十九 軟禁なのでは?
レオナイル様の執務室に戻って、ユリーシアと三人だけになった。
レオナイル様はいつもどおり無表情だけど、ユリーシアは下を向いてしょんぼりしてる。
あーしのネイルの話をするのに、なんでだろう。
こういう雰囲気、ニガテだなぁ。得意な人なんていないだろうけどさ。
「俺に報告するために試させた。といったところか」
「も、申し訳ございません!」
開口一番から何か怖い。ユリーシアも慌てて謝ってるし、ネイル……ダメなのかな。
「どの時点で、緘口令レベルだと気付いた」
「レオナイル様がそう仰った時です。考えが至らず申し訳――」
「ああ、責めているわけではない。誤解させたな。だがお前の学びとすれば良い」
怒ってるわけでは、ない?
分かりにくいんだよねぇ。でも、ユリーシアはまだ俯いてる。
「あのぅ。わたしのネイルって、そんなにダメなことだったんですか?」
もう、怒るんならやらかした張本人にしてほしいよ。ユリーシアにはあーしが見せただけなんだからさ。
「……はぁ」
って、レオナイル様はなんであーしには呆れた顔でため息なのさ。
「魔力も低く、魔法の素養など無いと踏んでいたお前が、な。ユリーシア、説明してやれ」
「はい。……あのねエルフィオラ。補助魔法は人の体に作用させるという時点で、もの凄く難しいの。普通は出来ない。それがまず一つ」
「ひとつ……」
てことは、二つ目もあるんだ。
「次は効果時間ね。数秒から、長くても一分が限界だったの。王宮魔導士が本気で研究して、その程度しか出来ない」
「へ、へぇ~」
ゲームだとわりと普通にあるから、ぜんぜん大したことないと思ってた。
でも、それだけならいつか、誰かが出来たかもじゃん?
「効果の話をしますわね。魔法の効果はせいぜい、数パーセントを引き上げるのが限界だった。実戦ではその少しの差くらいじゃ、強い魔物には到底敵わない」
「そう、なんだ」
「だから騎士団があるのだ。集団で一個体として動く事が出来て初めて、強大な魔物を倒すことができる。……この間逃してしまった黒竜の幼体も、歴戦の一個小隊でやっとだった。お前には分からんだろうがな」
「へぇぇ……魔物って、そんなに強いんだ」
ぬああああああああ!
それあーしじゃん?
え、何か分かってて言った? そんなことないよね?
「森でお前が倒れていた時、その黒竜が近くを通ったはずだ。まぁ、そいつに見つかっていたとしたら、命など無かっただろうな」
「うはぁ……」
あぁ……めっちゃ心臓バクバクしてる。
気付いてない。これは気付いてないよね、だいじょぶ。
「まだありますのよ、エルフィオラ。あなたのネイルアートは、いわば触媒なわけだから、単なる補助魔法ではなくて付与魔法に分類されるわ」
「……ハァ」
補助とか付与とか、なんとなく似ててこんがらがりそう。
「付与魔法なんて、誰も成功させていないの」
「は?」
うそだぁ。
誰も成功させてないことを、あーしがやったの?
「少しは理解出来るか? 今だ成功の無い魔法を成功させた上に、あの効果の高さだ。新米のロイでもって、俺を一歩下がらせる突進力と膂力があった。あれが熟練の騎士であったなら、油断していた俺は本当に傷を負っていたかもしれん」
レオナイル様がどのくらい強いのかは知らないけど、雰囲気的に強そうではある。
だから、この言いようだと余裕のはずだった、てことなんだろうけど。
「新米同士で三人分以上の力が出せたということは、単純に考えて三倍くらいの効果があったと言えますわよね。王宮魔導士でさえ数パーセントですのよ? でもあなたのは三倍。ありえないくらいに強過ぎる魔法、ということですわ」
「あちゃー……」
そう聞くと、なんか凄そう。
でもさ、ロイくんの思い込みってこともあるじゃん? プラセボでさぁ、火事場の馬鹿力が出せた~、みたいな。
「もう! どうしてピンとこないの!」
「えー、だって、わたしはずーっと魔力が低いって言われてきたからさぁ。そんな凄いワケないじゃん? って思っちゃうワケ」
「エルフィオラ。言葉遣い」
「ぁ。ゴメンナサイ」
でもね、竜の時ならともかく、人間に化けてからはほんとに魔法が使えなかったんだから。
今さら凄い魔法、って言われてもピンとこないよね。
「俺も最初はそう思っていた。だが、付与や補助の魔法を使うには、もっと別の才能が必要なのかもしれん」
「そう。そういうことですわ」
「あっ! それならさ、マリアンから聞いたからなんだ。ドレス作りとか彫金の技師は、魔力が低い代わりに、物を作るための魔法を自分のものにしてる、って」
あれが一番のヒントになったもんね。
「……それは技術を補い、際立たせるための魔法だ。持っている魔力を超えた魔法力を、どこから持って来ているというのだ。話をややこしくするな阿呆が」
「あ~! あほって言った! そりゃあどうせ、わたしは勉強できないけどさぁ」
分かっててもめちゃヘコむ。
いや、前世は諦めてたし、いちいち凹んだりしてなかった何で今は悲しいんだろ。
「れ、レオナイル様。本当のことでも、おバカは言い過ぎです。エルフィオラが拗ねちゃったらどうするんですの」
いや、拗ねるまでしないが?
