三十 面倒な男
バリアが出ないと死んじゃう~!
全身覆うやつ!
クソ猫の分も――!
――世界が薄青色になった。
真っ白に、青をちょっとだけ混ぜたみたいな、青白い世界。
後ろを振り返っても、近くにいたクソデカ猫も見えない。
上も下も、どこを向いても青白い光に包まれてる。
これって、レオナイル様の魔法の中?
音は何もなくて、ノイズキャンセルのイヤホンしたみたいに静か。
逆に不気味なんですけど?
やば……これ、もしかして一瞬で死んだ?
綺麗っちゃキレイけど、どうせ光の中に居るならさ、花火の真ん中にいてみたいよね。
そんなの絶対ムリだけどさ。
だってあれって、爆発してるんだもんね。
――って、また森が見えてきた。
レオナイル様も、騎士さんたちもいる。後ろにはクソデカ猫も。
てことは、生きてる?
レオナイル様の魔法は、失敗だったってこと?
「無傷……だと?」
「レオナイル様! 魔法障壁です! それも、完璧な球形の!」
「ありえん……。どんな魔力をしている。そんな障壁、一秒も維持出来るわけが……」
あ~、なるほど。あーしのバリアが成功してたんだ。
よかったぁ。
「やはり撤退しましょう! 幼体とはいえ黒竜! しかもこれは、以前よりはるかに強くなっています!」
「おのれ……! 気まぐれに国を、大地を滅ぼす厄災め! 皆よ! 今この幼体のうちに倒しておかねば、我等が街も国も、全てを滅ぼされるぞ!」
「それは……そうですが」
「家族を守るのだろう! 市民を護るのだろう! ここで我等が踏ん張らずして、誰が街を守れるというのだ!」
「は、はい!」
いやいや……なんか盛り上がってるけどさ。そんなことしないってば。
「これほどの障壁、長く維持できるはずがない! 総攻撃準備!」
「はっ! 総攻撃準備よし!」
「次の守りは任せろ! 撃てっ!」
いや、ちょ、まだやるの?
あーしのバリア解けないで~!
騎士のみんなから、氷の槍と、炎の矢の雨。
雨って言ってもさ、上からじゃなくて水平にビュンビュン飛んでくるやつ。
それに、前に食らってビリビリ痛かった、剣の形した電撃のやつ!
そんなのがいっぱい、これでもかってくらいに飛んで来る。
けど……あーしに当たる前に、何の前触れもなく消えちゃうんだよね。
あーしの思ってたバリアと、ちょっと感触が違うんだけど、でもそれが守ってくれてるみたい。
おっきな透明の風船の中にいるみたいな、そんな感じ。
薄くて割れちゃいそうで、だけど、その膜に当たった氷も炎も電撃の剣も、全部消えちゃう。
……あーしのバリア、もしかして無敵じゃん?
「き、効きません!」
「このままでは、次に我々が障壁を張る魔力が不足します!」
「ぬぅ……。ならば、お前達は引け! 俺が残る! 必ず倒してみせる!」
「それは出来ません!」
「いいや、ここで止めてみせる! 俺の巻き添えを食らいたくなければ、引け!」
「くっ……団長の、全力を出されると? しかも、エルフィオラ様の加護がある状態で?」
「そうだ、その意味が分かるだろう!」
「了解しました。我々は引きます。が、それでも討伐が難しい場合は、必ず撤退してください!」
いや、滅茶苦茶盛り上がってるけどさ。
もうやめようって、そう言いたいんだけど。
「ぎゃるるぅぅぅ!」
ああもう、言葉が話せないのは何でなん!
「挑発的な咆哮だな! やろうと言っているらしい! 望むところだ、黒竜!」
レオナイル様ぁ、違いますってぇぇぇ!
や・め・よ・う・よ!
って言ってんのおおおおおおお!
「ぎゃるるるるぉおおおおおお!」
「いくぞ!」
あぁぁぁぁもう!
ち~が~う~の~にぃぃ!
「我々は先に引きます! 御武運を!」
「おう!」
だぁぁぁぁ!
って、馬から降りて突進してきたあああ!
でもそんな剣じゃ、あーしの鱗には効かないってば。
そもそもまだ、バリアがあるのに。
――って、え?
「火竜の加護を見るがいい! 出でよ、業火の刃!」
はあああああ?
剣に炎が巻きついて――めっさ伸びてるんだけど!
たぶんだけど十メートル以上ある。
そりゃそんなの振り回したら、仲間も巻き込んじゃうよ。
だから逃がしたんだ。
「食らえ!」
いやいやいや!
火炎放射みたいな剣、ぶん回すのやめてえぇ!
