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無能だと追放された底辺付与術師、実は世界で唯一の【全自動・神級バフ】持ちでした 〜辺境でスローライフを送るはずが、俺が抜けて壊滅寸前の勇者パーティーが泣きついてきてももう遅い。  作者: 終焉を綴る堕天筆聖セラフィム・夜叉王院常闇寛龍


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第45話 エルドラン、条件書で逆に縛られる

 リーフェン家の執務室に、その条件書が届いた時、部屋の空気は最初から冷えていた。


 白木の机。


 銀葉の紋章。


 壁一面に収められた古代森術の系譜図。


 窓の外には、整えられた森が広がっている。


 枝は美しく剪定され、蔦は決められた柱にだけ絡み、魔力灯は昼でも淡く輝いていた。どこを見ても秩序がある。美しい。格式がある。


 だが、リュシアはその美しさの中にいると、息が浅くなるようになっていた。


 以前は気づかなかった。


 この館では、木々まで黙って立っている。


 枝葉が自由に揺れているように見えて、実際には家の都合のよい形に整えられている。


 それが今は、どうしようもなく目についた。


「リーフェル村からの返答です」


 文官セインが、両手で封書を差し出した。


 封には、リーフェル村の簡素な印。


 そして、王国騎士団の確認印が添えられている。


 さらに、封の隅には小さく四角の印が描かれていた。


 エルドラン・リーフェンは、それを見て眉をひそめた。


「これは何だ」


「村側の確認印かと」


「四角?」


 セラド法務官が横から覗き込み、薄く笑った。


「リーフェル村では、保留や持ち帰り相談を意味する印として使われているようです。報告にもありました」


「……人間の村が、記号遊びで外交文書を飾るか」


 エルドランの声には侮りがあった。


 だが、リュシアは違う受け止め方をした。


 四角。


 即答しない。


 持ち帰る。


 相談する。


 あの村らしい印だと思った。


 そして、強い印だとも思った。


 エルドランは封を切り、羊皮紙を広げた。


 読み始める。


 最初の数行では、まだ表情に余裕があった。


 だが、すぐに机を叩く指が動き始めた。


 こつ、こつ、こつ。


 一定の間隔。


 怒りを抑えている時の音。


「……森術学術会議参加検討にあたっての事前確認条件」


 エルドランは題を読み上げた。


「参加の返答ではなく、条件書か」


 セラドが横から言う。


「予想の範囲内です。あの村なら即答しないでしょう」


「分かっている」


 エルドランは冷たく返した。


「だが、これは……」


 彼は羊皮紙をさらに読み進めた。


「身柄拘束禁止。滞在場所変更禁止。身体検査、魔力検査、研究協力、移動制限は本人の明確な同意なしに行わない」


 部屋の隅の森術師が、小さく息を呑んだ。


 セラドは興味深そうに目を細める。


「なかなか丁寧に潰してきますね」


「潰してきた?」


「はい。こちらが使える余地を、一つずつ言葉にして閉じています」


 エルドランは続きを読む。


「王国騎士団および冒険者ギルド関係者の同行を認めること。会議内容は双方が記録し、記録魔道具の持ち込みを認めること。追加議題を当日一方的に増やさないこと」


 彼の声が、さらに低くなった。


「世界樹の所在地、成長状況、管理方法、村内影響について回答義務なし。現地確認、標本採取、検分要求を行わないこと」


 ついに、エルドランは羊皮紙を机に置いた。


 破らなかっただけ、まだ冷静だった。


「誰がこれを書いた」


 セラドが答える。


「筆跡はシルフィ・リーフェンのものと思われます」


「シルフィが?」


「はい。文体はかなり整っていますが、リーフェン家式の法務文書とは違います。王国騎士団関係者の助言も入っているでしょう」


