一 黒竜になってる!
「さいごに猫ちゃん助けられて、よかったぁ」
あーしは死んだ。はず。
だってあのトラックの運ちゃん、前見てなかったし。
スマホ見ながらとかマジ最悪。
人気のない道だってさ、あーしも歩けば猫ちゃんも歩いてるワケ。なのにさー。
……ま、今さら言ってもしゃーないか。あのコは無事だ。
だって最高の投げ方だったし。こう、フワっと抱えて街路樹のとこにトス。みたいな。
「完璧っしょ! だから後悔はない。……でもここ、どこだろ病院じゃないし」
白い部屋、てゆーか白い。
天井だけじゃなくて、壁も何もが白。
真っ白。なんもみえーん、ぴえん。なんちゃって。
「元気そうですね。――さん」
わ。誰か居たんだ! 一人で喋ってた恥ッズ!
でもこの人、超きれーな声。
「てか。あ、はい。いや、やっぱ誰も居ないケド」
こんなにおメメ見開いてるのに誰もおらんし。
見渡しても白一色。感覚バグる。
それか真っ白という名の、何も見えない系?
「居ますよ。見えないのは仕方がありません。あなたは……。まあこの話はいいですね。ところで、転生してくださいな」
――は?
「いや転生って。アニメは見るけどさ」
「話が早いですね。それでは、剣と魔法の世界にいってらー」
いや、話が早すぎるでしょ。
なんて思う間になんか、光が――
わー。色んな色のキレイな光が、キラキラしてる。
――花火の中に居るみたい。
「て。いやちょっ、まじ?」
超まぶし~! んで適当過ぎん? ありえな――。
**
んあっ!
頭打った? たぶんさっきの仰向けのまま落ちた。
あったまいたーい! ズキズキの最上級!
なんこれ痛すぎる! すでに転げ回ってるくらい痛い!
あああああ叫びたいくらい痛いよぅ――
「ぐるぅぉおおおおおおおおお!」
ええええええ?
あーしの声、これどーなったん?
「ぐるぉお」
おおおおおお? 怪獣かっての。
おかしいでしょ。
――で、目開けたら森の中っていうね。
青いお空は見えるけど。
うそでしょ……。
森深っ!
木がいっぱいで……草もいっぱい……木と草と、ちょっとのお空しか見えないが?
……色んな音がする。甲高い動物の鳴き声、風に揺れる枝と葉っぱの擦れる音、カチカチカチって虫の声、鳥のキュイーって長い音の呼び鳴きも。
土と葉っぱの匂い……つよ。落ち葉のベッドみたい。
空気も……草とか木の、緑の匂いが濃い。
割とマジでここどこよ。
あ、頭痛いの消えたわビックリし過ぎて。
コレもう遭難じゃん。
はぁ。
とりま体を起こしますか、よっこいしょ――って、ぅぇえええええええ手ぇ黒っ!
「ぎゃあああぉおん!」
んでこの声よ!
てか! 手ぇ黒! あ、二回言っちゃったじゃん!
いや足も黒い。だけじゃなくておなかも、全身黒い。
ガングロじゃなくて白ギャルだったんですケド?
それに爪なっが! えぐい形してますけど。ごつい刃物を三日月型にしました、みたいな。
あーしの指……あぁ、ちゃんと五本ある。でももうネイル似合わないかな……。
いいや。ネイル出来んてワケでもないし。似合うやつ探してやる。
じゃなくてぇ。
一旦おちつこ?
「ぎゅるぅお」
あぁもう、喋れんし! 何なん?
――何がどうなったらこんなイカツイ手に……あマジか。
全身よく見たらトカゲじゃん、あーし。スラっとしてカッコイイ感じだけど。
首長いお陰で背中もすんなり見える。待って羽生えてるよ?
……トゲっぽい背ビレみたいなのもある。
手足も長いからこれ、普通に立てそう。
真っ黒な鱗キレー。銀色にも見えるしイケてる立てるトカゲじゃん?
わーいカッコよ!
……いやいや。
人っぽいのは大きさだけじゃん!
転生ってさ、こういうのもあるんだ?
さすがに人間じゃないとか先に言ってくんないとさぁ。
どうすんのコレ、あーしこの体で何食べるん?
〈何をしているのです、我が愛しい子よ。今日から一人で生きるのです。生物の頂きである黒竜として、強くなるのですよ〉
お~? 頭に直接……的なやつじゃん! テレパシー!
いや黒竜って。
……え。マ?
〈マジ? どゆこと? 捨てられんのマジウケる。……あのもうちょっとだけでいいから、育ててほしーな~。なんて。って、これテレパシー出来てる?〉
〈甘えん坊なそなたを、強く育てるのはこれしかないと判断したのです。その名に恥じぬ強さを手に入れなさい。頂きに至る黒竜の爪・至高の黒爪よ〉
それが名前……?
いやどっちが名前?
