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無能だと追放された底辺付与術師、実は世界で唯一の【全自動・神級バフ】持ちでした 〜辺境でスローライフを送るはずが、俺が抜けて壊滅寸前の勇者パーティーが泣きついてきてももう遅い。  作者: 終焉を綴る堕天筆聖セラフィム・夜叉王院常闇寛龍


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第62話 安定付与布、試作品完成

 安定付与布の試作は、朝から始めないことになった。


 理由は、マルタさんが言った。


「朝一番のアレンは、妙にやる気が出すぎて危ない」


「そんなことあります?」


「あるよ。昨日の夜、九歳の子の資料を読まなかっただろ。だから今朝はその分、頭の中で勝手に走ってる」


「……否定できません」


「だろうね。顔に『今日は安全に頑張ります』って書いてある」


「それ、いいことでは?」


「いいことだけど、危ないいいことだよ」


 マルタさんは、俺の前に朝食の椀を置いた。


 豆と野菜の汁。


 焼いた麦餅。


 少しだけ甘い干し果物。


 そして、いつもの薬草茶。


「まず食べる。食べて、井戸を見て、畑を一周して、それから試作。いいね」


「でも、早く試した方が」


 言いかけた瞬間、井戸の方からぷる太が勢いよく転がってきた。


「ぷるっ!」


 外部対応広場に置かれていたバツ木片へ、見事に体当たりする。


 俺は箸を持ったまま固まった。


「……まだ何も」


「言いかけたね」


 マルタさんが言う。


「はい」


 シルフィも記録板を持って、真面目に頷いた。


「今のは『早く試した方が』発言です。バツ寄りです」


「寄りではなく、バツでは?」


「ぷる太判定では完全バツです」


「厳しい」


「師匠には必要です」


 何も言い返せなかった。


 俺は椀を持ち直し、汁を飲んだ。


 温かい。


 悔しいくらい、体が落ち着いていく。


 九歳の少女の資料は、今も頭にある。


 発熱。


 眠りの浅さ。


 夜間のうわ言。


 精霊応答時の意識混濁。


 その言葉は、昨日からずっと胸に引っかかっていた。


 助けたい。


 でも、急がない。


 助けたいからこそ、急がない。


 外部対応広場の板にも、しっかり書かれている。


『助けたい時ほど、四角』


『試す前に条件』


『読んだ直後に決めない』


 板が増えすぎて、最近はちょっとした掲示場みたいになってきた。


 けれど、その一枚一枚が俺を止めてくれる。


 止めてくれる村があるから、俺は今、考えることができている。


     ◇


 午前中、俺は言われた通り井戸を見て、畑を一周した。


 ぷる太も同行した。


 井戸の苔は、昨日と変化なし。


 四角のまま様子見。


 薬草畑では、新しく植えた鎮静草の芽が出ていた。


 シルフィがしゃがんで、土の湿り具合を指で確かめる。


「少し水が多いですね」


「昨日の夕方、雨が降ったからかな」


「はい。今日は追加の水やりは不要です」


「ぷる?」


 ぷる太が、水桶の横で揺れる。


「今日は水やりなしだって」


「ぷる……」


 どこか残念そうだった。


 井戸守りとして水を使いたいらしい。


 ミナが横から言った。