 リュシアは、胸の奥で小さく息を吐いた。


 シルフィが書いた。


 あの子が、自分を守るための条件を自分で書いた。


 失敗作と呼ばれ、黙って検査を受けていた少女が、今はリーフェン家へ条件書を突きつけている。


 その事実が、リュシアには眩しかった。


 だが、エルドランにとっては違った。


「ずいぶんと生意気になったものだ」


 彼はそう言った。


 リュシアの指先がわずかに動く。


 言い返したかった。


 しかし、まだ黙った。


 今ここで怒りを見せても、シルフィのためにならない。


 エルドランは再び読み始める。


「その場で契約書、研究協力書、検査同意書、滞在延長同意書等に署名しないこと。仮署名も含む……仮署名も含む、だと」


 セラドが口元を押さえた。


「これは痛いですね」


「笑うところか」


「いえ、失礼。あまりに的確だったもので」


 セラドは羊皮紙を一枚手に取った。


「仮署名という言葉まで拾っている。つまり、会議の場で『これは正式な契約ではなく確認だけです』と言って書かせる手も封じられました」


「そんなもの、こちらが使うと決まっていたわけではない」


「決まっていなくても、使える手でした」


 セラドは淡々と答えた。


「向こうは想定してきています。しかも、王国騎士団に写しを送っています。こちらが拒否すれば、後で王国側に『リーフェン家はその場署名の禁止すら受け入れられなかった』と見られる」


 エルドランの目が冷えた。


「つまり、こちらが縛られたと」


「はい」


 セラドは、あっさり認めた。


「少なくとも、表向きはかなり縛られました」


     ◇


 エルドランは、椅子から立ち上がった。


 窓辺へ歩く。


 外の森を見下ろしながら、背中越しに言った。


「我々は、招待状で十分に譲歩した。任意参加。王国側立会人。記録可能。拘束目的ではない。ここまで書いた」


「はい」


「にもかかわらず、向こうはこれほどの条件を返してきた」


「はい」


「侮辱だ」


 セラドは一拍置いてから言った。


「お気持ちは理解します。しかし、外から見れば、これは侮辱ではなく安全確認です」


「安全確認?」


「はい。リーフェン家が本当に学術的意見交換を望むなら、受け入れられる条件が多い。少なくとも、そう見えます」


 エルドランは振り返った。


「お前は、これを受け入れろと言うのか」


「すべてではありません」


 セラドは静かに言った。


「ですが、全面拒否は下策です」


 部屋が少しざわついた。


 森術師の一人が口を開く。


「しかし、世界樹に関する回答義務なしでは、会議の意味が」


「そこです」


 セラドが言う。


「世界樹を正面から求めると、王国文書に引っかかります。だから、会議では世界樹と明言せず、森霊樹一般論として問いを投げる。向こうが答えなければ、その範囲で記録すればよい」


「では、アレン殿の付与術は?」


「本人同意なしの実演は禁止されています。なら、実演を求めるのではなく、理論説明を求める。本人が語りたくなるような質問を用意する」


「語りたくなる?」


「彼は、自分の力を正しく理解していない。ならば、周囲のためになる、同じ症例に苦しむ者の助けになる、と示せば、言葉が漏れる可能性があります」


 リュシアの胸が、また冷えた。


 優しさを利用する策。


 形は柔らかくなっても、本質は変わっていない。


「シルフィはどうする」


 エルドランが問う。


 セラドは少し考えた。


「条件書を書けるほどに成長しています。以前のように押せば折れる、とは考えない方がよいでしょう」


「……」


「ただし、リーフェン家の場に戻れば、記憶は揺れます。家の森術師たち、古い呼び名、失敗作だった頃の記録。直接責めずとも、比較資料として置くだけで影響はあるはずです」


