十六 意外な効果
「ねぇユリーシア! みてみて、魔法でネイルできたんだよ!」
今日は朝から剣術訓練の日で、訓練服姿だから似合わないんだけど。どーしても訓練前に見て欲しかった。
だから先に来て、ユリーシアが来るのを待ってたんだよね。
「エルフィオラ。先に準備していたのは感心ですが、あいさつもせずに何ですか。日頃からきちんとしなくては――」
「あぁもう、おはようユリーシア。ねぇいいからこれ見てよぅ」
ユリーシアは小言――じゃなくて指導熱心だけど、しょうがないなぁ、くらいの口ぶりにとどめてくれてる。あーしがめげないからかもしんないけど。
あーしの扱いが上手くなってるだけ、という可能性もあるけど。
「まったく……。あら。可愛いじゃないですの。爪はあまり派手な色にしないのが常識ですけど、赤い花びら? とても綺麗ねぇ。人差し指だけですの?」
「ねー! いいよね! 今はね、ちゃんと爪に安全で大丈夫か実験中なんだ。だからとりま、この指だけ。大丈夫だったらユリーシアにもしてあげる!」
「わ、わたくしはいいですわ。夜会の時に色々言われるのは御免ですもの」
あ、これは本気で拒否してるっぽい。
首も両手も、横に振っての全力意思表示されちゃった。
「え~っ? カワイイのに?」
「そういうものなのです。まぁ、誰がするか、というのも大事ですから……文句のつけようのない人が、誰が見ても美しいと思わせられるものを付けている、という状況であれば流行するかもですけれど」
「ユリーシアじゃダメなの?」
「わたくしなんかじゃダメよ。王女とか他の公爵夫人、そのご息女あたりの上位貴族くらいじゃないかしら」
「そんな知り合い居ないんだけど……」
「ふっ。フフフ。そうね、そうかもしれませんわね」
「えー、なんで笑うのさぁ。ユリーシアのいじわる」
ユリーシアは人をバカにして笑ったりしない。だから、何か本当は知ってて笑ったんだと思うけど、あーしにはわかんなかった。
「まぁいいじゃない。それよりも訓練、始めますわよ」
「えー、ネイルのこともっと褒めてよぉ」
「後で、ですわ。時間がもったいないでしょう? さぁ、剣を構えなさいな」
訓練場には他にも新人騎士さんたちが来て、準備運動なんかを始め出した。
さすがに名前までは知らないけど、顔はお互いに見知ってきたし、「お嬢様がんばれ~」なんてヤジみたいな応援も飛んで来る。あっちの小隊長さんが来るまでは。
そんでそのうち、雄々しいエイ、オーの掛け声が始まって、そこから「うぎゃー!」なんて悲鳴に変わっていくんだよね……。
騎士さんたちは訓練場の真ん中を使ってて、あーしたちは端の方。基礎訓練だしほとんど場所なんていらないくらいだからね。
いつも通り型稽古の延長で、ユリーシアと型の通りに打ち合いをする。
でも、ユリーシアは加減をしてくれない。これが大問題。
この体、十歳の子どもだよ?
なのに毎回きっちり、ユリーシアはほとんど本気で斬り込んでくる。
あ、もしかしてほんとは、あーしのことキライだったりして――。
「何を余計なことを考えているんですの? ケガをしますわ、よっ!」
「だ~っ! また本気で打ってくるぅ!」
今練習中の型は、相手の斬り込みを半歩横に避けつつ受け流して、その受けた反動を利用して反撃する、って感じらしい。
でもね、横の移動が半歩だと、この体じゃ小さいから足んなくて。だからユリーシアの斬り込みがモロにガツン、と当たる。
「はいっ!」
ちゃんと斬り込む時に掛け声出してくれるんだけど――。
「あぅ!」
ほら、ガツン。
「あえ?」
ガツンはガツンだったけど、いつもみたいに腕がビリビリしびれない。
木剣同士が当たる時に、力負けしなかった。
……なんで?
「あら。ちゃんと受けられるようになりましたわね。でも、本当はもう少し避けて受け流すのですわ。もう一度!」
「あい」
なんかもしかして、あーしの身長伸びた? パワーついてきた?
「はいっ!」
半歩避けて受け流す!
「おっ?」
今やっと、ユリーシアの言ってた型の動きが、出来たかもしんない。
木剣に当たった感触が軽くて、その反動で自然と剣が回る感じで反撃――した。
「出来るようになりましたわね! ではもう一度! 体に覚え込ませるのですわ」
「やったー! 出来たら楽しいかも!」
それからはやればやるほど、体もスムーズに動いて訓練してる、って感じで楽しかった。
でもそのせいで、打ち込み方を縦横の二つだけにして、軽い実戦練習をすることになっちゃった。
「あんまり難しいことできないってば」
「手加減はいたしますわ」
聞いてねぇ~!
ユリーシアは、指導に関してはガンコなとこがある……。
「行きますわよ!」
「え、ちょっ!」
心の準備がぁ~!
「はいっ!」
最初は上からビュ、って音が降ってきた。
「あう」
「横!」
見事な斬り返しで、次は脇腹にビュン。
「ひぃ!」
「縦!」
その掛け声なかったら絶対に当たってるからね?
「あう!」
あ、止まった。
「……その掛け声、なんとかなりませんの? 気が抜けそうですわ」
「これ、ただの悲鳴ですけど……?」
「あら……そうでしたの。でも、ちゃんと受けきれていましたわよ? 筋力がついたにしては、急な感じがしますけれど」
「それな。って思ってた、あーしも。なんでかな?」
なんとなく、そういう時って手を見たりするじゃん?
何か変わったのかなーって。
そしたら、それを見てたユリーシアが急に、あーしの左手をガシっと掴んだのよ。
かなり真剣な、ていうか無表情な真顔で。
「え、なにこわい」
「あなたのネイル……光ってますわよ?」
「なにそれカッコイイ……」
「もう! あなたの作ったネイルなんでしょう? ……魔力を感じますわ。すごく」
「そ、そんなに?」
見ればたしかに、赤い花びらのネイルがぼんやりと赤く光ってる。
「これ、補助魔法じゃありませんの? こんな……爪に施せるなんて。しかもこれ、一時的なものではなくてずっと、自動的に発動していますわ」
ぜんぜんこっち見てくんなくて、ずっとあーしの爪を見てしゃべってる。
「そんなの、見ただけでわかるの?」
「じっくり見れば、貴族レベルの魔力の持ち主ならだいたい分かりますわ。レオナイル様なら、もっと詳しく分かるかも……」
あ~、だから森で最初に会った時に、あーしに魔力がないって言ってたんだ。
でも、竜の時は魔法使い放題だったのになぁ……。
「とにかく、レオナイル様にご報告しましょう。あ、待って。その前に隣の騎士さんたちに、もうちょっと試してもらいましょう。あなたの力を」
「は?」
なにゆってるんだいこの人は……。




