十四 苦手な魔法修行
お風呂でネイルのヒントを得たあーしは、昨日はのぼせて寝ちゃったけど今日はやる気!
訓練場の隅っこで、ユリーシアに魔法のなんたるかを聞き直して練習中。
必死にうなるあーしの右横で、じーっと無表情で見つめてくるユリーシア。
なんでも、魔法が暴発した時のために、術者の利き腕の方に立っておいて咄嗟に制御する。
――ためなんだとか。
……でも、ほんとに魔法が出ないんだよね。
竜の時は念じただけで出来たのに。
人の姿だと、どうしても魔法が使えない。
「んぎぎぎぎぎ」
グラウンドみたいな訓練場の端っこが、ちょうど森に面してるみたいで、魔法攻撃用の的として土で作った盛り土みたいな壁がある。
それを狙ってるんだけど……あーしはまず、思った魔法を発現させるところからなんだよね。
「エルフィオラは魔力が少ないから、もっと集中しませんと。使おうとしている魔法のイメージが大き過ぎても無理ですわよ?」
ユリーシアはさらっと、何でもないことみたいに言う。
「え、そうなの? そんなの初めて聞いたんだけど」
ユリーシアは剣術だけじゃなくて、魔法も使いこなすから尊敬する。それだけじゃなくて、ちょっと嫉妬しちゃうけど。
魔法の訓練は、剣術みたいな直接的なダメージがないから、そこはちょっと安心。
「そうでしたっけ。でもあなた、ようやく魔力操作が出来るようになってきた所ですし。必要に応じたアドバイスはするつもりですわ」
「あ、そうだった。夜とかに、一人で練習してただけだった」
「フフ。熱心ですわね」
地道に訓練。
使いたい魔法は水。
水魔法にネイルアートの、接着剤のヒントがあると思うんだ。
この勘は、たぶん当たってると思う。
「んぐぐぐぐぐ」
いや、土魔法とかのがいいのかな。結晶化、みたいな?
迷う~!
「力み過ぎですわ。それでは魔力操作が途絶えましてよ?」
「えー、力みとか関係するの?」
「ええ。無駄な力を抜いて、魔力の流れを感じながら発現させる場所に集中するのです」
「ん……? それって、自分の手じゃなくてもいいってこと?」
「まぁ! 素晴らしい理解力ですわ。その通りです。ですが、自分の体以外の所に発現させるには、それだけ高度な集中と魔力操作が必要になるんですのよ」
「あぁ~……まぁ、そだよねぇ」
そんな高等なことより、水を出す練習からだわ。
やっぱり、竜の時にもじゃばじゃば使ってた水から。
でも、そっか……水滴くらいでいいんだよね、ネイルに使うだけなんだし。
「水滴……ちっちゃい水……接着して固まらせる……」
「水を固まらせるって何ですの? 余計なことをイメージすると難しくなりますわよ?」
あぁもう、横からごちゃごちゃ言わないで――。
って思ってたら、左の人差し指からトロ~っと一滴、指先から出てきた。
「わー! 出た、でた! ユリーシア、みて見て!」
「あらまぁ、とろみのある液体……ですわね。何をイメージしたんですの?」
ユリーシアは、戦闘に使えるような水魔法をイメージしてたんだと思う。
眉根が寄って、難しい顔してる。
「接着剤!」
「……また妙なものを」
あ、軽く横目に見るみたいにして、ちょっと呆れてる。
「だってさあ、どうせ魔力が少ないなら、戦うよりわたしは作業用。ネイルアートに使う魔法を覚えたいんだよね」
「あら、そういうことでしたの。それなら納得ですわ。確かにちょっと、エルフィオラは戦いに向いていないな~と、思っていましたのよ」
「思ってるなら言ってよ……」
「それはほら、一生懸命な姿を見ていると言いにくいですし……弱くても護身用くらいは扱えるかもしれないでしょう?」
完全に上からだけど、ユリーシアだけじゃなくてレオナイル様も、何でも出来る人ってこういう感じ。
ちょこ~っとエラそうなんだけど、悪気とかはなくて。あーしのことを想っての言葉なんだよね。
「でもほら、これって成功だよね! ねぇ、これを結晶みたいにする魔法って、あったりする?」
がんばって集中し続けてるから、とろみのある液体はゆっくりと、ポタッっと落ちてはまた湧き出てくる。
指先を伝う感触も、イメージ通りのねっとり感があるし。
「攻撃ではなくて、ただの結晶化ですわよね。それならそのまま、その液体に魔力を通し直して凍らせれば良いのよ? 爪に着けるのよね。そのくらいなら、きちんとコントロールすれば痛みも傷もなく凍らせたままに出来ますわ」
「凍らせるイメージでいいの?」
「思ったままに凍るはずよ。わたくしがやってみましょうか?」
そう言ってユリーシアは自分の指を、液体の出てるあーしの指先に近付けようとしたんだけど――。
「だ、だめ! 自分でしたい!」
「ふふふ、そうね。それがいいと思いますわ」
あ、なんか今、めっちゃちっさい子にするみたいな態度だった。
保育園の保母さんおねーさんみたいな。
くぅぅ。どうせ見た目は十歳ですよーだ。
それより、この液体に魔力を通し直す……?
