ある一日の穏やかな時間
あーしがこの異世界に来てから、四カ月以上経つんだよね……。
なんか、こうしてると変な感じ。
公爵家のお屋敷に連れて来られて、なんでか知んないけどお嬢様扱いされて、いつの間にかそれにも慣れてきちゃって。
未だに、高価なものを貰うと気が引けるけど。でもこの感覚は残っててほしい。
「エルフィオラ。ここに居たか。この頑固な小隊長にも、お前のネイルアートを施してやってくれ」
あーし専用の仕事部屋まで与えてくれて、そこでネイルの研究をさせてもらってる。
気にせず使っていいって言ってもらえたから、机もその周りの床まで、色んな色素材でゴチャってるけど。
「団長。おれには必要ありません。そのような、婦女子がするような爪ケアなど」
「本当に効果が無いなら、すぐに外させてやるさ」
「むぅ……それならば」
男の人はみんなイヤがるよね。こんなに体のおっきい人だと、なおさら。
でもあーしは、男の人でも可愛くしたらいいじゃん、って思う。
「レオナイル様。はーい、すぐやっちゃうね。じゃなくて、しますね」
「お前、外でもその話し方ではないだろうな?」
「え、エヘヘ。だ、大丈夫ですよぉ」
あーしをここに連れてきた張本人、金髪美形のレオナイル様は、何かにつけてドレスやらアクセやらをくれる。
理由は、あーしが補助魔法の効果をネイルで付与できるようになったから。
十歳の体のせいか、魔法そのものは苦手なんだけど。でも、効果の高い補助魔法をネイルアートに乗せることができちゃう。そのお礼にって。
「はい、できましたー」
今の時点では公爵家だけの極秘にされてるから、ここの騎士さんたちだけに施してる。
「よし。貴様、ここで構わんから剣を振ってみろ」
えぇ~。たしかに場違いなくらいに広い部屋だけど、あんまり無茶しないでよ~?
この人おっきいし、勢い余って壁とか突き破りそう……。
「おおぉ? こ、これほどですか! 剣が羽のように軽い! 重さを感じません!」
「ふむ。さすがエルフィオラ。見事なものだな」
レオナイル様も、小隊長さんの反応を見て満足そう。
「可愛いのためにやってるんだけど、それがお役に立ててるなら嬉しいです」
こっちに来てから、お世話になりっぱなしだからね。少しでもお返しになるなら、サイコーじゃんね。
「よし、では今日の褒美だ。このルビーをやろう」
そう言って、レオナイル様はポケットから無造作にソレを手渡してきた。
ん……? なんか、ルビーって言ったのに重さがハッキリと……。
「――ま、またこんな高価なもの! いらない、いらないです!」
だってこれ、二センチ近くあるよ? こんな大きい宝石をホイホイとあげたりするものなのかな。
そんなわけ……ないよねぇ?
この世界の価値観がますます分かんなくなる……。
「そう言うな。俺がタダでお前をこき使うみたいになるだろうが」
「えぇ~……。いっつもそう言って、聞いてくれないですよね……」
レオナイル様は、グイッとあーしの手の平にソレを押し付けて、なぜか不敵な笑みを残して去って行く……。
「団長、このねいるあーとというものは、他にも効果があるのでしょうか!」
小隊長さんは、部屋に入ってきた時は軽く不機嫌そうだったのに、スキップするくらいのウキウキで帰ってった。
まぁ、それはいいんだけどさ。
「なーんか、あーしに甘い気がするんだよねぇ……」
これだと、ますますお世話になってるだけになっちゃうじゃんね。
……もっとお返しできるようになんないと。
「――コンコン。エルフィオラちゃーん。お茶を持ってきたわよぉ」
「マリアンだ。口でノックするの、ダメって言うくせに~」
マリアンは誰よりも顕著に、あーしに優しくて甘やかしてくれる。
仲良しの友達みたい、ていうよりも、お姉ちゃんて感じ。
「だって、レオナイル様たちが出て来て、ドアを開けてくれていたんだもの。それより、焼き立てのクッキーもあるの。お仕事休憩して、食べてもらおうと思って」
「えー! やった~! いつもありがと、マリアン」
――こんな時間を過ごすことになるなんて、転生したあの日には思いもしなかったよね。
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どうぞよろしくお願い致します。 作者: 稲山 裕
「なぜか皆から愛されて大公爵の養女になった話~内向的だけどそれなりに楽しく過ごしています?~『オロレアの民 ~その古代種は奇跡を持つ~』」
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