 リュシアは思わず一歩前に出た。


「セラド殿」


 全員の視線が向く。


 セラドは薄く微笑んだ。


「何でしょう、リュシア殿」


「それは、学術的意見交換ではなく、心理的な圧迫です」


「言葉を選べば、過去記録の確認です」


「本人を傷つける可能性があります」


「過去記録の確認で傷つくなら、その傷も研究対象でしょう」


 リュシアの手が震えた。


 怒りで。


 だが、セラドは悪びれもしない。


 エルドランも、彼を止めない。


「リュシア」


 エルドランが言った。


「お前はまた、感情で話している」


「感情だけではありません」


「では何だ」


「実利です」


 リュシアは、はっきり言った。


 部屋の空気が少し変わる。


「シルフィを圧迫すれば、アレン殿とリーフェル村はさらに警戒します。王国側立会人がいれば、こちらが過去記録で揺さぶったことも記録されます。学術会議という名目が崩れます」


 セラドの笑みが消えた。


 エルドランは黙って彼女を見る。


「シルフィは、もう一人ではありません。彼女が傷つけば、黙って耐えるのではなく、アレン殿が止めます。王国騎士団も止めるでしょう。ぷる太も……おそらく、反応します」


 最後の言葉で、文官の一人が少しだけ困惑した。


 ぷる太。


 スライムの名が、リーフェン家の執務室で何度も出るようになるとは、誰も思っていなかっただろう。


 しかし、リュシアは真剣だった。


「あのスライムは、ただの魔物ではありません。村の空気を動かします。村人たちは、ぷる太がバツを示すだけで警戒します。あの村では、そういう仕組みになっています」


 セラドが小さく言う。


「スライムの札に左右される交渉とは」


「侮れば、また失敗します」


 リュシアはセラドを見た。


「ドラン商会も、ガリオン男爵家も、侮りました」


 その一言で、部屋が静まり返った。


 エルドランの表情がわずかに歪む。


 だが、今度は否定しなかった。


 リュシアの言葉には、事実があったからだ。


     ◇


 しばらく沈黙が続いた。


 やがてエルドランは、ゆっくり椅子へ戻った。


「セラド」


「はい」


「条件のうち、受け入れられるものを分類しろ」


「承知しました」


「受け入れられないものは?」


「表向きは『調整が必要』としましょう」


「全面拒否はしない」


「はい。全面拒否すれば、こちらの目的が疑われます」


 エルドランは不快そうに息を吐いた。


「人間の村に条件を突きつけられ、それを拒否もできんとはな」


 セラドは、条件書に印をつけ始めた。


「まず、身柄拘束禁止、帰還強制禁止は受け入れるしかありません。招待状にこちらが明記した以上、拒否できません」


「当然だ」


「王国側立会人も受け入れ。これも招待状に書いた」


「記録は?」


「双方記録は受け入れ。ただし、記録魔道具の種類はこちらが事前確認する条件を付けましょう」


「よい」


「世界樹の所在地や詳細について回答義務なし。これは不満ですが、正面から拒むと目的が露骨になります。受け入れた上で、会議では一般論として問いを構成します」


「標本採取禁止は?」


「一旦受け入れ。会議後に別途依頼という形を残します」


「その場署名禁止」


 セラドは少しだけ苦笑した。


「これも受け入れざるを得ません。拒否すれば、署名させる気だったと見られます」


 エルドランは舌打ちした。


「仮署名も含む、か」


「はい。よく考えています」


 セラドは続ける。


「簡易検査の事前開示。ここは調整が必要です。完全に詳細を出すと、こちらの準備が読まれます。ただし、概要は出すべきでしょう。『非接触式魔力紋観測』『本人が拒否可能』『記録は双方保持』程度なら受け入れ可能です」