「ぷる太、やりすぎはバツだよ」


「ぷるっ」


「自分でバツ出してる」


 朝の畑は、会議場とも資料室とも違う匂いがした。


 湿った土。


 葉の青い香り。


 遠くで薪を割る音。


 それらが、熱っぽくなっていた頭を少しずつ冷ましてくれる。


 俺は畑の端で立ち止まり、深く息を吸った。


「シルフィ」


「はい」


「少し落ち着いた」


「よかったです」


「たぶん、朝一番に試作してたら危なかった」


「はい。師匠は、少し強めに付与していたと思います」


「自覚ある」


「それも記録します」


「そこまで?」


「はい」


 シルフィは記録板に書いた。


『師匠、朝一番の試作を止められたことで落ち着く。畑を一周後、自覚あり』


 いつかこの記録をまとめたら、俺の危なさの記録集になりそうだ。


 でも、それも必要なのだろう。


 どこで危なくなるか分かれば、次に止まれる。


     ◇


 試作は昼前から始まった。


 場所は外部対応広場の机。


 理由は単純だ。


 みんなの目があるから。


 今日集まったのは、俺、シルフィ、村長、マルタさん、門番老人、ぷる太。


 それから、王都へ戻る前に立ち寄ってくれたクラウディアさんとマリナさんもいた。


 二人は、村側修正覚書案を王都へ持っていく予定だったが、その前に安定付与布の試作条件を確認しておきたいと言ったのだ。


「これは、後でリーフェン家へ提案する可能性があるものです」


 クラウディアさんはそう言った。


「だから、初期段階から記録しておく必要があります」


 マリナさんも頷く。


「ギルドとしても、安全試験の記録は重要です。特に『治療具ではなく補助具』という扱いをはっきりさせましょう」


「補助具」


 俺はその言葉を繰り返した。


「はい」


 マリナさんは穏やかに言う。


「治療具、と言ってしまうと、効くことが前提になります。補助具なら、不調時に周囲の魔力環境を穏やかにするための補助、という位置づけにできます」


 シルフィが記録する。


「治療具ではなく補助具。効能断定禁止」


 ぷる太が丸の木片へ寄る。


「ぷる」


 村長が頷いた。


「よい。治すと言い切るな」


「でも、少しでも楽になれば」


 俺が言うと、マルタさんがすぐに横を見る。


 ぷる太が四角へ寄った。


「ぷる」


「まだ言い切らない」


「はい」


 今日の机の上には、試作材料が並んでいた。


 白い布が五枚。


 小さな木片が三枚。


 薄い革紐が二本。


 水を張った器。


 鎮静草。


 そして、使用禁止札をつけた昨日の失敗布。


『強すぎ。使用禁止』


 赤い札がついたまま机の端に置かれている。


 俺は、それを見るたびに背筋が伸びた。


 最初の付与は、強すぎた。


 俺が「弱い」と思ったものでも、魔力を集めすぎた。


 だから、今日はさらに弱く。


 もっと慎重に。


 試作前の条件確認は、昨日より細かくなった。


 シルフィが読み上げる。


「本日の試験条件。第一、対象は人ではなく物品。第二、付与は最弱以下を目標。第三、魔力増幅は禁止。第四、周囲の魔力を集める反応が出たら即中止。第五、布に触れる人体試験は行わない。第六、ぷる太、シルフィ、クラウディアさん、マリナさん、村長のうち二名以上が危険と判断した場合中止。第七、夕飯前に終了」