あーしこれ、覚えらんなそ~ですけど。
〈って、どこに居るのママ? おーい。そんな事言わずにさぁ〉
なんも分かんないあーしに色々教えてほしいよ。
〈ふむ。随分と余裕ではないですか。ではさらば。エルヨンテフェルよ〉
あー! 上だった! めっっっちゃ高いとこ飛んでる黒いドラゴン!
めっっっっさカッコイ―!
じゃなくて! 戻ってよぉぉ!
「ぎゃるぉおおおおおおおおん」
おぉ~い!
わ~、一瞬であんなちいさく……。
あ、てことは?
あーしも飛べるんじゃね?
「んぐるうううぉおおお」
んがあああああ羽動けぇぇぇ!
バサァッ、て感じでさ!
――とか念じたら、動いた。
体を動かすって感じじゃなくて、念じれば動く、みたいな。
おぉ! ほんとにバサッって、飛んだ! 飛んだ~!
一気に真上に飛び上がって、ママ竜がちょっとだけ見えた。
飛んでるー! 木の上までひとっ飛びーいぇーい!
でもこの羽、動かしにくい。
もっとこう、強く飛ばないと追い付けないのに……念じきれない感じ。
ってもう無理。
「んぐるぅぅぉ」
はぁぁぁしんど!
なんこれ、めっさしんどい!
ダメだ落ちてく……もう絶対追い付けないじゃん。
それよか……くらくらする……。着地するので精一杯。
――ちょっと横になろ。
あれだ、めっちゃ頑張ったんだねぇ。限界すぎる。
なんかこの羽って、筋肉で動かすんじゃない気がするなぁ。念力みたいな?
てか、頑張ったらおなか減ったんだけど。
んー。
めっさ森だし、いちお~、食べ物はありそうだけど……虫はかんべん!
でもパッと見じゃ、果物とかなさそう。
「グルルルルル……」
うん、あーしのおなかの音……。にしては、ちょっと離れたとこから聞こえたような?
あ、これ違うやつだ。
あれ、って思ってクンクンしたら、プンプン臭う。獣臭い感じ。
たぶんだけど、わりとヤバめの。
「ガォオッ!」
ぅわー!
やっぱ、おーかみ!
おお神よ! なんつって、じゃない!
何メートルか先くらいに来てるじゃん。気付かんかった。
他にも木の影に隠れてるけど、チラっと何匹か見えた。
普通ならピンチだけど、今はイケる気がしてる。
「ぎゃるぉおおおん!」
負けるかー! こちとらドラゴンだぞ~!
でもまだ、体を起こせてなかったら待って――くれるわけないか。
飛びかかってきた~!
あっ! 顔に来るかと思ったら、尻尾噛みつかれたっ!
それはやだ、ちぎれちゃう!
……あれ? 痛くない。
なんだ甘噛みかぁ。
いやめっちゃ牙立てて頭振ってるじゃん! ガチの動きエグッ!
って、いっぱい来たー! 群れで狩りってやつ!
何匹いんの?
ぎゃーっ、食べられる!
ひぇー!
うわうわうわ、デカい口開けて来るのこわ!
唸らないで牙見せないで群がらないで!
あぁぁ。手も足も尻尾もガリゴリ噛まれてる。
あーし、しんじゃう――?
いきなりヤだよ!
ヤバい。ヤバい!
もうヤられる前にやる!
くそっ、どんだけ居んのよ!
噛んでるヤツで一、二ぃ、三、四ぃ。
……他は……いやもう分かんない! あっちもこっちも囲まれちゃってる!
どうしよ? このまま死んじゃうなんて嫌過ぎる!
狼に喰い殺されるとかいつの時代だよぉ!
……て、あれ? ヤバくは……なさそうな感じ?
なんだ、ぜんぜん痛くないじゃーん。
あーしの鱗、硬ったいんだ? マジ助かる~。
それじゃあ今度は、あーしの番ね。
名前……なんか強そうな爪、だったよね。エル……なんだっけ。
そのなんとかの名のとおり! 爪でやっちゃうよ?
いい? いくよ!
「ぎゃおおおお!」
ズシャーっと!
「キャイン!」
え。……うわえっぐ。
首、めっさ千切れるじゃん……。そこまでする気はなかったんですケド……。
それにしても、一撃て。
あ、他は逃げてった。
助かったぁ。
まさかソッコーで狼に襲われるなんてね。
あーしドラゴンなのに、弱そうに見えるんかなぁ?
まぁ、あのママ竜に比べたらまだ小さいし? 元のあーしくらいかな。尻尾まで入れたらもうちょいある?
ぷっ! ドラゴンて、足から頭で測んの? それか尻尾から? どっちよ~。
……てか、これどうしよ?
殺しちゃうつもりは、なかったんだけどさ……。
首もげちゃって、血がきも……あぁでもごめんね?
こっちも命懸けだったし……。
うーん……食べる? ドラゴンだし?