 リュシアは少しだけ胸を撫で下ろした。


 非接触式。


 本人拒否可能。


 それだけでも、シルフィには大きい。


 もちろん、まだ油断はできない。


 だが、条件書は確かに効いている。


 シルフィの言葉が、リーフェン家を動かしている。


「黒枝の接近禁止」


 セラドが次の項目を読み上げた。


 部屋の空気が少し変わった。


 黒枝。


 リーフェン家の影。


 公には存在しないはずの者たち。


 条件書にそれが書かれていること自体、リーフェン家にとっては厄介だった。


 エルドランの目がリュシアへ向く。


「これは、お前が漏らしたか」


「リーフェル村側は、前回の使者団で黒枝の気配を察知していました」


「質問に答えろ」


「私から条件書の作成に関わる情報を漏らしてはいません」


 リュシアはまっすぐ答えた。


 嘘ではない。


 彼女は条件書の内容を知らなかった。


 セラドが言う。


「リーフェル村側にはシルフィがいます。黒枝の存在を感じ取ったのでしょう。あの子は、以前から気配に敏い」


「失敗作だった頃からな」


 エルドランが言う。


 リュシアは、手を握りしめた。


 セラドは条件書を見た。


「黒枝接近禁止は、表向きには『会議場周辺の隠密護衛配置を行わない』という形で受け入れ可能です。ただし、通常護衛は配置します」


「黒枝は?」


「会議場から離します。完全に使わないとは言いませんが、接近はさせない方がよいでしょう。王国側立会人に見つかれば面倒です」


 エルドランは不満そうだったが、頷いた。


「よい」


     ◇


 分類が終わるまで、かなりの時間がかかった。


 条件書の多くは、結局「受け入れる」または「一部調整して受け入れる」になった。


 それは、リーフェン家が善意になったからではない。


 拒否できないよう、条件書が作られていたからだ。


 リュシアには、それが分かった。


 シルフィ。


 あなたは、本当に強くなった。


 リュシアは心の中で呟いた。


 エルドランは最後に言った。


「では、返答書を作れ」


「文面はいかがしますか」


 セインが尋ねる。


「丁寧にだ」


 エルドランは皮肉っぽく笑った。


「向こうが条件を整えてきたなら、こちらも整った返答を出す。あくまで学術的対話だ。こちらに強制の意図はない。そう見えるように」


「実際には?」


 セラドが問う。


 エルドランは冷たい目を向けた。


「会議の場で見る。アレンの付与術の正体、シルフィの基礎紋、世界樹との関係。条件で縛られても、言葉までは縛られていない」


「質問で揺さぶる」


「そうだ」


 リュシアは静かに息を吸った。


 条件書は効いた。


 だが、完全に防いだわけではない。


 会議に行けば、そこには別の戦いがある。


 言葉の戦い。


 記憶の戦い。


 善意を揺さぶる戦い。


 アレンとシルフィが、それに耐えられるか。


 いや、耐えるというより、村の仕組みを持ち込めるか。


 そこが大事になる。


「リュシア」


 エルドランが呼ぶ。


「はい」


「お前は、返答書の使者として再びリーフェル村へ行け」


「承知しました」


「余計なことは言うな」


「はい」


「ただし、シルフィの様子をよく見ろ。どこに迷いがあるか、何に反応するか、アレンがどこで口を出すか。すべて報告しろ」


「……承知しました」


 リュシアは頭を下げた。


 余計なことは言うな。


 そう命じられた。


 でも、見たものを歪めずに伝えることは、余計なことではない。


 少なくとも、彼女はそう考えることにした。


     ◇


 返答書の作成が進む間、リュシアは廊下に出た。


 空気が冷たい。


 森の香りは清らかで、相変わらず美しい。


 だが、今の彼女には少し遠い。


 セインが後から追ってきた。


「リュシア様」


「何ですか」


「条件書、見事でしたね」


 リュシアは少しだけ笑った。


「あなたがそんなことを言ってはいけません」


「ここだけの話です」


「壁に耳があります」


「では、心の中で言ったことにしてください」


 リュシアは窓の外を見た。


「シルフィが書いたのです」


「はい」


「あの子は、昔から字は丁寧でした。でも、あれほど自分を守る言葉を書けるようになるとは思いませんでした」


