皮の下着があるならわたしにも貸して欲しかったんだけど〉
念話でお怒りの理由は分かったから、その騎士には、あとでピエラに怒ってもらおう。
〈これか? これはお前をここに置いてから、オオカミを狩って剥いだだけだ〉
〈ひぇっ、剥ぎたて? じゃあイラナイです〉
〈贅沢なやつめ〉
いやぁ……血抜きはしたんだろうけど、ついさっきからの今じゃん?
まだ体温とか残ってそうだし、直後の毛皮は……ねぇ。
「お知り合いのようですが、エルフィオラ様、この女性は一体……」
ピエラはすぐに立ち上がって、ミリィに敬礼した。だけど明らかに混乱してる。
考えてみたら、あーしに上から目線で話す人なんて、どこの偉い人だろうってことになるもんね。
……あーしも今気づいた。
「えっと……。元の国で、護衛をしてくれてたの。ミリィって言うの。ミリィ、この人はピエレッタよ」
「よろしく頼むわね」
あぁ……どうしよピエラにもゾンザイな態度だし、護衛っていう以外に何かごまかさないと。なのに何も思いつかないよぅ。
「よ、よろしくお願いします。あの、護衛というのはどういう……。名のある剣士様であったとか?」
ピエラは何か勘づいてる?
やばいやばいヤバイ!
「……これは失礼。エルフィオラの母君の命でね。仕えているのは母君であって、エルフィオラにはいずれ護身の術を教える立場でもあったから」
「あぁ、そうでしたか。確かにその佇まい、ただ者ではなさそうです」
「それほどでもないさ」
あ、ミリィがちょっと笑った。かわいぃ……。
じゃなくて。
すごい、よくそんなの思い付いたよね。さすがじゃん。
「それはそうとエルフィオラ様。すぐに街にお戻りになりたいでしょうけれど、捜索に出た者達が全員戻るまで、もうしばらくお待ちくださいね」
うっ……! ほんとに申し訳なさ過ぎる。
「それはもう、まったく。みなさんに心からお礼を言いたいし、みなさんが無事に戻ってくれるのを絶対に待ちます」
「ありがとうございます。エルフィオラ様」
「うぅ。お礼とか言わないで。当然のことだから。ね?」
「まぁ……。はい。了解いたしました」
心苦しくて死にそう。
これでもしも、誰かが魔物に襲われて怪我とかしてたら……。
絶対に無事でいてほしい。
「私が見て来てやろうか?」
「ミリィ様。いえ、そのような。みな、エルフィオラ様の加護がありますので大丈夫なのです」
あ、そっか。強くなってるんだった。
いやでも、ロイがここに居ないってことは、探しに出てくれてるんだよね?
こんな時こそフラグが怖いんだけど……。
「まぁいいさ。では、私にも何か武器を貸してほしい。もしもの時に動ける状態で居たい」
「それなら構いませんよ。と言っても、剣とダガーくらいですけれど」
「ダガーがいい」
へ~、ミリィは武器とか使えるんだ。
……猫だから、爪の代わりにダガー、とか?
〈お前、のんきそうな顔をしているが、お前の主にはきちんと説明できるんだろうな〉
〈あっ……。うん。がんばる……〉
胃が痛くなってきた……。
そういえばレオナイル様たちは、今どのへんに居るのかな。