いやー、でも生肉はちょっと。
――ぐきゅるるるるるる。
でもお腹めっちゃ鳴ってるわ。
うーん……。
あ、あーし天才かも! 思い付いちゃったわ!
ドラゴンなら、火ぃ吹けるっしょ。
せーの!
「ごはああああ!」
出ター!
十五メートルくらい火が伸びてる!
ブハーって、めっっっさ火炎放射器じゃんウケる~!
うおおおお……え、これ火事にならん?
火を吐くのをやめても、一直線上に火が残っちゃってる。
草だけじゃなくて木にめっさ燃え移って……ぁあああああダメダメダメ!
燃えてるう!
どうしよどうしよ?
あ、あっ、この爪イケんじゃ?
あれっしょ? 周りの木ぃ倒して延焼防ぐってやつ!
動画で見て知ってるもんねー!
ぬぉおああああああああ!
バッタバッタとあっちにほい、こっちにほい。
でっかい木もよゆーで切り倒せるぅぅ!
って、あれ……なんか、倒す方向まちがえた?
火の方に倒しちゃ、ダメなんだっけ……。
クソでかキャンプファイヤーになってんだけど。
ああああああ! これ火と反対に倒して、何ならなるだけ遠くに置かなきゃじゃん!
よかった……火事広がらんくて。
森ぜんぶ燃えたらちょっとさすがに落ち込んでたわ。
一時間くらいずっと木こりした甲斐があった。
……あ。ちょうど残り火で狼焼けそ。
だけど、毛皮は取るんだっけ。
……爪でいけるかな? けど、皮剥ぐとかグロそう。
でもめっっっちゃお腹減ってるんだ……。
ごめんね。だいぶ適当だけど、毛皮も内臓も取っちゃうね? 魚しか捌いたことないけど、同じ感じでいいのかな。
いや……たしか、内臓を破かないように気をつけるんだよね。
あれ、なんでこんな事知ってるんだっけ。
あぁぁぁ、なんかこの、生々しい柔らかさを爪で直で裂くの、無理ぃぃぃぃ。
うー。内臓まではたぶん上手く行ったけど、毛皮は適当。
動画見られたらなぁ……言ってもしゃーないけど。
てかさ、こんな狩り即バーベキュー……野性的過ぎるよね……。
足とかアバラとか適当に分けたけど、グロ死体からお肉に見えちゃうのは、あーしのメンタル謎だわ。タフ過ぎ。
遠火でじっくり焼こうね……。
あー! 焼けてきたらおいしそーな匂いがする!
余分な脂が落ちて、それが火に入った時の甘い肉の匂い。たまらん。
そう、とにかく火が通ればおっけ!
いただきます。
「がうー」
喋れないのは慣れないけど。
まずはもも肉にがぶっと。
うん、これはイケる!
もっと獣臭いのかと思ってたけど、竜になったからかな? 気にならない。
んっま!
ンマンマ!
あーやばい、とまんない。肉の味しかしないけどンマーい!
塩とかあればなー。
でも、一匹ぺろっと食べちゃいそうじゃん?
ひと口もおっきいし。細い骨はガリゴリ食べちゃった。ワイルド過ぎてウケる。
あーしこんな食べたの初めて。
てか、こんなイカついドラゴンだし、めっちゃ食うし、たぶんオスだよね。
うーん。
あーしより、やっぱここは「オレ」っしょ!
オレ!
ああ、オレが似合うあーしカッコよ!
オレはなんとかの爪!
エル……てふぁーる、だっけ? うん、名前忘れちゃったわ。
オレか爪って言っときゃいっか。どうせ人の言葉喋れんし。
後は寝るとこだよねー。
木の上とか……あぁでも、せっかく燃えて更地みたいなったし、ここに家があればなぁ。
あ。喉かわいた。寝るとこの前に水探さないとだ。
……んあ!
あーし天才。いや、オレ天才。
魔法の世界って言ってたじゃんね。
水とか出せるくない?
「ぎゅるぅおおお」
おおおお?
念じたら出た!
ジャバジャバ出せるじゃん! 水ぅ!
はー、オレ最強。まじ最つよ! つよつよじゃーん!
いやさっき、水出せば火ぃ消せたんじゃ……。あでも、お肉焼けたし?
まぁ……この転生は割と当たりよね。
イキナリ過ぎてほんとは焦ってたけど!
これならまぁ、アリ寄りのアリ、ってとこ?
人間に転生してたら死んでたし、ね。
**
「我が子よ。エルヨンテフェルよ。やはり、やれば出来る子なのです。強くなりなさい……」
その森の主くらい、倒せるように。
竜の母はその縦長の瞳孔を細くして、遠くから我が子を見つめていた。
この作品は『アルファポリス』様にて、先行して投稿しております。
もしも続きが気になる時は、そちらで少し先まで読むことが出来ます。




