二十七 計画のピンチ
周りに魔物が居ないか、警戒を続けながらネイルの交換。
最初はレオナイル様からで、一番集中した。
青の中の青色。なんたってウルトラマリンのネイルだからね。
さらにめちゃ緊張……するかと思ったけど、さっきの戦いで逆に落ち着いたというか、気が動転しちゃったというか、カラーが高価でも普段通りに塗れた。
それともう一本は、みんなと同じ赤い花びらのネイル。
レオナイル様が終わったら、他の全員分。
乾かす代わりに魔法で固めちゃうけど、公爵家の紋章を入れろとか言われてるせいで時間はそれなりにかかるんだよね。
指二本だけでも、三十分くらい。
これがあと四十人分。戦う人の分だけで日が暮れちゃう。てか一日じゃ無理。
だからこの野営は、明日も目一杯続く。
森の主を目の前にして、ほぼ二日も足止めしてやる意味……あるんだよね。
そう思うと、責任重大だ。
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「つかれたぁ!」
あーしとピエラのために準備されてるテントに戻って、ひんやり冷たい地面にもう倒れ込んだよね。
一応、キャンプ用のシートも、その上に重ねた柔らかいシートも敷いてくれてるから、地面に直接じゃないけど。
それでも、寝転んだら土の濃い匂いがするし、草の青臭さも感じる。地面の感触も。
「お疲れ様です、エルフィオラ様。今夜はゆっくりお休みください」
一緒に入ってきたピエラは、椅子に座ってお茶を淹れようとしてくれてるみたい。
たき火で温めたお湯をポットに注いでる時の、トポトポって音が聞こえる。
それを見上げる気力も残ってない。
ネイルは、なんだかんだで野営二日目の夕方までかかった。夜遅くまでやって寝て、今朝早起きしてからはほぼ休憩無しで、まじ頑張った。
「でも、みんなはもう出発するんじゃないの?」
ピエラとは反対に首を向けて寝転んだから、顔も見ないで声だけで喋ってる。
向き直すために体に力を込めるのさえ無理なくらい、今はぐったりなのよ。
「はい。ここから少しだけ進んで、森の主を発見するまでは全員野宿で済ませるそうです。水と食料も数日分、分けてありますので」
「じゃあ、何日かして戦いが終わったら、この野営に戻ってくるんだ」
それまで待機になったのかな?
あーしを屋敷にすぐに帰す、みたいな流れだって聞いてたけど。
「行くのは精鋭の二十人だけですから。我々はここを明日の朝に撤収して、それから屋敷に戻ります」
「……え、荷運びの人はともかく、騎士のみんなの、半分も引き返すの?」
「そうですよ? 私を含め、半分はエルフィオラ様の護衛ですから」
「は?」
あたまおかしい……。てか、二十人も居たら脱走できなくね?
「え、なんで? 普通、あーしの護衛なんか数人でいいんじゃないの?」
「まさか! レオナイル様がエルフィオラ様をお護りするのに、手を抜くわけありませんよ」
「えぇ?」
びっくりし過ぎて、ピエラの方に振り向いて寝返りまでうったよね。
「ぷふっ! そんな勢いで驚かれるなんて。補助魔法使いのエルフィオラ様だから、というだけではなくて、本当に特別に想っておられるのですよ?」
「と、特別ニブくて使えないヤツだと?」
「ふふふっ! エルフィオラ様は面白い方ですね。レオナイル様がエルフィオラ様を見る時の目は、大切な人や家族を想う眼差しをされてるんですよ?」
大切な人だったら、完全にロリコンじゃん?
「か、家族の方だよね?」
でも、家族は嫌だから、仲間みたいな?
「さあ、それは私には」
あの人……ロリコンだったのか。そしてそれを肯定的に見てんの? うそでしょ?
「わたし、まだ十歳なのに?」
一応、決めつけずに確認しとかないと。
「そんなの、六、七年もすれば立派なレディじゃないですか。私はそういうの、むしろ憧れちゃいます。子どもの内から好みの女に染められていくのって……すごくロマンチックじゃないです?」
「おぉう……」
ある意味ね……。凄すぎて言葉にならないんですけど。
「エルフィオラ様の国は、あまりないんですか?」
「そ、そうかも? こっちじゃ普通なの?」
「はい。貴族間ではわりと。相手の家に慣れるとか、仲を深めるとか、色々とメリットもありますし」
そりゃ、相手家族と仲良くできればだけど……こわ。
「ま、まぁいいや。でもレオナイル様はそんなじゃないと思うな。珍しい魔法が使えるからだと思う。わたしも、お役に立てるのは嬉しいし」
「ふふ。そうですね。差し出がましいことを申しました」
って口では言っても、その「ふふ」がもう、全部物語ってるじゃん。
えー? もしかしてみんな、そんな風に思ってる?
ナイナイ。ありえないでしょ、まったく……。
「もう。とりあえず一旦寝ることにする。つかれた」
「では、起きられましたらお食事にしましょう」
「いいよいいよ。きっと朝まで起きないと思うから」
「でしたら、もし目を覚まされた時用に、お夜食になるものを取り置いておきますね」
「ありがとう~。おやすみっ」
「はい。おやすみなさいませ」
いい人なんだけどなぁ……ちょっとズレてるっていうか。
それにこんなイミフな話より、あーしの脱走計画がピンチなんだけど。
なんであーしに、二十人も護衛が居るわけ?
ただでさえ、ピエラがどこ行くにもついてくるのにさぁ……。
まじで、クソデカ猫に先に会って説得するはずが間に合わない、かもしんないじゃん。
……あいつのなわばりって、けっこう広かったよね。
あいつに会った場所よりだいぶ遠いとこで狩った、ごちそう君ならぬシカを食べたのを怒ってたもんね。
あの時の感覚だと……あいつが居る場所まで、ここから馬だとけっこう時間かかるはず。
三日……早くても二日くらい?
その間に、脱走して会いに行かなきゃ。