「こ、凍れ……凍ってぇぇ」
「また力み過ぎですわ」
ポン。と、ユリーシアがその左手を、あーしの右の背中に当てた。
ちょっとした刺激だったけど、確かにその部分が、特に力んでたんだと思う。
手を当てられた拍子に背中があったかくなって、それが右腕を通って、手に伝わって、指先まで流れてきた。
そしたら、左の指先の液体が、そのままの形で固形になった。
――ポト。
っていう音なんか、聞こえなかったと思うけど、さっきまでの水滴の感じとは明らかに違う。
「え、え? これ、これって」
言葉よりも、先に体が動いた。
地面に落ちてそのままの、丸い水滴の形をしたものに指が触れた。
それは――
しっかりとした感触があった。
固くて、つるんとしてて、少しひんやりとしてる。
「……触ってても、溶けない?」
持ち上げたそれは、ツルツルとして触り心地が良かった。水滴の尖った先っぽもしっかりとしてて、でも、ちょっと力を込めると折れちゃったけど。
「魔力で作った液体に、魔力を通して凍らせたものは……初めてかもしれませんわね」
「氷みたいに冷たくないよ? どうなってるんだろ?」
「普通は、水だけで圧力を高めるとか、氷そのものを最初からイメージして放つものがほとんどだから……初めての試みかもしれませんわね」
「戦うことにしか魔法を使わないの?」
これ、めちゃ気になってたんだよね。
生活に使ってるのも見るには見るけど、教わる時は戦闘に使う用途ばっかりだった。
「貴族が魔法を使うのは、民を魔物から守るためですもの。それゆえの貴族ですから」
そう言った瞬間、ユリーシアはハッとして顔を曇らせた。
「あっ! その……悪気があって言ったわけじゃないんですのよ? あなたはその、遠方の国の方だと聞いておりますし……。その、嫌な風に聞こえたならごめんなさい」
めちゃくちゃシュンとしてる。
綺麗なお顔がへの字に眉を下げて、小さいお口もキュって閉じててカワイイ。
「大丈夫! そんなんじゃないって分かってるってば! むしろ気にさせちゃってごめん。あーし、じゃない。わたしは、これが出来ただけでもほんとに嬉しいんだから。今、ほんとはコレ出来たよね~! って、ハイタッチしたかったんだから。わたしこそ先に変なこと聞いてごめん」
ほんとに変なタイミングでつまんないこと聞いちゃった。
そういえば歴史の授業で、昔から貴族はその力で民を護ってきたって、勉強してたのに。
やっぱ習うのと実感するのとじゃ、ぜんぜん頭への入り方が違うんだよねぇ。
「あなたは優しいのね。許してくれてありがとう」
「ユリーシアってば大げさだよ。それよりもさ、一緒に喜んでよぉ」
「フフ。そうね。エルフィオラの使いたい魔法が出来たんですものね」
「そだよー。ほら、ハイタッチしよ!」
「こう? ですの?」
ちょっとぎこちないけど、今日は両手でハイタッチ!
やっぱり、友達とこうしてテンション上がるの、最高にイイ。
ユリーシアも、やっと笑ってくれた。
やっぱり、美人さんは笑顔が一番だね。




