十三 ネイルアートへの挑戦
ユリーシアに背中を押されて、ネイルやってみようと思ったんだけど……。
材料も道具も、何も無いし分かんない。
レジンが樹脂を使ってるのは知ってるけど、それがどんな成分だとか、そんなの知らない。
樹脂って、何?
スマホがないから検索できないし、この異世界に同じ材料があるかも分かんない。
キャッツアイしたいと思っても、マグネットジェルとかUVライトとか、あるわけないし。
激カワのアートがここじゃ出来ないってのが、分かっただけ。
せっかくのマリアンとのお風呂時間なのに、あーし、今日はずっと下を向いてたみたい。
いつもより、湯船の水面が近いんだもん。
「元気ないじゃない。ユリーシアとケンカでもしたの?」
「ううん。ケンカなんてしないよ。ただ、ちょっとショックなことがあって」
マリアンと一緒にお風呂に入るのが当たり前になってて、それも含めて急に我に返って、恥ずかしくなってきた。
ネイルするのが根本的に難しいっていうショックと、いつの間にか子どもであることに慣れちゃったっていう、不甲斐なさ。
でも、マリアンの優しさに浸ってると、お風呂と相まって心がほどけてくんだよね……。
石造りの湯船に浸かってるだけでも絵になるマリアンを、隣でぼんやり眺めてるだけでも目の保養になるし。
こんなにスタイル抜群の金髪美人が、ニコニコ微笑みながらさっきまで体を洗ってくれてたんだよ? あーし、女だけど好きになりそう。
これで五十四歳とか……絶対に信じられない。お肌もピッチピチで、水の弾き方すごいんだから。水滴がツブツブ浮いてるんだよ?
「お勉強、行き詰まってるの?」
あ、ガン見してた。
「んと。それはそれで、大変なんだけど……。実はね、ネイルアートしたいって思ったんだけど、こっちじゃ難しくって」
「ネイル? 爪ならお手入れしてあげてるじゃない」
柔らかい布でふきふきして、ピカピカにしてくれるんだよね。
「うん、いつもありがとう。……だけどもっとこう、かわいく盛りたいんだ。何色も塗ったり、絵を描いたりとか」
そう言いながらお湯から手を出して、改めて爪を眺めた。ツヤツヤで水弾きがエグい。
「色んな色かぁ。そういうの、しないわねぇ。エルフィオラちゃんの国では、そういうのを皆してたのね」
「うん。まぁ、全員じゃないけど。したい人は激盛りにするし、しない人は一色だけとか、色々だったけど」
「道理で、いつも爪のお手入れの時、すっごい見てるもんね。自分の爪も私の爪も」
「あ、バレてた? ヘヘヘ」
「分かりやすいんだもの。でもそうねぇ、それじゃ、花びらを付けるとか、そういうのはどう?」
マリアンの提案をイメージしてみたら、結構いいかもと思った。
目からうろこ、みたいな。前世じゃそういうの、あーしは見たことなかったから。
「花びら……。うん、マジでいいかも! ここって、接着剤みたいなのある?」
「う~ん……にかわとか、松やにとか? でも爪に着けたりして大丈夫なのかしら」
「絶対ダメだと思う……」
荒れそうだし、雑菌がわいてグリーンネイルになっちゃいそう。
「そうだ。エルフィオラちゃんは魔法って苦手なんだっけ」
「え、何で今そんなこと言うの? 落ち込んじゃう」
「フフフフ。いじわるで言ったんじゃなくて、戦闘で使うような魔法が苦手な人って、細かい仕事に使うような魔法が得意だったりするのよ。たとえば……ほら、ドレスとかアクセサリーもそう。複雑な刺繍も彫金も、作業に向いた魔法を上手く使ってると聞くのよ」
えっ? って、目ぇひん剥いちゃった。
ドレスもアクセも、魔法使ってたんだ?
「それ、めっちゃ興味ある。お店に行ったら教えてもらえるかな?」
「あー、それはムリかも。その魔法技術で生計立ててるわけだから、門外不出だと思うなぁ」
「そっかぁ。そうだよね……」
テンション爆上げだったのが、一瞬でしょんぼりだ。
「あらあら。今日は落ち込んじゃう日ね」
ショックで俯いたら、マリアンが肩を寄せて隣にぴったりとくっついて、そのまま腕を回してギュッってしてくれた。ほっぺ同士をくっつけるのって、めちゃ親密って感じで嬉しいなぁ。
お湯の温かさとは別の、肌と肌が合わさった温もりと柔らかさが、体よりも心に気持ちいい。
――ふふ。ほっぺとほっぺが、水分でぴとーって、くっついてるみたい。
ちょっとのぼせそうだけど、も少しこうしてたいな。
「って、エルフィオラちゃんほっぺが熱い。ちょっとグッタリしてない? 大丈夫?」
マリアンの手が、もう片方のほっぺに触れた。
「やっぱり、のぼせちゃってる!」
「え? そう、かな? 平気だとおもう、けど……」
あらら?
言われてみたら、けっこうマリアンに体預けてるかも。
それになんか、クラクラしてる、かも?
マリアンの優しさに包まれながら、ネイルするための魔法って、どんなのだろうって考えてて――。
「あぁぁ、だめね上がりましょ。すぐに体を冷やすものもってくるからね。抱っこするから、私に腕を回せる?」
「できる……」
思ってるよりも、急に気持ち悪いし体が重い。
でも、言われた通りに腕を回すくらいは出来る、はず。
「いい子ね。それじゃ、ちょっと脱衣所で寝かせちゃうけど、我慢して待っててね。すぐに戻ってくるからね」
「あぃ……」
あーしを抱えるなり、マリアンはお湯からザバーっと立って脱衣所まで戻って、タオルを敷いて寝かせてくれた。それからいつもの倍くらい手早く体を拭いてくれて、もう一枚タオルを掛けてくれた。
見てるしか出来なくて、ごめんね。
あぁ、マリアンてば、自分は拭かずにバスローブだけで……行っちゃった。
ちゃんと体を拭いて、ちゃんと着てからで良かったのに――。
そういえば今日は、訓練の途中で弱音吐いて、ネイルのことでも出鼻を挫かれて……。参ってたのかなぁ、あーし。
根性、足りないぞ。
あ~……。ほっぺの感触、ほんわりと残ってる。
マリアンに、今日だけもっと、甘えてたいなぁ。
「……あ」
ほっぺが、水分でひっついてた、あの感じ……。
ネイルに、使えるくない?
魔法で、ひっつく力を強くしたり……できないかな――。




