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無能だと追放された底辺付与術師、実は世界で唯一の【全自動・神級バフ】持ちでした 〜辺境でスローライフを送るはずが、俺が抜けて壊滅寸前の勇者パーティーが泣きついてきてももう遅い。  作者: 終焉を綴る堕天筆聖セラフィム・夜叉王院常闇寛龍


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第37話 リーフェル村、外部対応用の広場を作る

 リーフェル村の朝は、木槌の音から始まった。


 かん、かん、と乾いた音が、村の入口近くに響いている。


 畑の方ではなく、井戸のそばでもなく、村の柵から少し内側に入った空き地だった。普段は荷車を一時的に置いたり、子供たちが木の枝を振り回して遊んだり、ぷる太がなぜか日向ぼっこをしていたりする場所である。


 そこに、今日は村の男たちが集まっていた。


 丸太を運ぶ者。


 石を並べる者。


 古い板を削る者。


 そして、なぜか一番張り切っているぷる太。


「ぷる!」


「ぷる太、そこは乗る場所じゃない。まだ板を固定してないから」


「ぷる……」


 ぷる太は、作りかけの小さな台からしょんぼり降りた。


 ミナがすぐに駆け寄る。


「ぷる太、大丈夫。ぷる太の場所はあとで作るって!」


「ぷる?」


「ね、アレンお兄ちゃん!」


 俺は手に持っていた木材を置き、苦笑した。


「うん。ぷる太用の見張り桶は作る予定だから」


「見張り桶!」


 ミナの目が輝いた。


「かっこいい!」


「かっこいいのか?」


「かっこいいよ! 井戸守りぷる太、外部対応広場出張所!」


「出張所まで増えた」


 俺が呟くと、近くで木材を削っていた門番老人が真顔で頷いた。


「悪くない」


「悪くないんですか」


「村の入口近くで怪しい薬を見分けるなら、井戸から毎回呼ぶより効率がよい」


「効率でぷる太の役職が増えていく……」


 ぷる太はかなり嬉しそうだった。


 桶の中で待機するだけならともかく、「出張所」という響きが気に入ったらしい。体の表面がうっすら光りかけている。


「ぷる太、外の人が来た時に光ると驚かれるから、練習の時だけな」


「ぷるっ」


 慌てて光を抑える。


 最近のぷる太は、感情を隠す練習までしている。


 スライムの成長とは、こんなに多方面に進むものだっただろうか。


     ◇


 村長が言い出したのは、昨日の夜だった。


「外の者を村の奥まで入れすぎておる」


 夕食後、村長の家で開かれた小さな会議で、彼はそう切り出した。


 王国からの共同確認書が届き、リーフェン家への文書も出されたという知らせを受けたあとだった。


 文書があるのは心強い。


 だが、文書だけで相手の足が止まるとは限らない。


 これまでの経験が、それを教えてくれていた。


「商人、騎士、エルフ使者。皆、村の入口から広場へ通した」


 村長は続けた。


「その途中で井戸が見える。保存庫の方角も分かる。世界樹は隠しているとはいえ、村の奥へ入れれば気配を拾われる可能性が高い」


「確かに」


 シルフィが頷いた。


「特に森術師は、距離が近いほど感知しやすくなります。前回は入口近くで止めましたが、それでも世界樹が反応しました」


 クラウディアも同席していた。


 彼女は王都からの文書を村に届けたあと、数日だけ残って状況を見てくれている。


「王国側の文書は牽制になります。ただ、実際の対応場所が村の奥にあると、相手に余計な情報を与えます」


「つまり、外の人と話す場所を入口近くに作るってことですね」


 俺が言うと、村長は頷いた。


「そうだ。村の入口近くに、外部対応用の広場を作る。机、椅子、日除け、書類を広げる台。こちらが出す水や茶もそこで済ませる」


「井戸から離した場所に」


 シルフィが言う。


「保存庫や世界樹へ向かう導線も見せない」


 クラウディアが続ける。


「さらに、村側の人間が複数で対応しやすい配置がよいです。相手が威圧してきても、囲まれる形ではなく、開けた場所で」


 村長は満足そうに頷いた。


「明日から作る」


「明日からですか」


「早い方がよい」