「リーフェル村の影響でしょうか」


「きっと」


 リュシアは、リーフェル村の外部対応広場を思い出した。


 木の机。


 四角の印。


 ぷる太の桶。


 きっとあの村では、今回の条件書も皆で作ったのだろう。


 村長が言い、クラウディアが整え、マルタが分かりやすくし、アレンが確認し、ぷる太がバツを示す。


 その光景が、目に浮かぶようだった。


「羨ましいですね」


 セインが小さく言った。


 リュシアは振り返る。


「何がですか」


「一人の言葉ではなく、皆で作った言葉なのだと分かります」


「……そうですね」


 彼女は静かに頷いた。


 リーフェン家の文書は、美しい。


 だが、多くの場合、上から下へ降りる言葉だ。


 リーフェル村の条件書は違う。


 横に並んだ者たちが、互いを守るために作った言葉だった。


「明日、また村へ行きます」


 リュシアは言った。


「その時、私は何を言えるでしょうか」


「使者としての言葉なら、決まっています」


「ええ」


「それ以外は?」


 セインの問いに、リュシアは少し黙った。


 そして、静かに答えた。


「余計なことは言わないよう命じられました」


「はい」


「でも、相手の条件を尊重して返答を持ってきた、と言うことはできます」


「それは余計なことではありませんね」


「ええ」


 リュシアは少しだけ表情を緩めた。


「それから、シルフィに伝えたいです。条件書は、確かに届いたと」


     ◇


 夜、エルドランの執務室で返答書に封蝋が押された。


 文面は丁寧だった。


 リーフェル村側の条件の大半を受け入れ、いくつかは「安全確認のため事前調整」として返している。


 表面上、リーフェン家はかなり譲歩しているように見える。


 だが、最後に一文があった。


『会議では、森術および付与術の未来のため、参加者各位の率直な知見共有を期待いたします』


 率直な知見共有。


 柔らかい言葉。


 だが、そこに何を求めるつもりなのか、リュシアには分かった。


 アレンに語らせたい。


 シルフィに開かせたい。


 世界樹の手がかりを引き出したい。


 条件で縛られても、問いと空気で揺らす。


 それが、次の策だ。


 エルドランは封書をリュシアへ渡した。


「持っていけ」


「はい」


「リーフェル村がこれで参加を決めるなら、会議の準備に入る。断るなら、それはそれで別の手を考える」


「承知しました」


「リュシア」


 呼び止められる。


「はい」


「あの村に飲まれるな」


 リュシアは一瞬だけ沈黙した。


 それから、頭を下げる。


「……心得ております」


 飲まれる。


 それは、どういう意味だろう。


 リーフェル村の温かさに流されるな、ということか。


 シルフィの変化に心を動かされるな、ということか。


 アレンの善意に同情するな、ということか。


 リュシアは封書を胸に抱えた。


 すでに少し、飲まれているのかもしれない。


 けれど、それを完全な悪いことだとは、もう思えなかった。


     ◇


 翌朝、リュシアは森を出た。


 返答書を持ち、護衛を一人だけ伴い、リーフェル村へ向かう。


 前回のような威圧的な使者団ではない。


 強硬ではなく、調整。


 対立ではなく、会議。


 表向きはそうだ。


 だが、次に待っているのは、もっと静かで厄介な戦いになる。


 リュシアは馬車の窓から森の向こうを見た。


 きっと村の入口には、あの板がある。


 外部の方はこちらでお待ちください。


 その場で即答しません。


 四角の印。


 そして、ぷる太の見張り桶。


 リュシアは、ほんの少しだけ息を整えた。


 あの村なら、きっとこの返答書もすぐには丸にしない。


 確認する。


 相談する。


 必要なら、また条件を出す。


 そうであってほしい。


 森の道を抜ける馬車の中で、リュシアはそっと呟いた。


「シルフィ。あなたの条件書は、確かに届きました」


 それは使者の言葉ではない。


 姉のような立場だった者としての、密かな言葉だった。

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