「第七、大事だね」


 マルタさんが満足そうに言う。


「本当に入っているんですね」


 クラウディアさんがわずかに目を細めた。


「実用的な条件です。疲労時の継続試験は危険ですから」


「真面目に評価されると、少し変な気分だよ」


 マルタさんが笑った。


 マリナさんは書類に追記する。


「夕飯前終了。疲労による判断低下防止。理由も添えましょう」


「王都ギルドの記録に夕飯が入るんですね」


「入ります」


 マリナさんはにっこり笑った。


     ◇


 一枚目の布。


 昨日と同じ白布だ。


 俺は手をかざし、目を閉じた。


 強くしない。


 治そうとしない。


 魔力を集めない。


 整えようともしすぎない。


 昨日は「静かな石」をイメージした。


 だが、それでは魔力を遅くしすぎる可能性があった。


 今日は、別のものを考える。


 風鈴。


 ふと思い浮かんだ。


 風が吹けば鳴る。


 でも、風を止めるわけではない。


 強い風を呼ぶわけでもない。


 そこにあるだけで、風の存在を知らせる。


 魔力の流れを止めず、集めず、ただ荒れた時だけ微かに揺れる。


 そんな感じ。


 俺は、布へほんの少しだけ付与を流した。


 光は、出なかった。


 いや、目を凝らすと、糸の一本だけが一瞬淡く光った気がした。


 俺はすぐに手を離す。


「どうですか」


 シルフィが目を閉じた。


 クラウディアさんは検査札を布の近くにかざす。


 マリナさんは記録しながら、ぷる太を見る。


 ぷる太は、水鉢の中でじっと布を見ていた。


 しばらくして、ぷる太は四角へ寄った。


「ぷる」


「四角か」


 俺は少し肩を落とした。


 バツではない。


 でも丸でもない。


 シルフィが言う。


「危険反応はありません。ただ、効果もかなり弱いです。周囲の魔力がわずかに滑らかになるような感じはありますが、持続するか不明です」


 クラウディアさんも頷く。


「検査札では異常な魔力集中なし。安全性は昨日の布より高い。ただし、効果判定は保留」


 マリナさんがまとめる。


「試作品一号。危険反応なし。効果弱。保留。用途未定」


「四角ですね」


「はい」


 俺は布を見た。


 何も起きていないように見える。


 でも、昨日の強すぎる布よりはいい。


 安全に近づいた。


 そう思うことにした。


 村長が言う。


「一号は保留。次」


     ◇


 二枚目の布では、少しだけ織り目を変えた。


 マルタさんが持ってきた、少し厚手の布だ。


「これは枕元に置くならいいけど、肌着に縫い込むには硬いよ」


「肌に直接当てない前提なら、こっちの方が安定するかもしれません」


 シルフィが言う。


「まずは枕元用の補助布として考えましょう」


「枕元用」


 九歳の子の資料が頭に浮かぶ。


 眠れない夜。


 枕元に置く布。


 それで少しでも眠れるようになったら。


 胸が熱くなりそうになった。


 だが、俺は布袋の四角に触れた。


 まだ想像しすぎない。


 今は試験だ。


 二枚目の付与は、一枚目よりさらに細かく意識した。


 風鈴ではなく、木陰。


 強く包み込むのではない。


 ただ、直射日光を少し和らげるようなもの。


 そこにあるだけで、刺激を少し減らす。


 魔力を止めず、流れを変えず、強い揺れだけをほんの少し吸う。


 布が、ほとんど光らずに温度を少し変えた。


 温かいのではない。


 むしろ、手に持つと落ち着くような温度。


 俺はすぐに手を離した。


「ぷる?」


 ぷる太が首を傾げるように揺れた。


 そして、丸と四角の間で止まる。


 器用な止まり方だ。


「丸寄り四角?」


 ミナが遠くから言った。


 やっぱり聞いていた。


 シルフィが布へ手をかざす。


「一号より安定しています。魔力を集めていません。周囲の魔力刺激を少し和らげる反応があります」


 クラウディアさんの検査札も反応が弱い。


「危険反応なし。ただし、持続時間は不明。人体への接触試験なし」


 マリナさんが書く。


「試作品二号。低刺激。枕元用候補。丸寄り四角」


「本当に正式記録に丸寄り四角が入るんですね」


「入ります」


 マリナさんは淡々としている。


 もう慣れたらしい。


 俺は二枚目の布を見つめた。


 少しだけ、希望が見えた気がした。


 でも、ここで喜びすぎない。


 まだ四角。


 それを忘れない。


     ◇


 三枚目は、逆に失敗した。


 布そのものは薄く、軽かった。


 首元に置きやすいかもしれないと思った。