 そういうわけで、翌朝にはもう作業が始まった。


 リーフェル村は、決まると動きが早い。


 特に、守るための準備になると。


     ◇


 外部対応用の広場は、村の入口から少し入った左手に作ることになった。


 井戸へ続く道とは逆側。


 保存庫や世界樹のある村奥へ自然に進めないよう、低い柵と花壇を組み合わせて導線を曲げる。


 ただの防壁ではなく、見た目には「こちらでお待ちください」と分かるようにする。


 これがシルフィとクラウディアの意見だった。


「露骨に塞ぐと、相手に『隠している』と感じさせます」


 シルフィが板に簡単な図を描きながら説明する。


「ですが、花壇や荷置き場を置けば、自然に人の流れを変えられます」


「なるほど」


 俺は感心した。


「道を塞がずに、歩く方向を変えるのか」


「はい。森術にも似た考えがあります。水の流れを止めるのではなく、流れやすい道を用意する」


 クラウディアも頷く。


「騎士団の警備でも同じです。人は広く開いた場所へ進みやすい。逆に狭く曲がった場所には入りづらい。誘導は、命令より効くことがあります」


「勉強になるな」


「師匠」


 シルフィがこちらを見る。


「今回は、作るものに付与を入れすぎないようお願いします」


「分かってる。外部対応用の机と椅子だもんな。目立ちすぎると困る」


「はい。特に、座った相手が気分良くなりすぎたり、本音を喋りやすくなったり、疲労が完全回復したりすると問題です」


「そんな椅子、作るつもりないけど」


 シルフィは何も言わず、じっと見てきた。


 クラウディアも同じ目をしている。


「……ない、はずだけど」


「師匠の『つもりはない』も、かなり危険です」


「私も同意します」


 クラウディアまで言った。


 最近、俺への警戒網が強い。


 正直、少し寂しい。


 ただし、実績があるので反論しづらい。


「じゃあ、普通の机と椅子を作る」


「普通の定義を確認しましょう」


 シルフィが即座に言った。


「座っても疲労が取れすぎない。眠くなりすぎない。相手の悪意が勝手に浮かび上がらない。周囲の魔力を整えすぎない。壊れにくすぎない」


「壊れにくすぎないって何だ?」


「普通の机は、十年百年無傷ではありません」


「そんな机作った覚えは」


「保存棚」


「……あれは、たまたま」


 クラウディアが静かに言った。


「アレン殿。今回は、たまたまを避けましょう」


「はい」


 俺は素直に頷いた。


     ◇


 とはいえ、作業を始めると、やはり俺の手は勝手に動いた。


 古い板を削り、ささくれを取り、脚を組み、揺れないようにする。


 外部対応用だから、見た目は質素でいい。


 ただ、長時間の話し合いになることもある。


 なら、座った時に腰が痛くならないくらいにはした方がいい。


 書類を広げるなら、机の面は少し滑らかに。


 雨が降った時に濡れすぎないよう、表面に軽く水を弾く処理を。


 日差しが強い時、座っている人が倒れないよう、日除けの角度は調整しやすく。


 相手が威圧的に身を乗り出しても、机がぐらつかないよう重心を低めに。


 ……そこまで考えて作っていたら、背後から声がした。


「師匠」


「はい」


「一度、手を止めてください」


 振り返ると、シルフィが羽ペンと記録板を持って立っていた。


 その隣でクラウディアが、完成しかけの椅子を見つめている。


「何かまずかった?」


「座面に疲労軽減の付与が入っています」


「えっ」


「机の脚に、精神安定の微弱付与もあります」


「えっ」


「日除け布を吊るす支柱には、温度調整の気配があります」


「待ってくれ。普通に使いやすくしようとしただけで」


「師匠」


 シルフィは、やさしい声で言った。


「それが付与です」


 何も言えなかった。


 クラウディアが椅子を指で軽く押す。


 椅子は静かに床へ馴染むように立っている。


「王都の応接椅子より快適そうですね」


「外部対応用に、王都の応接椅子より快適なものを作ってはいけない気がします」


「はい」


 クラウディアは真顔で頷いた。


「外交的に問題が出ます」


「椅子で外交問題」


