二十一 お出かけの行き先
今日は国王様に会う日に向けて、あーしの所作チェックのためのお出かけ。
しかもレオナイル様と出かけるから、盛りに盛らないといけない。
盛った姿に負けないくらい、ちゃんとできるように気合を入れるためにも。
マリアンにセットしてもらいつつ、服とアクセは自分で選ぶ。
すでにコルセットを着けられて、ドレスも用意してもらった。
「エルフィオラちゃん。ほんとに真っ赤なドレスにするの?」
鏡台に座ってるあーしに、鏡越しに目を合わせるマリアンはニコニコしてる。
なんか、いつもよりご機嫌?
「うん。ネイルの赤に合わせて赤色がいい」
「レオナイル様の瞳の色と同じよ?」
ほんとにいいの? って聞かれるのは、これで三回目。
質問の意図が分からないから、うん、としか言わなかったけど、さすがにハッキリと理由を言うことにした。
「そうかもだけど、負けらんないし」
「フフッ。何が負けで何が勝ちなの?」
「そりゃ、いかに自分が盛れてるか。でしょ」
今回は色んな色を合わせるんじゃなくて、赤を重ねていくつもり。
ネイル、ドレス、アクセ、ヒール、全部赤。
「髪はどうする? お下げを肩から前に流す?」
「アップがいい。三つ編みを左右と後ろで作って、クルクルって丸めて盛るやつ!」
「おくれ毛も?」
「もち!」
マリアンはあーしの好みを分かってくれてるから、まじ助かる。
毛束を後ろと左右の三つに分けて、全部に三つ編みを作ったら後ろでお団子に。編み込みは映えるからね。
前髪の横の方でおくれ毛を作ったら、完璧。
「やっぱりマリアンは上手! ね、大人びて見えるよね?」
前世よりは、どうしてもあどけなさが残ってるけど。
「ええ。背伸びしてる感がとっても可愛い」
「マリアン……それ、ほめてる?」
「ちゃんと似合ってるからカワイイんだもの。褒めてるのよ?」
「エ~?」
「さ、あとはパニエとドレスを着ちゃいましょう」
メイクはほとんどしてないけど、目はやっぱりラインを引いて、そしたらチークも、リップも、ってなったから、結局はそこそこ盛った。
そんでもって、このドレス。
ビビットな赤い下地を、赤いレースで覆ってある戦闘力高めの勝負服。下に履いたパニエでスカートがフワっと広がるから、お姫様みたいになってる。
さらに、上品な大きさのルビーが埋め込まれた金の細いブレスレットに、首は細い赤リボンでアクセント。それから赤いヒールを履いて、完全武装。
「真っ赤に出来たわねぇ」
「うんうん。これはもう、勝ったね」
「それよりエルフィオラちゃん。マナーの方は大丈夫なの?」
「たぶん大丈夫!」
さんざんユリーシアに教え込まれたし、ちゃんと意識したらできるはず。
「それじゃ、旦那様が玄関ホールでお待ちでしょうから、行きましょうか」
「はーい」
やっぱり、完全な勝負服を着てると気の引き締まり方が全然ちがう。
姿勢もコルセットで補強されて崩れっこないし、気合入ってるからヒールでも躓かない。
滑るような歩き方で、スルスルと歩けるし。
「おお、エルフィオラ。様になってるじゃないか」
「レオナイル様。お待たせいたしました」
ふふん。言葉遣いもカーテシーも完璧でしょ。
「では行こうか」
レオナイル様も盛ってて、いつもとは違って隊服を着てた。
だけど、ほとんど黒一色だし。金の刺繍が黒のブーツにも、ジャケットの襟にも袖にも映えてるけど……全体的にビシっとした黒いスーツって感じなだけで、普通だし。
あとは膝まである黒マントが触り心地良さそうってだけで。
「……勝った」
「何か言ったか?」
「いいえ、なにも? ……今日はうかつにしゃべらないですから」
「フッ。どこまで続くかな」
あーし的には、しょっぱなからバチバチだったね。
馬車に乗る時も、エスコートの手には振れる程度でサッと乗れたし。
それから、無駄に喋らないこと。特にあーしは、それでボロが出やすいから。
でも、マリアンが同行してくれるから安心。リラックスできてたら変なミスもしなくなるし。
馬車にはあーしとレオナイル様が隣。前にマリアンが座った。
マリアンを見てると落ち着くから、隣が気にはなるけど前だけ見てたらいいしね。
「では、まずは領内をぐるりと回ろうか。どんな時でも動じないというテストでもある」
「……はい」
話し方を気にしてると、返事が遅くなっちゃう。
「上手くすましてるじゃないか。いいぞ、その調子だ」
あれ、褒められた。
チラっとレオナイル様を横目で見上げると、赤い瞳で思いきり見下ろされてた。
褒めてくれたんだよね?
赤い目って迫力あるなぁ、もう。
なんて思ってたら、ガッタン、て馬車が跳ねた。
石畳で舗装されてるはずだけど、稀に何かを踏んだり、石が浮いてたりするみたい。
「いッ……」
下からゴン! って突かれたみたいに振動がきておしりが浮いて、落ちてもう一回痛かった。
「慣れないと尻をケガするぞ。俺の膝に乗っているか? 今だけは許す」
えぇ……?
それは罠で、やったー、とか言って乗ったらその時点でアウト。みたいなブービートラップ。
「いえ、けっこうです」
あまり真横のレオナイル様をジロジロ見られないから、どんな顔してるのかは分かんなかった。ひっかけに失敗した悔しい顔なのか、ほんとに善意だった苦笑いとかなのか。
ただ、正面のマリアンは満面の笑みを浮かべてた。
……断って正解だった?
分かんないなぁ。
それから街中をぐるーっと、一時間くらい乗ってたと思うけど、教会に着いた。
街の外れの方で、その一画はさびれた感じがしてる。
教会の建物も、お世辞にも綺麗とは言えない。敷地だけは広々として、小さい畑もその敷地内にあった。木材で組んだ塀もわりとボロボロで、木の杭が刺さっているだけの所もある。
「街を治める身として、慈善活動も必要だからな」
レオナイル様はサッと馬車を降りると、またエスコートの手を差し出してくれた。
……これは素直に受けた方がいいんだよね。
よいしょ、って言いたいのをガマンして、颯爽と馬車を降りるあーし。みたいにしたかったけど、この体だと段差がちょっと厳しかった。
だけどレオナイル様の手を取ったら、びっくりするくらい楽に、体がフワーっと浮くみたいに降りられた。
「ありがとうございます」
お礼を言ったら、若干、勝ったみたいなドヤ顔されたのがハラたったけど。
顔に出さない。それがお嬢様ムーブだから。
なんて思ってたら、目の前に腕を出された。
「……なんでしょう」
「馬鹿が、エスコートだ。建物までの敷地は舗装されていないぞ」
教会まで数十メートルはあるけど、確かに一面、乾いた土だった。雨が降ったらぬかるむんだと思う。たくさんの足跡が窪んでて、ガタガタな地面になってる。
……自分は裕福な人に保護されてるのに、教会の人は貧しいのかもしれない。
そう思ったら、足がすくんだ。