 十一歳の少女の症例が頭をよぎる。


 胸から喉にかけての魔力滞留。


 呼吸時の苦しさ。


 声のかすれ。


 もし、喉元に軽く添えられる布があれば。


 そう思った時点で、たぶん少し力が入った。


 付与した瞬間、布がふわりと淡く光った。


 直後、近くの水面が小さく波打った。


「中止」


 クラウディアさんが即座に言った。


 同時に、ぷる太がバツへ飛んだ。


「ぷるっ!」


 俺は手を離した。


 シルフィもすぐに記録する。


「三号、魔力が喉元へ集まるような反応あり。魔力滞留症例には危険の可能性」


「ごめん」


 思わず言った。


 マルタさんがすぐに言う。


「謝るより、止まれたことを確認」


「……はい。止まれました」


「よし」


 村長が布に赤札をつける。


『三号。集める反応あり。使用禁止』


 失敗が増えた。


 だが、これも必要な失敗だ。


 喉元に使うつもりで作ったものが、逆に魔力を集める。


 そんなことが分かっただけでも、送る前でよかった。


 シルフィが俺を見た。


「師匠。今、少し落ち込んでいますか」


「はい」


「落ち込むのはよいですが、急いで取り返そうとしないでください」


「……はい」


 完全に読まれている。


 失敗すると、すぐ次で取り返したくなる。


 それも危ない。


 ぷる太が四角へ移る。


「ぷる」


 取り返しも四角。


 今日は何度止められるのだろう。


     ◇


 昼食を挟んで、午後は二号の再現性を確認することになった。


 完成品を作るのではない。


 二号と同じような反応が、もう一枚でも出せるか。


 それだけを試す。


「再現できなければ、偶然です」


 シルフィが言う。


「再現できても、まだ完成ではありません」


 クラウディアさんが続ける。


「安全性の確認、持続時間、保管方法、使用中止条件が必要です」


 マリナさんがさらに加える。


「リーフェン家へ送る場合、使用者本人または保護者の同意、森術師による観察記録、異常時の即時停止も必要です」


 条件が増える。


 以前の俺なら、面倒だと思ったかもしれない。


 いや、思わなかったかもしれない。


 たぶん、自分が我慢すればいいと思って、条件を飛ばしていた。


 でも今は、条件があるほど安心できる。


 四枚目の布。


 二号と同じ厚手の布。


 俺は、また木陰のイメージを思い出した。


 治すな。


 包みすぎるな。


 集めるな。


 ただ、刺激を和らげる。


 布が、わずかに落ち着いた気配を持つ。


 光はほとんどない。


 水面も動かない。


 ぷる太がじっと見ている。


 しばらくして、二号と同じように丸と四角の間に止まった。


「ぷる」


 シルフィが頷いた。


「二号と似ています。完全一致ではありませんが、方向性は近いです」


 クラウディアさんも検査札を見る。


「危険反応なし。魔力集中なし」


 マリナさんが書く。


「四号。二号に近い反応。低刺激安定付与布候補」


 俺は、ようやく小さく息を吐いた。


「できた、のかな」


 言った瞬間、全員が俺を見る。


 ぷる太は四角へ寄った。


「ぷる」


「分かってる。完成じゃない」


 シルフィが優しく言った。


「でも、候補はできました」


「候補」


「はい。治療具ではなく、不調時の補助具候補です」


 マルタさんが頷く。


「それくらいの言い方がいいね。少し頼れるかもしれない布。万能じゃない布」


「名前が地味ですね」


「地味でいいんだよ。派手な名前にすると、効きそうな気がしすぎる」


 たしかに。


 神癒布とか、森霊治療布とか、そういう名前をつけたら危ない。


 期待が大きくなりすぎる。


 マリナさんが提案する。


「正式には『低刺激安定付与布・試作品』でどうでしょう」


「長いですが、正確です」


 シルフィが頷く。


 マルタさんは村側名をつけた。


「村では『落ち着き布』でいいんじゃない?」


「落ち着き布」


 俺は思わず繰り返した。


 ぷる太が丸へ寄った。


「ぷる」


 決まってしまった。


 低刺激安定付与布・試作品。


 村側名、落ち着き布。


     ◇


 最後に、使用条件を決めた。


 ここが一番大事だった。


 完成した喜びで飛ばしてはいけない。


 シルフィが条件を読み上げる。


「一、治療具ではなく、不調時の補助具として扱う」


「丸」


 ぷる太が丸へ。


「二、使用者に直接縫いつけない。枕元、寝台脇など、すぐ離せる場所に置く」


「ぷる」


 丸。


「三、使用開始は短時間から。異常が出たら即停止」