「相手が長居したがる可能性があります」


「それは困る」


 村長も近づいてきて、椅子に腰を下ろした。


 沈黙。


 村長は少し目を閉じた。


「……これはいかん」


「やっぱり?」


「立ち上がりたくなくなる」


 マルタさんも試しに座った。


「ああ、これは駄目だね。腰が楽すぎる」


「腰が楽すぎて駄目って、初めて聞きました」


「外の相手に出す椅子じゃないよ。村長会議用ならいいけど」


 門番老人も座ろうとした。


 村長が止めた。


「お前はやめておけ。膝が喜びすぎる」


「喜ばせてくれ」


「外部対応用の椅子だ」


「一度だけ」


「駄目だ」


 門番老人は不満そうだった。


 結局、問題の椅子は「村内会議用」に回されることになった。


 外部対応用の椅子は、俺が直接仕上げない形に変更された。


 俺は板を削るだけ。


 組み立てと最終調整は村の若者たち。


 横でシルフィが監督。


「師匠は、ここから三歩離れてください」


「距離指定まで」


「必要です」


 ぷる太が、ぷる、と同意した。


 味方がいない。


     ◇


 昼前には、外部対応広場の形が見えてきた。


 入口側には、来訪者が馬車や荷を置ける小さなスペース。


 その奥に、話し合い用の机。


 机の村側には三つの席。


 村長、記録係、付与相談役用。


 さらに横に、必要に応じてクラウディアやギルド関係者が座れる補助席。


 来訪者側には、二つから四つの席。


 その背後は開けている。


 威圧感を与えないが、勝手に村奥へ進みにくい配置。


 机の端には、書類を置くための平たい石板。


 その横に、インク壺が倒れないような小さな窪み。


 そして、机の少し離れた場所に、ぷる太用の見張り桶が置かれた。


 ただの桶ではない。


 ミナの強い希望により、小さな旗もついている。


『井戸守りぷる太 外部対応広場出張所』


 長い。


 旗が少し大きい。


 ぷる太は、その桶に入った瞬間、明らかに誇らしげだった。


「ぷる!」


「ぷる太、気に入った?」


「ぷるる!」


「よかった!」


 ミナが拍手する。


 クラウディアが旗を見て、少しだけ目を細めた。


「これは……目立ちませんか」


 村長が腕を組む。


「目立つな」


 マルタさんが笑う。


「でも、あえて堂々としていた方がいいんじゃないかい。隠してこそこそするより、『この子は村の役持ちです』って言った方が、変なことされにくいよ」


 シルフィが考え込む。


「確かに、すでに王国文書の添付事項にも記されています。なら、外部対応広場での役割を明示することは、不自然ではないかもしれません」


「つまり、旗はあり?」


「ありです。ただし、光は控えめに」


「ぷるっ」


 ぷる太は真面目に返事をした。


 ミナがバツの木片を掲げる。


「ぷる太、変な契約が来たら?」


「ぷるっ!」


 ぷる太はバツの木片へ体を向けた。


「変な薬が来たら?」


「ぷるっ!」


「わからない時は?」


 ミナは少し困った。


 まだ四角の木片を作っていなかったからだ。


 俺が木片に簡単な四角を描いて渡す。


「これが保留」


「保留!」


「意味は、すぐ決めないで村のみんなで相談する」


「ぷる?」


 ぷる太が首を傾げるように揺れた。


 シルフィがしゃがみ、ゆっくり説明する。


「ぷる太。丸は大丈夫。バツは駄目。三角は薬。四角は、まだ分からないから考える、です」


「ぷる……」


 ぷる太は四角の木片をじっと見た。


 それから、机の村側へ体を向けた。


 相談する場所。


 どうやら理解したらしい。


 シルフィの目が輝いた。


「ぷる太、概念理解が進んでいます」


「記録する?」


「もちろんです」


「ぷる太、また賢くなったな」


「ぷるる」


 ぷる太は見張り桶の中で誇らしげに揺れた。


     ◇


 午後、外部対応広場の試運転をすることになった。


 相手役は、なぜかバルドさんだった。


 ちょうど荷物を届けに来たところを、村長に捕まったのだ。


「いやあ、俺は普通の行商人なんだがな」


「だからちょうどよい」


 村長が言う。


