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人化したら公爵に保護されました。ほんとは十歳の少女じゃなくて、黒竜に転生しちゃったギャルなんだけど  作者: 稲山 裕


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二十九 レオナイル様の本気

 あーしが飛ぶのって、結構早いんだなって。


 馬で移動しててめちゃ実感した。だって、竜の時はクソデカ猫を探しながらゆっくり飛んでても二日くらいだったのに、馬だと街からあいつのなわばりまで、一週間もかかった。


 だから、二日くらいの遅れなら……まだ間に合うはず。


 そうであってほしい。


 まだお昼過ぎだから視界は悪くないし、戦いが始まってたら、あいつの投げる岩とかが見えるだろうし。


 見えてる限りだと、だだっ広い森が広がってるだけ。


 そのはずだったのに――


 ――いきなり、森の一部が吹き飛ぶとか信じられないんだって。


 行こうとしてた場所より、も少し奥の所。


 木が何十本も、噴水みたいに噴き上がった。それからドン、って重い音。


 その瞬間に角の先から尻尾の先まで、電気が走ったみたいな痛みと、寒気がした。


 ヤバいことになってる。


 どっちがやったのか分からないけど、どっちが食らってもただじゃ済まない、シャレにならない攻撃をしたんだ。

 やめてよ。


 クソデカ猫は、森の奥でごちそう君の鹿を食べてるだけじゃないん?


 それとも人間に何かしてたん?


 なんで殺し合いなんてすんのさ。


 十分速く飛んでるはずなのに、もどかしいくらい、その場所まではまだ届かない。


 間に合わなかった。


 あーしがもたもたしてたせいで――。


 ――今度は、爆発。


 戦争の動画で見たのより、ずっとリアルな、生々しい火の赤さと、ドォンていうあっけないくらいの振動が届く。


 こんなの、クソ猫かレオナイル様か、どっちかは大丈夫じゃないはず。


 もしかしたら、どっちも。


 くそぉ……!


 バレてもいいから、すぐに竜になればよかった。


 実は竜だったの、ごめんなさい、って。


 なんで、隠そうとしちゃったかなぁ――。


 ――次は、稲光と氷の柱と、それから何回かの爆発が見えた。


 バチン。て音と、バンバンって軽いような重いような音が何度も聞こえる。


 魔法を撃ち合ってるのか、一方的に攻撃してるのか、まだ分からない。


 もどかしい。


 見えるところまで、まだもう少しかかる。


 もっと早く飛べないの?


 どっちも死なないで――。


 もうすぐだから。


 攻撃し合ってるところまで、かなり近付けた。


 あと、たぶん十秒もかからない。


 だから――。


 ――でも、また爆発。


 森がどんどん、穴ぼこだらけになっていく。


 だけど……やっと追い付いた。


「ぎゃるるるるぉおおおおおおお!」


 もうやめてぇぇぇ!


 爆発した場所の、ど真ん中に降り立つ。


 土煙が舞い上がっていた所に、ひときわ強く羽ばたいて煙を散らした。


 あーしが来たからには、この戦いはもう、止めてもらう。


「黒竜! だと!」


「すでに低く身構えた戦闘態勢を取ってます!」


「あの時の幼体か!」


「まだこの森に居たか!」


 聞き慣れた騎士さんたちの叫び声は、どれも元気そうだった。


 鎧と兜で実際は分からないけど、馬に乗ったままだし鎧が凹んだりもしてない。


「総員! うかつに手を出すな! 防壁展開急げ!」


 レオナイル様だ。指揮取りながら、一番前に居るんじゃん。


 よかった……怪我とかは、してなさそう。


 てことは、クソ猫がヤバイんじゃ……。


「シャーーーッ!」


 それが聞こえた後ろに振り向いたら、白い毛並みなはずの頭と背中に、血が滲んでた。


「ぎゃるうぅぅ」


 ケガしてんじゃん。


 大怪我じゃなさそうだけど、押されてんのね。


 強がって毛を逆立ててるけど、血がべったりついてるとこが寝たままで、余計に痛そうじゃん。


 あーしさ、騎士さんの誰かが、治癒魔法使ってたの見たことあんのよ。


 きっと、あーしなら使えると思うからじっとしてて。


「シャーーーッ!」


 なに? 邪魔するなって?


 あれ、でもこいつ、言葉をしゃべってたよね。


 テレパシー使えないかな?


〈ねぇ。治してあげるから威嚇しないでもらえる?〉


〈念話が使えたの、小娘。いいからそこをどきなさい。私が売られたケンカよ〉


〈もうやめて。このケンカ、あーしが預からせてもらうから〉


〈舐めた事を!〉


 そんなことより、ケガを治してあげるんだってば。


 たぶん、治れ治れって念じたら……。


 淡い緑色の光が、クソ猫を優しく包んでいく。


〈小娘……治癒魔法を使えるのか〉


 ほら、竜の時は何でも出来ちゃうんだよねぇ。


〈治ったら、もうケンカは終わりでいいっしょ?〉


〈馬鹿を言うな。やられた分はやり返す〉


 気ぃつよ。


 でもね、押されてたんじゃん?


 とか言ったら、今は逆上しそうだからやめとこ。


「白の雷帝の傷を……癒した! やはり魔物同士、仲間か!」


「団長! さすがに伝説級を二体同時はヤバイですぜ!」


「怯むな! エルフィオラの補助魔法の力を上手く使え!」


 え、レオナイル様けっこう、あーしのネイル気に入ってくれてんの?


「つっても団長! 俺らはこれが限界ですよ!」


「だらしのない奴らめ! ならば、ここからは俺が本気を出そう」


 ……は?


 何そのアニメみたいな展開。


 てか、これって……あーしも戦うことになった的な?


「総員防御態勢! 障壁張れよ! いくぞ!」


「総員防御態勢! 魔法障壁展開! 団長の魔法に巻き込まれるなよ!」


 え、なんかヤバそう?


〈小娘。私の盾にでもなるつもりか? 生意気な〉


 クソデカ猫はやっぱクソ猫だ。なんで不機嫌なのさ。


〈こんな状況で絡むなってばぁ!〉


「火の神エギルシアよ。光の神イサフィーよ。我、レオナイルの名において……」


 とかやり合ってる間に、レオナイル様が詠唱始めてるんですけど?


「……ことごとく因果を融合せん。劫火と極光、神聖なる始まりの火――」


 レオナイル様の両手に青白い光が集まって――。


 空気がビリビリバチバチしてるし、騎士さんたちは馬を降りて、守りながら下がっていってる。


 いやいやこれはなんか、まじでヤバイって。


 竜の本能も、そう言ってる。


 この最強の鱗があっても、貫通するとか燃えて溶けちゃうとか、そういう系のニオイがする。


 え、なにこれ、どしたらいい?


 あれだ、騎士さんたちが使ってるバリアみたいな魔法。


 あーしも使えないと、マズぃ――よね。


「極炎、蒼球なりて万象を焼け。ヴォルカニックフレア!」


 あばばばばばバリアバリア! バリア~ッ!


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