二十六 決戦前の準備
出陣から一週間くらい。
馬に乗ってるから、もっと早く移動すると思ってた。
でも実際は、森で足場が悪いのもあって、歩いてるのとそんなに変わんないくらいと思う。馬に乗るのって、じつは体をけっこう使うからそこまで楽じゃない。むしろ足とかおしりに、かな~り来る。
歩いた方が楽かも……とか思いつつも、この体だと茂みだらけの森を進むのはやっぱり大変だろうし。しかも、もっと遅くなるのは目に見えてるしね。
「エルフィオラ様、抱っこいたしましょうか? 少しは楽だと思いますが……」
この女騎士さんは、ピエレッタ。愛称はピエラだから、そう呼んで欲しいって。
「ありがと。ほんとにヤバくなったらお願い」
騎士になるような人だからキリッとした顔つきなのに、めっちゃ優しい。
でも、時々ピエラって呼ばないと残念そうにする。
「抱っこするのにこの鎧が固いなら、脱ぎますので」
大人なのに、それを隠そうとしないで今みたいに追撃してくるんだよね。
「ピエラの気持ちは嬉しいけど、子どもだと思われたくないんです」
「まぁぁ! さすがはエルフィオラ様! でも、どうしてもの時は必ず言ってくださいね!」
で、ピエラって呼んだらご機嫌になる。
……ちょっと怖くね?
でも、ほんとにこれだけが変なとこで、他はキッチリ線引きも出来てるし忠実な感じなんだよね。
ただやっぱり、ずっと側であーしのお守りをしてくれて、普通にトイレの時も付いてくるんだよ……。正直、ありがたくない。
「全体、止まれ~!」
あ、休憩の合図だ。
毎日お昼ごろに一回休憩して、干し肉とかで簡単にゴハン食べて出発、夕方の日が暮れる前に野営の準備。
さすがに一週間も同じことしてると、流れは完全に覚えたよね。
だけど今回は何か、夕方に野営する時みたいな円陣になり始めた。
あーしたちを中心にして、馬を集め出してる。
「エルフィオラ様。今日はこのまま野営するようです。森の主、白の雷帝のなわばりまで近いようですよ」
先駆けの二人が、この先一時間ほどを馬で走ったくらいのところで、白の雷帝の爪痕らしいのを見つけたみたい。
「あ、じゃあわたしの出番?」
「そのようです」
決戦前に、ネイルを付け直す仕事。
どうしても爪が伸びてきちゃうから。
実際、騎士さんなら長くても二週間したら外すか取り換えるのが良いと思う。剣とか握りしめるのに、邪魔になっちゃうもんね。
だから今回は、一旦外して爪の長さを整え直して、そんで新しく付け直す。ボス戦前の準備ってワケ。
けど……これでクソデカ猫が攻撃されるのかと思うと、気持ちは複雑なんだよね。
あいつはあーしの得物だし、でも殺すとかそんなんじゃなくて。ちょっと腕試しをしたいだけなヤツだから。
ネイルのせいでこんなことになっちゃったから、めっちゃ責任感じる。
とりま、まずは野営準備。
あーしは邪魔にならないように、なによりも、円陣の真ん中の目印になるために手を挙げてじっとしてる。そしたら隊列の端の方のみんなも、迷わずに馬とか食料なんかを集めていく、っていう流れ。
それからレオナイル様と側近用のテントを組み立ててく。その側にあーしとピエラ用のちっさいテント。
さらにその周りに、簡単な塀みたいなのを作っていって、ちょっとした砦みたいにしちゃう。
みんな手際がよくて、二時間くらいで完成~!
ただ……テントがあるのはレオナイル様たち数人と、あーしとピエラだけなんだよね。他はみんな野宿。鎧も着たままでマント敷いて寝るんだよ。
短期決戦だから、って。みんなも別に当たり前のことみたいで、不満とかはないみたい。むしろ、慣れてたらテントの設営と片付けが面倒だって人が多かった。
熟練者ってすごいね。
あ~……。あーしも竜のときは、野ざらしでぜんぜん気になんなかったっけ。
それでまぁ、ゴハンの準備して、その後でネイルだな~って思ってた時。
「魔物が出たぞ~!」
「南西からグレーウルフの群れ! 数二十以上!」
「こっちもだ! 北からブラックベア! 数三!」
急に緊迫した。
一瞬でみんなが立ち上がって、どっちに向かうか迷うことなく、雪崩れるみたいに二手に分かれていく。
「ロイ! 前に出過ぎるな!」
後ろの方からロイを呼ぶ声が聞こえて、いやな予感がした。
円形の陣の、あーしの後ろの方が南西でグレーウルフっぽい。
「ピエラ。わたしたちも何か」
あの人、フラグ立ててたんだもん。
「駄目です。私と一緒にここに居てください。それに大丈夫です。このくらいの数なら問題ありません」
その基準が分かんないから、ハラハラするんじゃん。
「ほんとに? 誰もケガしない?」
あーしが竜なら、火炎放射で一発なのに。
グレーウルフの群れもクマも、火を吹いて爪でやっつけて、それで終わりだった。
「エルフィオラ様のネイルのお陰で、これまで一人では倒せなかったような魔物も、全員が一人で倒せるくらい強くなったのです。だから本当に大丈夫です」
「ブラックベアも?」
「はい。以前は熟練の騎士が五、六人掛かりでやっとでしたが、今は一応二人で対応しますけど、基本的に一人で倒せるんですよ?」
そう聞くと、問題なさそうに思うけど……。
「おお~! ロイのやつが十体以上倒しやがった!」
「ネイルの補助に一番慣れてやがるからなぁ!」
「あれで腕前も揃ったら、レオナイル様に届くんじゃないか?」
「それが一番難しいだろう! ハハハハハ!」
なんか、わちゃわちゃと楽しそうだから、ロイが居たグレーウルフの群れは終わったっぽい。
「ブラックベアも完全に鎮圧!」
どっちも倒せたみたいで、良かった。
「負傷者はいないか!」
「南西方向、良し!」
「北、良し!」
円形の陣をコンパクトに布いてるから、それぞれの声もよく届く。
とにかく両方とも、無事に終わったってのがあーしにも分かった。
「良かったですね。エルフィオラ様のお陰で、誰一人として怪我さえしていないようですよ?」
「うん。それはほんとに、うれしい」
ただ……。
比較できるか分かんないけど、みんなそれぞれ、竜の時のあーしくらいに戦えるってことじゃ?
ネイルがない状態でも、あーしは騎士のみんなから逃げるのがやっとだった。
クソデカ猫も、あの時だと手も足もでなかった。
……もしかして、クソデカ猫といい勝負なのでは?
あと、あーしが竜だってバレたら……めっっっちゃヤバイ。