「ぷる」


 丸。


「四、発熱、呼吸、睡眠、意識状態、魔力反応を記録する」


「ぷる」


 丸。


「五、改善しても、量産や追加使用は別途検討」


「ぷるっ」


 バツへ寄った。


「量産はバツ、ですね」


 シルフィが記録する。


「六、アレン師匠本人の移動、直接施術、追加付与は、この布の試験結果とは別問題として扱う」


 ぷる太が、力強く丸へ戻った。


「ぷる」


 村長が満足そうに頷く。


「よい。布を送ることと、アレンを送ることは別だ」


「そこ、本当に大事ですね」


 俺も言った。


 低刺激安定付与布が少しでも効いたら、きっと次の要求が来る。


 もっと作ってほしい。


 強いものを作ってほしい。


 本人に直接見てほしい。


 リーフェン家に来てほしい。


 そうなるかもしれない。


 だから、最初に線を引く。


 布と俺は別。


 試験と協力は別。


 改善と量産は別。


 シルフィが最後に書く。


『助ける入口を作る。ただし、引きずり込まれない入口にする』


 俺はその一文を見て、少し胸が温かくなった。


「いい言葉だな」


「師匠のためでもあります」


「俺のため?」


「はい。師匠は入口を作ると、自分ごと入っていきそうなので」


「否定できない」


 マルタさんが笑った。


「だから入口に柵をつけるんだよ」


「柵」


「そう。落ち着き布は入口。条件は柵」


 ぷる太が丸へ寄る。


「ぷる」


 今日のぷる太は、よく働く。


     ◇


 夕方前。


 第七条件通り、試作は終了した。


 まだ日が傾ききる前だ。


 マルタさんは満足そうだった。


「夕飯前に終われた。これも丸だね」


「ぷる」


 ぷる太が丸へ寄る。


 完成した試作品は二枚。


 二号と四号。


 どちらも『落ち着き布・試作品』として保管された。


 失敗布は二枚。


 一号は効果弱すぎ保留。


 三号は使用禁止。


 昨日の強すぎ布も使用禁止。


 机の上に並べると、成功だけではなく失敗も見える。


 俺は、それが少し嬉しかった。


 失敗を隠さない。


 失敗ごと記録する。


 それが安全につながる。


 マリナさんが全体をまとめた。


「本日の記録です。低刺激安定付与布試作。治療具ではなく補助具。二号、四号を候補として保管。一号は効果弱保留。三号および前日布は使用禁止。人体接触試験なし。夕飯前終了」


 クラウディアさんが頷く。


「王国側としても、この記録ならリーフェン家へ提出可能です。ただし、試作品を送る場合は、さらに文書条件が必要です」


「明日ですね」


 シルフィが言う。


「はい。今日はここまでです」


 俺は、完成した落ち着き布を見た。


 ただの布にしか見えない。


 でも、ほんの少しだけ、周りの空気が柔らかく感じる。


 これで、九歳の子が少しでも眠れるかもしれない。


 そう思うと、胸が熱くなる。


 でも、今日はそこで止まる。


 まだ送らない。


 まだ使わない。


 まだ期待しすぎない。


 助けたい四角から、少しだけ丸寄りの四角へ。


 そのくらいでいい。


     ◇


 夜、外部対応広場には新しい板が立った。


『治療ではなく、補助』


 ミナが読み上げる。


「ちりょうではなく、ほじょ」


「分かるかい?」


 マルタさんが聞くと、ミナは考えた。


「これだけで治るって言わないってこと?」


「そうだよ」


「でも、少し楽になるかもしれない?」


「そう」


「じゃあ、すごすぎって言わない?」


「言わない」


 ミナはぷる太を見る。


「ぷる太、すごすぎって言うのは?」


 ぷる太は四角へ寄った。


「ぷる」


「四角?」


 シルフィが笑った。


「すごいかどうかは、結果を見てから、ですね」


「そっか。じゃあ、落ち着き布は四角!」


 ぷる太が丸寄り四角の位置へ移動する。


「ぷるる」


 村人たちが笑う。


 落ち着き布は、まだ完成品ではない。


 でも、今日ひとつ形になった。


 俺は外部対応広場の机に置かれた試作品を見つめた。


 リーフェン家に利用されるためではない。


 自分を差し出すためでもない。


 それでも、苦しむ誰かを少し助けられるかもしれない。


 そんな線の上にある小さな布。


 その布が、今の俺たちの答えだった。


 派手な奇跡ではない。


 圧倒的な治療でもない。


 安全条件つきの、弱くて地味な補助。


 でも、リーフェル村らしい一歩だった。

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