――あっ。
今、バリ、っていった。
それに、炎の剣の先っぽが、バリアの内側にちょっと入ってきてる。
どうしよ? 逃げちゃう?
「やはり、強度が落ちているらしいな!」
レオナイル様のアホ~!
って、めった打ちにしてくるじゃん――
ぎゃー! バリアがバリバリいってる!
割れちゃう、あーしのバリアが割れちゃう!
何回かに一回はバリアの中に入ってるぅ!
「ぬおおおおおお! ヴォルカニックランス!」
え? それは詠唱いらないん?
剣がバリアに入った瞬間を狙ってたんだ。
――青白い、細い槍がバリアの中からぶっ飛んできた。
反則っしょ!
なんとなく、ギリ、目で追えたから避けたけど!
竜の長めの首じゃなきゃ、ちゃんと避けきれなくて頭吹っ飛んでたやつ。
もおおおおお!
「ぎゃるうううぅおおおおお!」
この戦闘狂め!
あーしが逃げたらまた、騎士のみんなを引き連れてやってくる気でしょ?
レオナイル様なら絶対そうすると思う。
もしもクソデカ猫がここに居座るって言ったら、殺されちゃうかもしんない。
それだと、あーしがイヤなんだよね。
あ~あ。もう怒ったから。
とりあえず、あーしのネイル、解いちゃうからね。
――ネイル解除。
あっ! 高い方のネイルはそのままにしとこうと思ったのに!
ウルトラマリンのネイルが……取れて落ちちゃった?
いや、よく見たら手袋と手の鎧着けてる。
ワンチャン、中にあるはず――。
「なっ……力が! まさか、補助魔法に気付かれただと?」
焦ってる焦ってる。
ふふふふ。
「エルフィオラしか知らぬはずが……なぜ貴様に見抜ける!」
ぴゃっ?
や、ヤバイばれた?
えっと……え~っと……。
どうしよ何も思いつかない。
「ぎゃるぅぅ」
「……ふん。黒竜にしてみれば、補助魔法を検知するなどお手の物ということか」
あっ…………そう。
そうそう、そういう感じでお願いします。
「補助ありきでこの力量差か……いいだろう。殺せ。あれほど見栄を切ったのだがな」
いやいや、だから殺したりしないってば。
それにレオナイル様が死んじゃったら、お屋敷のみんなが悲しむでしょ?
街の統治もどうすんのさぁ。
まったくもう。
「ぎゃるるぅぅぅるるるるる」
もう帰ってよ。お願いだから。
「……殺す気がないだと? 随分と見下してくれる。その価値もない、か」
はぁ……。大人げないだけじゃなくて、割とめんどくさいんですけど。
どうしたら帰ってくれるのさ。馬も無事だよ?
馬ちゃんが一番危なかったのは、レオナイル様が振り回してた炎の剣だったけどね。
ちゃんと、一応バリアかけといたんだから。
「くそっ。今は恥を忍んで撤退するが、逃げるわけではないからな!」
はいはい、そんなの気にしませんってば。
それよりそういう、悔しそうな顔見てるとちょっと、胸がキュンとしちゃう。
かわいいとこあるじゃん?
「黒竜め。その気まぐれ、いつか後悔することに――」
〈面倒な男ね〉
あ、クソ猫のこと忘れてた。
振り返ったら、めっちゃ近くまで寄ってきてた。
あーしの真後ろに居るのに、足音ぜんぜんしないんだもん。
〈いやー、なんかね。早く帰ってほしいんだけど〉
〈こうすればいいでしょうに〉
うん?
「なっ、なんだこれは!」
クソ猫がしてるのか、レオナイル様がふわ~っと宙に浮いて、そのまま離れたとこに居る馬さんに乗せられた。
〈なにそれ!〉
〈念話が出来るのに、念動を知らないの?〉
〈えー! 超能力じゃん!〉
〈チョウノウリョク?〉
〈なんでそこは噛み合わないのさ……〉
「白の雷帝に、黒竜が手を組んだか。この森に一体、何が起きている」
いいから早く帰ってってば。
〈馬の尻でも叩いてやるわ〉
クソデカ猫がそう言ったら、馬がヒン、って鳴いて街の方に逃げていった。
はぁぁ……。
終わったぁ。
〈お前には借りが出来たな。小娘〉
〈最初に会った時もさ、あーしのこと小娘って言ってた?〉
それなら、あーし、自分の性別にそこで気付けてたはずなんだけどなぁ。
〈そんな些末なこと、覚えているわけないだろう〉
ですよね~。
〈あっ。ところでさあ、相談があるんだけど〉
〈断る〉
まだ何も言ってないのに!
こんのクソデカ猫……。
なんか、あーしの頭の上にでっかいモフあご、乗せてきてるんですけどぉ?