「普通の相手で動線を確認する」


「普通の相手って言われると、喜んでいいのか迷うな」


 バルドさんは笑いながら、来訪者側の席へ座った。


 席は、アレン製ではない。


 村の若者製である。


「お、座り心地は普通だな」


 バルドさんが言う。


 俺は少し複雑な気持ちになった。


「普通でよかったです」


「いや、褒めてるんだぞ。外で商談する椅子は、これくらいでいい。良すぎると居座るやつが出る」


「同じこと言われました」


「だろうな」


 村側の席には、村長、シルフィ、俺。


 横にクラウディア。


 少し離れてぷる太。


 マルタさんと門番老人は周辺確認。


 ミナはぷる太の補助係という謎の役で参加している。


「では、始める」


 村長が言った。


「バルド、何か売り込みをしてみろ」


「急に言われてもな。じゃあ、そうだな」


 バルドさんは咳払いして、少し胡散臭い声を作った。


「いやあ、リーフェル村の皆様。今回は特別に、王都でも評判の保存薬を――」


「ぷるっ!」


 ぷる太が反応した。


 バルドさんが吹き出す。


「まだ瓶も出してないぞ!」


「ぷる太、早い」


 ミナが言う。


「でも保存薬って言ったから」


「ぷる」


 ぷる太は真面目だった。


 シルフィが記録する。


「保存薬という単語に対する警戒反応あり」


「ぷる太、学習の方向が実践的すぎる」


 クラウディアも少し笑いを堪えている。


 バルドさんは気を取り直した。


「では別の売り込みだ。今だけ特別価格で、こちらの契約に署名していただければ」


「ぷるっ!」


 今度はバツの木片へ体を向ける。


 ミナが拍手する。


「正解!」


「俺、悪役なのか?」


 バルドさんが苦笑する。


 村長は真剣だった。


「よい反応だ。『今だけ』『特別』『署名』は警戒する」


「いや、商人としては使うこともあるんだが」


「まともな時もある。だからバツではなく四角でもよい」


 シルフィがぷる太を見る。


「ぷる太、今のは四角です。すぐバツではなく、持ち帰って相談」


「ぷる?」


 ぷる太は少し迷い、バツから四角の木片へ移動した。


「ぷる」


「よし」


 シルフィが頷く。


「学習修正成功」


「すごいな、ぷる太」


 バルドさんが感心している。


「そのうち俺より契約に詳しくなるんじゃないか」


「それは困るような、頼もしいような」


 俺が言うと、マルタさんが笑った。


「悪い商人よりは賢いよ」


「間違いない」


 バルドさんも笑った。


     ◇


 次に、クラウディアが使者役をした。


 彼女は表情を整え、王国騎士団らしい硬い口調になる。


「王国騎士団より、アレン殿へ長期協力要請を行いたい。王都へ同行願う」


 その瞬間、村の空気が少しだけ変わった。


 冗談の訓練だと分かっていても、その言葉は重い。


 俺自身も、一瞬息が詰まった。


 シルフィが俺を見る。


 村長も黙って待つ。


 これは、外部対応広場の試験であると同時に、俺自身の練習でもある。


 俺はゆっくり息を吸った。


「その場では答えません。村長、シルフィ、村のみんなと相談してから返答します」


 クラウディアは頷いた。


「よい返答です」


 シルフィも小さく頷く。


「合格です」


「緊張した」


「実戦では、もっと緊張すると思います」


「だよな」


 ぷる太が四角の木片へ体を向けた。


「ぷる」


 保留。


 持ち帰って相談。


 正しい。


 ミナが嬉しそうに言う。


「ぷる太も合格!」


「ぷる!」


 少し空気が和らいだ。


 次はシルフィがエルフ使者役をすることになった。


 彼女は少し迷ったが、自分でやると言った。


「練習ですから」


 そう言って、リュシアでもセラドでもない、しかしリーフェン家の使者らしい口調を作る。


「シルフィ・リーフェン。あなたには家へ戻る義務があります。血筋と古代森術のため、森へ帰還しなさい」


 自分で言って、自分の顔が少し強張った。


 俺はすぐに止めようとした。


 だが、シルフィは首を横に振る。


「続けます」


 彼女は一度目を閉じ、今度は自分自身として答えた。