あと、アホにバカまで勝手に加えたよね?
抱きしめてくれても、しばらく覚えてるからね?
「……すまん。そんなに打たれ弱いものなのか。子どもというのは難しいな」
「もう! そんなに弱くないです。そんなことより、私はネイル続けちゃ駄目なんですか? やっと盛れると思って、楽しかったのに……」
そう言ったらレオナイル様は、こぶしをおでこに当てて、ちょっとの間考えてた。少し俯くみたいにして、真剣な顔で。
「そうだな。色々と取り決めをしよう。窮屈に感じるかもしれんが、全てお前のためだ」
「……そっか」
ダメなんだ。
でも、こっそり自分にするくらいならいいよね。
あ~あ。まじで残念無念。
「誰も駄目だとは言っていない。ただ、今から言うことをよく聞くんだ。
いいか?
許可なく他の誰にも施さないこと。
施す場合、ネイルにはロシュフォール公爵家の紋章を入れること。
一緒に国王に報告に行くこと。
決して一人にならないこと。
外出は禁止。出る時は俺と共に行くか、護衛を一個小隊引き連れていくこと。
とりあえずは、このくらいか」
真顔で何言ってるんだいこのひとは……軟禁じゃん。
でもネイルは沢山したいんだけどなぁ。
いや、他はいつもと何か違うっけ?
一回聞いただけじゃ分かんない。
「覚えらんないし、多くない?」
あと最後の、一個小隊って結局どのくらい?
無理に出かけたりしないけど、いろいろと大げさじゃない?
「後は、もう一人か二人、信頼のおける、という絶対の条件の上で戦える侍女を付ける」
「えっ? マリアンは? マリアンじゃないと嫌!」
あ。レオナイル様ってば、あからさまに面倒臭そうな顔したよ今。
「誰でもいいだろう」
言うと思った! さいあく!
そしたら、ユリーシアが味方してくれた。
あーしの肩をぎゅっと抱いたまま、しっかり言い返してくれた。
「いいわけないじゃないですか、レオナイル様。この時分の子はとっても繊細なんですから」
そーだそーだ。
子ども扱いが、ちょっとアレだけど。
「レオナイル様がそんなこと言うなら、わたし、だれかれ構わずネイルしちゃうもんね」
なんか、だんだん面と向かって話せるようになってきてる!
「きっ……貴様……。わかった。マリアンは外さない。ユリーシアもだ。それでいいだろう」
うぇっ! 一瞬、たぶんだけど殺気が漏れてたよ?
「こっわ……。でも、負けないし」
やっぱり怖いかも。
「誰と張り合っている! 俺はお前のことを考えてだな――。まぁいい。ともかく、今後はお前を狙う輩が出てくるだろう。お互いに気を抜かぬようにな」
「え……?」
「当然だろう。国家さえ揺るがすような戦力を、お前が生み出せるかもしれんのだぞ。悪用せんとかっさらう組織が、遠からず現れる」
――マ?
誘拐とか、それは普通に怖すぎる。
だめだ、全身鳥肌立った。
「あの、やっぱり、探してください……」
「ふっ。だから言ったのだ。ガキが」
げー、勝ち誇った顔したよこの人。
めっちゃ負けず嫌いじゃんこの人。
どっちが子どもなんだか、まったく。
でも……、そっか。
あーしのネイル、ちょっとヤバそうなのは分かった。
もっといっぱい盛りたいのにな~。
それにさ。
――やっとレオナイル様の、役に立てるのかと思ったのになぁ。