「私は、リーフェン家へ戻りません。血筋は変わりませんが、私の居場所は私が決めます。検査や研究のために、私の意思を無視して連れていかれることは拒否します」


 広場が静かになった。


 誰も茶化さない。


 ぷる太も、ミナも黙っていた。


 シルフィはゆっくり息を吐く。


「……言えました」


「言えた」


 俺は静かに言った。


「前より、しっかり」


 シルフィは少しだけ笑った。


「ありがとうございます」


 クラウディアが真面目な顔で言う。


「今の返答は、十分に明確です。ただし、相手は『一時的な検査だけ』などと言い換えてくる可能性があります」


「はい」


「その場合も、その場で同意せず、条件を文書で確認すること」


「分かりました」


 シルフィは記録する。


「一時的、保護、検査、協力。いずれも拘束に転じる可能性あり。即答しない」


 それを見て、村長が頷いた。


「よい。これで外部対応広場の役目も見えてきた」


     ◇


 夕方には、広場はほぼ完成した。


 入口から見れば、開かれた小さな応接場所。


 しかし、そこから先へは自然に進みにくい。


 井戸は見えるが近づきすぎない距離。


 保存庫は視界に入らない。


 世界樹の方角へは、花壇と薪置き場で導線が曲がっている。


 ぷる太の見張り桶は、机の横にちょうどよく配置された。


 そこに入ると、ぷる太は外から来る者と書類と液体物を全部見られる。


 まさに出張所である。


 門番老人が最後に、広場の入口へ新しい板を立てた。


『外部の方はこちらでお待ちください』


 その下に小さく。


『契約・依頼・申し立ては、その場で即答しません』


 さらにミナが、どうしてもと言って、小さな四角の絵を描いた。


 保留の印。


 ぷる太用であり、村全体用でもある。


「いい板だな」


 俺が言うと、村長が頷いた。


「よい。分かりやすい」


「王都の文書より分かりやすいですね」


 クラウディアがぽつりと言う。


「言っていいのか、それ」


「事実です」


 シルフィも微笑む。


「王都文書は王都文書で必要です。この板は、この村らしい言葉です」


 マルタさんが腕を組んだ。


「難しい文書も大事だけどね、結局、毎日見る板は分かりやすくないと」


「その通りだ」


 村長は広場を見回した。


「これで、少しは外の相手を迎える準備ができた」


 外の相手。


 商人。


 騎士。


 エルフ。


 貴族。


 これからも、いろいろ来るだろう。


 でも、村はただ待つだけではない。


 机を作り、椅子を置き、導線を整え、ぷる太の見張り桶を用意し、即答しない板を立てた。


 小さな準備かもしれない。


 けれど、準備があるだけで心は違う。


 俺は外部対応広場の机に手を置いた。


 今回は、付与を入れすぎていない。


 たぶん。


 シルフィが横から確認する。


「師匠」


「はい」


「机に、少しだけ書類保護の付与が入っています」


「えっ」


「雨で文字が滲みにくい程度です」


「それくらいなら?」


「許容範囲です」


 ほっとした。


 クラウディアも頷く。


「外部対応用として実用的です」


「よかった」


「ただし、椅子の疲労回復付与は禁止です」


「分かってます」


 遠くで門番老人が、村内会議用に回された例の椅子に座り、幸せそうな顔をしていた。


「あの椅子、完全に門番さん用になってるな」


「膝が喜んでいますね」


 シルフィが言う。


「記録する?」


「膝の反応までは記録しません」


「よかった」


 ぷる太が見張り桶から、ぷる、と鳴いた。


 夕日を受けて、小さな旗が揺れる。


『井戸守りぷる太 外部対応広場出張所』


 その旗の下で、ぷる太は四角の木片に体を寄せた。


 保留。


 すぐ決めない。


 持ち帰って相談。


 俺はそれを見て、自然に笑っていた。


 この村は、少しずつ強くなっている。


 剣ではなく、魔法でもなく、机と椅子と板と話し合いで。


 たぶん、それが俺たちの戦い方なのだ。

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